第29話 社畜、ギルド本部へ呼び出される
追記:獄王の牙となっていた部分を全て修正しました
ギルドの詰め所へ、簀巻きにした『獄王の刃』の一員を引き渡した俺達は、その場で事情聴取を受けることになった。
数十年の間、闇に潜んでいた『獄王の刃』が活動を再び開始したのであれば、魔王軍が活性化する可能性が高いということで、かなり大事となりそうだ。
前回俺が尋問を受けた場所へ連れていかれると、俺達はギルドの職員から根掘り葉掘りと話を聞かれた。
そして、『獄王の刃』を率いていた痩身の男のこと、逃げられたものの、下っ端の戦闘員は戦闘力が低かったことなど、知っている限りの情報を伝えた。
後日、ギルドの職員と精鋭の冒険者が、現地を調査に行くという。
「あー、疲れた……」
職員からの質問攻めにあった俺は、疲れ果てて大きく伸びをする。
流石に、尋問室の空気には慣れそうにもないし、慣れたくもない。
「間違いねぇな。今日はもう休もう……」
流石のマークも疲れ切った様子でそう答える。
今日は、いつもよりワンランク上の宿に泊まってゆっくり寝よう。
そんなことを考えながら、俺はマークと別れ、目当ての宿へと向かったのであった。
◆◆◆
ギルドへ『獄王の刃』を引き渡してから、三日が経過した。
「俺達が捕まえたあいつ、殺されたらしい」
「殺された!?……ギルドの職員にか?」
思わぬ事態の急変に、俺は驚きの声を上げる。
「いや、死因は呪いの類のようだ。俺は、口封じのために組織に殺されたとみてる」
口封じか。いかにも悪の組織がやりそうな事だ。
俺は、マークに素朴な疑問をぶつける。
「じゃあ、情報は何も引き出せなかったの?」
「いや、そこまでは分からなかった。だが、ギルドのお偉いさんに声を掛けられた。ギルド本部まで、ヨシヒロと一緒に来いってな」
「ギルド本部って、あの馬鹿でかい建物のことだよな……?」
普段俺達が訪れるのは、いくら大きいとはいえ、あくまでもギルドの支部だ。
ギルド本部は、アルクス地方全土のギルドを統括する役割をになっており、グスタの街の最奥に、城と見紛う程の拠点を構えている。
普通は、上級冒険者や貴族、王族といった特別な人しか入れないらしいが……。
「ああ、街で一番でかい、あの建物だ。緊急招集だから、今すぐ来いってよ」
「今から!?どうせお偉いさんばっかりなんだろ?緊張して吐きそうだ……」
「なんだ、情けないな。とりあえず行くぞ。遅れたら俺たちの首が飛ばされかねない」
急に呼び出しておいて理不尽すぎるだろ……。
でも、ファンタジー世界のお偉いさんなんてそんなものか。
日本だって、将軍の前を横切っただけで斬り捨てだしな。
「よし、行こう」
何度か深呼吸をして気持ちを落ち着ける。
俺達は覚悟を決めると、ギルド本部へ向かって、歩み出した。
◆◆◆
『獄王の刃』対策委員会として開かれたその会議は、厳粛な雰囲気に包まれていた。
赤い絨毯の敷かれた会議室には、見るだけで高価だと分かるような、壺や絵画が飾られている。
「場違い感が凄い……」
「空気に飲まれるな、ヨシヒロ。堂々としておけ」
何故か慣れた様子で、マークがそうアドバイスをしてくれる。
「ヨシヒロ・サトウ、マーク・マルティネス両名、席に着け」
「チッ、どこから調べたのやら……」
名前を呼ばれたマークが苛立ったように舌打ちをすると、何故か苦々しい表情になり、隣に立つ俺にしか聞こえないような小声でそう呟く。
それにしても、マークのフルネーム、初めて聞いたかもしれない。
今まで気にてしなかったけど、かっこいいな。
そんなことを考えて上の空だった俺の袖を、マークが軽く引っ張る。
「ごめん、ありがとう」
俺はマークに礼を言うと、一番下座にある席に座った。
縦に長いテーブルの、一番入り口に近い席だ。
距離が遠いとはいえ、俺たちは恐らく一番偉いであろう人と対面で座ることになる。
(うっ……やっぱり緊張するな。めっちゃ見られてるし……)
会議に集まった面々をぐるりと眺めていると、ふと、見知った顔が目についた。
そして、その大柄で、豊かな髭を蓄えた人物と目が合う。
「おお?もしかして、あん時の兄ちゃんじゃあねえか?」
「ええっ!?カタギリさん!?」
この世界に来た初日以来の、思わぬ再開に俺は驚きの声を上げる。
「お、おい……お前、ロックウェル卿と知り合いなのか!?」
何故かマークも驚いたように声を上げる。
マークもカタギリさんを知っているのだろうか。
「……静粛に」
最も上座に座る人物、つまり俺達の対面に座っている老人から、威厳に満ちた声が響く。
別段大きいわけでも、聞き取りやすいわけでもないその声に、何故かこの会場にいた全員が静まり返る。
「ロックウェル卿、何かありましたかな?」
すっかり静まりかえった会場に、再び老人の声が響く。
「いやはや、すまん。つい、知り合いを見つけてしまったもんでな!」
カタギリさんは、豪快に頭を掻きながら、笑ってそう答える。
「ふぅむ……。気持ちはわかりますが、お静かに」
「おうとも!すまんな、モルド爺」
議長と思わしき老人の問いにカタギリさんがそう返すと、場内から声が上がる。
「ふ、不敬ですぞ!ロックウェル卿!」
「いくら歴戦の大英雄とはいえ、モルドラック様にそんな口を利くか!」
どうやら、モルドラックと呼ばれた老人は、相当な地位にいるようだ。
会場に集まった面々は、次々とカタギリさんに向かって非難の言葉を浴びせる。
「静粛に!ロックウェル卿に言いたいことがあるのであれば、儂を通すがよい!」
これまで淡々と言葉を発していた議長が、初めて大きく声を上げた。
カタギリさんへの非難が飛び交っていた会場は、一気に、シン、と静まり返る。
「いや、モルドラック議長、俺が不敬であった。すまない」
カタギリさんが議長に頭を下げると、会場の面々は、満足したように頷く。
「うむ。それでは、これをもって『獄王の刃』対策協議会を開催する!」
議長がそう告げると、会場から静かな拍手が上がった。
―――こうして、再び厳粛な雰囲気に戻った会場の中、いよいよ『獄王の刃』対策協議会の開催が決定されたのであった。
次回は本日6/16の12時に投稿予約してます




