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社畜・イン・ファンタジー ~異世界ブラック冒険譚~  作者: 揚げたてアジフライ
第三章 新たなる出会い
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第46話 ぶらり、男三人旅 ~完結編~

今回もいつもよりは少し長めです。

 俺達は、水晶洞窟の探索を続けていたが、肝心の水晶亀クリスタルタートルが全然見つからない。


 途中の行き止まりや小部屋も順に探していき、とうとう最奥部の大空洞へと辿り着いてしまった。

 天井まで、10メドルはありそうな巨大空間だ。

 道中とは比べ物にならない程大きな水晶の結晶が、あちこちから生えている。


「おかしいな、ここにはいないのか……?」


 これまで、マッピングをしながら虱潰しに探索を先導していたマークが、疑問の声を上げる。


「他の冒険者が、入れ違いで倒していったとか?」


「あり得なくはないな。俺達の受けたのとは別に水晶亀を討伐する依頼があったか、探索に来ていた冒険者が、偶然倒していったという可能性もある」


 俺の呟きを聞いたマークが、そんな可能性を上げる。

 確かに、依頼を受けずに、素材回収や修行のために各地を探索する冒険者が多いのも事実だ。


「なら、せっかくだ!この質の良い水晶だけでも持って帰ろうぜ!」


 道中からずっと狙っていたであろうランドルフが、目を輝かせながらそんなアイデアを告げる。


「……あれが一番質が良さそうだな!」


 しばらく大空洞の中を見渡していたランドルフは、そう言うと持ってきていた小型のピッケルを取り出し、空間の中央にあった巨大な水晶塊へ向けて駆けて行った。

 確かに、あれが一番大きくて、後ろの様子が透けて見える程に透明度が高い。


「ああん?変に硬いな、この水晶……」


ランドルフがその水晶を掘削しようとピッケルを振り下ろしたが、水晶塊はその一撃を軽く跳ね返す。


 ―――ゴゴゴゴゴゴゴ。


 すると、ランドルフのピッケルを受けた水晶塊が、地響きを立てながら大きく蠢き始めた。


「なんだ、なんだ!?」


 突然の事態に、ランドルフが驚いて声を上げる。


「ランドルフ、離れろ!それ(・・)が水晶亀だ!」


 マークの指摘によってランドルフが飛びのいたのも束の間、地面から、全長5メドルを超える巨大な亀が現れた。

 全身を覆う色とりどりの水晶の外殻は厚く、並の攻撃を通しそうにない。


「ヨシヒロ、いつも通り前衛を頼む!ランドルフは【火球ファイアボール】で牽制しつつ、隙を見て攻撃だ!」


「おうよ!」


「了解!壁は任せろ!」


 マークの的確な指示を受け、俺達はその通りのポジションへと動いていく。


 俺が最前で水晶亀の攻撃を受けつつ隙をみて反撃、メインのアタッカーとなるランドルフは、防御を捨てて全力の攻撃を行う作戦だ。

 マークは、適切なタイミングで遊撃を行いつつ、【毒の牙(ポイズンファング)】や【聖縛鎖ホーリーバインド】で妨害をしてくれるだろう。


 鈍重ではあるが重く硬い一撃を、俺は硬化した腕で受け止めながらいなしていく。

 【挑発タウント】の効果により俺だけに敵意が向けられるため、他の二人は攻撃や妨害に集中できるだろう。


「……毒蛇の牙よ、魔の者を蝕め!」


 【挑発】の発動を確認したマークが詠唱をしながら水晶亀へと特攻を仕掛ける。

 そして、比較的水晶殻の薄い部分を目掛け、猛毒に染まったナイフを振り下ろした。


 ―――キィン!


