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社畜・イン・ファンタジー ~異世界ブラック冒険譚~  作者: 揚げたてアジフライ
第五章 マーク・マルティネス

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第98話 決戦

前半の戦闘描写に関して、もう少し書きたかったのですがごめんなさい。



 継承の儀は滞りなく進み、すでに三日目に突入していた。

 本日も快晴。熱気に満ちた観客達は、第一試合をいまかと待ちわびている。


「流石に、今までで一番の盛り上がり方だなぁ……」


「まぁ、そりゃそうだろ。大半の観客にとっては、これが次期当主を決める戦いになると思ってるだろうしな……」


 ごった返す観客席に唖然とする俺に、マークはそう返した。

 ちなみに、昨日の試合で受けた怪我は、回復魔法のおかげでほぼ完治しているらしい。全くの無傷とはいかないが、少なくとも今日の試合には影響しない程度であるとか。

 だが、昨日の夜に宿に帰って来たマークの表情は苦々しいものだった。よほど敗北に対して思う所があったのだろう。肉体的な怪我よりもメンタル面の方が心配であるところだ。

 とは言え、この戦いに賭ける彼の想いを考えれば、そんな心配も不要であるとは思うが……。


 閑話休題。なんと言っても、今日の第一戦はユリウスVSネロだ。

 両者共にこれまでの決闘を、圧倒的な実力を披露して勝ち抜いている。

 そして、どちらも無敗。この試合に負けた側に、初の黒星がつく形になる。

 つまりは、この戦いの勝者は、次期当主かつ騎士団長の座に最も近づくのだ。


「事前評価はユリウスさんがやや優勢かしら?昨日の試合を見て、ネロさんが勝つと予想してる人もかなりいるみたいだけど……」


 新聞のようなものを眺めながら、そう呟いたのはクロエだ。

 今更になって知ったのだが、会場内では継承の儀に関する号外のようなものが配られているのだとか。初日からやけに出場者の前評判を気にしているとは思ったが、どうやらそれの影響だったらしい。

 その号外に記載されている市民へのアンケート結果によると、ユリウスとネロの得票率はほぼ互角。ややユリウスが優勢といった程度で、その比率に殆ど差は無い。


「この試合、マークはどう思う?」


「どうも何も、その記事の結果と同意見だよ。ユリウスの兄貴が優勢だとは思うが、これまでの試合の内容を見ると、どっちが勝ってもおかしくはない」


 当然と言えば当然の意見だ。

 ユリウスは純粋な剣技や知略に優れ、ネロは単純に身体能力や直感に優れている。単純な実力で言えば、恐らく互角。とは言え、ネロの全力は昨日のマークとの戦いで発揮されているようにも思う。となれば、同じく無敗で勝ち進んできた二人であっても、まだ実力の底が見えないユリウスの方が優勢ではあるだろう。


「……両者、構えて―――」


 審判の合図と共に、闘技台の中央で両雄が相まみえる。

 

 一人は、最も次期当主に近いと言われる男、ユリウス・マルティネス。

 白銀色の軽鎧ライトアーマーが陽の光に照らされ、一層の輝きを放っている。

 若くして騎士団の花形でもある第一部隊の隊長を務め、輝かしい結果を残してきた。

 騎士団内において、既に剣技で並ぶ者はおらず、聡明な頭脳も持ち合わせている。彼の知略により、騎士団の死者数は格段に減少したのだとか。

 清廉潔白、実力まで兼ね備える彼のことを信奉する者は少なくない。


 相対するは、騎士団随一の武力を持つと名高い男、ネロ・マルティネス。

 入団から五年余りで、立てた武勲の数は優に百を超えるとも噂されている。

 大剣に重鎧ヘビーアーマーという重量級の装備を持ちながら俊敏に戦場を駆けるその姿は、異質なものを感じさせる。力自慢の荒くれ者が集う第三部隊をしてなお圧倒的なその戦闘力は、まさに一騎当千。

