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社畜・イン・ファンタジー ~異世界ブラック冒険譚~  作者: 揚げたてアジフライ
第二章 胎動する悪
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EXその2 ある受付嬢の一日 

時系列的には37話の少し後のお話です。

例のごとく、3章に向けての幕間的なエピソードもあります。

 出勤した私は、いつも通り冒険者達のクエスト達成の事後処理を進めていく。


 時折訪れる冒険者と世間話を交えつつ、受注処理を完了させる。

 来るたびにナンパしてくる冒険者を適当にあしらっては、追い返していく。


「はぁ……」


 退屈だ。

積まれた書類を整理しながら、私は溜息をつく。

 好きで選んだ筈の仕事だが、私は単調な事務作業ばかりのこの仕事にうんざりしていた。


(いっそのこと、言い寄ってくる冒険者と一緒になった方がいいのかな……)


 そんなことを考えて、何度か誘いの下で食事へ行ったこともある。

しかし、どの冒険者も自分の武勇伝をひけらかすばかりで、ただ、つまらなかった。


 私は16歳になる年に、オルド地方にある魔法学園に入学し、そこで魔術を学んできた。

 魔術に別段興味はなかったのだが、私に期待を寄せる両親の勧めで、なんとなくの入学だった。


 そんな私は魔法学園でなんとなく学び、何故か主席で卒業することになった。

 冒険者だった両親に、幼い頃から魔術の基礎を教えて貰っていた私にとって、そこでの生活は、ただ単調で、レベルが高いとは言えない毎日だったのだ。


 卒業後、冒険者になる道もあったのだが、私はあえて冒険者ギルドで働く道を選んだ。

 冒険者として活躍することを望んでいた両親や学校の教授陣からは、随分とがっかりされたものだ。


 そんな期待を裏切ってまで、ギルドに勤める道を選んだのには理由がある。

 私は、どうしようもなく、物語の中の勇者や英雄に憧れていたのだ。


 そう、他人からすれば、それだけの、単純な理由。

 それでも私は、自らの命を賭して『冒険』する彼らを、間近で見たいと思ったのだ。


 だが、現実は非情だった。


 私のもとを訪れる冒険者といえば、粗野で、野蛮で、どうしようもなく低俗で、下品な人たちばかりだ。

 たまに、そうでない人が現れても、厳しい冒険者としての活動の中で、命を落としたり、引退することになってしまう。


 でも、そんな日々に飽き飽きとしていた私の前に、突然現れたのがあの人だ。


 黒い、見たこともない変な服に身を包んだその人は、少し困ったように、やけに丁寧な口調で私に声をかけてきた。


「すみません、冒険者登録?をお願いしたいんですが……」


―――それが、ヨシヒロ・サトウさんとの出会いだ。


 優しそうだが、どこか疲れたような、隈の目立つ彼は、新人冒険者になった。


 今までどうやって生活してきたのだろうかと思う程、世間に疎い彼の冒険者登録をして以来、サトウさんは度々私のもとを訪れるようになった。


 最初は、この人も他の冒険者と同じなのかと思った。


 だが、すぐにそうではないと分かった。

 どうしようもなく常識知らずで、世間に疎い彼は、ただ私を頼っているだけなのだ。

 私よりいくつも年上なのに、頼りないそんな彼が、少し可愛かった。


 しかし、頼りないと思っていた彼は、冒険者登録をして数日でその頭角を現した。


 なんと、一晩で3つもクエストをクリアした上に、あの初心者が苦戦する魔物No.1であるはずの大芋虫ヒュージワームを、ソロで討伐してきたのだ。


 良い意味で常識知らずの彼は、それ以来、メキメキと腕を上げていく。

 それこそ、あの物語の中の、伝説の冒険者たちのように。


 最近は、同じく新進気鋭の冒険者である、マークさんと一緒に冒険をしているようだ。


 そんな彼と些細なことで喧嘩をしたのが、ついこの間。

 と言っても、私が一方的に叱りつけただけなのだが……。


 度々無茶をしては、常識外の功績を上げてくる彼に対し、私は何度となく注意をしてきた。

 何度も、無茶をして命を無くしたり、大怪我をして引退することになった冒険者を見てきた私は、心の底から彼が心配だったのだ。


 そんな彼が、また無茶をした。

 今回は、一週間もの間、山籠もりをしたまま修行していたという。


 居合わせたマークさんに宥められ、どうにかその場は収められたものの、私は、まだ沸々と怒りの感情を燃え上がらせている。

 サトウさんから何度も謝られたが、絶賛知らんぷりだ。


 そんな頃、サトウさんとマークさんがボールズ支部長から呼び出しを受けたという噂を聞く。


 あの二人に限って、何か問題を起こした訳ではないだろうが、それでも気になる。

 だが、他の職員や上司に聞いても、何があったのかは分からないようだった……。



                ◆◆◆



「アリシアさん、怒ってたなー」


 マークが笑いながら、他人事のようにそう言った。


「やっぱり、やばいよなぁ……」


 アリシアさんには、今まで何度となく怒られてきたが、今回の怒り方は別格だ。

 あれから、何度となく謝りに行ったが、口をきいてももらえない。


「まぁ、誠意を見せるしかないんじゃないか?」


 マークは、解決策に心当たりがあるのか、そう告げる。


「誠意って、まさかお金か……?」


 誠意と言われて真っ先にそれが思い浮かんだ俺は、マークにそう尋ねる。

 まさか、ヤ〇ザじゃあるまいし、小指を詰めるって訳じゃないだろう。