 しかし、硬質な音が大空間へ響き、一番通りやすい筈だったその部分への攻撃ですら、易々と弾かれてしまう。


「まずい、予想以上に硬い!とりあえず、外殻を砕くことに集中してくれ!」


 マークのナイフが通らないということは、【毒の牙】も効かない。

 つまり、毒による敵の弱体化は、外殻を砕くまで望めないということだ。


「わかった!俺が試してみる!」


 水晶亀は、攻撃をしてから次の行動に移るまで、少しタイムラグがある。

 そのタイミングを活かし、俺は全力で硬化した腕による【鉄拳】を放つ。


「これで、どうだっ……!」


 だが、何度【鉄拳】や魔棍ハティの攻撃を当てても、体を覆う水晶を少し削る程度にしかならなかった。

 ランドルフによる刀の攻撃も同様に弾かれたのは言うまでもない。


「どうする、マーク!?」


 全くダメージを受け付けない水晶亀の様子に、俺はマークへ次の指示を仰ぐ。


「仕方ない、撤退だ!ランドルフ、【火球】で目くらましを頼む!」


「ああ、了解だ!」


 万策尽きた俺達は撤退の道を選ぶしかなかった。

 ランドルフが詠唱を開始し、炎の魔力が右手へと集まっていく。


「……我が魔力を炎に変え、今その敵を穿て!」


 ランドルフの右手から小さな火球が放たれるが、狙いの逸れた魔法は、最も硬い甲羅の部分へと直撃した。


「すまん、失敗した!ヨシヒロ、もうしばらく時間稼ぎを頼む!」


「分かった、俺は大丈夫だ!頼むぞ!」


 ランドルフは再び【火球】を放つために詠唱を開始しようとするが、先程の魔法を受けた水晶亀が、何故か苦しみ始める。


『グゴゴゴゴゴ……!』


「なんだ!?苦しんでいるのか……!?」


よく見ると、【火球】を受けた部分の水晶が赤く染まっている。


「そうか、炎属性が弱点だ!ランドルフ、あいつの脚に向けて【火球】を!」


「任せろっ!……【火球】!」


 詠唱を終えて待機していたランドルフの魔法が、水晶亀の太い前足へ直撃する。

 すると再び、体を覆う水晶が赤く変色していた。


「今だヨシヒロ!【鉄拳】をぶち込め!」


「了解だ!【鉄拳】!」


 マークの指示を受け、赤く染まる水晶亀の前足へと全力の【鉄拳】を放つ。

 すると、熱で赤く染まった水晶は、急激な温度変化に耐えられなかったのか、これまで通らなかった筈の攻撃でいとも簡単に砕け散った。


「完璧だ、俺も行くぞ!……【毒の牙】ッ!」


 いつの間にか詠唱をしながらこちらへと向かってきていたマークのナイフが、水晶の外殻を砕かれ、あらわとなった水晶亀の脚へ、確実にダメージと毒を与える。


『グゴオオオオオオオオオオオッ!?』 


 マークによる毒の一撃に、これまでどんな攻撃にも平然としていた水晶亀が、初めて苦痛の叫びを上げた。

 ナイフによるダメージは小さいが、遅効性の猛毒は確実に体を蝕んでいくだろう。


「ランドルフ、全員の武器に【炎属性付与エンチャントファイア】を頼む!総攻撃だ!」


「ああ、分かった!ヨシヒロは詠唱の時間を稼いでくれ!」


「了解、壁は任せろ!」


 水晶亀から少し離れた位置で詠唱を始めたランドルフへの攻撃を防ぐため、俺は再び【挑発】を発動させると、全ての攻撃をこちらへと向けさせる。

 水晶を砕かれた前足による踏み付けは、先程よりも軽く、容易に受け止められた。


「……炉の女神よ、その不滅の炎を我らの剣へと貸し与え給え!」


 詠唱が完了し、ランドルフの【炎属性付与】が、俺達の武器へ炎の属性を纏わせる。

 普段であれば紫紺に輝くハティの打撃部も、今ばかりは紅蓮に染まっていた。


「いくぞ、全員で総攻撃だ!」


 【毒の牙】による猛毒の影響か、更に鈍重となった攻撃を躱しつつ、俺達は3人で総攻撃を仕掛けていく。


 総攻撃により、体を覆う水晶の外殻は殆ど砕け、水晶亀自身の体皮が露出する。


「ヨシヒロ!甲羅を砕け!」


 マークのその声を聞いた俺は、高台のようになっている水晶まで駆け抜けて昇ると、水晶亀の背中へ向けて全力で跳躍する。


「おおおおおおおおおッッ!!!」


 紅蓮の炎を宿した魔棍ハティの一撃が、水晶亀自身の甲羅に大きくヒビを入れる。


 ―――ビキ、ビキビキビキッ!


