第36話 社畜の武者修行
遅刻すみません><
【挑発】の魔法を覚えてから、5日が経過した。
マークの言う通り、【硬化】との相性もばっちりで、囲まれることがピンチになりえないのだ。
ただ、最近は、ハティの火力とマークとの連携が上手く行き過ぎて、囲まれたとしても【硬化】を使う暇さえなく、魔物を討伐してしまうのだが……。
「うーん……」
クエストからの帰路の途中、俺はうんうんと唸っていた。
「どうした?浮かない顔してたと思ったら、突然唸りだしたりして」
マークが、未だに唸る俺に向かって、怪訝な顔でそう尋ねる。
「……最近、クエストが上手く行き過ぎて、【硬化】の出番がないんだよ!」
「はぁ?そんなの、元はピンチになった時に使うもんだし、そういう状況にならないのは良い事じゃないか」
マークが呆れたようにそう言った。
「違うんだって!お飾りの魔法なんて、持ってても仕方ないじゃないか……」
「いや、そんなこと言ったら、俺の【強奪】だって、魔物相手だと似たようなもんだろ?新しく【挑発】も覚えたし、それでいいじゃないか」
違う、違うんだよ……。
俺は、もっとド派手に、敵をバッタバッタとなぎ倒すような戦闘がしたいんだ!
「良くない!とにかく、【硬化】をどうにか活かせるようになるか、新しい魔法を覚えるまで修行する!」
答えは単純だ。
努力すればするほどそれがステータスやスキルに現れる世界。
そうであれば、我武者羅に特訓すればいい。
「……はぁ。仕方ねえ、それなら、俺も付き合うよ」
最早仕方がないといった様子で、マークがそう答える。
気持ちは有難いのだが……。
「いや、一人で行く!しばらく探さないでくれ!」
「そうか、もう、好きにしてくれ……」
マークがいれば、戦闘以外でも役に立ってくれるのは間違いない。
ただ、それは普通のペースで活動していく場合の話だ。
そう、俺は、久しぶりに修行のためのデスマーチを行う。
そこにマークがいては、どうしても効率が落ちるのだ。
期限は一週間。
その期間で成果が出なければ、流石に諦めよう。
「じゃあ、行ってくる!また一週間後に会おう!」
「おーう、無理すんなよー」
マークは俺の説得をもう諦めたのか、適当に手を振る。
そしてマークと別れた俺は、一週間の期間のため、食料や物資を買い出しに行くのであった。
◆◆◆
修行開始一日目。
買い出しを終えた翌日、早速アブダイルの森へ修行に来た俺は、受注上限の10個までクエストを受けていた。
「期間は一週間ある。今日は修行の方に力を入れよう」
上手く野営に良さそうな開けた土地を見つけた俺は、荷物を置いて、早速修行に移る。
今日行うのは、【硬化】と解除を素早く行うための訓練だ。
その内容は単純で、ひたすら【硬化】とその解除を繰り返すだけ。
「よし、いくか……!我が身を盾に……」
全身を魔法の光が包み、【硬化】が発動する。
そして、全身が自由になるイメージを思い浮かべ、すぐさま【硬化】を解除する。
「イメージしてから10秒はかかったかな……?」
これではダメだ。
もっと素早く解除できなければ、格上の魔物と戦う際には役に立たない。
「まず、イメージをもっと早くできるようにするのが先決か……?」
一人森の中、ぶつぶつと呟きながら、俺は修行を続けるのだった。
◆◆◆
修行開始三日目。
今日は、ようやく発動から解除まで約1秒程度の間隔まで縮めることが出来たので、実戦での練習をするつもりだ。
残念なことに、今日までクエストには一切手を付けていない。
つまり、まだ10個のクエストが未達成のまま残っているのだ。
「まずは、大毒蜂の討伐からだな……」
俺は、前回の依頼と同じように、目撃率の高い花畑のエリアへと向かう。
毒も効かず、相手を1撃で倒すことができるので、修行にはちょうどいいだろう。
「まだ、いないか……」
近くの茂みから、花畑を見渡すが、まだ大毒蜂の姿は見えない。
そして、5分程経過すると、大きな羽音と共に、5匹の大毒蜂が隊列をなして現れた。
「……よし、いくぞ!」
様子を見ていた茂みから飛び出し、【挑発】を発動、向かってきた大毒蜂達が、その大きな毒針をこちらに向け、攻撃をする瞬間に、すかさず【硬化】を発動する。
鋼鉄と化した俺の体が大毒蜂の毒針を弾き、一瞬の隙を生み出す。
そして、その隙を無駄にしないように、こちらも一瞬で【硬化】を解除、そして、攻撃を仕掛けてきていた3体を、一気にハティの横薙ぎで砕き潰す。
「……完璧ッ!」
刹那のうちに仲間を倒され、動揺した大毒蜂の残りに向け、距離を詰めた俺の攻撃が再び振りぬかれると、そこでクエストは完了した。
タイミングに関しては殆ど完璧だろう。恐らく直す点は見つからない。
