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社畜・イン・ファンタジー ~異世界ブラック冒険譚~  作者: 揚げたてアジフライ
第二章 胎動する悪
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第32話 鍛冶師ランドルフとの出会い

 大毒蛙ポイズントードとの闘いの最中、愛用していたアイアンメイスが壊れてしまった俺は、マークからある提案を受ける。


「その辺に売ってる武器を買うくらいなら、鍛冶師スミスに頼んで新しく作ってもらえばいい」


「なるほど、オーダメイドって訳か。でも、むしろ高く付くんじゃないのか?」


 確かに、俺専用の武器を作ってもらうのは憧れる。


 ただし、個人専用で何かを作る、オーダーメイドというのは、どうしても高く付いてしまう傾向にある。


 市販品であればある程度の基準を設けて作れば良い商品を、個人の体格や嗜好に合わせて、サイズ調整からデザイン変更、素材の選択までしなければならないのだから、それは当然なのだ。

 特に、衣類や防具、武器ともなればそれは顕著だろう。


「確かに、基本的には(・・・・・)そうだ。普通であればデザインなんかに拘る。だから高く付く。なら、そこに拘らずに、作り手側に完全に任せてしまえばいい」


 必要最低限の要望だけ付け加えてな、とマークが続ける。


「なるほど。確かに、それなら鍛冶師の人もそれ程大変じゃないかもな」


「ああ、幸いにも、知り合いに新人だが腕の良い鍛冶師がいる。商売なんて、固定の顧客がついてこそだ。だかこそ、まだそうなっていない新人に頼む。そうすれば、客が欲しい新人鍛冶師と、武器を作ってもらいたいお前っていうwin‐winな関係の出来上がりってわけだ」


「そうか!それなら、鍛冶師側も固定客が欲しいから、値段を吹っ掛け辛い!」


「そういうことだ。残念だが今日はもう日も暮れる。明日の朝、お前の宿まで迎えに行くから、朝一で鍛冶師のところへ行こう」


 こうして、マークの提案により武器を新調することになった俺は、そのワクワクを隠し切れず、駆け足で街へと変えるのであった。


          ◆◆◆



 そして、待ちに待った翌日。


 マークの到着を今か今かと期待していた俺は、興奮のあまり、夜明け前には目を覚ましていた。


 起床から一時間ほど経ち、ようやく日が昇り始める。


「朝一って言ってたし、そろそろマークが来る頃かな」


 待ちきれずに部屋を出た俺は、宿のロビーへと向かう。


「お、早いな、ヨシヒロ。早速だけど出発するか」


 ちょうど迎えに来たマークが、階段から降りてきた俺を見つけると、こちらに向かって手を上げる。


「ああ、早く行こう!鍛冶屋は遠いのか?」


「まぁ、落ち着けよ。目的の店は大通りから少し離れた場所にある。少し歩くが、そこまではかからないさ」


「鍛冶屋ってことは、武器屋街のあるウェールズ通りか?」


 俺は、グスタの街で一番大きな武器屋街である、ウェールズ通りのことを思い出す。


「ああ、そうだ。だから、ここからなら15分ってとこかな」


 ウェールズ通りは、この街有数の武器屋街であり、通りの左右は、鍛冶屋や武器屋、防具やなんかが、ぎっしりと建ち並んでいる。


 ちなみに、ギルドのあるこの街のメインストリートは、モンテス通りと呼ばれているらしい。


「じゃあ、そろそろ行こうか、ヨシヒロ」


 宿からしばらく歩き、ウェールズ通りに到着した俺は、マークの案内の下、目当ての武器多を目指す。


 通りは、既に仕事を開始した鍛冶屋から来る熱気と、鉄を打つ音に包まれている。


 道を行くのも、冒険者や住民の多いモンテス通りとは違い、職人然とした格好の人達ばかりだ。


「着いたぞ。ここが目的の店だ」


―――ロペス武具店。


 マークの指差す店の方を見ると、木製の看板に、大きな文字でそう書かれていた。


「いよいよか……!ワクワクするよ!」


俺とマークは、軋むドアを開け、店の中へと入る。


 狭い店ではあるが、その店内には質の良い武器が、所狭しと並べられている。

 どの武器も、中級者向けといった手ごろな価格に設定されていた。


 しかし、いくら店内を見渡しても、肝心の鍛冶師の姿はどこにも見当たらない。


「ここにいないってことは、奥か……」


 そういうと、マークはカウンターの奥にあるスペースへと足を進める。


 店内の奥にあった鍛冶場を見ると、そこには、炎のように赤い髪をオールバックにした、若い鍛冶師がいた。

 男は、細身だが筋肉の付いた身体をしており、その鍛えられた腕で槌を振るっている。


 静かな店内には、規則的に槌で金属塊を叩く音だけが響いていた。


(凄いな……)


