第57話 狼煙
どうにか書けたので予約投稿。
明日からの投稿ペースに迷います……。
朝日の差し込む部屋で俺が微睡んでいると、部屋にノックが響く。
こんな早くに、誰だろうか……。
「はーい、どうぞー!」
「ヨシヒロ、早くにすまん。ギルドからの招集だ」
そう言ったマークが、手に持った紙を渡してくる。
『ヨシヒロ・サトウ、マーク・マルティネス、クロエ・ベルヴィルの三名は、ただちにギルド支部へ集合せよ。これは本部からの厳命である』
マークに手渡された羊皮紙にはそう書かれていた。
「うーん、やっぱり突然だなぁ……」
「報告してからかなり経つし、そろそろだとは思ってたがな……」
「まぁ、仕方ない。それじゃあ行こうか」
「ああ、俺は下で待ってるから、準備が終わったらクロエも迎えに行こうぜ」
そう言って、マークは部屋を出て言った。
俺は頬を叩いて気合を入れると同時に寝ぼけた頭を叩き起こす。
「……よし!」
気合も準備もばっちりだ。すぐにでも出かけよう。
クロエの泊っている宿は、俺の泊っている宿の隣にある。
俺と同じ宿に泊まってもらうつもりだったのだが、狭いとか古いとか文句を言うので、仕方なく隣にあるワンランク上の宿を借りさせたのだ。
小奇麗なロビーを抜け、俺達はクロエの部屋がある3階を目指す。
高そうな絵画の飾ってある階段を上がり、部屋の前へと辿り着いた。
「おーい、クロエ―!起きてるかー?」
部屋の前に着いた俺は、やや大きめにノックをして声をかける。
緊急事態とは言え、年頃の女の子の部屋にいきなり入る訳にはいかないからな。
「……返事がないね」
「そうだな。おーい!起きろ、お登り女!」
返事のない部屋に向かって、マークはそんな声をかける。
まぁ、もし起きていれば飛び出してくるだろうな……。
だが、それから数分経過しても出てくるどころか返事の一つもない。
「……ここまでして起きないことなんてあるか?」
「もしかしたら、何かあったのかも……」
心配になった俺達は、クロエの部屋のドアに手を掛ける。
凝った装飾のドアノブを回すと、何故か鍵は開いていた。
「開いてる……。おーい、クロエ!大丈夫ー?」
「クロエ!起きてるなら返事をしろ!」
ドアを開けて入った俺達は、玄関のようなスペースを抜けて内扉を開ける。
高そうなベッドの上には、布団に包まったクロエが転がっていた。
「……うーん、むにゃあ」
呑気に寝言を上げるクロエの様子に、俺達は安心と同時に大きな溜息をつく。
「はぁ……全く、この女は……」
自慢の銀髪をわさわさと掻いたマークは、そう言ってクロエの眠るベッドへ近づいていく。
そして、思い切りクロエの掛け布団を引っぺがした。
「……むにゃっ!?うえ、何……」
叩き起こされたクロエは、眠そうに目をこすりながらそう呟く。
どうやら、まだ状況が把握できていないようだ。
「おい、早く起きろ、寝坊助女……」
そう言ってマークがクロエの頬をむにっとつねる。
「……うえええっ、痛い!って、なんでアンタ達がいるのよ!」
ようやく目を覚ましたクロエが目を丸くしてそんな声を上げる。
「いや、何度ノックしても声をかけても反応がないから……」
「で、でも、ドアはどうやって……!?」
「開いてたんだよ。ったく、気を付けろよな……」
「あと、ギルドから招集が掛かったから準備したら下まで来てね」
俺達はそう言い残してクロエの部屋を後にする。
それから15分程経過し、慌てたクロエがバタバタと降りてきた。
◆◆◆
寝ぼけたクロエを叩き起こした俺達は、呼び出し通りギルドへと向かう。
受付の職員に呼び出しの件を伝えると、少し経って関係者通路の方へ通してくれた。
「ああ、3人とも、待っていたぞ」
部屋に入るなり、ボールズがそう声を掛けてくる。
「緊急招集ってことは、あの件ですね……?」
「ああ、その通りだ。今回こそ、獄王の刃の研究本部が見つかった」