 部隊長ながらに常に最前線で戦うその姿に、密かに憧れを抱く者も多い。


「……昨日からの連戦で、疲れてるんじゃないか?」


 不敵な笑みを浮かべ、そんな問い掛けをしたのはユリウスだ。


「……馬鹿野郎が。この程度で疲れてたら、第三部隊の野郎共をまとめられねぇよ」


 煽りともとれる彼の問いに、あくまでも冷静に答えるネロ。

 言葉通り、その表情には疲れの一片も伺わせない。


「―――始めッ……!!!」


 力の込められた開始の合図と同時に、大歓声が闘技場へと響く。

 割れるような会場の熱狂が、振動となってこちらまで伝わってくる。


「……出し惜しみはしねぇ!全力で行くぜ!」


 未だ止まぬ歓声に対抗するかのように、ネロが叫ぶ。

 重厚な大剣を軽々と振り上げて迫る彼の身体が、薄っすらと赤いオーラのようなものに包まれていた。

 その動きは、マーク戦で見せたものよりもギアが一段階上がっているように見える。


「なるほど、ネロも全力だね……っと!」


 迫り来る大剣の一撃は、すんでのところで回避された。

 繰り返される重撃を紙一重で躱し続けるその姿は、さながら猛牛と闘牛士。

 ユリウスが攻撃を回避するたびに、振り下ろされた大剣が闘技台を大きく削り取り、土埃がもうもうと立ち上がる。


(……あの攻撃的なオーラは、魔法なのか?)


 間違いなく、ネロの身体能力が大幅に向上している。破壊力も、瞬発力も。

 だが、あの一瞬で詠唱を終えられる魔法はあまり見たことが無い。

 俺の【硬化】や【挑発タウント】は能力がシンプルな分、詠唱も短いが、自身の身体能力を大幅に向上させるような魔法を、瞬時に発動させられるだろうか。


「……なるほど、あれはスキルの類か」


 詠唱無しでその効果を得られる方法は大きく分けて二つ。

 スキルの発動か、魔道具マジックアイテムの使用のどちらかだ。

 だが、魔道具の使用には、それ自体に魔力を注ぐ溜めが必要になる。

 となれば、ネロの身体強化の正体は、スキルで間違いないだろう。それも、強力かつ希少性の高い、固有ユニークスキル。


「正解よ。あの赤いオーラの正体は、彼の固有スキル【紅き闘争クリムゾンストラグル】によるものね。とは言え、私も詳しくは知らないのだけれど―――」


 俺の言葉に同調するかのように現れたのはエリスだった。

 そして、ネロが持つという固有スキルについて語ってくれた。


 彼のスキル、【紅き闘争】は、自身の感情を糧に身体能力を大幅に向上させる破格のスキルだ。怒りや闘争心を始めとする激しい感情をトリガーにして発動する。

 だが、シンプルながらに強力なその効果には、勿論デメリットも存在している。それは、疑似的にリミッターを外すかのような行為であるため、効果時間の後に反動が訪れるというもの。その反動は、数日間に渡って身体を動かすことができなくなるほどに強力。

