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社畜・イン・ファンタジー ~異世界ブラック冒険譚~  作者: 揚げたてアジフライ
第一章 剣と魔法とデスマーチ
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第18話 死んだ魚のような……


 いつもと変わらぬ昼前のグスタの街。

 クエストを達成した俺は、メインストリートを抜けてギルドへ向かっていた。


「それにしても……」


 幸いなことに、今回のクエスト中では、噂の不死者リッチとやらを見かけることは無かった。

 そもそも、アリシアさんに聞くまでそんなこと気にしたこともなかったのだ。

 クエストの為に、よく山の麓の森へは出かけており、少なくとも俺の知る限りでは変わった様子は見られなかったのに、一体どう言う訳なのだろうか。

 

 ここ最近で変わったことと言えば、すれ違った冒険者たちからジロジロ見られたくらいである。

 別におかしな恰好をしている訳でもないのに、失礼な連中もいたものだ。


「まぁ、そんなにわらわら不死者がいるわけじゃないから、見かけないのも当然なのか……?」


 ぶつぶつと考え事をしながら、混み合う大通りを抜けていく。

 いつも以上に通りが騒がしかったような気もするが、何かあったのだろうか。


 大通りの突き当り、少し軋む古いドアを開けて、俺はギルドの受付カウンターまで向かう。

 やはり何かあったようで、受付の奥では、ギルドの職員達が忙しなく駆け回っていた。


「お疲れ様です。依頼の報告に来たんですが、何かあったみたいですね」


「あっ、サトウさん!心配してたんですよ!実は、このグスタの街でも不死者を見かけたという情報が、ギルドに寄せられていまして……」


 なんと、それは流石に予想外だ。

 グスタの街は高い防壁に囲まれているし、唯一の出入り口である城門は、1日中門兵が見張りと警備を行っている。

 いくら上位の魔物とは言え、どういうトリックで街へ侵入したと言うのか。


「ええっ!?魔物が街中に入り込んだんですか!?」


「あくまでも、噂の段階を過ぎないのですが……。ギルドでも、精鋭の冒険者の協力の下で、目下捜索中です……」


「そうなんですか……。俺も何か怪しいことがあれば、すぐにギルドへ報告しますよ!」


「ありがとうございます!でも、相手は上級の魔物ですから、くれぐれも気を付けてくださいね?」


 心配そうに声をかけてくれたアリシアにお礼を言い、俺はギルドを後にしたのだった。

 なんとも物騒なことになってしまったが、この街は大丈夫なのだろうか……。




◆◆◆




 不死者リッチのことは心配であるが、俺に手伝えることはあまり無いだろう。

 ぶっちゃけると、クエスト帰りで腹が減って、頭が回らないというのも正直なところだ。


 ランチタイムのピークは過ぎたようで、通りの喧騒は先程よりも収まっている。

 どの店もようやく一息といった様子で、在籍している客の数もまばらだ。

 

 俺はそんな街並みを眺めながら、大通りの路地を抜け、裏通りへと足を運ぶ。


 最近は、情報収集も兼ねて街の探索をしているのだ。

 今は、その際に見つけた食堂へ向かっている。


 『火垂ほた火亭びてい

 

 初老の夫婦が経営するその店は、裏通りにあるにも関わらず、昼は食堂、夜は酒場として、昼夜を問わず冒険者達で賑わっている。

 冒険者向けに格安で用意される日替わり定食は絶品で、昼食時には長蛇の列ができる程だ。

 

