第44話 毒、毒、毒……
いつもの1.5倍くらい長くなってしまいました。
それでも楽しんでいただければ幸いです。
ランドルフからプラチナ合金の鎧を受け取った俺達は、久しぶりにクエストへ向かっていた。
今回受けたクエストは『大毒蜥蜴の討伐』だ。
5メドルを超える巨体を持ち、猛毒のブレスを放つことから、蜥蜴という名前を持つが、ドラゴンの近縁種として認定されている魔物である。
今回ばかりは、【毒耐性】のスキルを持つ俺であっても危険ということで、もしもの時に備えて、マークと一緒に市場で解毒薬を購入し、出発することになった。
そんなこんなで、森の中を探索していた俺達は、巣穴と思われる洞窟を発見する。
毒の影響か周囲の植物は枯れ果て、巣穴の周囲には餌食となったであろう動物の骨が転がっていた。
「この光景を見てるだけで危険さは理解できるだろ?」
「そうだね。ただの耐性じゃ、大変なことになりそうだ」
先の見えない洞窟の入り口へ向かう俺達は、改めてその危険度を認識した。
今回は光の差し込まない洞窟での探索となるため、松明を準備して進む。
攻撃力の高い大毒蜥蜴が不意打ちで攻撃してきた場合に備え、俺が前を進むことになった。
暗い洞窟の中を、松明の光を頼りにしばらく進んだところで、俺達は大空洞に抜け出る。
『……グルルルルル』
どうやら、大毒蜥蜴はその巨体を丸めて眠っているようだ。
時折口から漏れる吐息は、見るだけで猛毒と分かる、怪しい紫色をしている。
「毒を使う相手に、閉鎖空間で戦うのは危険だ」
「じゃあ、どうするんだ?」
「とりあえず、起こしたら【挑発】を発動して全力で走れ。外までおびき寄せてから戦闘を開始する」
「了解。マークは先に外で待っててくれ」
寝ている大毒蜥蜴に近づいていく中で、俺はふと思いつく。
せっかく隙だらけで寝てるんだから、全力で攻撃してから起こすべきではないだろうか。
ゲームの中でも、寝ている相手への攻撃はダメージが増加する場合が多かった。
そんなことを考えた俺は、そっと近づき、武器を持った右手に意識を集中させる。
そして、眠る大毒蜥蜴の頭に向け、全力の一撃を放った
『……ゴアアアアアアアアアアアアッッッ!??!?』
全力で振り下ろされた俺の一撃に驚いた大毒蜥蜴が目を覚まして、叫びを上げる。
しかし、そこはドラゴンの近縁種と言われるだけはある。
大毒蜥蜴は、すぐさま冷静さを取り戻すと、俺を睨みつけた。
「怖っ……!【挑発】!」
目覚めた大毒蜥蜴の圧に恐怖を感じながらも、俺はすぐさま詠唱を開始し、その魔法を発動した。
『グゴアアアアアアアアアアアアアッ!!!』
【挑発】の効果を受けた大毒蜥蜴が、これまでより鋭い眼光を向け、俺の方へ近づいてくる。
そして効果の発動を確認した俺は、外に繋がる通路へ向けて一直線に駆けだした。
「うおおおおおッ!やべええええっ!!」
冒険者としての加護によるステータス補正があるとはいえ、その巨体とちっぽけな俺では、一歩で進む距離に大きく差がある。
先に駆けだした筈の俺だが、一歩、また一歩とその差は縮められていく。
だが、不意に足音が鳴りやむと、大毒蜥蜴がその場に停止した。
「あれ……?」
【挑発】の効果はまだ続いているし、範囲からも出ていない。
急な大毒蜥蜴の行動に、俺は思わず、振り向いてしまう。
すると、そこには、大きく息を吸い込み始めた大毒蜥蜴の姿があった。
「……まずいっ!!!」
その様子を見た俺は、再び全力で走り始める。
そう、これはゲーム内で何度となく見た光景。
ドラゴンが大きく息を吸い込んだとなれば、次に来る行動は一つしかない。
『……ゴオオオオオオオオオッッ!!』
これこそが、大毒蜥蜴がドラゴンと認定される所以。
大きく開けた口から、猛毒のブレスが溢れだし、一直線に俺へと向かってくる。
「おおおおおおおおおお……ッ!?」
まずい、まずい、まずい……!
