第38話 社畜と極秘任務
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アリシアさんに怒られたこともあって、最近クエスト続きだった俺達は、久々の休暇を満喫していた。
といっても、やる事がないので、マークの買い物や用事に付き合っているだけだが……。
「相変わらず、モンテス通りは人が多いな……」
ちょうど昼時ということもあり、人でごった返した大通りは、歩くこともままならない。
俺は、前から来る通行人にどうにかぶつからないようにするので精一杯だ。
「……ああ、そうだな」
俺の呟きにそう答えたマークの横を、怪しいフードを被った男が通り過ぎる。
一瞬、獄王の刃かと思い身構えたが、フードの色は茶色だったし、普通の通行人だろう。
「少し用が出来た。そこを曲がるぞ」
そう言って、マークは突然路地裏への角を曲がる。
そこは曲がっても行き止まりだった筈だが……。
「どうやら、任務らしいぜ」
角を曲がって少し進んだところで、マークは俺に一枚の紙きれを見せる。
『緊急:マーク・マルティネス、ヨシヒロ・サトウの両名は、至急ギルドへ来たれり。受付でボールズへ話を通すべし』
「さっきのフードの男か!今の一瞬で、よく受け取ったな……」
ぶつかった様子もなければ、受け渡しをするような素振りもなかった。
ただすれ違っただけで、どうやって気づいたのだろうか……。
「職業柄、そういうのには敏感というか、慣れてるんだよ」
「いや、普通の盗賊はそんなことないと思うけど……」
変なところで謙虚なマークに、俺は呆れながらそう答える。
「まぁ、とにかくギルドへ向かおう。緊急ってことらしいからな」
「ああ、そうだな。とりあえず向かおう。
俺達は路地を抜け、再び大通りへと戻っていった。
◆◆◆
ごった返すモンテス通りをどうにか抜け、突き当りのギルドへと辿り着いた俺達は、早速その受付へと向かう。
「マーク・マルティネスだ。ボールズ支部長を頼む」
忙しなく書類を整理していた受付の職員に対し、マークがそう声をかける。
「はぁ、話は通せますが、何分お忙しい方なので、会えるかはわかりませんよ?」
そう言って、男性職員は、奥にある通信用の魔道具を使って、何やら連絡を取り始めた。
数分経って、連絡が終わった職員が、慌ててこちらへ駆けてくる。
「失礼しました!支部長がお呼びです!こちらへ!」
先程までの態度とは一変、かなり慌てた様子の職員は、俺達をそう言って案内し始めた。
案内を受け、普段は職員しか通ることがないであろう通路をしばらく歩いていくと、所長室と書かれた扉の部屋へと辿り着いた。
「失礼します!ボールズ支部長、2人を連れてまいりました!」
ノックをした職員が、扉の向こうにいるであろう人物へ、大きな声でそう告げる。
「案内ご苦労、お前は下がっていい。マーク・マルティネスとヨシヒロ・サトウの2人だけ入れ」
「はっ!それでは、失礼します!」
職員が敬礼でもしそうな程はきはきとした返事をして、元来た道を戻っていく。
そして、誰もいなくなった通路で、俺達は目の前の重厚なドアを開けた。
「急で済まないな。そこのソファにでもかけてくれ」
部屋に入るなり、スキンヘッドの特徴的な壮年の男性、ボールズ支部長がそう言って俺達を迎えてくれた。
「「失礼します」」
そう言って、俺達はソファへと腰かける。
反発もせず、沈み過ぎない。見るだけでも高級と分かるような装飾のソファだ。
「君たちを呼んだのは他でもない。例の特殊部隊としての任務が決定したからだ」
そう言って、ボールズは俺達の目の前のソファへ腰かけると、先程用意したと思われるお茶を、目の前のティーカップへ注ぎ始めた。
赤みがかった紅茶の良い香りが鼻に抜ける。
粗暴にも見えるその外見とは違い、存外に几帳面な人なのかもしれない。
「良ければ、飲んでくれ」
「あ、ありがとうございます、頂きます」
緊張で手が少し震えながらも、俺は紅茶を啜る。
一方で、マークはやはり慣れた様子で静かに紅茶を嗜んでいた。
「良い香りですね。それで、任務の内容と言うのは?」
半分ほど紅茶を飲んだマークが、同じく紅茶を味わっていたボールズへ、そう問いかける。
「ふむ、そうだな。まず、ギルド本部の密偵の働きにより、獄王の刃のアジトが見つかった」
「……あの獄王の刃のアジトが、そんなに簡単に?」
マークが怪訝な顔でそう尋ねる。
「ああ、私達もその報告には耳を疑ったさ。何十年探しても見つからなかった奴らの足掛かりだからな」
そう、獄王の刃は、ここ数十年の間、息を潜めていた。
そのため、25年前に行われた、『獄王の刃掃討作戦』により、壊滅が疑われていた程だ。
「だが、ギルド本部の密偵が誤った報告をするなど、万に一つもあり得ない。それ程、奴らが大々的に活動を開始したということだろうと見ている」
「そうですか……。それで、場所はどこなんですか?」
どうやら、獄王の刃のアジトが見つかったと言うのは、ほぼ間違いがないらしい。
そうとなれば、場所を知りたい。そう思った俺は、ボールズに場所を尋ねる。
「ああ、奴らの拠点は、このグスタの街の遥か東。禁忌の森の最奥部だ」
―――禁忌の森。
かつて豊かで穏やかであった森がそう呼ばれ始めてから、もう数百年が経つという。
魔王誕生の余波を、アルクス地方で最も受けたと呼ばれる地であり、そこには強力な魔物が跋扈しているらしい。
ボールズの言葉をもう一度復唱するが、禁忌の森は、この街の東にある森だ。
それも、奴らの拠点は、その森の最奥部。
そう、その場所は、奇しくも、俺がこの世界で始めた目覚めた場所だった。
「まさか!そんなところに!?」
驚いた俺は、思わず大きな声を上げる。
「どうした、ヨシヒロ?」
「ごめん、少し前に、行ったことがあったから……」
もちろん、その時は獄王の刃の拠点なんて見かけなかった。
危険な森だったと知ったのも、冒険者になってしばらくしてからだ。
「そうか、この際、何があったかは聞かねえよ。それで、ボールズ支部長、今回の作戦の内容は?」
逸れてしまった話題を、マークが冷静に戻す。
「ああ、ギルド本部から提示された作戦の内容は、獄王の刃の拠点壊滅及び、証拠品と情報の獲得、だ。」
「簡単に言ってくれますね。拠点を壊滅?俺達は二人ですよ?」
マークが、静かに怒りを見せる。
「すまない、私も無理は承知だ。上に増員を掛け合ったが、人員不足の一点張りで、断られてしまってな……」
マークの言葉に、ボールズは心底申し訳なさそうな表情でそう答える。
「……仕方ない。分かりました。できる限りの情報と、物資の支援をお願いします」
上というのは、ギルド本部のことだろう。
流石のマークも納得したのか、譲歩を見せる。
「ああ、私達ギルドとしても、可能な限りの支援をしよう」
こうして、俺達は『獄王の刃 拠点壊滅作戦』へと挑むことになったのであった。
そして、ギルドからポーション類や携帯食料等、できる限りの物資の支援を受ける。
―――出発は明朝、日が昇る前に街を出ることになる。
次回は本日の20~21時に投稿予定です!