 そんな火垂る火亭も、ピークを過ぎたからか、どうにか入店できそうだ。

 それでも食事をする冒険者で賑わう店の通路を、体を小さくして通り抜け、ようやく空いているカウンター席に着く。


「すいません、日替わり1つ!」


「あいよ!日替わり一丁!」


「日替わり一丁!」


 忙しなく調理を続ける夫婦に注文をすると、それを繰り返す威勢のいい声が店内に木霊した。


 狭い店だが、店内は手入れが行き届いており、アンティーク調の家具が取り揃えられている。

 客層はまさに荒くれといった様子の冒険者たちばかりなのであるが、店内の様子は、知る人ぞ知る老舗といった様子で、店の主人の拘りを感じさせた。

 そういった、一見ミスマッチにも見える客層と店の雰囲気も、実は気に入っているポイントだったりするのである。


「はい、日替わり定食一丁お待ち!」


 そうこうしている間に、注文した日替わり定食が目の前に出てくる。


 今日は鶏肉の香草焼き定食といったところか。

 目の前に置かれた皿から漂う香草のスパイシーな香りが鼻をくすぐり、皮までパリッと焼かれた鶏肉にナイフを入れると、たっぷりと肉汁が染み出した。

 このメイン料理にスープとパンが付いて、占めて500エルと言うのだから驚きである。


 最近は、金銭的に余裕ができたので、食事くらいは贅沢をしようと行きつけになっているのだ。

 その一方で、殆ど街に帰って来ないこともあり、未だに最安値のボロ宿に泊まっているのだが……。


「―――ごちそう様!」


 食べ終えた皿をカウンターに上げ、500エルを支払い、店主にそう伝える。


「毎度!」


 こちらに向かって威勢のいい声が返ってくると、すぐに皿が下げられた。

 振り向いた店主夫妻に軽く会釈をして、俺は再び路地へと出る。


 すると、路地に出た俺を見るなり、何やら冒険者達がざわつき始めた。


「おい、あれって……!」


「まさか、ここまで堂々と……?」


 一体、何だと言うのだろうか。

 確かに支払いはしたし、堂々と食い逃げをしたと言う訳でも無い。


 訝しみつつも、こちらに向けられる人々の声に耳を傾けていると、俺はあっという間に、屈強な冒険者に取り囲まれてしまった。

 それと同時に、街の人達は殆どが逃げ去っていったが、一部の物好きな野次馬は、物陰からこちらを見ているようだ。


「―――見つけたぞ!不死者め!」


「覚悟しろ!逃げられると思うなよ!」


 突然の扱いに、何がなんやら分からず困惑する。

 少し考えてようやく、自分が噂になっていた『不死者』の正体であることに気づいた。


 思い返せば、徹夜でクエストを攻略し続ける毎日。

 元々酷かったくまは更に酷くなり、目は死んだ魚のように濁り、顔色も悪く、青白い肌。

 ただし、スキル【不眠不休】の効果で、肉体的な疲労は無いので、まるで歩く死体(リビングデッド)かとでも言わんばかりに活動を続けていたのである。


「―――そりゃ不死者とも間違えられるわ!」


 思わず、一人でツッコミの声を上げてしまう。

 見た目を気にしている余裕なんて無かったので、全くもって気付かなかった。


「ちょ、待ってください……!俺は人間で、冒険者です……!」


「ふざけるな!不死者の特徴と完璧に一致してるだろうがっ……!」


「覚悟してお縄に付きやがれ!」


 俺の必死の弁明も空しく、あっという間に体を鎖で拘束される。

 そういえば、精鋭の冒険者が捜索してるんだっけか。

 どうりで抵抗する暇もなかったはずだ……。


 感心したのも束の間、鎖でぐるぐる巻きにされたまま、ギルドの尋問室まで引きずられていく俺。

 普通に締め付けがきついし、引きずられた背中がめちゃくちゃ痛い。

 本当に、俺が何をしたと言うのだろうか。

 依頼の達成スピードは並の冒険者以上なので、賞賛こそされても、非難される覚えはないと言うのに……。


「どうだ!『魔封じの鎖』は辛かろう!」


 恐らく、この鎖には、拘束した者の魔力を封じる効果か何かがあるらしい。

 死霊術ネクロマンスを使う不死者の対策としては、確かに有効と言えるだろう。


 もっとも、俺は魔物でも不死者でも無く、魔法の使えない一般冒険者である。

 その為、辛いのは、石畳を引きずられ続けているケツだ。

 そろそろズボンのHPが尽きそうなので、持ち上げて運んでくれませんかね……?




◆◆◆




 ―――ガシャン。


 尋問室の鉄製の扉が閉まり、大きく音を立てる。

 暗く陰気な雰囲気の部屋の壁には、手錠やら、恐らく拷問に使うであろうイカツイ器具が、所せましと掛けられていた。


「お前が不死者か……!」


 尋問官と思わしき男性が、尊大な態度で椅子に腰かけ、俺にそう尋ねる。

 ちなみに俺は、未だに鎖でぐるぐる巻き、冷たい床に転がされたままだ。


「違います!俺は人間です!冒険者登録もしてます……!」


「ほう、まさか、そんな言い訳が通じるとでも?」


「言い訳も何も、本当です!そうだ、ポーチにギルドの登録証が!」


 ―――ダン。


 尋問官が、机を強く叩き、静かな室内にそんな音が響き渡った。

 そして、椅子から立ち上がって俺の方へと近づくと、なんとも恐ろしい宣告を始める。


「くどい!言い訳は聞かぬ!不死者である貴様は火刑に処す」


「そ、そんな……!」


 全く話が通じない。

 いくら魔物と疑われているとは言え、流石に一方的すぎる。

 どうにか逃げ出そうともがくが、体を縛る鎖は金属製。

 流石に、冒険者として強化された身体能力でも、びくともしない。


(二度目の人生も、こんなに呆気なく終わるのか……!?)


 そんなことを思いながら、諦めかけたその時だった。


 ―――ガシャン!


「待ってください!その人は間違いなく冒険者です!」


 尋問室の扉が大きく音を立てて開くと、そこにいたのはアリシアだった。

 俺が拘束されたことを知り、冒険者であることを証明する書類を持って、駆け込んできたのだ。


 そして、アリシアさんの必死の弁明と助けがあり、俺はようやく尋問室から解放された。

 誤認逮捕だと分かってなお、尋問官の態度が悪かったのだけは気に食わないが、そこは自分の日頃の行いの結果なので、ぐっと飲みこんだ。


 しかし―――


「5日間徹夜……!?ふざけないでください!」


「でも、効率が……」


「―――効率が、何ですか……?」


 アリシアから放たれる、今まで出会ったどんな魔物よりも強い『圧』に、思わずたじろぐ。

 その後も、アリシアさんからこってりとお説教をくらい、今後一切、徹夜でのクエスト敢行は禁止されてしまった。

 今後は、旅先で寝泊まりする為に、野営道具も仕入れなければなるまい。


 そんなこんなで、グスタの街を震撼させた不死者騒動は、意外な形で幕を閉じた。


 そして、今回の一件以来、変わったことが1つだけある。

 ギルドの調書により、5日間も徹夜していた事実が発覚したこと、更にはその時の様子を冒険者達が目撃していたことが重なり、俺は周囲から、恐れを込めてこう呼ばれるようになったのだ。


 そう、『歩く死体(リビングデッド)』と―――


次回、6/11の12時頃投稿予定です


追:ブックマークしてくださった方ありがとうございます。本当に嬉しいです。

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