第48話 使い魔
「よし!早速、使い魔登録をしてもらおう!」
マークから簡単に説明を聞いた俺は、雛を抱きかかえて受付へと向かう。
「アリシアさん!」
「あら、サトウさん。お久しぶりです。本日はどんな御用で?」
アリシアさんが、声をかけた俺に笑顔で応答してくれる。
やっぱり、アリシアさんは怒ってるよりも、笑顔の時の方がずっと素敵だ。
まぁ、恥ずかしくてそんなこと絶対に口に出せないけど……。
「はい、こいつの使い魔登録をしようと思って」
俺は、腕の中に潜り込んでいた雛を、アリシアさんに見やすいように両手の上に乗せる。
「見たことのない魔物だけど、可愛いですね!」
俺の手の上に座っている雛を、アリシアさんが優しく撫でながらそう言った。
『ピヨヨッ♪』
すると、雛が嬉しそうに鳴き声を上げる。
褒められたのが分かるのだろうか。
抱える俺の腕の中では、羽をパタパタさせてご機嫌だ。
「ところで、使い魔登録ってどうするんですか?冒険者登録みたいに、この子の手を魔法の書類にかざすとか?」
ギルドの受付で出来るとしか聞いていない俺は、アリシアさんにそう尋ねる。
冒険者登録の場合は、特殊な魔法をかけた書類に手をかざすだけで、その処理が完了する。
しかし、魔物の登録の場合はどうなるのだろうか。
「はい、ではサトウさんの血をこのインクに混ぜて、その子の体に名前を刻んでください」
そう言うと、アリシアさんは、深い藍色のインクと共に、小さなナイフを差し出す。
このナイフで軽く指を切って、インクに血を混ぜろということだろう。
それにしても、契約に血を使うなんて、少し黒魔術的だな。
俺の中の中二が再び蘇ってきそうな響きだ。
「名前を刻むっていうのは?」
「そうですね……。簡単に言うと、出来上がった特殊なインクを指に付けて、その子の体に命名した名前をサインするって感じです」
なるほど。難しいが、なんとなく理解できた。
特殊な魔力の込められたインクに、主人となる俺の血を混ぜることで、魔術的な概念が強化される。
そして、ここで初めて名前を与えられた魔物は、ようやく使い魔として生まれ変わるのだろう。
ナイフを受け取った俺は、親指の先を軽く切り、インクに血を垂らしていく。
数滴の血が混ざったところで、藍色だったインクは、紫色へと変化した。
「はい、それでインクは完成です。その子に名前を付けてあげてください」
「わかりました」
俺は不思議な紫色のインクを人差し指に付け、これまでの過程を不思議な様子で眺めていた、カウンターの上にいる雛鳥へと向ける。
一生に一度の命名だ。
俺のことを親だと思っているこの子に、変な名前は付けられない。
「そうだな……」
指先を雛に向けたまま、俺は真剣に考える。
ゲームとかでも、こういう魔物とかペットに名前を付けるイベントは苦手なんだよなぁ……。
「……よし、決めた!」
「それでは、そのインクで、お腹の辺りに名前を刻んであげてください」
アリシアさんの言葉を機に、俺はインクの付いた人差し指を、雛鳥のお腹へと伸ばしていく。
何をするのかが分かっているのか、雛鳥は静かに、そして大人しく、その瞬間を待っていた。
俺の指が雛鳥の腹部へ到達し、その名を刻んでいく。
名前を書き終わると同時に、その文字が魔法陣のようなものへと置き換わり、光を発するとすぐに消えていった。
これで、使い魔の登録は無事に完了したのだろうか?
