第40話 社畜と大怪鳥
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どうやら、マークはこの頑丈な扉をどうにかする策を思いついたらしい。
まさか、鍵の解錠までできるんだろうか。
万能盗賊のマークなら出来てしまいそうな所が怖いが……。
「よし、【硬化】して全力でぶん殴ってくれ」
「めっちゃ力技だったーーーーー!?」
知恵の欠けらも無い予想外のアイデアに、俺は思わず大声で叫んでしまう。
「おい、いくら倒してきたとはいえ、まだどこに敵が潜んでるか分からないんだぞ……」
白い目で見てくるマークが、至極まともに注意をしてくる。
いや、叫んじゃったのはマークのせいだからね……。
「でも、思いっきり突っ込んだら、中の敵にすぐバレるんじゃ?」
「いや、いいさ。恐らく、もう残りはその中にいる奴だけだろう。ドアが開いたら奇襲をかけて、一気に仕留めよう」
やっぱり力技だな……。
分かりやすくていいけどさ……。
まぁ、中にいる組員さえ倒せば、十中八九この拠点は壊滅だ。
中にいるのが幹部クラスである可能性もあるが、研究職だとすれば恐らくその戦闘力は高くない筈だ。
そうなれば、俺たち2人で畳み掛ければ、すぐに方はつくだろう。
若干の不安を抱えつつも、俺は詠唱を開始し、右手だけを部分硬化させる。
そして、3メドル程距離を取ると、助走をつけて、全力で扉へ駆け出した。
「……おおおおおらッ!【鉄拳】!」
辺りに金属同士がぶつかるような衝撃音が響く。
そして、施錠された鍵だけを壊そうとした俺の右手は、勢い余ってドアごとぶち破った。
ズシンと音がして、扉が倒れる。
扉の先にあったのは、天井までの高さが数十メドルはあろうかという、ドーム状の大空間だった。
所々に研究に使うような魔道具などが設置されていることから、ここも設備の一部であることが理解出来る。
「な、なんだ!?貴様ら、どこから入った!?」
衝撃音でこちらに向かってきたと思われる痩せ細った白衣の男が、俺達を見るなりそんな声を上げた。
「観念しろ、残りの組員はお前だけだ」
マークがナイフを構えてそう言う。
「ふ、ふざけるなッ!貴様ら、覚悟しろ!この拠点の支部長である私を怒らせたことをなァッ!!」
そう言いながら、男は背後の暗闇へ走っていく。
「は?逃げたのか……?」
思わぬ行動をとった男に、俺は呆気に取られる。
「いや、違うぞヨシヒロ!奥をよく見ろ!」
マークに言われて、男の逃げた方向を目を細めて観察する。
目が暗闇に慣れた頃、そこに写ったのは、10メドルを軽く超えるであろう、何かの巨大な影だった。
「はっ!?なんだよ、あれ!?」
「分からねえよ!だが、計画通りにいかなそうなのは確かだぜ……」
俺とマークは、互いに武器を構えて臨戦態勢を取った。
そして、奥へと逃げ去った男の声がこちらにむかって響く。
「ゲヒャヒャッ!どうだぁ、このビルス様の最高傑作の姿に声も出ないかァ!?」
恐らく、獄王の刃により、何かしらの改造を加えられた魔物なのであろう。
だが、その姿はこれまで見たどんな魔物よりも強大だ。
「さあ、大怪鳥ジズよ!こいつらを消し飛ばせぇッ!!」
そう叫んだ男がスイッチを押し、これまでその巨体を封じていた鎖を解除する。
すると、これまで眠るように静かだった大怪鳥が、ゆっくりと目を覚まして叫び声を上げた。
『キィィィィヤァァァァァァァオ!!!』
開かれたその両翼はを合わせれば、体長は15メドルを超えるだろうか。
鎌のように鋭く曲がった嘴と、肉食の獣特有の爛々と光る瞳は、見る者に威圧と恐怖を与える。
しかし、極彩色の羽に覆われた体は、どこか神秘気的ですらあった。
俺達がその様相に圧倒されていると、大怪鳥ジズの大きな翼が解放され、その動きによってこちらまで突風が吹き荒ぶ。
「くっ……」
俺は【硬化】を使えばどうにかなりそうだが、マークは立っているのも厳しそうだ。