 そんな音と共にひび割れが広がっていき、俺の全力の一撃が、完全に水晶亀の甲羅を打ち砕いた。


「……ランドルフ、止めだッ!」


「おうよ、任せろ……ッ!」


 俺と同じように高台から跳躍し、防御の手段を失った水晶亀の背中に、ランドルフが降り立つ。

 猛毒とこれまでの総攻撃により、弱りきった水晶亀は殆ど瀕死のようだ。


「……紅狼流こうろうりゅう狼爪ろうそう


 刹那、ランドルフの刀が赤い軌跡を描いて水晶亀の背中へと振り下ろされる。

 するとそこには、三本の爪痕のような裂傷痕だけが残っていた。


『……グゴゴゴゴゴゴゴゴゴォッ!』


 無防備な体へ弱点の炎攻撃を受けた水晶亀は、それが止めとなって倒れた。

 ズシンと大きく地面が揺れ、天井からパラパラと水晶の欠片が降ってくる。


「……終わったか」


 水晶亀の背中から降り立ったランドルフが、光となって消えていく様子を眺めながらそう呟く。

 戦いの終わりを見届けた俺達は、すぐさまそんなランドルフの下へ駆け寄った。


「ランドルフ!なんだ今の技!?」


「……流石、紅狼流の免許皆伝だけはある」


 驚く俺と対照的に、マークは冷静にそう呟く。

 どうやら、ランドルフは何らかの流派を極めた刀使いだったようだ。


 今回一緒にクエストに出かけて思ったが、ランドルフはかなりの実力だ。

 そんなランドルフがランクDにとどまっていたのは、やはり本業が鍛冶師スミスだからなのだろうか。


 そして、そんな俺達の言葉を聞いてか聞かずか、普段のテンションに戻ったランドルフが、ふと思いついたかのように手を叩いて声を上げる。


「そうだ!ついでに水晶も採集していこう!」


「「もう勘弁してくれ!!」」


 呑気にそんなことを言ったランドルフに向け、俺とマークは同時にツッコミを入れる。

流石に、水晶を採掘してたらまた水晶亀が現れましたなんてことになったら、もう戦う元気は残ってないぞ……。


「はぁ、しょうがねえか。質の良い水晶なんだけどな……」


 俺達の説得により、しぶしぶ諦めたランドルフを連れ、俺達はギルドへ報告に向かうのだった。



             ◆◆◆



 水晶亀の討伐を終えた俺達は、すぐさまギルドへと帰還し、その報告を行った。

 やはり、今回のクエストの功績は、ランドルフがランクアップするための評価となるようだ。


そして、三日後。

 再びランドルフから呼び出しがかかった。

 恐らくは大丈夫だと思うが、無事にランクアップの許可が下りたのだろうか。


「おーい、ランドルフ、結果はどうだったんだ?」


「ほんとだよ。なんか、自分のことみたいに緊張する……」


 今日も販売コーナーで武器の整備を行っていたランドルフを見つけるなり、俺達は申請の結果を尋ねる。


「ああ、二人とも!実は、無事にランクアップできた!ありがとう!」


 満面の笑みで俺達にそう告げるランドルフは、ランクDとなったその冒険者カードを見せてくれる。

 ランドルフならランクCになっても通用しそうだけど、それはまた別の功績を上げないといけないんだろうな……。


「おめでとう、ランドルフ!俺も嬉しいよ!」


「ああ、今回はお前の活躍があってこその依頼達成だ」


 ランドルフの昇格を祝う俺達の言葉を受けたランドルフは、更に話を続ける。


「実は、お礼に、2人に装備を作ったんだ!是非受け取ってくれ!」


 そう言って、ランドルフは二つの装飾品を俺達に手渡す。


渡されたのは、『水晶の首飾り』だ。

水晶洞窟の特殊な水晶で作ったこの首飾りには、物理ダメージ軽減する能力があるらしい。


 ていうか、やっぱりランドルフはあの水晶を採集してたんだな。

 あれだけ未練タラタラだったから、もしかしてとは思ってたけど……。


 喜びと呆れの狭間で微妙な表情をしていた俺達に、ランドルフが、いつか見た真剣な表情で声をかけてくる。

 

「……また一緒にクエストに行こうぜ」


 今回の旅の思い出をしみじみと噛みしめるように、ランドルフがそう言った。


「こちらこそ、楽しかったよ!」


「ああ、いい連携がとれた。俺からも頼むよ」


 俺達は、ランドルフに向けて、笑顔でそう笑いかける。

 実際、俺達三人は良いパーティだったと思うよ。


 良い感じの空気になっていた武具店の中、急にランドルフが営業スマイルになる。


「それでは今後とも、ロペス武具店をご贔屓に!」


「おいおい、ここまできて宣伝かよ……」


「まぁ、俺は専属契約してるし、これからもよろしく頼むよ」


 ちゃっかり店の宣伝をしたランドルフと別れ、俺達はそれぞれの宿屋に帰るのだった。


 またいつか、ランドルフと冒険に出ることもあるだろう。

 その時は、お互いに成長して、また戦えるといいな……。

次回、20時に投稿予定です。

評価、ブックマーク等、常時お待ちしてます。

少しでも面白いと思っていただけたら、是非よろしくお願いします。

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