マークの問い掛けに、ボールズがそう答える。
やはり、獄王の刃に関する緊急招集で間違いなかったようだ。
推測では、ダルク地方にその本部があるとのことだったが……。
「やはりそうですか。それで、研究本部の場所は一体……?」
「ええ、一刻も早く奴らを潰さないと……!」
マークの質問と同時に、クロエが噛みしめるようにそう呟く。
クロエからすれば、獄王の刃は一族の仇だ。焦る気持ちも当然だろう。
「ああ、推測通り奴らの研究本部はダルク地方にあった。それも、このアルクス地方から比較的近い、南西部の森林地帯だ」
ダルク地方の南西部、つまりはこのグスタの街から見ると北の方角だ。
炎龍の討伐が記憶に新しい、カストゥール山脈のあの山道を抜けた先にダルク地方はある。
「となると、急いで山を越えても三日はかかるか……」
「そうと決まれば、すぐにでも出発しましょう!」
考え込むマークとは対照的にクロエは、はやる気持ちを抑えられないとばかりにそう声を上げる。
だが、そんなクロエをボールズの声が制止した。
「……まぁ、待て。こちらが掴んだ情報はまだまだある」
「へえ、今回は場所だけじゃないんですか?」
「ああ、敵の首魁についても判明した。その研究本部を牛耳る代表の名前は、狂乱のシュタイナーと呼ばれる研究者であり、獄王の刃の幹部だ……」
幹部、そう聞いた途端に俺達は息を飲む。
特に、俺とマークは、一度幹部である呪毒のタンムズと呼ばれる人物に遭遇している。
タンムズの纏う空気は、今の俺達であっても太刀打ちできない程の強者のそれだったのだ。
「幹部、ですか……」
「もし、呪毒のタンムズと同等の戦力であるなら、流石に俺達には荷が重いかと……」
獄王の刃の幹部が持つ異質な強さを肌で実感している俺達は、ボールズへそう忠言する。
「いや、幹部とは言え、シュタイナー自身の戦闘力は君達の足元にも及ばない程だ」
「じゃあ、なんで獄王の刃の幹部なんて立ち位置に……?」
ボールズの意外過ぎるそんな答えに、俺は思わずそんな問いを投げかける。
「奴がそこまで上り詰めたのは、その研究成果があってのことだ。その一つが、君達も目撃したあの改造された魔物の強化種のことだ」
「……あの大怪鳥ジズや強化ゴブリンのことですね」
「ああ、その通りだ。シュタイナー自身の戦闘力は大したものじゃないが、厄介なことに奴はその改造した魔物を使役して戦う。その魔物達の戦力は君たちも知っているだろう?」
つまり、俺達は改造されたあの凶悪な魔物を相手にしつつ、狂乱のシュタイナーを討たなければならないのだ。
下っ端達の戦力も大したものではない。そうなれば今回は実質、改造された魔物との闘いがメインとなるのだろう。
「……それでも、俺達はもう後には引けません」
「ああ、そうだな……。ヨシヒロの言う通りです。俺も全力を尽くします」
俺達はボールズに向けてそう告げる。
それはクロエの為でもあり、大袈裟かもしれないがそれが世界の為なのだ。
「……二人とも、ありがとう。私も、あいつらを絶対に許さない。全力で戦うわ!」
クロエが少し涙ぐんだ様子で俺達に礼を言うと、そのやる気を示すように声を上げた。
これで、全員の参加とやる気は確認できた。
「そうか……!本当に感謝しかない、今回も我々支部が全力で物資の支援をしよう!」
ボールズが立ち上がると、後ろに控えていた部下に物資の準備を指示する。
回復や解毒用のポーション類を始めとして、携帯食料、クロエの為に魔力を回復させるための秘薬なんかも用意してくれるらしい。
「よし、じゃあ俺達も各自で準備しようか!」
「ああ、そうだな。出発は明日の朝だ。物資の受け取りもあるし、またギルドに集合しよう」
「そうね……二人とも、油断だけはしないでね」
俺達は支部長室を後にすると、準備のためそれぞれ別の方向へと進んでいく。
こうして、俺達の作戦開始の狼煙が上がった……。




