第19話 毒を食らわば腹痛
またもや遅刻で申し訳ない……
不死者事件以来、激怒したアリシアによって、徹夜でのクエストが禁止されてしまった。
それでも、どうしても効率を求めたい俺は、依頼中に必ず休息や仮眠を挟むことを条件に、同時受注だけはどうにか許可を貰うことができた。
今回、いくら身体的な疲労がなくとも、連日の徹夜になってしまうと、どうしても顔色なんかに疲れが現れてくることが分かった。
【不眠不休】は便利なスキルではあるのだが、カフェインやらニコチンやらのように、一時的に感覚を麻痺させているだけなのかもしれない。
この事に気づいてからは、一度街に帰って、食事を楽しんだりすることが多くなった。
本当は依頼先で野宿するのが一番効率がいいんだろうけど、一人で冒険していると、流石にそんなことはできない。
なにせ、寝ている間に魔物なんかに襲われたら、それだけで一巻の終わりだからだ。
その一方で、グスタの街での外食が習慣になってしまったことが、少しずつ財布への負担となっている。
こちらの世界で暮らし始めた頃は、それこそ金銭的な余裕がなかったことも含めて、食費をかなり節約して生活していた。
だが、スキルや根性論で多少の無理をする以上、食事……というか、栄養補給にだけは手を抜きたくない。
一度、向こうの世界で働いていた頃、食事を蔑ろにして栄養ドリンクとゼリー飲料ばかりで食事を済ませていたら、疲労と貧血でぶっ倒れたことがあったからだ。
それ以来、どれだけ忙しくても、最低限、食事の時間だけは取るようにしている。
俺の食事事情は兎も角としてである。
どうすればお財布に優しく生活ができるか。
答えは単純明快で、食事に関しては自炊するのが近道だろう。
向こうの世界でも、こちらの世界でも、食材を買うだけならそこまでお金はかからない。
問題があるとすれば、食材を買っても調理する場所がないことだ。
調理場が併設された宿もあるにはあるが、かなりグレードを上げないと見つからない。
そもそも、殆どの冒険者は、その日暮らしで刹那的に生きているので、自由に使える共同調理場なんて、あったとしても需要がないのである。
冒険者たちは街にいる間、調理をすることは殆どない。
それこそ、クエストに出かけて野営することにならなければ、だ。
つまりは、そういうことである。
調理場がないなら、材料と最低限の調理器具だけを買って野営すればいい。
流石にぐっすり眠ることは難しいが、それなら休憩と栄養補給を兼ねられて一石二鳥である。
幸いにも、一人暮らしの期間は長かったことや、料理にハマっていた時期もあってか、人並みに料理は出来るのだ。
それに、依頼で向かうことの多い山林には、野生の動物や食べられる野草も多く生息している。
魔物が食べられれば一番コスパが良かったのかもしれないが、倒すと消えてしまうので、それだけが少し残念な部分ではある。
仮に魔物を食べられるのなら、動物よりも魔物の数の方が多いこの世界で、食料調達に困る事が無さそうだったからだ。
大学進学のために上京したとは言え、俺は元々、家より畑の数の方が多いような、田舎の出身だった。
地元ではよく、祖父母に連れられて山菜取りに出かけていたので、食べられる野草や木の実に関する知識には自信がある。
クエスト中に、向こうの世界と似たような植物をちらほら見かけるので、この知識がきっと役に立つ筈だ。
それに、最悪の場合に備えて、解毒薬も用意してある。
いくら似たような植物とは言え、植生地が異なれば毒草である可能性もあるからだ。
多少値は張ったが、命には代えられまい。
節約の為に行ったサバイバル中に、食中毒で死んだりしたら、元も子も無いしな。
とは言え、金銭的に余裕の無かった学生時代や新卒の頃は、よく賞味期限が切れた怪しい食べ物や、その辺の野草を調理するという極貧生活を送っていたこともある。
無論のこと、腹を壊すことも多々あったのだが、正〇丸パワーでどうにかなっていた。
余程危険な毒草にさえ気を付けていれば、恐らくは解毒薬でどうにかなるだろう。
そんな甘い考えから、後に苦しむことになるのだが、謎に楽観的だった俺は、そんなこと考えもしなかったのであった……。
◆◆◆
「……ぐぉぉおおっ!?」
クエストを終わらせて、意気揚々と料理をしたところまでは良かった。
料理もなかなか上手くできたし、なんと食後にはデザートもついて大満足の筈だったのだが……。
「や、やべえ……!完全に食あたりだ……!」
食事を終えてから約1時間が経過した頃になって、俺は猛烈な腹痛に襲われていた。
デザート代わりにと思い、名前も知らない甘い香りのする果実を食べたのが間違いだった。
舌が痺れたり、身体に変化が起きたりはしなかったのだが、どうやら遅効性の毒があったらしい。
どの程度の毒なのかは分からないが、俺は仕方なく解毒薬を服用する羽目になってしまった。
「ぐおっ……!まっず……!?」
ポーション特有の嫌な甘さと、薬草由来の青臭さが、いつまでも口の中に残り続ける。
今すぐに水を飲むか、うがいをしたい気分だが、これで苦痛が収まるのであれば、我がままを言ってはいられまい。
しょっぱなから解毒薬を使ってしまったが、2回分で1瓶のものを3つ購入したので、単純計算では、あと5回は毒に当たっても大丈夫なだけの備えがある。
いや、もちろん、好き好んで腹を壊したいとは思わないのだが……。
そんな出来事もあり、俺は食料調達にルールを課すことにした。
①怪しい食べ物は舌に乗せてみる。
舌が痺れたり、体に異常が出たらすぐに吐き出す。
よく言われる対処法だが、完全に飲み込んでしまい、消化器官から毒物を摂取してしまうよりは100倍マシな筈だ。
②基本的に、すべての食材に火を通す。
生物には寄生虫もいるし、火を通して無毒化される成分もある。
多少面倒な部分はあるが、寄生虫に関しては解毒薬で対処できないので、これも背に腹は代えられない。
③キノコ類には手を出さない。
向こうの世界でも、素人がキノコに手を出すのはご法度だった。
なにせ、いくら山に慣れている達人ですら見間違う程にややこしく、種類が多い。
それに、この世界には、見たこともないキノコが多すぎる。
どんな作用があるかも分からないので、絶対に手を出さないようにしなければ……。
とまぁ、当たり前の項目が多いが、こんな感じだ。
この3つにさえ気を付けていれば、多少腹を壊したとしても、恐らく死に至るような毒物を摂取することは無い筈だ。
購入した解毒薬は安物なので、命にかかわるような毒は緩和できないからな。
絶対に、そういう事態になることは避けなければいけない。
そんなこんなで、初手から毒に中ると言う波乱の事態から、俺のサバイバル生活は幕を開けたのであった……。
次回は21時頃に投稿する予定……です




