第10話 社畜無双
冒険を終えてステータスの確認をした俺は、今までとは違った箇所に気づく。
そう、新たに固有スキルとやらを獲得していたのだ。
俺は早速、新たに追記されたそのスキルの効果を確認する。
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<<固有スキル>>
【不眠不休】:一定時間内の活動における疲労減少。睡眠属性の干渉に対し、中程度の耐性を得る。
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これゲームであれば、疲労の減少という効果に、殆ど意味はなかったかもしれない。
しかし、実際に冒険していく上では、かなり有用なスキルなのではないだろうか。
いつの間に獲得していたスキルなのかは分からないが、俺が現状で殆ど疲れていないのは、きっとこのスキルが発動しているからなのだろう。
そして、睡眠属性の「干渉」に対する耐性。
どこまで効果があるのかは分からないが、単純に睡眠属性の「攻撃」ではなく、「干渉」への耐性である以上、その範囲は多少広がると思われる。
こちらの効果も、中々に良いものなのではないだろうか。
ちなみに、クエストのついでに色々と素材も回収できた。
ポーチに入る程度でしか集められなかったが、ヒヤル草をはじめとした素材や、ドロップアイテムである『大芋虫の柔皮』などが今回得た成果である。
基本的にゲーム序盤では何でも集めておくのが鉄則だ。
集めていたアイテムがクエストの目的であれば、受注後すぐに依頼が完了できるし、後に装備や道具の素材になることも多い。
まぁ、ここはゲームの中ではないが、基本的には同じ考え方が通用するだろう。
そして、素材を売れば金策も出来る。
序盤で手に入るようなアイテムは、恐らく大した金額にはならないので、本当に最後の手段ではあるが……。
ゲームと違って、使い道や名前が自分では分からないのは難点ではあるが、大抵はギルドの書庫や受付に行けば情報を得られる。
実際、今回の依頼に関する情報も、ギルドの職員から得たものが殆どだ。
そんなこんなで、ステータスとスキルの確認を終えた俺は、依頼完了の報告のため、ギルドのあるグスタの街への帰路を急ぐ。
大した疲れもないし、ポーションや用意した食料も一切消費していないが、ここで狩りを続けるメリットはあまりないだろう。
どうせなら、一度帰って別のクエストを受けた方が効率がいい筈だ。
◆◆◆
グスタの街へ戻った俺は、その足でギルドへ向かかった。
最下級の依頼ということもあり、特に期限や納期がある訳では無かったので、別段急ぐ必要も無いのだが、これはもう癖のようなものだ。
「すみません、依頼の品の納品と完了報告をしたいんですが」
冒険者登録、スライム討伐、そして今回のクエストと手続きを行ってもらい、俺の中ではお馴染みになりつつある受付嬢に声をかける。
ちなみに、彼女の名前はアリシアで、受付嬢としては俺と同じく新米であるらしい。
「おや、サトウ様、お戻りですか。何か忘れ物か、情報確認でも?それとも、もうヒヤル草の収集依頼が終わったとか……」
向こうもこちらの名前を覚えてくれていたらしい。
この世界の知り合いといえば、カタギリくらいなので、純粋に嬉しいものがある。
それに、ある程度信頼関係を作っておいた方が、情報収集もしやすいだろうからな。
「ああ、ヒヤル草の収集はバッチリです。ついでに、霧カスミと大芋虫の方も」
俺がそう答えると、アリシアは信じられないと言った様子で目を丸くした。
何かおかしなことを言ってしまっただろうか。
「クエストを一晩で3つも……!?まだ冒険者登録して2日目ですよね……!?失礼ですが、一応確認させてください……!」
「そうですね、確認をお願いします。図鑑の挿絵と情報を参考にしたので、念のためにも」
俺はポーチからヒヤル草を30本、霧カスミを10本取り出して、机の上に並べていく。
「確かに、ヒヤル草、霧カスミともに指定数の納品を確認しました。そういえば、ヒュージワームの撃退にも成功したとのことですが……」
「いや、あのデカい芋虫なら討伐しましたよ。中々骨が折れる仕事でしたが」
