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社畜・イン・ファンタジー ~異世界ブラック冒険譚~  作者: 揚げたてアジフライ
第六章 変わる世界と変わらないもの

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第101話 象徴となるもの

お待たせしました。ここから新章に入ります。

少し短めですが、スタートの一話ですのでお許しください。


 ―――ラティウムの街で行われた継承の儀。

 それは、前代未聞の次期継承者が選ばれないという結果で幕引きとなった。

 あれ以来、当主であるロムルス達の尽力もあり、少しずつ騎士団内の古い考え方は淘汰されつつあるそうだ。

 ユリウスは勿論のこと、意外なことにネロもその活動に協力しているらしい。

 継承の儀の結果は、思っていた以上に色々な人の考え方を変えたのだろう。


 そして、グスタの街への帰還からは既に一ヵ月が経過しようとしていた。

 この一ヵ月で目立ったことは、俺が起こした怪しい影騒ぎの一件程度だ。

 それ以外は、全くと言って良い程に平穏そのものである。

  俺達パーティの活動も、時折ギルドに集まって依頼をこなす程度だった。

 殆どの時間は、個人での修行や休養期間に充てるにしたのである。

 何せ、近頃はとんと音沙汰が無いが、いつ獄王の刃が問題を起こすとも限らない。せめて、休める時に休んでおこうという判断だ。


「―――しかし、こうしてギルドに呼び出されるのも何度目のことか……」


 そんな中、ギルドの支部長であるボールズから掛かった直々の呼び出し。

 平和な日常を過ごしていた俺達にとっては寝耳に水と言って良いものだ。

 彼から呼び出された際に起こるのは、決まって問題ごとばかり。

 正直な話、あまり行きたくはない。

 だが、獄王の刃絡みの案件である可能性も捨てきれないので、こればかりはバックれるというわけにもいかないのである。


「俺としては、またヨシヒロが何かやらかしたんだと踏んでるが……」


「あり得るわね……。今度は何をやったのかしら……」


「いや、怪しい影騒ぎでこってり絞られたばっかりだからね?重ねて問題を起こすほど、俺はイカれて無いよ……?」


「どうだかな……。お前の異常さは、良い意味でも悪い意味でも折り紙付きだ」


 そんな軽口を叩きながら、俺達はギルドの廊下を奥へと進む。

 実際のところ、ここ数週間はヒヨリも落ち着いた様子で過ごしている。

 時折、一緒に散歩で街の外へ出かけることはあっても、前回のように他人に迷惑をかけるようなことは一切していない……と思う。


「―――おう、お前らか。急な呼びつけで悪かったな。とりあえず、そこのソファにかけて茶でも飲んで行ってくれ」


 そう言って俺達を出迎えたのは、褐色の肌にスキンヘッドの男。

 グスタの街の冒険者ギルドで支部長を務めるボールズだ。

 片手には、無駄にお洒落なティーポット。相変わらず似合わない。

 彼は机の上に置かれた高級そうなカップへ、ゆっくりと香り立つ紅茶を注いでいく。


「ああ、そう身構えなくても良いぞ。今日は、珍しく良い報告だ」


 どうやら、俺達の心配は杞憂であったようだ。

 その言葉通り、彼は朗らかな笑みすら浮かべている。


「お前らを呼び出したのは他でもない。実は、直々に指名依頼があってな―――」


 指名依頼。

 今までの俺達には縁の無いものだったが、そのシステムのことは知っている。

 確か、依頼者がギルドへ追加料金を支払うことで、その支部に所属する冒険者のことを、名指しで依頼するこができると言う仕組みであった筈だ。


 とは言え、多くの冒険者を抱えるグスタの街において、そのシステムが使われることは滅多にない。

 大抵の依頼であれば、仕事クエストを探す冒険者達が、指名などせずとも解決してくれるからだ。

 その一方で、難易度の高い依頼はどうしてもクリアできる冒険者が限られてしまう。

 依頼者は困っているからこそ依頼を出すわけで、それを達成してもらうために追加で料金を払ってでも、実績のある冒険者にお願いしたいと言うわけだ。

 そう言った依頼は、上級冒険者の特権でもあるため、ようやく俺達もその領域に一歩踏み込むことができたのかもしれない。


「―――まぁ、指名依頼のことはお前らも知っての通りだ。実際に、お前ら宛てに届いている依頼書を見て貰った方が早いだろうな」


 ボールズは、そう言って机の上に何枚かの羊皮紙を並べた。

 黒棘鳥ソーンガルーダの討伐依頼、領内の未踏破ダンジョンの探索依頼、希少な薬効成分を持つ月雫花ムーンドロップの採取依頼。

 確かにどれも難易度の高いものではあるが、それでもCランクの冒険者が複数いれば問題なく達成できるであろうと言う内容ばかりだ。