「ゲッヒャヒャッ!やれぇ!消し飛ばせえッ!」
不愉快な笑い声を上げながら、男が怪鳥に向かって指示を出す。
しかし、不快であったのは怪鳥も同じだったようで、煩わしそうにその大きな翼で、男を叩きつける。
「……ゲヒャッ!?」
一瞬で目の前に迫った大翼を避けることも出来なかった男は、間抜けな声を上げた後、そのまま吹き飛んで壁の染みと化した。
「使役されてるわけじゃなかったのか!?」
飼い犬に手を噛まれるどころか、一瞬にして消し飛ばされた男の姿に、俺は驚きの声を上げる。
「あいつを縛ってた鎖、恐らく魔封じの鎖だ。あれの効果で、力を封印されてたんだろうぜ」
―――魔封じの鎖。
不死者騒動の際に、俺に使われたあれのことか。
確か、縛り付けた魔物の魔力なんかを封じる効果があった筈だ。
「ともかく、あいつの汚ねえ声のせいか、長らく縛り付けられてたせいか、かなりお怒りのようだぜ……」
『キュアアアアアアアアアァァァッ!!』
男を処分した怪鳥は、極彩色に輝く大きな翼を広げ、こちらを威嚇するように鳴き声を上げる。
そして、そのまま大きく羽ばたき上昇したかと思えば、すぐに猛烈な勢いで下降し、低空姿勢でこちらへ飛行してきた。
「まずい……!蛮族よ、我が盾を見よ!」
マークへの攻撃を防ぐため、即座に【挑発】を使い、怪鳥の視線をこちらへ誘導する。
低空飛行のままこちらへ突進してくる怪鳥の巨躯が衝突する刹那、俺は即座に全身を【硬化】させることで、辛うじてその攻撃を防ぐ。
(くっ、まずい……!)
ダメージ自体は無かったものの、その威力を殺しきれなかった俺は、硬化した体のまま後ろへ吹き飛ぶ。
再び上空へ舞い戻った怪鳥は、大きく羽を羽ばたかせながら、高い天井の研究室の中を旋回する。
そして、未だ【挑発】の効果が続く俺に向けて、大きく風を巻き起こした。
怪鳥の持つ極彩色の両翼が魔法の光を纏い、羽ばたきと同時に、切り裂くような風が巻き起こる。
吹き飛ばされた体勢を立て直し、【硬化】を発動したまま防御の構えを取るも、その刃物のように鋭い風の魔法は、硬質化した俺の体さえ引き裂いていく。
一撃兎の攻撃すら無効化する筈の俺の魔法が初めて破られた。
次々と俺を襲う風の刃が、防具を引き裂き、体中へ裂傷を負わせる。
(まずい、このままじゃジリ貧だ……)
なにか打開策を見つけなければいけない。
このまま攻撃を受け続ければ、いつか【硬化】の制限時間が尽きてしまう。
(そうなる前に、どうにか……!)
そう、どうにかしなければならない。
そう思いつつも、対抗策の1つすら思い浮かばないままに、無情に時間は過ぎ去っていく。
(クソッ!いつまで魔法が続くんだ!?)
怪鳥が羽ばたく度に発生する風の魔法は、既に5分以上続いていた。
魔法を使ってくる魔物自体が初めてだが、これは余りにも無尽蔵すぎる……!
俺の体を包み込んでいた【硬化】の光が次第に薄れていき、その効果時間終了が近いことを伝えている。
(まずい、このままじゃ本当に……死……)
諦めかかっていた俺の耳に、風に乗って声が流れてくる。
「ここは任せろ……!」
すぐに暴風の音に掻き消されたが、確実にそれはマークの声であった。
姿が見えないことからして、恐らく認識阻害の迷彩を発動しているのだろう。
(ったく、遅いんだよ……!)
いつも遅れて助けに来る相棒を信じて、俺はひたすら【硬化】に集中して防御を続ける。
マークなら必ず何とかしてくれる。
まだ短い付き合いだが、そう思わせてくれるだけの信頼の実績があった。
【硬化】が解除されるまで、恐らく長くても3分。
俺の魔法が時間切れ寸前のこのタイミングで飛び出したマークなら、絶対にそのタイムリミットまでに手を打つ筈だ。
時間と共に体から離れていく魔法の光に焦る気持ちを落ち着かせ、目の前の攻撃を防御することだけに集中する。
そして、効果が切れる寸前まで時間が経過した頃、どこからか再び、マークの声が風に乗って流れてきたのだった―――。