証拠としてドロップした『大芋虫の柔皮』を見せると、アリシアの顔が更に驚愕の色に染まる。
特に戦闘力がある魔物でも無いと言うのに、何をそんなに驚くことがあると言うのか。
「えええっ!あのヒュージワームを、たった一人で討伐したんですか……!?駆け出しの冒険者がパーティで挑んでも、倒すのには数時間掛かるレベルの体力なんですよ……!?」
「ああ、昨日の昼から一晩かけて殴り続けたんです。剣も通さないし、攻撃が効いてるのか分からないし、若干不安ではありましたけど……」
アリシアは、俺の発言に驚き半分呆れ半分といった様子で、ため息をついた。
「はぁ…まだ受付嬢1年目ですが、流石にサトウ様の異常さはわかりますよ……」
「うーん、加護のおかげか全く疲れないし、これくらい普通じゃないんですか?」
「そんなわけないでしょう……!まぁ、とにかく、ヒュージワームを『討伐』したのであれば、特別褒賞としてプラス1000エル、つまり2000エルの報酬が支給されます」
「ええ、そうなんですか!?」
「この依頼主の目的は、街道が通れるようにすることでした。つまり、別に撃退でも構わなかったのです。それを討伐して、今後しばらくは大芋虫が現れない状況を作ったのですし、追加報酬がでるのは当然です……!」
なんとも驚いた。
確かに大変だったが、あの芋虫を討伐しただけで、報酬が一気に倍になった。
これで、3つのクエストの報酬合計は3200エル。
単純に、6日間宿屋に泊まってもお釣りがくる金額だ。
「そういえば、固有スキルってのを獲得したみたいなんです。確認してもらってもいいですか?」
「ゆ、固有スキルですか!?」
アリシアが困惑しながらもやや興奮気味に説明してくれる。
「えーと、固有スキルは、一部の上級職にのみ常設されているんですが、その他では、殆どが度重なるレベルアップや厳しい鍛錬の中でしか発現しないんです」
なるほど、間違っても初級職の【冒険者】で、ポンポン発現するようなものではないらしい。
それを、冒険者になって二日の俺が習得してきたのだから、アリシアの驚きようも当然だ。
「冒険者登録をしたばかりの段階で固有スキルを持っているというのは、本当に限られた家系、例えば王族や上流貴族の場合か、余程の苦労や経験をした人だけなんですよ……?」
別段、苦労も特殊な経験もした覚えはない。
更に言うのであれば、俺は片田舎の一般的なサラリーマンと主婦の間に生まれた、超普通の家庭出身だ。
どう考えても、王族や貴族の血など、1ミリたりとも流れていないだろう。
どういう理由なのかは兎も角、固有スキルが貴重なものであることは理解できた。
何かしらシステムがバグって獲得できたのか、何なのか分からないが、ひょっとするとこれは、物語の主人公補正的なアレなのではないだろうか。
別に自分がこの世界の主人公だなんて思ってないが、年甲斐も無くちょっとワクワクしてしまう。
世界とか救っちゃうんだろうか。
「今回の無茶だけじゃなく、サトウ様は、これまで余程壮絶な人生を送ってきたんでしょうか……。強く、生きてください……」
つらつらと説明したかと思うと、今度は同情された。
全くもって余計なお世話だと言いたいが、ここ数年の生活は同情されるようなものだったかもしれない。
「それにしても、クエストのことといい、固有スキルのことといい、サトウさんを担当してると驚きの連続です」
これが素の状態なのか、アリシアの態度が事務的なものから少し変わってきた気がする。
全くと言っていいほど知り合いの居ないこの世界で、仲良くなれるならこちらとしても心強い。
営業スマイルなのかもしれないが、アリシアの笑顔に、思わずこちらも頬が緩んでしまう。
「何かギルドに用事があれば、また対応させてください!普段は事務的な作業ばっかりで楽しみもないので……!」
「もちろんです!こちらとしても、グスタの街に来たばかりで、知り合いも殆どいないので、心強いです」
俺がそう答えると、アリシアは、ぱあっと表情を明るくさせる。
まだ垢抜けないような部分もあるが、アリシアは相当な美人だ。
その屈託のない笑顔には思わずこちらもドキッとしてしまう。
少し顔を赤くしながらも報酬金を受け取った俺は、アリシアの見送りを受けつつ、ギルドを後にするのだった。