外までの通路は一直線、脱出が間に合わなければ、そのブレスを躱す手段はない。
出口まで5メドル、3メドル、1メドル……。
その猛毒の吐息が、俺の背中、数十セルチまで迫ったところで、ようやく脱出することができた。
しかしまだ安心はできない。
外の空気で拡散するとはいえ、このまま進めば、ブレスは直撃してしまう。
敏捷のステータス補正を活かし、俺は強引に左方向へと全力で跳躍した。
そのまま前転して距離を取り、どうにかブレスを躱す。
「あっ……ぶねえっ!」
未だに紫紺に煙る洞窟から、大毒蜥蜴が這い出てくる。
そして俺を見つけるなり、忌々しそうにその目を向けた。
どうやら、必殺とも言えるブレスを躱されたことに腹を立てているらしい。
「ヨシヒロ、幸いこの辺り広い!このまま戦闘を開始するぞ!」
ブレスが霧散していき、先に出ていたマークが飛び出してくる。
「ああ、このままターゲットを取る!不意を突いて攻撃を頼む!」
「ああ!ただし、いつものように【毒の牙】は使えないぞ!」
確かにそうだ。
猛毒を持つ大毒蜥蜴は、もちろん毒に大きな耐性を持つ。
今回ばかりは、いつもダメージソースとなっていた【毒の牙】に頼ることはできないだろう。
となれば、今回は、大毒蜥蜴との純粋な殴り合いを制する必要がある。
俺達は二人とも、攻撃魔法を使えないからな……。
「後は頼むぞ!」
そう言ったマークが、一撃を入れた後、すぐに離脱する。
ここからは、俺達と大毒蜥蜴との耐久勝負だ……。
「よし、こい……!」
俺は頬を叩いて気合を入れると、再び大毒蜥蜴と向き合った。
◆◆◆
「ハァッ、ハァッ……!」
「大丈夫か、マーク……?」
何度となく攻撃を行っているが、決定打のない長期戦に、俺達は苦戦を強いられていた。
いい加減、俺にもマークにも疲れの色がちらつき始め、その過酷さが目に見えて分かる。
俺の場合は精神的なものだが、マークは肉体的な披露もかなりのものだろう。
何度も全力の一撃離脱を行ってきたマークは、かなり消耗が激しいはずだ。
「問題ねえ!離脱する!」
疲れを隠すように気丈に振る舞うマークは、再び茂みの方へと離脱していった。
(まずいな。やっぱり、俺も攻勢に出ないと……)
俺自身も不意を着くように、幾度と反撃を入れているが、硬い鱗を持つ大毒蜥蜴に対しては、有効打とはなっていない。
更には、マークの消耗も激しい。
そうとくれば、俺も【鉄拳】か、魔棍ハティによる全力攻撃をするしかないだろう。
『グルルアアアアアアアアオッ!』
そんな考え事から油断した俺に、大毒蜥蜴が毒に染まった黒い爪を振り下ろす。
「ぐぅっ……!」
詠唱が間に合わず咄嗟に右腕で受けるが、【硬化】していない肌を、大毒蜥蜴の鋭い爪は易々と切り裂いた。
持ち前の耐久値のおかげか傷は浅く済んだものの、傷口とその周辺が毒々しい紫色に変色している。
「まずい、すぐに解毒剤を使え!」
攻撃を受けた俺を見たマークは、咄嗟に指示を出す。
そう、大毒蜥蜴の毒は、即効性のある麻痺毒。
動きの取れなくなった獲物を、大毒蜥蜴は悠々と食らうのだ。
しかし、普通であれば一撃必殺とも言えるその即効性の毒は、俺の【毒耐性】の前に軽減される。
痺れる腕で解毒剤を飲み干し、その半分を傷口にかけると、すぐさま体が軽くなっていく。
『グルルルルオオオオッ!』
隙を見せた俺を、再び大毒蜥蜴の爪が襲う。
しかし、同じ攻撃をくらうことは無い。
咄嗟に詠唱を開始し【硬化】を発動、鋼鉄の如き右腕で、今度はその一撃を防御した。
爪の一撃を無効化された大毒蜥蜴は、その攻撃に意味が無いことを悟ると、大きく息を吸い込んでブレスの予備動作に入る。
『グロオオオオオオオオオオッッ!!』
再び当たりを猛毒が埋め尽くし、視界が紫に染まる。
しかし、俺はそのブレスを全身を【硬化】させることで防ぐ。
無防備を晒すことになるが、【硬化】さえしてしまえば、鋼鉄と化した俺は猛毒を吸い込むこともない。
『グルルルルルルッッ!』
ブレスの煙も晴れぬ中、大毒蜥蜴は無防備になった俺を見逃さぬと、両腕による連撃を放ってくる。
それすらも全て防ぐが、大毒蜥蜴は1度後ろに下がり、距離を取った。
(まずい、流石に威力を付けられたら防御が間に合わない……!)
俺の敏捷では、大毒蜥蜴の全力の突進を回避することはできない。
そうであれば、やはり正面から受けるしかない……!
―――ギリィィイイッ!
