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社畜・イン・ファンタジー ~異世界ブラック冒険譚~  作者: 揚げたてアジフライ
第五章 マーク・マルティネス

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第99話 戦いの末に

大変遅くなってしまい申し訳ありません。地の分が多いので、少し長めです。

これにて、継承の儀は決着となります。後半部分はマーク視点での進行です。


 激闘の兄弟対決から一夜明け、継承の儀はいよいよ最終日へと移る。


 この日の初戦は、エリスVSダイモスの姉弟きょうだい対決……になる予定だったのだが、ダイモスが試合に出られる状況ではないと言うことでエリスの不戦勝となってしまった。

 初日は様々な策を弄したにもかかわらず、マークとユリウスに完敗。二日目に関しては、もはや何もできない程の圧倒的な敗北を喫した。

 ダイモスとて、幼い頃から鍛錬を積んできた騎士であり、この決闘には勝つ算段を立てて参加している筈だ。歪んだものではあるが、マークに対する復讐心や、その試合に賭ける想いも本物であることには違いない。

そんな想いすら全て潰された上での完敗が続き、彼の心は完全に折れてしまったのだろう。


『いやぁ、ようやく継承の儀も終わりかぁ……』


『残す試合はユリウス様とマーク様の戦いのみ。ユリウス様が次期当主になるところを見れるなんて、なんだか誇らしいぜ。あの人ほど騎士らしい人はいない』


『まぁ、マーク様も善戦はするだろうが……。昨日のネロ様との戦いを見ると、どうしてもなぁ……』


『あぁ……。どうしても、ユリウス様がどう勝つのかって部分にばかり目がいっちまうわなぁ』


 客席の意見は、昨日と変わらずと言った様子だ。

 相変わらず、観客の殆どがユリウスの勝利を確信している。

 それも、継承の儀始まって以来の、無敗での当主誕生。

 もはや、彼らが注目するのは、ユリウスがどう勝利するかの一点のみ。

 マークを応援する俺達は、完全にアウェイの状態だった。


(マークが、周りの空気に負けるようなタイプじゃないのは分かってるけど……)


 決して、有利な状況とは言えない。

 仮に、どれだけ自分が有利になろうとも応援されないような状況になってしまえば。

 いくら気丈に振舞ったところで、どうしても気にはなってしまうものだ。そうなった際、もし自分であれば、平常心を保ったままで戦えるだろうか。


『―――君のポテンシャルは、ユリウスやネロにも劣らない筈だ』


『……ふふ。旦那様は、昔からマーク坊ちゃまには甘いですな』


『それは、そうさ。彼こそ、騎士団の古臭い価値観を一掃する存在になる筈だ―――』


 どこからか、そんな会話が聞こえたような気がする。

 それが誰なのかは、ざわめく会場に遮られて分からなかった。


 観客がどうあれ、戦うのはマーク自身。

 俺が緊張していては仕方あるまい。せめて、クロエと一緒に全力で応援しようではないか。


 こうして、最終決戦の火蓋が切って落とされる―――




 ◆◆◆




(……分かっちゃいたが、完全にアウェイの空気だな)


 闘技場の中央へと続く地下道を歩みながら、俺は会場のざわめきに意識を傾けた。

 この環境で気にするなと言うのも無理な話だ。嫌でも耳に入っては来る。

 とは言え、その程度のことで緊張してもいられまい。

 なにせ、この戦いこそが俺にとっての正念場。ユリウスとの戦いに勝利できれば、俺達兄弟は全員が3勝1敗で並ぶことになる。全勝するつもりで臨んだ戦いで情けない話ではあるが、ここで勝ちさえすれば、少なくとも俺の目的は達成できるのだ。


 この戦いのために残してきた隠し玉もいくつか用意している。

 その最たるものが、この聖剣クラウソラス。氷獄獣討伐の一件でカタギリから報酬として譲り受けたものだ。討伐を達成することが出来なかったので受け取るつもりは無かったのだが、全員が無事に帰ってきただけでも大健闘だと、半ば押し付けられるような形で貰ってしまったもの。


