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社畜・イン・ファンタジー ~異世界ブラック冒険譚~  作者: 揚げたてアジフライ
第六章 変わる世界と変わらないもの

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第102話 帰るべき場所


 ボールズによる突然の提案に、俺達は三者三様の表情で口をつぐむ。

 そんな俺達を後目しりめに、ボールズはティーカップを静かに傾け、更に言葉を続けた。


「―――とは言え、パーティの名前なんて急に言われても思いつくものでも無いだろう。俺が名前を決めるなんてことは間違ってもできないが、せめて有名なパーティでも紹介してやろう」


 そう言えば、俺は他のパーティのことを殆ど知らない。

 それどころか、この街の冒険者の名前すら、知っている数は限られてしまう。

 俺が転生者だと言うのもあるが、それ以上に他の冒険者と関わりが少なすぎるのだ。

 この機会にボールズから話を聞けるのは良かったのかもしれない。


「まず、有名どころでいくと―――」


 グスタの街も属するアルクス地方。

 その中でも最も有名な冒険者パーティが、【滅竜団ドラコスレイヤー】だ。

 決して個人の実力が秀でているわけでは無いが、付き合いの長さと経験値の高さからなる連携力はまさに一心同体。

 長く活動しているチームだけあって、残した功績も市民からの信頼も厚い。

 冒険者の街であるグスタを要し、数多の冒険者が集うアルクス地方の代表と言っても過言では無いだろう。


 次に、優雅さで他の追随を許さないのが、ダルク地方の【煌炎剣士隊ファイアワーカーズ】。

 彼らは全員が貴族や騎士の家柄出身であり、洗練された技術を持ち合わせている。

 その全員が炎魔法を使う魔法剣士でもあり、見た目にも派手な彼らの戦いは度々話題になるのだとか。


 そして、数ある冒険者パーティの中でも随一の武闘派である、カラクサ地方の【血鬼衆けっきしゅう】。西の国オーエドを拠点に活動する彼らは、まさに冷酷無情。

 まるで機械のように淡々と敵を処理する姿は、鬼のようだとの評判だ。

 依頼を達成する早さには目を見張るものがあり、実力も相まって彼らを頼る依頼者も多いのである。


「―――後の有名どころでいくと、アドレ地方を拠点にする【最悪の四人組ワーストカルテット】か?」


「なんです、その不穏な名前は……?」


「いや、このパーティも有名ではあるんだが、それは悪名の方でな……」


 なんでも、彼らは事前に名前を挙げたパーティと同じくらいには有名らしい。

 ただし、ボールズの言うように、純粋な活躍ではなく悪い意味で。

 決して悪人では無いのだが、定期的にとんでもないやらかしをするのだと言う。

 地方を越えて来る悪い噂とは、一体どれ程のことをやらかしたのだろうか。

 【最悪の四人組】と言うのも彼らが自身で名乗っているわけでは無く、その失敗の数々に業を煮やした被害者達が付けた通称なのだとか。


「正式なパーティ名はなんだったか……」


「うちのリーダーのやらかしを見てると、他人事ひとごととは思えねぇな……」


 ボールズの話を聞いていたマークが、真剣な面持ちで溜息をついた。

 一体なんてことを言うんだ。

 確かにアリシアさんに心配をかけたり、街の人を驚かせたことは何度もあるが、そんな噂が立つほどの迷惑はかけていない。

 ……とは思っているのだが、そんな小さな積み重ねが彼らを【最悪の四人組】にしたのだろうと考えると、あながち他人事でもないのかもしれない。


「……まぁ、俺も気を付けるよ」


「ああ、そうしてくれ。まぁ、パーティの名前なんて、今ここでポンと決めるようなことでも無いよな」


「そうね。お互いに意見を出し合って決めたいし、考える時間が欲しいわ」


「ああ、勿論だ。元々、今すぐに決めろと言う話でも無い。お前らが納得するパーティ名が決まった段階で、ギルドへ申請してくれれば問題ないさ」


 こうして、俺達はそれぞれの宿へと戻ることになった。

 どうやら、二人ともかなり真剣に考えているらしい。


(まぁ、それも当然のことか……)


