第16話 ワンランク上の社畜
ワンランク上の社畜ってなんだよ。
黒大蛇との死闘を終えた俺は、その足で森を抜けた。
そして、一時間弱も歩けば、そこはもうグスタの街だ。
正門を抜けてメインストリートを真っ直ぐ進めば、ギルドが見えてくる。
「あら、サトウさん?お忘れ物ですか?」
俺の姿を見たアリシアが少し驚いた様子で尋ねてくる。
「まぁ、なんというか、かくかくしかじかで……」
ドヤ顔で出発した手前、かなり恥ずかしかったが、クエスト失敗の旨を伝える。
「あぁ、すみません!私がサカナデ草の取り扱いについて、ちゃんと説明をしておけば……!」
俺の失敗の報告に、アリシアは心底申し訳ないといった顔で頭を下げた。
確かに、クエストに関する説明をするのも、受付の仕事の一つかもしれないが、今回の失敗に関してはほぼ俺の情報収集不足が原因で起こったことである。
「いやいや!原因は完全に俺の知識不足ですから……!」
未だ暗い表情のアリシアへ、俺はそう説明する。
すると、アリシアは改めて、サカナデ草に関して説明をしてくれた。
アリシアによると、やはりサカナデ草は、その匂いによって魔物を呼び寄せる危険な植物らしい。
依頼については駆除の名目が強いらしく、普通は発見したその場で燃やし、その灰を採集の証拠として持ち帰るそうだ。
まぁ、あんな危険な植物を所持していては大変なことになるので、当たり前と言えば当たり前の対応だろう。
「とりあえず、確認は完了しました。サカナデ草とゴブリン討伐の依頼に関しては失敗ですが、黒大蛇の依頼は達成です」
俺が手渡した黒大蛇のドロップアイテムを確認し、クエストの処理を手際よく進めていく。
そして、アリシアは、少し呆れたような顔で更に続けた。
「それにしても、やっぱり黒大蛇は撃退じゃなくて、ちゃんと討伐が完了してるんですよね……」
「はい、偶然いい所に攻撃がヒットしたみたいで、そんなに苦労はしませんでしたよ」
今回の討伐は、気絶状態を連発出来たが故の、ラッキーでしかない。
俺がそう答えると、アリシアは、かなり食い気味に返答する。
「いやいや、凶暴化した黒大蛇ですよ!?普段より攻撃力も敏捷性も上がってるんです!」
駆け出しで倒せるレベルじゃないんですよ、とアリシアが困惑したように続ける。
そう言われても、本当にラッキーが続いた結果だと思うんだよなぁ。
たまたま最初の攻撃で気絶して、その後も相手が動けなかったからこそでしかないし……。
「とにかく、大芋虫や黒大蛇をソロで討伐するような人は、駆け出しのレベルじゃないんです!ランクアップです!」
「ええっ、本当ですか!?そんなに簡単に!」
「だから普通じゃないって言ってるじゃないですか!異常です、異常!」
こうも異常呼ばわりされるのは、流石に傷ついてしまう。
とは言え、ランクアップに関しては純粋に喜ばしい。
ランクアップすれば、受注できるクエストの幅も増え、収入面も今より安定する筈だ。
アリシアによると、ランクアップの為に、俺のこれまでのクエスト達成の報告をギルド上部に行うそうだ。
そして、その審議でランクアップが承認されれば、ようやくランクアップらしい。
ギルドはどこか現代的なシステムで、何をするにしてもとりあえず上に報告、審議という仕組みなのである。
「恐らくはランクアップが認められると思いますが、審議の結果が出るまで数日かかります。それまでゆっくりしていてください」
「じゃあ、クエストを……」と言ったら、流石に冗談だろこいつみたいな冷たい目で見られてしまった。
流石に、そんな目を向けられてまで仕事をこなしたいと思う程にマゾではない。
俺は、久々の休みを満喫することにした。
◆◆◆
ランクアップの申請から、三日が経過した。
今日はどうするものかと考えていたところ、ギルドの使者から伝言を受け、今はギルドへと向かっている。