 この試合が最後の戦いであるネロだからこそできる、捨て身とも言える戦法。

 スキルの効果時間内にユリウスを倒せなければ、そこに待つのは敗北のみ。


「このまま、場外まで押し出してやらぁ……ッ!」


 紅い奔流を纏うネロが振るうのは、鉄塊とも言える程の厚さを持つ大剣。

 スキルの効果で何倍にも跳ね上がった身体能力により、超重量を持つそれをまるで木刀かのように振るわせる。

 自身の体重を優に超える鉄塊が目にも留まらぬ速さで迫ってくるその異質さは、相対する敵を恐怖させるものだ。

 縦横無尽に振るわれるその剣閃は、無心で打ち込まれているようにも見える。事実、向上した身体能力の中で、ネロ自身も深く考えて攻撃をしているわけでは無かった。

 だが、それをカバーするかのように発揮されるのは、彼の持つ超直感。乱暴に振るわれているだけに見える大剣の一撃一撃が、常に相手の退路を潰すように放たれている。

 一発、二発と攻撃を躱すにつれて、ユリウスは闘技台の淵へと誘導されていった。


「―――悪いけど、こっちも負けられないんだ……!」


 これまで回避一辺倒だったユリウスが、剣に手をかける。

 まるで舞うかのように、紅き猛攻は受け流されていく。

 固有スキルの効果がどこまで続くのかは分からないが、このまま攻撃が当たらなければ、先に力尽きるのはネロの方だろう。


 だが、彼の顔に浮かぶ表情は、焦りではなく高揚。

 ユリウスであれば、この程度の攻撃を受け流すなど当然のこと。自身の奥の手である【紅き闘争】を披露してなお、完全な有利に立てないその実力の高さ。

 第二部隊で戦いに明け暮れる彼にとっても、久しく現れない好敵手。

 だからこそ、今の状況はネロにとっても想定の範囲内・・・・・・だった。


「……んなもん、こっちも同じだよ!オラァァァアアアッッッ……!!!」


 大きく後方へと距離を取ったネロが、雄叫びを上げる。

 そして、跳躍と共に放たれるのは、大剣による落下攻撃。

 純粋な筋力に加え、大幅に向上した身体能力。更に跳躍により上乗せされたその威力は、まさに一撃必殺。こればかりは、受け流すことも不可能。純粋な力の塊。

 だが、その大剣が狙うのは、ユリウスではない・・・・・・・・


「はっはァ……ッ!天地無用、ってか……!?」


 宙より振り下ろされた大剣の行く先は、彼の直下。

 もはや強大な質量の塊と化したそれが、衝撃と共に闘技台を砕く。

 そして、大剣の直撃地点を中心として、石畳が大きく捲れ上がった。

 文字通り、ユリウスの天地が反転する。回避のために闘技台から降りてしまえば場外負け。彼の実力をもってしても、大きく揺れ動く床の上で立ち続けることはできない。

 大きくバランスを崩したユリウスが、滑るように転倒していく。


「―――全て想定内、とは言わないが……ッ」


 俺達の目に映ったのは、不自然な形で体勢を取り戻したユリウスの姿。

 常人ではあり得ない動きだった。身体能力や技術では片付けられない、文字通り魔法のような動き。

 あわや、ユリウスの身体が床に打ち付けられるかと思ったその刹那。

 まるで逆再生でも・・・・・するかのように・・・・・・・、ユリウスの身体が浮かび上がったのだ。


「……それが、噂の魔剣か―――」


 魔剣フラガラッハ。

 マルティネス家に代々伝わるその伝説の剣は、持ち主の魔力を常に吸収し続ける。そして、持ち主に危機が迫った際に真の力を発揮し、主を救うと言われている。

 その真価は、因果律の逆転。直前に起きた事実を逆転させ、無かったことにする破格の力。

 つまり、フラガラッハの能力によって、彼は転倒するという因果を逆転させた。その結果として、ユリウスの身体は逆再生のように浮かび上がったのだ。


「―――とは言え、この短時間で私の魔力は枯渇寸前だ。ネロの奥の手がもう少し遅ければ、魔力切れで倒れていたのは私の方だった」


 これこそが、ユリウスがようやく見せた奥の手の一つ。

 少なくとも、これまでの二戦では、フラガラッハは持ち込んでいなかった。

 反則級の力を持つと同時に、膨大な魔力の消費という弱点を抱える魔剣。それを持ち込まなければ、この戦いに勝利できないと判断したのである。

 一歩間違えれば、敗北に直結する程のリスク。そのリスクを押してなお、ユリウスはこの瞬間を待ち続けたのだ。

 試合の展開を事前に脳内で構築し、魔力が枯渇する前に有利状況へと持ち込んだ。ネロの実力を正確に把握し、彼のスキルによって自身が追い込まれることまで考慮していた。まさに、未来予知と言える程の知略。