 パーティ名とは、ボールズも言っていたように俺達を象徴するものだ。

 三人が納得する形で決める必要がある。

 だからこそ、俺達に相応しい名前を、俺自身も真剣に考えなければならない。




 ◆◆◆




「―――と言うことで、あれから丸二日経ったわけだけど」


 現在俺達が集まっているのは、ギルド内にある酒場の一角。

 夜は多くの冒険者で賑わっているが、今の時間帯は人影もまばらだ。

 そんな理由もあってか、昼間は冒険者達の談話スペースのような使われ方をしているのである。

 あまり長居すると、主人マスターの視線が痛いのだけは玉にきずだが。


「……勿論、とっておきのを考えてきたわよ!」


 自信満々に声を上げたのは、やはりと言うべきかクロエだった。

 そして、そのままの勢いで自身の案を発表し始める。


「私の考えたパーティの名前は、【至高の魔導隊パーフェクトウィッチーズ】よ!」


「まぁ、想定よりはマシな部類だが……」


「悪くは無いんだけど……なんというか、ね……?」


「な、何よ!この完璧なパーティ名のどこが不満なのよ!」


 決して彼女はふざけているわけでは無く、真剣に考えてきたのだろう。

 だが、そのネーミングセンスがあまりにも絶望的だった。

 まるで、中学生が知っているカッコいい単語を寄せ集めたかのような名前だ。

 流石に、これが俺達を象徴する名前になってしまうのは避けたい。

 何より、中二病を患っていた黒歴史を思い出して蕁麻疹が出てしまいそうだ。


「……ハッ、所詮お前のセンスじゃその程度だろうな」


 しゅんとしたクロエに追い打ちをかけるように、マークがそれを鼻で笑う。


「クロエのセンスどうこうは置いといたとして……その名前だと、俺達まで魔導士ウィザードみたいになっちゃうからね……」


「うぐっ……確かにその通りだわ……。でも、私のことを笑ったアンタはどうなのよ……!」


 苦し紛れにも見える口調で、クロエはマークを指差した。

 確かに、マークの意見も気になるところだ。

 案外真面目な彼のことなので、そこまでぶっ飛んだ案は出てこないとは思うが……。


「まぁ、お前の神がかったセンスの前じゃ霞んじまうが……俺の考えてきたパーティの名前は、【夕景の剣トワイライトソード】だ……!」


 意外にも、自信満々に答えたマーク。

 決して悪い案ではない。むしろ、クロエの案に比べれば何倍もマシだ。

 どちらか選べと言われれば、俺は間違いなくこちらを選ぶ。


「うーん、言うだけあって悪くないわね……ただ……」


「そうだね。かなり良い名前だと思う。でも……」


「「普通すぎる・・・・・」」


 そう、彼のセンスはあまりにも普通すぎた。それは悪いことでは無い。

 どんなことでも器用にこなす彼だからこそのアイデア。

 冒険においては頼りになる彼のそんな部分が足枷あしかせになってしまっている。


 パーティ名は俺達を象徴するものであるからこそ、印象に残らなければ意味が無い。

 マークの案では、数多くあるパーティの中に埋もれてしまう可能性すらあるのだ。

 俺達の名を広めるためにパーティ名を決めるのだから、そんな事態は避けておきたい。

 まぁ、クロエの【至高の魔導隊】レベルになると流石に個性的すぎるが……。


「……置きにいってる感じが面白くないわね!」


「お前のクソダセぇアイデアより百倍マシだろうが!大喜利じゃねえんだぞ!」


「何よ!アンタみたいに当たり障り無いアイデアじゃ埋もれちゃうわよ!」


 案の定と言うべきか、またいつもの口喧嘩が始まってしまった。

 戦闘中は相性はバッチリなのだが、この二人は普段の相性がとことん悪い。

 常識的で冷静なマークと、天才肌で猪突猛進のクロエは性格が正反対だ。

 お互いのことは大切に思っている筈なのだが、どうしていつもこうなるのだろうか。


「「……お前(アンタ)はどう思う!?」」


 そして、当然のように判断を委ねられるのもいつものことだ。

 普段であれば折衷案を出して宥めるところだが、今回はそうもいかない。


「うーん……こうなったら、俺の案を発表するしか無いか……」


 正直なところ、こんな空気で発表したくは無かった。

 だが、場を収めて二人を納得させるには、この手段しかあるまい。


「俺の考えたパーティ名は、【旅人の隠れ家セーフハウス】だよ―――」


 俺のアイデアも当たり障りの無いものに感じるだろう。

 パーティと言う存在が、俺達全員が帰る場所のようなものであって欲しい。

 俺がこの名前をつけたのには、そんな思いがあったのだ。


 異世界から転生し、行く先を失っていた俺。

 実家のしがらみから逃れ、一人で孤独に戦っていたマーク。

 獄王の刃によって、住んでいた集落を追われることになったクロエ。


 迷子のような俺達にとって、最も安心できる場所。

 パーティと言う存在が、そんな場所になって欲しいと考えたのである。


「―――パーティ名と言うよりはギルドや商店みたいな名前だが……」」


「……でも、ヨシヒロらしくて良い名前ね!」


「ああ、その通りだ。帰るべき場所、か……。俺達にとって必要だったのは、そんな当たり前のものだったのかもな……」


 俺のアイデアは、受け入れられたと言うことで良いのだろうか。

 少なくとも、二人の表情は穏やかなものだった。


「これから私達は、この名前で活動するわけね……」


「ああ、これ以上に俺達らしい名前は思いつかねえからな……」


 意外と言うべきだろうか。二人の意思は、もう決まっているらしい。

 先程までとは打って変わり、反対の声は上がらなかった。


「……あれ、俺のアイデアで決まっちゃって良いの?」


「当たり前だろ?際立って個性的と言うわけでも、ありふれた名前でも無い。その上で俺達にぴったりのアイデアを、否定するわけが無いさ」


 マークに同意するように、クロエも頷いた。


 その後、俺達はギルドへ向かい、パーティ名を申請することになる。

 【旅人の隠れ家セーフハウス】。これが俺達三人の新しい名前だ。

 

 願わくば、この先もこのパーティが俺達の帰る場所であれるように。

 そして、パーティとして更なる活躍ができるように。

 

 【旅人の隠れ家】としての俺達の冒険は、これから始まっていくのだ―――


いかがだったでしょうか。パーティ名の決定はこの章の大きな要素の一つでした。

打ち切りエンドみたいになっていますが、言葉通り彼らの冒険は続きます。

これからも更新していきますので、少しでもお楽しみ頂けると嬉しいです。

この先も全体的にゆったりと進めますが、合間に大きな転換点は作っていく予定です。


また、ブックマークや評価等を頂けると執筆の励みになりますので、よろしければそちらもお願いします。


次回更新は未定ですが、また二日後を目安に予定しています。

ただ、やはり私生活でやらないといけないことが多いので、もしかすると遅れるかもしれません。

詳細な投稿日時はこちらに追記しますので、気になる方はご確認お願いします。


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