「おめでとうございます!これで、その子はサトウさんの使い魔になりました!」
どうやら、儀式は無事に成功して、使い魔となったらしい。
「ところで、ヨシヒロ。その雛になんて名前を付けたんだ?」
マークが、そんなことを聞いてくる。
確かに、まだマークやアリシアさんには伝えてないな。
「そういえば、まだ言ってなかったね。この子の名前は、ヒヨリだよ」
そう言って俺は、満足そうな顔をしたヒヨリの頭を撫でる。
これから、ただの雛鳥だったこの子は、俺の使い魔のヒヨリとして生きていくのだ。
「そうか、良い名前なんじゃないか?」
「だろう?可愛い我が子だよ」
俺は早速親馬鹿を発動するが、誰も真面目に聞いていない。
「はい、それでは次に、使い魔のステータス確認についてご説明しますね!」
そう言えば、そうだった。
使い魔として登録された魔物は、そのステータスを見ることが出来るのだ。
「私達は【ステイト】の魔法でステータスを確認しますが、使い魔の場合は違います」
てっきり、同じように【ステイト】を使えば見れるのかと思ったが、違うらしい。
更に、アリシアさんは話を続けていく。
「使い魔のステータスは、その子に意識を集中させることで確認ができます。サトウさん、試してみてください」
「意識を集中……分かりました!」
アリシアさんからステータス確認の方法を聞いた俺は、ヒヨリをじっと見つめる。
『……ピヨ?』
そんな俺が気になったのか、ヒヨリは俺を見つめ返して首を傾げた。
畜生、自分の使い魔ながら、やっぱり可愛いなこいつ……。
しばらくヒヨリと見つめあっていると、視界に見慣れたステータスの画面が見え始めた
「ふむふむ、なるほど……」
やはり生まれたばかりなのでステータスは低いが、謎の魔法スキルと聖鳥の加護というスキルを持っているらしい
ちなみに、聖鳥の加護には、風属性と火属性を微軽減する効果があるようだ。
そして、肝心なのが、いまいち効果を掴み切れないその魔法のことである。
ヒヨリが覚えている魔法は一つ。【聖鳥の吐息】というものだ。
普通であれば、説明がある筈の場所には何も書いておらず、その効果が全く分からない。
「なぁ、効果の分からない魔法なんてあるのか?」
俺は、隣でステータスの詳細が伝えられるのを待っていたマークに、そう尋ねる。
「はぁ?そんな訳ないだろ。そんな魔法は聞いたことねえよ」
何を当然のことをとでも言うように、マークはそう答えた。
「そうですね。いくら使い魔の魔法とはいえ、そう言ったことは無いと思いますよ」
アリシアさんも、マークと同じようにそう答える。
「うーん、でも、どんだけ眺めても効果が現れたりはしないんだよなぁ……」
目を細めたり、じっと一点を見つめたりしても、その魔法の効果は一向に現れない。
やはり、効果不明の魔法ということで片付けるしかないだろう。
「ま、そいつをクエストに連れてけば分かるんじゃないか?」
「そうですね、私もそれがいいと思います。基本的に、使い魔は補助効果を持つ魔法やスキルを覚えるので、きっと役に立つと思いますよ」
確かにそうだ。
効果が分からないのであれば、実際に使ってもらうしかない。
スキルは風と炎の属性を微軽減だし、魔法も補助系なのだとすれば、ヒヨリを冒険に連れていけばサポート役として活躍してくれるだろう。
それにしても、能力上昇系の魔法を使えない俺達のパーティにとって、この子が初めての強化役になるとはな……。
ともかく、我が子ともいえるヒヨリを、これからも大切にしていこう。
魔物だし、加護もあるなら、どんどん成長していく筈だからな。
「よし、じゃあ早速、クエストに行こうか!」
「そうだな、そいつの試運転も兼ねられるし悪くない」
『ピッピヨ!』
ヒヨリが受付のカウンターから跳躍すると、俺の頭へ飛び乗る。
「とりあえず、なんか適当なクエストを探しに行こうか」
そう言って、マークはクエストボードへと向かっていく。
俺はその後を追うように、頭のヒヨリを落とさないよう気を付けながらクエストボードへ近づいて行った。
依頼が決まれば、いよいよヒヨリとの初クエストだ。
どんな活躍をしてくれるのか、今から楽しみだな……。




