第13話 甘い罠
とりあえず、購入したメイスは剣帯に引っ掛け、腰から吊るす形にする。
若干邪魔にはなるがまぁ仕方ないだろう。
「今日のクエストはこんなところかな……」
武器を新調した俺は、その足でギルドへ訪れていた。
無論、新しい武器のお試しも兼ねて、クエストを受注する為だ。
討伐依頼を中心に、報酬が良いクエストを、上限受注数の3つまでセレクトする。
数あるクエストの中から俺が選んだのは、以下のクエストだ。
『はぐれゴブリンの狩猟」
内容:群れからはぐれたゴブリン数体の狩猟。
ゴブリンの数など、詳しい詳細は不明。
報酬:一体につき200エル
『黒大蛇の狩猟』
内容:山村近くに現れた黒大蛇の狩猟。
詳細な出現場所等はギルド窓口にて。
報酬:撃退1500エル、討伐3000エル
『サカナデ草の採取』
内容:野生のサカナデ草15本の採集。
報酬:1000エル
どれも難易度の割には報酬が高い。
ゴブリン討伐の報酬は討伐数によるが、3体倒せれば600エル、5体倒せればなんと1000エルだ。
続いて、黒大蛇の討伐依頼。大芋虫の際と同じく、討伐か撃退かで報酬が変わってくるクエストだ。
ギルドで聞いた話によれば、黒大蛇も大芋虫と同じように、危険度は低い魔物なのだと言う。
体力が多い分、討伐は大変だが、かなり高額の報酬なので、積極的に討伐を狙っていきたい。
最後サカナデ草の依頼なんて、採集だけなのに破格の報酬である。
よほど希少な植物なのだろうか。
そうなれば、捜索が少し面倒かもしれないな。
まぁ、何にせよ、急なトラブルでもない限り、どれも順調に終わらせられる依頼ばかりだ。
「すいません、これ受注お願いします」
「あら、サトウさん。受注の手続きですね、承りました」
アリシアにクエストの依頼書を渡すと、手際良く受注を済ませていく。
まだ1年目って言ってたけど、やっぱりこの人優秀そうだよなぁ。
「えぇ……。また3つもクエストを受けるんですか……?」
アリシアは、書類を片付けながら、怪訝な顔で俺に尋ねる。
別にルール上は問題ない筈なのだが、選んだクエストに何か厄介なものでもあるのだろうか。
「えっ?また何か面倒なクエストがあるんですか?」
「いえ、そういう訳ではないんですが……。ソロで複数のクエストを受注する人は、やっぱり珍しいので……」
なるほど、そういうことか。
複数依頼の同時進行に関してはもう経験済みでもあるし、何も問題ない。
元々徹夜やら連日の作業は慣れてる方だし、何より固有スキルのおかげで疲れ知らずなのだ。
「ああ、それくらいなら大丈夫ですよ。手続きお願いします」
「うーん、この間の実績があるので止めませんが……。何かあったら、すぐに帰ってきてくださいね?」
なんて優しい人なんだ。
会社での俺の扱いは雑用ロボットだったので、こんなに優しい言葉を掛けられたら、思わず泣いてしまいそうになる……。
「ありがとうございます!無事に帰ってきますよ!」
若干フラグじみた発言だった気もするが、実際ほぼほぼ何もないだろう
そんなことを考えながら、俺はアリシアの見送りを受けて、ギルドを発つのであった。
◆◆◆
「どあああああああああ……ッ!?!!??」
俺は絶叫を上げながら、森の中を全力で駆け抜ける。
ふと気づくと、いつの間にか、俺は大量のゴブリンから追われているのだ。
何を言ってるのか分からないと思うが、俺自身も何が起こってるのか分からねえ。
「なんで!?なんで……!?」
飛びかかってくるゴブリンをメイスで捌きながら、俺は必死に頭を回していた。
俺を追いかける魔物達は、どれも皆興奮し、怒り狂っているように見える。
特に変わったことをした覚えは無いのだが、このような状況になったのには何かきっかけがある筈だ。
だが、俺は特に森を荒らしたり、不用意に魔物に攻撃したというようなことも無い。
ただただ、俺は依頼通りに、サカナデ草を採集しただけである。
きっかけがあるとすれば、そのサカナデ草しかないとは思うのだが……。
いや、待てよ……?
サカナデ草、サカナデ、逆撫で……!?
「まさか……!」
俺はポーチに突っ込んでいたサカナデ草を、明後日の方向に投げ捨てる。
『ギィ!ギィ!』
すると、投げ捨てたサカナデ草の束に向かって、ゴブリン達が走っていった。
そして、サカナデ草の束が親の仇かの如くゴブリンの襲撃を受けている。
もう少し気づくのが遅ければ、俺もああなっていたのだろうか……。
「いや、名前まんまじゃねーか!!!」
つまり、サカナデ草とはその名の通り、魔物の神経を逆撫でする効果を持っているのだ。
こんな危険な物を集めて、依頼者は一体どうするつもりなんだろうか。
先程のゴブリン達が俺に向けていた、血走った目を思い出すだけで寒気がする。
「しかし、これは完全に俺の準備不足だ……」
スライム討伐の一件であれだけ痛い目を見たと言うのに、いくらなんでも学ばなすぎる。
ちゃんと情報を集めて、サカナデ草の特性が分かっていれば、討伐との同時進行なんてせず、大人しく採取だけして、すぐにでも森を抜けた筈だ。
アリシアさんも教えてくれれば、なんて思いが浮かぶが、問題ないと言った俺の責任でしかない。
「まぁ、今回は失敗だな……」
とりあえずは1度、グスタの街に戻って準備を整えよう。
サカナデ草と討伐を同時進行することは不可能に近いので、サカナデ草の依頼からリタイアすることも考えるべきだ。
俺が重視するのは、一度の冒険でどれだけ効率良く、複数進行ができるかなのである。
何度も街と森の中を往復してクエストを完了するようなことはしたくないからな……。
そんなことを考えながら、俺は森を抜ける為に足を進める。
その背後から怪しげな影が迫っていたのだが、呑気な俺には知る由もなかったのであった。
次回 15時投稿です




