第12話 ビジネスバッグな関係
「……んえっくしょい!!!」
あまりの埃っぽさからか、くしゃみと同時に目が覚めてしまった。
優雅な朝とは言えないが、久しぶりにゆっくり休めた気がする。
朝日の射し込む窓を開けると、少し冷たい朝の空気が身に染みる。
まだ日の出からそんなに時間は経ってないはずだが、通りは既に開店の準備をする商人や、眠そうに欠伸をする冒険者で賑わっていた。
一日の始まりを感じられる景色だ。何となく、ワクワクとした気持ちになる。
「さて、と……」
一晩考えたのだが、今日は市場へ向かい、やはり武器を購入しようと思う。
武器を新調してしまえば、恐らく所持金は使い果たしてしまうだろう。
それでも、慣れない片手剣を使い続けるよりは、扱いやすい武器を使う方が、戦いの効率も上がると考えたのだ。
戦いの効率が上がれば、それだけ依頼をこなすスピードも上がるので、それに応じて収入も向上する。
いわばこれは、将来の安定に向けた投資という訳だ。
「よっしゃ、行くか……!」
大きく伸びをした俺は、荷物をまとめて、早速賑わう市場へ向かったのだった。
◆◆◆
宿屋の軋むドアを開け、朝日の差し込む裏通りに出る。
向かいにある怪しい雑貨屋の隣の通りを抜ければ、そこはもう朝市で賑わうメインストリートだ。
大通りに出た俺は、人混みをかき分けながら、初日に下見をした際に見つけた武具店へと向かう。
かなり大きな街だけあって、初心者向けの安価な店から、ブランド品であろうロゴ入りの高級品を扱う店まで様々な武具店立ち並んでいる。
俺が目をつけていたのは、その中でもかなり安価な、初心者~中級者向けの装備を扱う店だ。
「……いらっしゃい」
入口のドアを開けると、筋肉の擬人化とでも言わんばかりの店主に迎えられた。
ただの武器屋の店主のはずが、仮にも冒険者である俺の比では無い程に強そうだ。
店主の圧に押されつつも、目当ての武器について尋ねる。
「手軽に使えるような、打撃武器が欲しいんです。何か、おすすめはありますか?」
「打撃武器といえば、主流は棍棒かハンマーだが、手軽に扱えるとなればメイスがおすすめだな」
メイスと言うと、確か、RPGだと僧侶系のジョブがよく使う武器種だっただろうか。
片手で扱えるサイズの、小さな棍棒のようなものだった筈だ。
「見た目は似たような感じですが、棍棒とは何が違うんです?」
「ああ、まぁ基本的には似たようなもんだが、メイスは棍棒よりは軽くて、扱いやすいのが特徴だな。威力は下がるが、重くて使いづらい打撃武器の欠点を排除した一品だ」
基本的には、何も考えずに物理で殴るって感じだし、威力を手数で補いたい俺にはちょうどいいかもな。
重さのある棍棒では、俺の筋力のステータス値では扱えない可能性がある。
その点、軽量さが売りのメイスは、俺の求める武器種に合致しているのではないだろうか。
「なるほど。ちなみに、1番安いメイスだといくら位ですかね?」
「うちで扱ってるメイスの最低価格は、この『アイアンメイス』で3500エルだな。威力は低いが、初心者向けで扱いやすさは抜群だぜ?」
うーむ、初心者向けとは言え、流石にある程度の値段はするようだ。
かと言って、このまま支給品の剣を使い続けるのは、俺の望むところではない。
だが、そもそもとして俺の全財産を支払ってもメイスは購入できない。
何かしらの手段で、値引きしてもらう必要があるだろう。
「そうだ。この片手剣を引きとって貰う代わりに、値引きとかできませんかね?」
「あぁん?ギルドの支給品じゃ、二束三文にもなりゃしねえぜ?もうちょいまともなもん持ってくれば話は別だが……」
まぁそりゃそうか。この辺はゲームとは違ってシビアである。
今持ってる物で、引き取って貰えそうなものといえば……。
「そうだ、この鞄なんてどうです?防水だし、革製で丈夫ですよ!」
「ほぉ、ちょいと見せてみな」
ただのビジネスバッグだが、そこそこ奮発して購入したものだ。
しっかりとした革製の上に、防水加工までしてある。
3年間使い詰めで多少くたびれてはいるものの、まだまだ使える筈だ。
「どうですかね?」
「いやはや、珍しいデザインだし、かなり丈夫そうだ。これを譲ってもらえるなら、メイスは2500エルまで値下げしよう」
「ありがたい!是非その条件で取引お願いします!」
なんと、ただのバッグが1000エルに化けた。
さようなら、俺のビジネスバッグ。君と過ごした社畜生活は忘れないぜ。
いや、むしろ積極的に忘れるべきなのだろうか。
そんなことを考えながら、俺は武具店を後にするのであった。
「この辺ならいいかな……」
ビジネスバッグを代償にメイスを手に入れた俺は、宿の手前まで戻ってきていた。
この場所であれば人通りが少なく、多少武器を振るくらいなら問題ないだろう。
「……よっ、ほっ!」
アイアンメイスを右手に持ち、軽く振るってみる。
特に重さを感じるようなことも無く、今の俺の筋力でも十分扱えそうだ。
「うん、重さも問題ない。いい感じだ」
改めて、購入した武器を眺めてみる。
大きさは約40センチくらいだろうか。
加護のおかげもあるかもしれないが、金属製にも関わらず、片手で振るう事ができる重さ。
敵を攻撃する為の頭の部分には、金属製の鋭利な突起が散りばめられており、その威力を向上させている。
一撃で大ダメージを与えるというよりは、軽さを活かして、手数で補うような武器だ。
この間の大芋虫との戦闘を理想とするならば、まさに俺にぴったりの武器と言える。
少々痛い出費ではあったが、これを買ったことに間違いはないだろう。
「とは言え、だなぁ……」
昨日は大芋虫の討伐のおかげもあり、かなりの額を稼ぐことが出来た。
だが、その収入の大部分は今回の武器の新調で消えてしまったのだ。
いくら大幅に値引きしてもらったととは言え、俺の残り所持金はたったの700エル。
どうにか一日暮らす程度には残っているが、これだけではこの先どうにもならない。
そうとなれば、やはりクエストを受けるの必要がある。
とりあえずは、ギルドに向かってクエストを受注しよう。
討伐クエストを受注すれば、武器の試しにもなる訳だしな……。
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