 パーティの中で剣を扱える者が俺しかいなかったこともあり、ヨシヒロから管理を任されている。勿論、それを使う判断も任せると言う形で。

 ユリウスの持つ魔剣フラガラッハ程の特殊能力を持っているわけでは無いが、仮にも伝説に謳われる聖剣。単純に武器としての性能も段違いだ。

 普段使いするには破格の性能であり、もし仮に紛失や破損でもすれば大変なことなので、ここまで使うのは躊躇っていたのだが……。

 流石に、この状況になって出し惜しみするのは、ヨシヒロとて望むところでは無い筈だ。今まで見せていないこの聖剣の存在こそが、勝利に向けた大きな一因となってくれることを期待している。


 そんな考えごとをしていると、銅鑼の音が地下道まで響いてきた。

 どうやら、そろそろ試合が始まるらしい。


「―――マーク、良い戦いにしよう」


 対面から歩いてきたユリウスが、そう言って俺へ手を差し出した。

 それに答えるように、俺も片手を差し出す。


「……一応聞いておくが、昨日の魔剣を持ち込んでいないのはどう言うことだ?」


 ネロとの戦いで、勝利の決定的な要因となった魔剣フラガラッハ。

 だが、ユリウスの腰に携えられているのは、騎士団で広く用いられる汎用的な片手剣。

 厳しい戦いに耐えられる良い剣ではあるが、単純な武器の性能だけでも、フラガラッハとは比べるまでも無い。


「ああ、そのことか。勿論、マークのことを侮っているわけでは無いよ―――」


 俺の問い掛けに対して、ユリウスはご丁寧にその理由を説明する。

 今回の戦いで魔剣を持ち込んでいないのは、単純にフラガラッハの真価を発揮できるだけの魔力を溜め込む時間が無かったから。因果律の逆転を発生させるためには、数か月かけて少しずつ魔力を魔剣へと流し込む必要がある。真価が発揮できない状態で魔剣を持つのは、単純に自身の魔力を無駄に消費するだけの行為になる。

 元より、フラガラッハは、ネロかマークのどちらかの戦いのみで使う予奥の手の一つに過ぎない……とのことだ。

 もし腰に剣を二本差しでもしていれば、魔剣の存在を俺に匂わせるくらいはできた筈だ。それをしないのは兄貴の自信の現れなのか、単に馬鹿正直に騎士道精神とやらを重視しているだけなのか。どちらにしても、武器だけを見れば俺の方が優勢だ。その情報が事前に得られただけでも、俺にとっては値千金である。


「……両者、私語は控えるように。構えて―――」


 審判により、俺達の会話が遮られる。いよいよ、試合が始まるらしい。


 俺の正面に立つのは、兄であるユリウス・マルティネス。

 入団してわずか数年で、騎士団の花形とも言える第一部隊で隊長に任命された男。

 無論、現騎士団長の長兄だからなどと言う、ふざけた理由ではない。

 圧倒的な騎士としての実力と、異様とも言える程の人望を持つ彼が、多くの団員から推薦を受けたのだ。第一部隊の隊員だけでなく、他の部隊員、果ては彼の前任である元第一部隊の部隊長まで。