「はぁ、やっぱお前は馬鹿だな……。プレゼントだよ、プレゼント!」


「そうか、その手があったか!」


 マークの提案に、俺は手を叩いて声を上げる。

 物で釣るようで情けないが、それが効果的な気がした。


「で、何を渡せばいいかな……?」


「そのくらい自分で考えろ!俺は用事があるから、頑張れよ!」


 マークは、そう言い残すと、裏通りへ向かって歩いて行った。


 仕方ない、こういうのには慣れてないけど、なんとかするしかないか……。


 こうして、俺はモンテス通りの雑踏の中、アリシアさんのプレゼントを探すことになったのであった。



                  ◆◆◆



「はぁ、サトウさん、何してるのかなぁ……」


 私は、しばらく顔を見せていないあの人のことを考える。

 また無茶をしているのではないかと、純粋に心配なのだ。


「なぁに、アリシア?彼氏でもできたの?」


 私の言葉に色めきだった同僚が、そんな事を尋ねてくる。


「違うわよ。無茶ばっかりする冒険者のこと!」


「なーんだ!つまんないの!」


 私が否定すると、同僚はすぐに自分の仕事へ戻っていった。

 全く、同僚達ときたら、私が冒険者と話してるだけで、すぐに茶化してくる。


 そんな同僚に私が呆れていると、聞きなれた声が向けられる。


「アリシアさん!」


 噂をすれば、サトウさんだ。

 まぁ、そろそろ話くらいは聞いてあげてもいいかもしれない。


「……なんですか?」


 あくまでも、私はぶっきらっぽうにそう答える。

 久しぶりにサトウさんに会えて、少し安心したのは内緒だ。


「あの、これっ……!」


 そう言って、サトウさんは、白い花束を渡してくる。

 キリガスミの花束だ。


 花言葉は、『貴方は美しい』……。


 きっと、世間知らずの彼は、花言葉なんて知らないのだろう。

 でも、そんな彼が選んできてくれたというだけで、少し嬉しい。


「……これは?」


 私は、わざと突き放すように、そう答える。


「俺、アリシアさんに謝りたくて……。でも、何を渡したら良いのか分からなくて……」


「サトウさん……」


 必死な様子の彼に、思わず心を許してしまう。

 彼は、いつもそうだ。いつも、必死で、一生懸命で、そして、格好いい……。


「もう絶対に、無茶はしません!だから、許して、くれますか……?」


 急に自信を無くしたように訪ねてくる彼が微笑ましい。


「しょうがないですね!次はないですよ!」


 私がそう告げると、彼はほっとしたように息をつく。

 そんな彼から、私は改めて、キリガスミの花束を受け取った。


 きっと、これからも彼は無茶をするのだろう。

 そして、その度に結果を残して、功績を上げていくのだろう。


 ……そう、あの物語の中の、英雄達のように。


 ―――彼女の中に宿った、仄かな、しかし暖かい気持ちの正体は、まだ誰も知らない。



                  ◆◆◆



「はっ、はっ、はっ……!」


 暗く、湿った通路の中を、一人の少女が駆けていく。

 気の強そうなその少女も、今ばかりは余裕のない表情を浮かべていた。


「あの女を逃がすな!探せ!」


 揃いの黒いフードを被った集団、獄王の刃の組員達が、少女を探して声を上げる。


「ちっ……しつこい……!」


 太い排水管の陰に身を隠した少女は、決して追っ手に見つからないよう、そう呟く。


 少女を追う集団は、どうにか去っていったようだ。


「あと少し、今度こそ捕まる訳には……!」


 焦る少女は、目の前に迫った出口へ向けて、再び駆けていった。


 ―――同施設内、とある研究室。


「キイイイイイッ!追え、追え、追えッ!あの女を絶対に逃がすな!」


 白衣の男は、狂気に歪んだような表情で、そう叫ぶ。

 細身と言うには余りにも痩せ細ったその体は、骨の魔物(スケルトン)を思わせた。


「貴重なァ!貴重なサンプルがッ!!早く追えエエエエッッ!!!」


 乱雑に伸ばされた白髪を掻きむしるように、発狂した男が叫びを上げる。


「すみません、シュタイナー博士。どうやら、施設の外まで逃げ出したようで……」


 男の発狂した様子に慣れているのか、部下の一人が冷静にそう告げる。


「ふざっ、ふざけるなッ!ただでさえ、禁忌の森の拠点を潰されたのだぞ!このままではッ!このままでは私がッ!」


 焦る男は、つい先日壊滅したばかりの拠点について話題に上げる。


「はっ!その件については、調べがついております!」


「はやっ、早く言えッ!唯一の研究成果だった、あのタマゴまで持ち去られたッ!」


「はい!主犯の名は、歩く死体(リビングデッド)のヨシヒロ・サトウと、銀の疾風マーク・マルティネスと呼ばれる冒険者のようです!」


 部下の口から二人の冒険者の名が告げられると、狂乱していた白衣の男は、突然平静を取り戻す。


「ほう、では、その二人を始末しましょうか。即刻です。」


「はっ!直ぐに調査を開始しますッ!」


「……フフフッ!ハハハハハハハハッ!」


 再び狂ったように不気味に笑う上司に怯えながらも、部下の男は部屋を退出する。


 指示を受けた部下による迅速な対応がなされ、すぐさま二人の冒険者の捜索網が敷かれることとなった。


 ―――かくして、再び闇は蠢く。

3章第一話は20時投稿です。

評価、ブックマーク、感想等頂けるとより一層頑張れます。

感想欄に「こんな話が読みたい」というコメントを頂ければ、内容次第では外伝として書かせて頂きます。

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