助走により威力を増した大毒蜥蜴の大爪は、硬化した俺の体をギリギリと引き裂いていく。
威力自体は殺すことは出来たものの、俺は再びダメージと毒を受けることになった。
(まずいな、逃げる隙が無い……)
【硬化】の発動中であれば、普通の爪攻撃やブレスを防ぐことが出来る。
ただし、もう一度あの全力攻撃がくれば、またダメージを受けてしまう。
それに、先程の攻撃のせいで毒をくらってしまった。
【毒耐性】のおかげでどうにか軽減はできているが、いずれ全身が麻痺するのも時間の問題だろう。
そうなってしまえば、【硬化】が解除され、今度こそ致命傷をくらってしまう……。
(どうにか、隙さえできれば……)
少しでも俺以外に大毒蜥蜴の注意を向けることができれば、まだ毒の回りきっていない体に鞭を打って、離脱することができるだろう。
だが、その注意が俺から逸らされることはない。
(くそっ……【挑発】はもう解除されている筈なのに……!)
一瞬、【挑発】のことを考えたが、その効果を示す魔法の赤い光は、とっくに体の周囲から消え去っている。
であれば、単純に目に映る敵が俺だけだからだろう。
もうすぐ【硬化】の解除時間が迫っている。
そうであれば、リスクは承知で攻撃の合間を縫ってでも離脱を試みるしかないか……?
焦る俺が、一か八かの賭けにでようとした時だった。
「おいクソトカゲ!こっちだッ!」
俺のピンチを察したマークが駆け付け、大毒蜥蜴の背中にナイフを突き立てる。
『グオオオオオオオオオオッッ!?』
完全に俺に気を取られ、不意打ちを受けた大毒蜥蜴が叫びを上げる。
そして、そのターゲットがマークへと移った。
「くっ……!俺が囮になる!早く立て直せ!」
大毒蜥蜴の連撃を避けながら、マークが俺へ指示を出す。
普段よりその動作が遅い。やはり、かなり無理をしているようだ。
「ごめん、ありがとう……!」
ギリギリの所でマークに助けられた俺は、痺れる腕でポーチの解毒薬を取り出すと、一気に呷る。体の痺れが少しずつ和らいでいった。
未だ爪の連撃を続ける大毒蜥蜴は、なんと、攻撃をしながら大きく息を吸い込み始める。
「なっ……!攻撃中にブレスができるのか……!?」
大毒蜥蜴の示した予想外の行動に、マークが驚愕の声を上げる。
どうにか離脱を試みているようだが、連撃への対処で精一杯のようだ。
周囲の空気を吸い込みながら、大毒蜥蜴はブレスの準備を着実に進めていく。
そして、一際大きく口を開くと、口内にブレスが充填され始め―――
「こっちだ、ドラゴンもどき!」
ブレスが発射されるまさに寸前、俺は再び【挑発】を発動し、ブレスを受け止める。
ダメだ、【硬化】は間に合わない……!
(頼む、どうにか【毒耐性】で軽減してくれよ……!)
俺は祈るように目を閉じて、ブレスの直撃を受け続ける。
視界が猛毒のブレスに染まっていき、大気を吸い込んだ俺の肺を汚染していく。
爪の猛毒を凌ぐブレスの効果は、俺の【毒耐性】ですら意味を成さない。
―――その筈だった。
「は……?なんとも、ない……?」
ブレスの直撃を受け、本来であれば身動きの取れない筈の俺の体は、何故か自由に動かすことができる。
必殺のブレスの威力を信じた大毒蜥蜴は、きっとその効果に倒れ伏しているであろう俺に向かって、まだ視界の悪い中を悠々と歩いてくる。
「よう、じゃあ、死んどけッ!」
『……グオッ?』
そこに倒れている筈の俺を喰らおうと顔を近づけた大毒蜥蜴に向けて、俺は全力の【鉄拳】を放つ。
『グロオオオオオオオオオアッ!?』
鼻先に全力の一撃を受けた大毒蜥蜴は、苦痛に叫びを上げる。
「毒が効かないなら、もうお前の攻撃に脅威はない……!」
こうして、俺達の大毒蜥蜴へのリベンジバトルが開始された。
◆◆◆
必殺のブレスを無効化する俺の猛攻と的確なマークの攻撃により、それから程なくして、大毒蜥蜴の討伐は成された。
「なぁ、お前、なんで途中から毒が効かなくなってたんだ……?」
マークの上げる当然の疑問の声を受けて、俺はステータスを確認する。
すると―――
―――――――――――――――――――――――――
<<常時スキル>>
【毒無効】:すべての毒を無効化する。
―――――――――――――――――――――――――
「……【毒耐性】の常時スキルが、【毒無効】に変わってる!」
俺自身も、突然現れたスキルの変化に目を丸くしてそう答えた。
「はぁ!?常時スキルが変化するなんて、聞いたことねえぞ!?」
「いや、俺自身もびっくりしてるんだけど……」
恐らく、大毒蜥蜴による耐性を超えた毒を受け続けたのが原因だろう。
そんなことを説明したのだが、マークは納得してくれない。
その後も、やっぱりお前は異常だとか、無茶すんのはやめろとか、さんざん説教をされ、ようやく街に帰ることができたのであった……。
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