 武力と知略を兼ね備え、現騎士団長であるロムルスすら凌ぐ程の人望を集めるユリウス。

 誰に聞いたとしても、次期当主と騎士団長は彼に違いないと答えるだろう。


 かたや、相対する俺は、今やグスタの街の一冒険者に過ぎない。

 戦いの上で負けるつもりは勿論無いが、単純な武力では俺が劣っている。

 5年もの間、騎士の務めや家のしがらみから逃げていた俺に対する周囲の人望など、もはや言うまでもないことだ。


「―――始めッ……!」


 審判の合図と共に、両者共が素早く動く。

 素早さのステータスに関しては、どうやら俺の方が上らしい。

 先に斬りかかった俺の剣をユリウスは難なく受け止め、鍔迫り合いのような形で向き合うことになった。筋力に関しては互角。

見つめ合うような姿勢のまま、状態は早くも拮抗状態となった。


「聖剣、起動―――」


 俺が魔力を込めると、聖剣は呼応するかのように力を分け与える。

 これこそが、聖剣クラウソラスの持つ特殊能力の一つ。

 所有者が魔力を込めることで、それを筋力へと変換する力。

 手にするだけで持ち主の魔力を強制的に奪い、因果律の逆転と言う破格の代価を支払う魔剣フラガラッハとは違う、シンプルながらに強力な効果。

 だが、筋力の強化によって、俺達の均衡は破られることになる。

 未だ抵抗を続けるユリウスの剣を強引に払いのけ、俺は大きく跳躍した。


「―――肆の型、上弦の月……!」


 跳躍の後、上段から放たれる渾身の振り下ろし。

 隙は大きいが、今の俺が持つ技の中では最も威力の大きい大技。

 一度見せてしまえば二度目は無い。だが、聖剣の強化も相まって放たれるこの一撃は、鋼鉄の鎧すらも軽々と斬り裂くだろう。

 重鎧ヘビーアーマーを纏うネロなら兎も角、動きやすさを重視したユリウスの軽鎧ライトアーマーなど、紙切れも同然だ。

 上段から勢いよく放たれる聖剣が、ユリウスの右半身を容赦なく襲った。騎士団揃いの白銀の鎧が両断され、彼の右腕まで到達する。少なくとも、これで利き腕は封じることができる。いくらユリウスとて、片腕では戦えないだろう。

 そして、剣の切っ先が彼の鎧へと触れるその刹那。

 ユリウスは、さも当然かのように、その攻撃を回避した・・・・・・・・・


「……甘いね、マーク!飛んでから放つ攻撃ほど、読みやすいものはない!」


 圧倒的な知略による、未来予知の如き先読み。

 ユリウスにとって、俺が聖剣を所持していることは知り得ない情報の筈だ。

 仮にそれを予測できたとしても、聖剣による筋力強化と共に放たれるのは、ラティウムの騎士が使う剣術では無い、初見の技。

 常人であれば、そこまでの先読みなど出来る筈が無い。そうなった際に、残された可能性は一つ。


「―――初日から、ずっと気になっていたんだ。マークの使う、ラティウムでは見たことのない剣技が」


 やや芝居がかったようにも聞こえる口調で、ユリウスは更に言葉を続ける。


「マークの使うその技の正体。……それは、失伝した筈の武神流だね?」


 ユリウスは、何故か俺が使う剣技の正体を知っている。


「……なんで、その名前を知っているんだ?それも、お得意の先読みか?」


 俺の使う技の正体は、武神流。

 かつて、このラティウムへ訪れた武神を名乗る流浪の剣士より伝わったと言うその剣技は、今や御伽噺のように語られるのみ。

 口伝のみによって伝承されていたその剣技は、より洗練されたラティウム騎士団の剣技が開発されたことによって、百年以上前に失伝している。


 5年前のユリウスとの模擬試合。それまで負け続けてきた俺は、どうにか勝つ方法を模索した。マルティネス家の所有する膨大な資料を読み漁り、ようやく見つけたのが武神流だった。とは言え、その剣技の全てを理解したわけでは無い。剣術指南書から御伽噺まで、何千と言う書物を読み漁り、ようやく見つけたのは、たった七つの型のみ。

 そのうえ、これはあくまでも断片的な情報を繋ぎ合わせて再現したものに過ぎないものだ。

 だが、完璧に再現したわけでは無い当時の実力であっても、騎士団の剣技に慣れ切ったユリウスの不意を打って勝利するには十分なものだった。


「―――その反応、図星だったみたいだね。私としても、その剣技に関しては御伽噺以上のことは知らないよ。ただ、5年前のマークは、うちの書庫に籠りっきりだった時期があっただろう?」