同じく、実戦でこの繰り返しを行っていけば、今日中にこの動きはものになるだろう。
であれば、明日以降は、【硬化】の硬度を上げたい。
現状では、ほぼ無敵とも言える防御力であるが、今後、強敵と戦っていく中で、防ぐことのできない攻撃もあるかもしれないからな……。
◆◆◆
修行開始5日目。
初日に10個受注してきたはずのクエストは、既に残り3つとなっていた。
ペースが速すぎたので、今日は修行に集中しよう。
3日目と4日目の実践訓練の中で、【硬化】の発動と解除のタイミングは、完璧にこなせるまでに成長することができた。
昨日から、【硬化】を発動して、ひたすら攻撃を受け続けるという修行をしているのだが、どうにも物足りない。
何故かというと、相手の攻撃で全くダメージを受けている様子がないので、これが経験値になっているのか怪しくなってきたからだ。
そうとくれば、その辺の魔物を相手にしているだけじゃダメだ。
何か、俺の【硬化】すら破ることのできそうな魔物はいないものか……。
そんなことを考えながら、俺は残った3枚の依頼用紙をパラパラとめくる。
「……あった、これだ!」
一撃兎の討伐依頼。
一撃兎は、一角兎と同族の魔物であり、その頭部には、ウサギ特有の長い耳だけでなく、凶悪で鋭い角が生えている。
鋭く硬質な角は、並の鎧や盾であれば容易く貫く程の威力を示す。
そんな特徴から付いた名前が『一撃兎』なのだ。
受ける依頼を決定した俺は、約一時間の山登りを終え、一撃兎の生息する、山の中腹に辿り着いた。
草原の中にゴロゴロと転がる大岩を陰にしながら、隠れつつ進んでいく。
もし不意打ちでもされれば、【硬化】を発動する間もなく角で刺されてゲームオーバー、なんて言う可能性があるからな……。
そして、慎重に進んでいく中で、俺はようやく数匹の一撃兎を見つけた。
「よし、【挑発】と同時に【硬化】の詠唱を開始しよう」
少しでも【硬化】のタイミングが遅れてしまえば、一撃兎の攻撃をまともに喰らうことになってしまう。
一度だけであれば、持っている片手盾で防ぐことが出来るだろうが、二度目、三度目は防御する手段がない。
俺は、気づかれない限界まで近づくと、一撃兎達に向かって駆ける。
「蛮族よ、我が盾を見よ!」
ハティで盾を打ち鳴らし、【挑発】を発動する。
気づいた一撃兎がこちらに向かってくるのを確認し、すかさず【硬化】の詠唱を開始した。
「我が身を盾に……!」
―――ギリィッ!
邪狼の攻撃さえ防いだ俺の硬化した体に痛みが走る。
完全に破られてはいないが、一撃兎の角は、俺の体へ食い込んでいた。
『キュイキュイキュイッ!』
凶悪な角に似合わず可愛らしい鳴き声を上げながら、3匹の一撃兎は、その必殺の角で俺の守りを突き抜こうと、何度も攻撃してくる。
(ぐっ……痛い……!)
だが、我慢できない程ではない。
【硬化】を使えない時代に、もっと鋭い痛みに耐えてきたのだ。
それに何よりも、邪狼の一撃の方が重く、鋭かった。
俺は、何度となく繰り返される一撃兎の攻撃をひたすら耐え続ける。
そして、【硬化】の解けたタイミングで、ハティを薙ぎ払い、一撃兎を上手く仕留めたのであった。
一撃兎を相手に、この修行を続けていれば、恐らくは良い経験になるだろう。
自分の硬度を超える攻撃を何度も繰り返して受けることで、恐らく【硬化】は成長する。
最終日が楽しみだ。
◆◆◆
そして、修行7日目、最終日。
この二日間で、一撃兎の攻撃を受け続けた俺の【硬化】は、より硬度を増し、今ではその角を弾くことができるまでに成長した。
いよいよ、今日は最終日だ。
悔いの残らない一日にしなければ。
今日やりたいことは、実は決まっている。
何度も【硬化】と解除を繰り返す中で、何度も魔物の攻撃を受け続ける中で、俺は思った。
硬化中に動けないからこそ、これが守りにしか使えない魔法なんじゃないかと。
6日目も半分を過ぎた頃に、ようやくこの考えに辿り着き、これまで、徹夜で何度も、効果中に体を動かそうとしているのだが、上手くいかない。
これに関しては、流石に時間をかけて、気合でどうにかなるものではないかもしれない。
だって、【硬化】で鋼鉄の塊になったまま自由に動くことができたら、それこそ強すぎるからな。
もしかすると、何か発想を変える必要がるのかもしれない。
とりあえず、色々と試してみよう。
俺はそんなことを考えながら、修行の最終日へと突入したのであった。
恐らく20時~21時頃に次回投稿です
ブックマーク、評価、感想をいただけるとより一層頑張れます。
もし「こんな話が読みたい!」とかありましたら、感想に一言頂けると、番外編で書けると思います