「―――ち、くしょう……が……ッ!」


 ネロの纏っていた赤いオーラが次第に薄らいでいく。

 そして、まるで力を失うかのように、彼はその場に膝をついた。

 【紅き闘争】の効果切れだ。その反動により、彼はもう動けない。


「……私の勝ちだ、ネロ」


「クソが、文句はねえよ……」


 剣を突き付けるユリウスを忌々しそうに見据えながら、ネロはそう呟いた。

 そんな様子を、固唾を飲んで見守っていた審判も、ようやく息をつく。


「勝者、ユリウス・マルティネス……ッ!」


 そして、一拍の間の後。

 同じく緊張の面持ちで試合を見守っていた観客達へ、勝者が告げられた。

 これまでとは違い、会場へ響いたのは歓声ではなく大きな拍手。

 それこそが、激闘を制したユリウスへ、そして、全力で戦い抜いたネロに対する最大の賛辞だった。


 マークに勝利したネロを、更に下したユリウス。

 結果としてギリギリのようにも見えた戦いだったが、全てはユリウスが描いた通りに進んでしまった。その事実は、見るものにとって、大きな意味を持つ。


 これで、次期当主はユリウス様で決まりだ。

 拍手に沸く会場の中、観客達は皆一様に、そんな空気を纏っていた―――




 ◆◆◆




 激闘の第一戦から少し間が空いて、第二試合の時間が訪れる。

 試合総数の関係上、今日はこれが最後の戦いになるらしい。


 ちなみに、ネロにより大破した闘技台は、それ程時間が掛からずに修復された。

 修復を行ったのは、どうやら騎士団の第四部隊らしい。

 騎士団の何でも屋のような役割とは言ったが、何でもやりすぎではなかろうか。


 まぁ、そんな事情はさておき。

 次に行われる試合のカードは、マークVSエリス。

 やはりと言うべきか、会場は少し冷めたような雰囲気だ。流石に、ユリウスとネロの試合を見た後ではそれも仕方のないことだろう。既に継承者をユリウスであると確信している観客にとっては消化試合のようなものだ。


 実際のところ、俺自身も同じような気持ちを抱いていた。

 だが、それはユリウスが次の継承者になると思っているからでは無い。

 俺には、マークが勝つという確信があったのだ。しかし、その理由も、エリスの実力を侮っているなどと言う理由では無い。


 第一戦目が終わった後のマークの瞳は、決して諦めて・・・・・・いなかった・・・・・

 彼は、明日に行われるユリウスとの決闘に勝つつもりなのだ。確かに、明日の試合にさえ勝てば、三人の兄弟が一律で3勝1敗で並び、三すくみの状態になる。そうなれば、継承の儀は一気に、フラットな状況へと持ち込まれる。

 だからこそ、エリスとの戦いを、マークは絶対に落とすことはできない。


「―――勝者、マーク・マルティネス!」


 期待通りと言うべきか。

 いや、彼の覚悟の賜物たまものと言うべきだろう。

 エリスとの試合はそう長く続かず、最終的にはマークが圧倒する形で幕を閉じた。


 試合の展開は、これまでとそれ程変わらない。

 序盤はエリスが持ち前のスピードで詰めてかかるが、徐々に純粋な実力差が現れ始め、マークが勝利する。だが、これまでと違うことが一点。マークの勝ち方だ。

 ダイモスとの戦い以上に、相手の行動を全て読み切った完勝。緻密な計略の上で相手の行動を誘導し、未来予知かのような行動予測を見せるユリウス。野生の超直感で相手の行動を感じ取り、回避するネロ。そのどちらとも違う、人読みの極致・・・・・・

 相手の能力を正確に把握し、思考や行動を全て読み解き、その全てに対応する。どれだけ不意を突こうと、新しい技を振るおうと先手を取られるのだ。戦う側からすれば、未来予知をされているように感じてもおかしくはない。

 誰よりもこの継承戦に、そして出場者へ向き合った彼だけだからこそ成し得た力だ。


『出奔していたとは言え、マーク坊ちゃんもやるもんだなぁ』


『一応、ネロ様以外には負け無しではあるし、明日の結果によってはひょっとするかもな』


『いやぁ、流石にそれは無いだろう。接戦だったとは言え、マーク様はネロ様に負けているからな……』


 試合を終えてなお、客席の反応は変わらない。未だに、誰もがユリウスの勝利を確信している。

 そのような空気を纏う闘技場を後目に、三日目が終了する。


 そして、継承の儀は、いよいよ最終日。

 舞台は最終局面へと移っていく―――



まず、色々と突っ込みたくなる内容だったかもしれません。本当にすいません。

勝敗以外の内容無しで書き始めたこともあり、どうしても無理やり感は出てしまったかもしれません。

いずれ加筆修正して少しでも違和感が無くなるようにはしたいと思います。


本編にも書きましたように、次回が本編の最終決戦になります。

流石に行き当たりばったりの展開は避けたいですし、丁寧に描写したいので投稿まで少しお時間を頂くかもしれません。どれだけ早くとも6/26(水)以降です。


また、もし新規で読んでくださった方がいれば、ブックマークや評価等を頂けると大変励みになりますので、是非ともよろしくお願いします。


※6/26 追記

本日は投稿できそうにありません。明日の夜までは投稿できるよう頑張ります。

遅くなって申し訳ないですが、よろしくお願いします。


※6/27 朝 追記

どうにか書き終わったので、予定を早めて本日12時頃に投稿します。



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