 そこから推測してブラフをかけたにすぎないよ、と言うのがユリウスの弁。

 つまりは、まんまと俺は釣られたらしい。

 だが、俺が武神流を使うことが分かったとしても、その技までは知らない筈だ。

 俺が継承の儀で見せた武神流の型は、先程の上弦の月を合わせても四つ。まだ見せていない残り三つの型であれば、ユリウスの不意を打てる可能性は高いだろう。


「……剣よ、光を!」


 確実に当たる状態で技を放つためにも、隙を作るしかない。

 俺は、右手に構えた聖剣へ、再び魔力を注ぎ込む。

 そして、魔力を込められた聖剣は、陽光の如き強烈な光を放った。

 これこそが、聖剣クラウソラスの持つ、二つ目の能力。本来この光は、死霊系の魔物に対する浄化を目的とするものだ。だが、俺はあえて、魔力を消費してでも、この力を目潰しのために使う。

 これまでの試合の中で、同様の目的でダイモスによって使われたのは、煙玉と砂というシンプルなアイテム。そして、先程見せた筋力を強化すると言う特殊効果。

 仮にクラウソラスが複数の能力を持っていたと予測したとしても、不意の閃光に対処ができるだろうか。少なくとも、同じことをやれと言われても俺にはできない。


「―――この状況。マークなら、絶対に私の死角を奪ってくると思っていたよ」


 剣に魔力を込めた時間も、そこから光が放たれるまでも一瞬の出来事に過ぎない。

 だが、ダイモス戦での経験を経て、ユリウスはこちらの行動を予測していた。未知の技を防いだ俺が、隙を作るために相手の視界を奪うことを。

 だからこそ、光が放たれる寸前、ユリウスは腕で両目を覆うことが出来た。


「こっちだって、防がれることは前提だよ……ッ!」


 それは、相手がユリウスだからこその信頼にも似た何か。

 不意打ちに次ぐ不意打ちを受けてなお、それを防ぐだろうと言う予測。

 クラウソラスの強烈な閃光を近距離で防ぐ為には、必ず物理的に視界を覆う必要がある。

 だからこそ、その数秒にも満たない瞬間だけ、ユリウスには隙が生まれていた。


「……壱の型、新月ッ!」


 武神流の剣技の中でも最速の居合斬り。

 目にも留まらぬ速さで放たれる神速の剣が、彼の身体を捉えた。

 今度ばかりは、ユリウスとて避けられない。俺の振るう聖剣が、白銀の鎧を襲う。

 この剣の切れ味を以てしても、軽鎧すら斬り裂くことはできない。だが、正面を切って攻撃を喰らえば、その衝撃まで殺すことは叶わない。

 無防備に後方へとバランスを崩した彼に追撃を加えるため、俺は更に距離を詰める。


「……生憎、私もここで勝たなければいけないんだ!」


 まさに、不意打ち。

 後方へとバランスを崩しながら無理やりに放たれたのは、投擲。

 ユリウスは、唯一の武器であるその片手剣を、俺に向かって・・・・・・投げつけた・・・・・


「―――なッ……!それは、悪手だろ……!?」


 不意打ちとは言え、流石に無理な体勢から投げられた剣の投擲くらいは躱すことができる。いくら俺から距離を離したところで、唯一とも言える武器を失ってしまえば敗北一直線だ。こちらの後方へ落ちた剣を拾わせなければ、俺の勝ちではないのか。

