EXその1 ドキッ!男だらけの飲み会!
短いですが、番外編です。
次回から2章となりますので、その幕間となる番外編のような感じです。
「「乾杯!」」
俺達は麦酒の入ったジョッキを交わすと、一気に飲み干した。
喉を抜ける炭酸の爽快感と、麦酒独特の酸味と苦みがなんともたまらない。
「……ぷはぁ!仕事終わりの麦酒は格別だな!」
「ははっ!間違いないけど、おっさん臭いぜ、ヨシヒロ」
「おいおい、勘弁してくれよ。ちょっと気にしてんだから」
マークの冗談(と思いたい)を笑って受け流す。
無事にDランクの冒険者へとランクアップすることが出来た俺達は、行きつけの酒場である『火垂る灯亭』にて、パーティの結成祝いも兼ねた祝勝会を行っていた。
お通しに出てきた豆の煮物を口に放り込んだところで、何やら、マークがふと思い出したように話し始めた。
「そういえば、受付のアリシアさん、可愛いよな……」
「どうした急に。いや、間違いないんだけどさ」
「……で、どこまで行ったの?」
「……ゲホッ!馬鹿、そんなんじゃねえよ!」
突然の爆弾発言に、俺は思わずむせ返る。
この男、何を言うのかと思えば、急に何をぶち込んでくるのだろうか。
「なんだよ、つまんねえな。ほんとに何もないのか?」
「残念ながら、ほんとに何もないよ。お説教されてばっかりだ」
「ははっ!さてはヨシヒロ、尻に敷かれるタイプだな……」
恋愛関係の話と言うのは、どうにも苦手で、聞いてるだけでも恥ずかしい気分になる。
マークに言うとしばらくからかわれそうなので秘密だが、実際アリシアはかなり可愛いと思う。
まぁ、少し歳が離れているし、俺のようなアラサー近い男には目もくれないだろうが……。
照れくささもあり、テーブルに置かれた2杯目の麦酒を口に含む。
そして、話をすり替える為、今度は俺からマークへ疑問を投げかけた。
「そう言えば、マークも最近冒険者になったんだよね?」
「ああ、色々あってな。冒険者登録をしたのは、多分ヨシヒロとそう変わらない時期だぜ」
「それで本題なんけど、マークはなんで冒険者になったの?」
そう尋ねた所で、今まで明るかったマークの表情に影が差した。
話題のチョイスを間違えてしまっただろうか。
確かに、冒険者の中には、訳アリの過去を持つ者も多いと聞く。
もしかすると、マークも、人には話しにくい事情から、仕方なく冒険者になったのかもしれない。
「いや、大した理由は無いんだ。実家の兄弟達が優秀でな。兄弟の中でも、俺は所謂落ちこぼれって奴だったんだ」
少し間を置いて、マークがぽつぽつと話し始める。
「俺なりに努力もしたが、認められなかった。それで、ある日、家のことが面倒になって逃げ出してきて、今に至るって訳だ。笑えるだろ?」
「そんなことないよ。逃げる事、諦める事が悪い訳じゃないさ。それに、マークはこうして、凄腕の盗賊になれたじゃないか」
「はは、そう言ってもらえると有難いよ。でも、湿っぽい話はここまでだ……」
そう言ったマークは、店主に声を掛けると、麦酒のお替りを注文する。
威勢の良い返事と共に、店主がが手早く樽から麦酒を注ぐと、すぐに2杯の麦酒が俺達の下へと運ばれてきた。
「せっかくの祝いの席だ。楽しくいこうぜ!」
「……ああ、そうだな!」
パーティを結成したばかりなのだから、マークにも、俺にも、互いに話していない秘密は沢山ある。
マークの過去が気にならないと言えば嘘になるが、いつか話してくれる時が来るはずだ。
そんなことを思いつつ、俺は3杯目の麦酒を、ちびちびと飲み始めた。
「ところで、ヨシヒロは何で冒険者に?」
まぁ、自分が聞いたのだから、同じ質問が来るのも道理である。
だが、俺はこことは違う世界で命を落とし、いつの間にか転移してきたのだ。
流石に、そんな事情をそのまま話したとして、今の関係性では酔っぱらいの戯言としか思われないだろう。
「ううん……。前の仕事が続けられなくなって、生活のために仕方なくって感じかな……?」
これが今話せる最大限のラインだろう。
実際、仕事を続けられなかったのも、生活のために冒険者になったのも事実だ。
「へぇ、最近不況だからな。前は何の仕事をしてたんだ?」
「うーん、営業……。なんか、商売の交渉とか……?」
「なんで疑問形なんだよ……」
俺の歯切れの悪い返答に呆れたように、マークがそう言った。
なんと言われようと、社会システムが違い過ぎて、上手く言語化できないのだ。
正直に話したところで、理解してもらえるか分からないしな。
「兎に角、気にするな!今日は奢りだ、とことん飲み明かそう!」
そう言って誤魔化しつつ、俺は店主へと声を掛けた。
残っていた麦酒を一気に飲み干し、適当なつまみと酒を新たに注文する。
男たちの夜は、まだまだ始まったばかりだ―――
◆◆◆
―――同日、某国、某所
「アブダイルの廃村に放った筈の邪狼が倒されたそうだな」
不気味な程に静かな暗闇の中、男はそう言葉を告げる。
黒いローブから覗く素顔は怪しげな仮面に隠されており、その瞳だけが爛々と輝いていた。
「はいぃっ……!使い魔の報告によると、何やら、やたら強い冒険者にやられたそうで……!」
小姓のような姿をした男は、怯えたようにそう答える。
「あの邪狼は、辺りの魔物と比べても、段違いの戦闘力を有していた筈だ。我が組織のアルクス地方進出の足掛かりとして、人払いも兼ねて、あの廃村に放っていたと言うのに、どう責任を取る……?」
男の瞳が、一際赤く輝く。
すると、周囲へ向けて邪悪な魔力が放たれた。
魔力に中てられた小姓が、半ば悲鳴のような声を上げながら倒れ込む。
「ひぃぃっ……!お、お許しを……!私めもう一度チャンスを下さい!」
小姓は、頭を床に擦り付けて懇願する。
哀れになる程に怯え切っているが、それも当然のこと。
ローブの男が放つ魔力は、並の者であれば気を失ってしまう程の圧力なのだから。
「戯けが。今すぐに邪狼を倒した冒険者について調べろ……!」
男はそれだけ言い残すと、ローブを翻した。
暗い室内の空間が歪み、男の姿が闇に消える。
「ははぁっ……!御意に……!」
闇の中、とある組織が密かに動き出したことは、まだ誰も知らない―――
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