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社畜・イン・ファンタジー ~異世界ブラック冒険譚~  作者: 揚げたてアジフライ
第一章 剣と魔法とデスマーチ
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第14話 ヘビィな試練


『―――シュロロロロロ』


 黒い巨体が、静かに地を這っていた。

 その巨体は枝木を薙ぎ倒し、深い森に新たな道を作っていく。

 

 普段であれば鳥のさえずりが響く、平和な森である筈だった。

 だが、この時ばかりは、何かの危険を察知したかのように静まり返っている。

 耳をすませば聞こえてくるのは、パキパキと何かが折れるような、不気味な音だけだ。


『シュロロロロロ……ッ』


 黒い巨体は、その感知器官ピットきかんによって、自らの進路の先に獲物がいることを把握していた。

 視界の先を行く男は呑気に森を進んでおり、こちらに気づいた様子は全く無い。


 黒光りする鱗が、木漏れ日を反射して怪しく輝く。

 チロチロと、不気味な色をした舌が出し入れされる。


 獲物まで数十メドル、数メドルと距離を詰めるに連れ、その巨体は不自然な程に静かに進んでいった。

 


 そして、男の背後、数十セルチまで迫ったその巨体は、大きく鎌首をもたげ―――




◆◆◆




「気持ちのいい天気だ」


 サカナデ草の採取クエストに失敗した俺は、魔物達からどうにか逃れていた。

 今は、森から抜けるために、のどかな森の中を進んでいる。


 穏やかな風が肌をくすぐり、疲れた気持ちを少し癒してくれた。

 鳥の鳴き声でもあれば風情があるが、静かな森もまた一興だ。


 耳をすませば、どこからかパキパキと小気味良い音が響いている。

 声は聞こえないが、どこかに小動物でもいるのかもしれない。

 そんなことを考えながらも、俺は森の小道を静かに進んで行った。

 

 暫くの後、生温い空気が首筋に掛かると、嫌な臭いが鼻をくすぐって―――


「いや、おかしいな……!?」


 背後に迫った大口を、後方へ跳躍して間一髪で避ける。

 そして、空を切った頭を振るったそいつは、再びこちらに狙いを定めた。


『シュロロロロロ……!』


 黒光りする鱗に覆われた巨体は、ゆうに十メートル近くはあるだろうか。

 不気味な程に赤い舌をチラつかせながら、こちらを威嚇している。

 そう、俺に背後から襲い掛かったのは、討伐予定であった黒大蛇ヘビィボアであったのだ。

 

 だが、不自然な点がある。

 黒大蛇は体力が多いだけで、相手にしなければ襲ってくるような魔物ではなかったはずだ。

 似ているだけで、黒大蛇とは違う魔物なのだろうか。

 いや、この付近で蛇型の魔物は、黒大蛇しかいないことをギルドで確認している。

 では、俺は一体なぜ、大人しい筈の黒大蛇に襲われているのだろうか。


「……そうか!」


 俺が先程まで採取していた、サカナデ草。

 あの植物の匂いは、名前通りに魔物の神経を大きく逆撫でする。

 サカナデ草自体は既に捨てた筈なのだが、俺の身体か、ポーチかに匂いが染みついているのかもしれない。

 何にしても、サカナデ草の匂いに引き寄せられ、黒大蛇が俺へと襲い掛かったのだ。


「くそっ……!ポーチも一緒に捨てるべきだったか……!?」

 

 金銭的に余裕が無いが故に、持ち物を捨てられなかったことがあだになってしまった。

 だが、今更後悔してる時間はない。

 目の前の大蛇は、今にもこちらに襲い掛からんばかりだ。


(まずは情報整理だ……。依頼書の情報を思い出せ……!)


 黒大蛇はその名が示す通り、巨大な黒い蛇の姿をした魔物だ。

 10メートルを超える巨体を持つが、魔物にしては温厚な性格であり、攻撃されなければ敵対することもないのが特徴である。


 だが、こちらから手を出した場合はそれに限らず、巨体に似合わぬ俊敏さで相手を追い詰める。

 そして、一度目を付けた獲物を喰らうまで、執拗に攻撃を続けるのである。


 攻撃手段としては、その鋭い牙による噛みつきと、長く太い体躯を活かした締め付けが主だ。

 鋭い牙による一撃は革製の防具程度であれば難なく貫き、その巨体による締め付けは、鉄の防具を装備していても大きなダメージを受ける程である。

 その一方で、毒は無いが、万が一噛まれてしまえば、初級冒険者にとって大ダメージであることには変わりない。


(逃げるか……?いや、しかし……)


 さっきの奇襲が避けられたのは、本当に偶然だった。

 怒りに任せたその勢いは、俺の反応速度を大きく上回っている。

 次に狙われれば、恐らく回避は叶わないだろう。


 つまり、逃げることは不可能。

 もし背を向けようものなら、後ろから襲われ、締め上げられ、死に至る。


「戦うしか、ないのか……!」


 俺の防具は、布の服に、要所を覆う革製のサポーターがあるのみ。

 つまりは、殆どどこを噛まれたとしても、大ダメージを受けてしまう。

 いくら回復用のポーションを持っているとは言え、品質は低級。

 恐らく、大きな怪我を負ってしまえば、回復は間に合わないだろう。


 そして、更に危険なのが締め付け攻撃だ。

 恐らく、ある程度、筋力のステータス値があれば、締め付けから抜け出せるのだろう。

 しかし、俺の筋力は平均以下のFランクしかない。

 耐久のステータスが多少高いとは言え、捕まったが最後、抜け出せずにジリジリと締め殺されてしまう。

 この攻撃だけは、絶対に回避しなければならないだろう。


「仕方ない、やるか……!」


 俺は覚悟を決め、メイスを構えて臨戦態勢を取る。

 そして、再び鎌首をもたげてこちらを狙い始めた黒大蛇と、改めて向き合うのであった。


※ちなみに、メートル=メドル、センチ=セルチ、ミリ=ミル、という単位を使用している世界観です。


主人公は馴染みがないので、主人公視点の際には、普通にメートル、センチ、ミリと表現します。


次回は21時投稿

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