 だが、こんな無意味な悪あがきを、果たしてあのユリウスがするのだろうか。当然の如く、剣を失ってなお俺に勝てる何かを用意している筈だ。それは一体……。


「今度は、こちらの番だ―――」


 ユリウスの目的は、俺を困惑させて体勢を整える時間を作ること。

 そして、真なる目的は、自身の持つ切り札の準備・・・・・・を整えること。


「……神に捧げるは我が魔力ちしお


 ユリウスが口にしたのは、魔法の詠唱文。

 それも、この状況を打破することができる程の、強力な魔法。

 いつの間にか、ユリウスの手には短刀が握られていた。とは言え、それは武器にはなり得ない祭礼用の飾り剣だ。こちらの攻撃をいつまでも受けることは叶わないだろう。


「……主よ、今このひと時、我が難敵を打ち倒す剣を与えたまえ」


「最後まで、詠唱させてたまるかよッ……!」


 俺は、なおも詠唱を続けるユリウスへと斬りかかる。

 だが、何度攻撃を加えても、彼はそれをギリギリで回避していた。

 単純なスピードなら、こちらが上回っている。それにも関わらず、俺の攻撃が躱され続ける理由は、彼が持つ未来予知のような先読みに他ならない。


たまわりし神授の光剣、眩い閃光と共に汝へ試練を与えん……!【聖剣円舞ホーリーワルツ】ッ……!」


 幾度と仕掛けた攻勢を経てなお、詠唱の阻止は間に合わない。

 ユリウスが詠唱を終えると同時に、彼の周囲へ無数の剣が浮かび上がった。

 煌々と光を湛えるその剣は、決して幻覚ではない。

 ユリウスの魔力を糧に形作られた光剣は、その全てが実体を持つものだ。


「聖剣よ、我が敵を貫け―――」


 ユリウスの声に呼応し、光の剣が次々とこちらへ放たれる。

 数えるのも馬鹿らしい程に生み出されたその剣は、まさに無尽蔵とも言える程の質量攻撃。全てを躱し続けることなど、到底不可能だ。

 俺は、迫り来る光剣を、時に剣で跳ね返し、時に受け流し続けた。

 だが、無限にも似たその波状攻撃に、俺の身体は徐々に傷つけられていく。


「……どこまでも恵まれやがって!……聖剣よ、光をッ!」


 闘技台の上を全力で駆け回りながらそれを放ったのは、焦りからか。

 それとも、少しでも時間を稼ぐ算段だったのだろうか。

 明らかに劣勢の状態で放たれた一手。

 その上、既に目にしているその閃光を、ユリウスが対応できないわけが無い。


「同じ技に対応することほど、容易いことはない……!」


 俺が持つ聖剣の放った閃光を、ユリウスの光剣が斬り裂いた。

 まさに、一閃。光を斬るという離れ業。神にも等しい所業と言えるだろう。

 圧倒的な技量を見せるユリウスへ、苦し紛れに放ったこの一手。

 だからこそ、絶対に対応・・・・・してくると・・・・・言う確信・・・・


「……そう、兄貴なら絶対に対応してくる」


 ここまでの戦いで、ユリウスの力量は分かっているつもりだ。

 騎士として、圧倒的な剣の技術。

 そして、相手の実力を正確に把握することで行動を予測する、未来予知の如き先読み。

 だからこそ、あえてそれを放つ・・・・・・・・


「―――武神流、奥義。十六夜いざよい……ッ!!!」


 俺が見つけた武神流の型は七つ。そこに、この技は含まれていない。

 正確には、武神流ですらない。俺がこれまで学んできた剣術、冒険者として得た経験値、成長する中で覚えた光魔法。全てを糧に編み出した、俺だけの奥義。


 光魔法の応用により、太陽光を屈折させて姿を隠す。

 そこから放たれた、完全に不可視の一撃。絶対に、見える筈はない。

 盗賊シーフとしての経験を活かし、気配も念入りに消した。

 どれほど先読みをしようと、俺はその裏をかいて一撃を叩き込んで見せる。


「……魔法による撹乱に初見の技を被せるつもりか。だが、所詮は付け焼刃に過ぎない!」

 