 吹き荒れる窯の炎の前で、汗を流しながら槌を振るうその様子に、俺は思わず圧倒される。

 ただの鉄塊だった金属は、次第に大きな剣の形を成していく。


 一体、何分経ったのだろうか。

 俺がしばらく見とれていると、金床で大きな剣を打っていた男が、こちらに気づいて向かってきた。


「いらっしゃい!ってなんだ、マークかよ……」


「そう露骨にがっかりするなよ、ランドルフ。今日は客を連れてきたんだから」


 そう言って、マークは後ろにいた俺を親指で指し示す。


「おおっ!お兄さん、何をお求めで……って、それ、俺が作ったレザーアーマーじゃないか!」


 俺のレザーアーマーを見たランドルフが、驚いたように大声を上げる。

 まさか、ここでこのアーマーの作者に出会うとはな。


「そうなんですか!?このアーマーには、何度も助けられました!ありがとうございます!」


「くうっ!そう言われると、鍛冶師冥利に尽きるぜ……!」


 そう言うとランドルフは、大げさに、目頭を押さえるようなポーズを取った。


「……おっと、いけねえ!マークに聞いたかもしれんが、俺は新人鍛冶師の、ランドルフ・ロペスだ!」


「同じく新人冒険者の、ヨシヒロ・サトウだ。よろしく頼むよ」


 ランドルフは、俺の差し出した手を、その力強い腕でがっちりと握り返す。


「そうだ、ヨシヒロ。今日は何の用で来たんだ?」


 そう尋ねられた俺は、早速本題へと移る。


「実は、武器が壊れたから、新調しようかと思ってね……」


 俺は、見事なまでに真っ二つに折れたアイアンメイスを取り出すと、ランドルフに手渡す。


「こりゃあ、酷え。確かに、新調しないとダメそうだな……」


 残念な姿になったメイスを渡されたランドルフは、目をしかめながらそう言った。


「そうなんだ。だから、マークの紹介を受けて、ランドルフに武器を作ってもらおうと思って」


「ほほう、なるほどなぁ。だが、オーダーメイドともなると、高く付くぜぇ……?」


 そう言ったランドルフは、指で輪っかを作ると、ニヤリと笑う。


 すると、そんな俺たちのやり取りを見ていたマークが、ランドルフに対してツッコミを入れた。


「ランドルフよぉ。お前、そんな贅沢を言ってる程、この店は儲かってるんだったかぁ?」


「ぐっ……!余計なことを!」


 マークにそう指摘されたランドルフが、悔しそうにそう言った。


 まぁ、この店があまり繁盛してなくて、ランドルフが固定の客を欲しがってるっていうことまで、マークから全部聞いてたんだけどな。


「俺も、ただ武器を作ってくれればいいだけだから、できるだけ良心的な値段で頼むよ」


「……はぁ、仕方ねぇ。少なくとも、前の武器よりは100倍良いのを作ってやるよ!」


 項垂うなだれていたランドルフが、やる気を取り戻したのか、大げさにそう答える。


「ところで、ヨシヒロ、武器を作る素材はあるのか?俺が素材から仕入れてもいいが、そうなると、それこそ本当に高く付くぞ?」


 そうか、しまった。確かに、武器を作るなら素材が必要だ。

 焦りと期待のあまり、そんな当然のことすら失念していた。


「そのことなら問題ない。これを使ってくれ」


 戸惑う俺の代わりにマークがそう答えると、背中のリュックから【邪狼ダークウルフの胸結晶】を取り出し、ランドルフへと渡す。

 いつもより荷物が多いと思ったら、これを持ってきてたのか……。


「おいおい、【邪狼の胸結晶】じゃないか!こんなもの、よく手に入ったな!」


 ランドルフが、マークに手渡された怪しく光る紫色の結晶を、まじまじと眺める。


「いいのか、マーク?貴重な素材を、俺の武器のために使っちゃって」


「勿論だ。お前の武器がなきゃ、俺の負担が増えちまうしな」


 そんな俺の問いに、マークは冗談めかしてそう言った。


 そして、これまでじっと【邪狼の胸結晶】を眺めていたランドルフが、唐突に声を上げる。


「よし、この素材、俺が預かった!必ず、完璧な武器を作ってみせるぜ!」


 そう言って、鼻息荒く奥の鍛冶場へ引っ込もうとしたランドルフを、マークが制止する。


「おいおい、ヨシヒロは、まだ何の要望も、作ってほしい武器種も言ってないだろうが……」


「はは、そうだった!で、ヨシヒロはどんな武器をお望みだ?」


 ランドルフは、豪快に笑うと、照れたように笑いながら頭を掻く。


「勿論、メイスだ。重すぎず、軽すぎない、純粋に打撃の威力だけを求める、シンプルなものを頼みたい」


「おうよ、任せてくれ。【邪狼の胸結晶】があれば、特殊な合金が作れる。それを使って、俺の持てる全てを注ぎ込んだ武器を完成させると約束しよう」


 そう言ったランドルフの表情は、既に先程までの様子とは打って変わり、職人としてのものへと変化していた。


「三日後、また来てくれ」


 ランドルフは、群青の手拭いを頭にきつく巻き直すと、己の戦場である鍛冶場へと戻っていく。


「ああなったランドルフは、もうテコでも動かねえよ。あいつを信じて待とう」


 炉に薪をくべ、その火力を上げていくランドルフの目には、もう目の前の鍛冶場せんじょう以外映っていない。


 来店した際とは比にならない炉の火力に、手前の部屋にいる俺達ですら、立っているだけで汗が流れ落ちてくる。


「ああ、邪魔もしたくないし、言われた通り三日後にまた来よう」


「そうだな。ランドルフは確かに新人だが、店を任されていることから分かるように、腕は一級だ。期待しておくといい」


 こうして、ごうごうと燃え盛る炉の炎と真剣に向き合うランドルフの邪魔にならないよう、俺たちはそっと、店を後にしたのであった。


次回は本日20時に投稿予約済みです。

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