俺は、クエストどころか、街から出るなとアリシアさんに念押しされてしまっていた。
その為、この三日間は、この世界に関する情報収集に努めていたのである。
未知の環境に放り出されておいて何やってたんだと言われそうではあるが、ファンタジーな世界観に、いい歳こいて浮かれていたようだ。
そんな理由から、今更ではあるものの、俺はグスタの街や、街が位置するアルクス地方の全貌について知ることになった。
アルクス地方は、グスタの街北部に位置する、カストゥール山脈をはじめとした山々に囲まれた広大な盆地らしい。
そして、グスタの街を中心に、スライム討伐で訪れたコロゾ村のような中小様々な村が各所に偏在しているのだそうだ。
山を越えた先は他の地方へ繋がっているようで、いつかはそこに行ってみるのも楽しそうである。
閑話休題。
そんなこんなで、俺は三日間でこの街の周辺について詳しくなることができた。
そして、今日、ようやく審議の結果について伝えられることになったのだ。
ギルドからの呼び出しは、ランクアップ申請の結果について伝える為だったのである。
「おめでとうございます!冒険者ランクEにランクアップです!」
「本当ですか!いやぁ、年甲斐もなくドキドキしましたよ!」
こうして、俺は晴れてEランクの冒険者になることができた。
喜ぶ俺へ、アリシアは更に言葉を続ける。
「そして、ランクがEになったことで、クエストの同時受注数が最大5つまで可能になりました。これからも一緒に頑張っていきましょう!」
クエストの同時受注可能数が5つになったことは、かなり有難い。
今回こそ失敗してしまったが、同時受注数が3つだけでは、どうしても効率が悪かった。
クリアした際に時間に余裕があったとしても、ギルドへ報告する為に街へ向かわなければならず、時間的な問題が出てしまうのだ。
実にゲーマー脳であると思うが、同時に進行できる依頼の数が大いに越したことはない。
「それは嬉しいです!クエスト失敗の件もあったのに、すんなり通った感じでしたね」
俺がそう言うと、アリシアが食い気味に反論する。
別におかしなことを言ったつもりは無かったのだが……。
「いやいや、冒険者でここまでランクアップが早いのは異常ですから……!少なくとも、ここ数年では凶暴化した黒大蛇をソロで討伐した初心者なんていませんよ……!」
「まぁ、本当に偶然でしたから。知識不足だし、俺なんてまだまだ駆け出しです」
それに関しては、本当に、謙遜抜きで日々実感している。
何度も言うように、黒大蛇の討伐は幸運が続いた結果であり、一歩間違えば命を失う可能性すらあった。
スライム討伐の際も、今回のサカナデ草のことも、情報不足で大きな失敗をしてしまっている。
攻略wikiを見ながら効率良くレベリングやら素材集めをしていた俺としては、自力で情報収集しなければならないこの世界に、恨み言の一つでも言ってやりたい気分でだ。
まぁ、それでも命には代えられないので、必死で情報を集めるしかないのだが。
「……でも、頑張りますよ。俺にはアリシアさんが付いてますから」
なんとも気恥しいことを言った気もするが、これが俺の本心だ。
誰一人として知り合いのいなかったこの世界で、カタギリやアリシアに親切にされ、どれだけ心強かったことか。
こうして期待してくれているアリシアの為にも、結果を出せるように努力していきたい。
「ふふっ、サトウさんったら……!私もサトウさんには興味が尽きません。これからも精一杯、サポートさせていただきますね!」
アリシアさんマジ天使。
こちらに向けられた笑顔に緩む頬を抑えながら、俺はギルドを後にするのだった。
今日はクエストを確認する程度に留め、実際に活動するのは明日からにしておこう。
次回お昼の12時頃投稿予定です