 見える筈が無い。予測できる筈も無い。

 だが、俺の持ちうる全てを賭けたその一撃さえ、ユリウスは受け止めて見せた。

 いや、受け止めたと・・・・・・勘違いしていた・・・・・・・


「―――騙し合い、先読み。それだけが、俺の取り柄だったんだ」


 これまで、俺の行動を予測し、全て上回って来たと言う事実。

 そして、これまでの戦い全てで完勝してしまったからこそ生まれた、ほんの僅かな油断。

 光の屈折で姿を消すなど、光魔法を使えるユリウスが予測できない筈が無い。

 だからこそ、あえてそれを実践することで、自身の予測が的中したと勘違いさせる。

 ここまでの行動の全てが、俺の立てた作戦の一部に過ぎない。

 聖剣の能力に対応されることも、武神流の技を止められることも、焦って放ったように見えた二度目の閃光も。その全てが、この一瞬のためのブラフ。


「―――なん……だと……ッ!?」


 何重にも積み重ねたブラフと策謀。

 俺の奥義、十六夜は、姿と気配を消して不意打ちする技ではない。

 あえて姿を現して放たれた攻撃さえも、光魔法の応用によって生み出された幻惑。

 本命は、幻惑の剣の後に遅れて放たれる、真剣による一閃。

 騙して、油断させて、相手が勝利を確信した段階になってようやく成立するような、卑怯な技だ。だが、そんな中途半端なところまで俺らしい技なのかもしれない。


「こうでもしなきゃ、勝ち目がなかったんでな……」


 今度こそ、正真正銘の幕引きだ。

 倒れたユリウスの首元へと剣を突き付ける。


「……まさか、また負けるとはね。5年前と同じく、やはりマークは強いよ」


 そう言ったユリウスの表情は、なんとも晴れやかなものだった。

 ゆっくりと立ち上がった彼と、俺は固い握手を交わす。


「―――勝者、マーク・マルティネス!」


 審判の声が会場へと響く。

 だが、観客から上がったのは、歓声ではなく困惑の声だった。


『……おいおい、どうするんだ?本家の三人が、3勝1敗で並んでしまったぞ』


『いやはや、こんな状況がかつてあったのか?』


『順当にいけば、同率一位の三人で再戦だとは思うが……』


 観客達の困惑も最もなものだろう。何せ、これまで何度も行われてきた継承の儀の中で、三人が同率の成績だったことなど一度も無いのだ。

 過去の継承戦では、少なくとも一人は実力の抜きん出た参加者がいた。今回も、ユリウスかネロがその枠になり、最多勝利を挙げると思われていたのである。

 だが、そこに現れたダークホースこそが、5年前に出奔したきり行方不明だったと言う、本家の三男マーク・マルティネス。

 最大の障壁かと思われたネロすらも下し、無敗で次の継承者となるかと思われたユリウス。圧倒的な実力を見せていたユリウスに、俺は勝利してしまった。


「―――全員、静まれ!継承の儀の結果は、後日発表するものとする!」


 未だざわめく会場へ向けて放たれたのは、現当主であるロムルスの一喝だった。

 威厳を感じさせるその声は、次第に会場を冷静にさせる。


(残念ながら、唯一の最多勝利とはいかなかったが……)


 少なくとも、ユリウスやネロと勝利数で並ぶことはできた。

 正統な戦いをしてきたとは言えないが、実力を示すことはできただろう。


 だが、このままで終わる筈が無いのも事実。

 この継承の儀は、一体どうなるのだろうか―――


始めに、新たにブックマークを頂いた方、評価までして下さった方、本当にありがとうございます。

大変うれしく思います。


一応頑張って書いたのですが、戦いの際、不意を打って新技→対応される→更に上回る新技という展開ばっかりなことに気づいてしまって、自分の表現力の無さに絶望しそうでした。

マーク編ですが、残り1~2話で完結予定ですので引き続きよろしくお願いします。


次話に関しては、できるだけ早く投稿したいと考えていますが、目安はまた二日後の6/29(土)辺りの更新になると考えて頂ければと思います。


※6/29 追記

次話ですが、19時頃の投稿予定です

よろしくお願いします


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