 あえて言うのであれば、ダンジョンの探索に関しては未知の部分も多いので、少し難易度が高いだろうか。それでも、踏破ではなく探索なので、高難易度とは言えない。

 だが、そんな難易度に反して、達成報酬は破格の金額。どうしても違和感は覚えてしまう。

 流石に、ボールズが紹介する依頼に裏があるとも思えないが……。


「ふぅん……馬鹿みたいな高額報酬だから、誰からの依頼かと思えば……」


「……あら。三件とも、名前を聞いたことがあるくらいには有名な貴族家じゃない」


 マークとクロエの言葉に、俺はようやく依頼者の名前を確認する。

 確かに、どの依頼者の名前も、この世界の情勢に疎い俺でも聞いたことがあるような名門貴族と同じ家名だ。中には、グスタの街の騎士団を金銭的にバックアップしているような貴族もいる。

 流石に、没落したとは言え大貴族であるロックウェル家や、ダルク地方で最も名高い名門貴族であるマルティネス家ほどでは無いものの、このアルクス地方ではそれなりの領地を持つ格式高い家柄だ。


「決して安くは無い報酬を支払ったとしても、お前らとの伝手を作っておきたいんだ。今やお前らは、この街でも有数の冒険者だ。将来有望な若者に、依頼者も期待してるんだろうよ―――」


 そう言うと、ボールズは静かに紅茶を啜った。

 一般的にはそれ程知られていないことではあるが、一応は俺達も獄王の刃に対する特殊部隊としてそれなりの功績を上げてきた。

 この地方を任されている貴族家であれば、その情報も把握しているのだろう。

 自分で言うのも恥ずかしいが、俺達はまさに破竹の勢いで功績を上げている新進気鋭の冒険者パーティなのである。


「まぁ、俺達だっていつ何があるかは分からない。そうなった時のために、稼げるだけ稼いでおいた方がいいだろうよ。幸いにも、難易度の割に破格の報酬だ」


 マークは、そう言うと再び依頼書へと目を通し始めた。

 確かに、彼の言う通りだ。

 いくらステータスの恩恵があるとは言え、いつ何が起こるかは分からない。

 回復魔法とて万能ではない。冒険者を引退するような怪我を負う可能性もある。

 だからこそ、俺が彼らの盾の役目を果たさなければならないのだが、今のままでは実力不足であることも事実。

 この先、氷獄獣ブリザードビーストのような強敵や、獄王の刃との戦っていく上で、最悪の事態も想定しておくべきだ。

 勿論、そうならないように彼らを守るための力を身に付けていくつもりではあるが……。


「―――そう言えば、お前らを呼んだの理由はまだあってな。ひとつ提案があったからなんだ」


 先程までの柔和な表情とは打って変わり、真剣な面持ちでそう告げるボールズ。

 提案と言うことであれば悪い内容では無いと思うが、想像がつかない。


「提案……?厄介ごとで無いなら、聞いても良いとは思うが……」


 そう言ったマークに対し、ボールズはさらに言葉を続けた。


「ああ、そう身構えなくても良い。俺の提案ってのは、そろそろお前らもパーティの名前を付けた方が良いんじゃないかってことだ」


「パーティの、名前……?」


 確かに、俺達三人がパーティを組んでからそこそこの時間が経過している。

 これまで乗り越えて来た修羅場の数を考えても、信頼関係は十分だ。

 誰かが冒険者を引退するようなことでも無ければ、この先パーティが解散するとは思えない。

 そうであれば、固定パーティとして、その名前を決めても良いのかもしれない。

 少なくとも、依頼者側はその方が俺達を指名しやすいだろう。


「確かに、パーティ名はあった方がいいだろうな。パーティとして名が売れれば、指名依頼の数も今より増える筈だ」


「何故かその考えが頭に浮かばなかったけど、よく考えたら当然よね。ある程度活躍してる冒険者は、みんな個人よりもパーティとして名前が売れてるもの」


「まぁ、突然の提案だったからな。今すぐに決めろとは言わないさ」


 パーティ名が決まってしまえば、文字通り俺達は一心同体。

 個人で挙げた功績も、個人が起こしたトラブルも、全てがパーティのものになる。

 少なくとも、今までのような無茶はするべきではないのかもしれない。


「少なくとも、今後はその名前がお前ら三人の象徴になる。そこだけは頭に入れておいた方がいいだろうな―――」


 ボールズの発した象徴と言う単語が、俺の中でやけに印象に残った。

 突然の呼び出しから始まったギルドでの一幕は、後半戦へと移っていく。


次話ですが、今回が短めだったので可能であれば明日7/4(木)の昼にアップしたいと思っています。

あくまでも予定ですので、詳細に関してはまたこちらに追記します。


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