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社畜・イン・ファンタジー ~異世界ブラック冒険譚~  作者: 揚げたてアジフライ
第五章 マーク・マルティネス

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第97話 力量差

とりあえず、一日置きくらいのペースで投稿できているので良かったです。

今回は、マークの二番目の兄であるネロが主軸のお話になります。



 激闘の初日から一夜明け、ラティウム闘技場。

 二日目、最初のカードは、ネロVSマーク。

 マルティネス家の兄弟対決として、会場も注目の一戦だ。


「―――やぁ。隣、いいかな?」


 試合開始を待つ俺達に声をかけたのは、ユリウスだった。

 爽やかな笑みを浮かべる彼は、俺の返答を前に隣へと腰掛ける。


「……ユリウスさん!こんなところまで、どうしたんですか?」


 突然の来訪に驚いたのか、クロエがそう尋ねる。


「敵情視察、ってところかな。目下の所、私の最大のライバルになり得る二人だからね」


 ユリウスは、昨日の戦いで分家の二人に勝利している。

 となれば、残る二人の戦いは、ユリウスとしても注目するところなのだろう。

 少なくとも、この戦いの勝者が次期当主の道を一歩するのは間違いない。


「……おや、もうそろそろ始まるみたいだね」


 会場に鈍い銅鑼の音が響く。

その合図を皮切りに、二人の男が闘技台へと入場してきた。


「……両者、構えて―――」


 中央に立つ審判が声を上げる。

 向き合うのは、二人の青年。


 かたや、レザーアーマーを身に纏う軽装の青年、マーク・マルティネス。

 普段はニヒルな笑みを浮かべるその表情は、真剣そのものだ。

 腰に携えるのは、一般的なショートソード。

 つかに手をかけたまま、居合のような体勢を保っている。


 相対するは、くすんだ銀色の短髪に、精悍な顔立ちが印象的な青年。

 一般的な騎士のものより重厚な白い鎧に身につける彼の名は、ネロ・マルティネス。

 既に鞘から抜き放たれた大剣は、下段に構えられている。

 他の兄弟よりも鋭いその瞳は、マークのことだけを一点に見つめていた。


「―――始めッ……!」


 審判の声が会場へと響き渡り、歓声が場内を包み込む。

 そして、戦いの火蓋が切って落とされた。


「―――シッ……!」


 先に攻撃を仕掛けたのはマークの側だ。

 抜き放った剣による、下段から上段にかけての鋭い袈裟斬り。

 間髪入れずに、左右上下、目にも留まらぬ速さでマークが攻撃を続ける。

 巨大な剣を盾のように使いながら防御するネロに対し、鋭い連撃が続いた。


「なんか、違和感があるような……?」


 なおも続くマークの猛攻を前に、クロエが疑問の声を上げた。

 彼が用いる型は、騎士団内で一般的に用いられるオーソドックスなもの。

 その練度と速度に感心する者はあれど、疑問を持つ観客は誰一人としていない。

 そう、俺とクロエの・・・・・・二人を除いては・・・・・・・


「……確かに、いつもと全然剣筋が違う」


 普段から彼の戦いを見ている俺達だからこそ抱く違和感。

 マークが放つ剣術は、不自然な程に正統。

 だからこそ、それに違和感を感じるのだ。

 普段の彼の剣は、研ぎ澄まされたものだ。だが、このような行儀の良いものではない。


「―――弐の型、朧月おぼろづき……!」


 念入りに見せつけられた、騎士としての剣技・・・・・・・・

 だからこそ、不意に放たれるその技に価値が生まれる。

 その身体が朧げに歪み、残像を生み出す程の高速移動。

 そして、その速度から放たれる、神速の剣閃。


「ぐうッ……!?」


 マークの片手剣が、ネロの纏う重鎧ヘビーアーマーに深い傷跡を刻み込む。

 分厚い金属の鎧は、どうにか彼の身を守りきっていた。

 だが、防御できずに攻撃を受けてしまっては、その衝撃までは殺せない。

 ネロの身体が、バランスを崩して大きく後方へと揺らぐ。


「……だが、浅ぇ!」


 常人には理解不能。

 大剣を抱え、重鎧を身に纏う彼が、後方へと宙返りした。

 バランスを崩して転倒する筈だったネロは、まるで曲芸師のように着地する。


「てめぇは、猿かよ……!」


 まさに想定外の動きに、驚愕の声を上げるマーク。

 もし、あのまま彼が転倒でもしていれば。

 マークはそのまま距離を詰め、勝敗が決まっていた筈だ。


「……甘えンだよ。それが何かまでは知らねえが、お前が不意打ちしてくるのはこっちも予測してんだ。卑怯なお前のことだからなぁ!」


 まさに、一転攻勢。

 これまで静かに受けの姿勢を保っていたネロが、大きく斬り込んだ。

 必死の形相で、その重撃を躱し続けるマーク。

 剣を使って受け流すことすらできない、圧倒的な力量差。それは、技術や経験値の問題ではない。

 高い剣の技量を持つマークが回避するしかない、単純な筋力の違い。

 マークが攻撃を躱す度、振り抜かれた大剣が闘技場の石畳を砕く。


「―――ちょっと!防戦一方じゃない……!」


 思わず身を乗り出しながら、クロエは焦ったように叫んだ。

 マークとて、回避だけに集中しているわけでは無い。打開の一手を考えている筈だ。

 だが、単純に、通用する手札が少ないのだろう。

 

 あの時マークの放った、朧月と言う聞き慣れない技。

 恐らく、ネロにとっても初見の技であった筈だ。

 不意に放たれた神速の一撃は、見事に命中。大きな隙を生み出す。

 その筈だった。実際に、攻撃は命中し、ネロは大きくバランスを崩している。


 だが、その先はマークにとっても想定外。

 あの一撃が、この試合の勝敗の決め手になるものであると考えていた。

 細かな作戦は他にもあれど、勝敗を決める程のものは他に無いのかもしれない。

 いや、あったとしても出せないと言うのが正しいところか。

 少なくとも、それを実行する以前に、ネロの猛攻を抜け出す何かが必要だ。


(魔法……は使えないか……)


 マークが使える魔法は二つ。【毒の牙ポイズンファング】と【聖縛鎖ホーリーバインド】だ。

 前者は相手を致死に至らしめる可能性がある以上、使うことはできない。【聖縛鎖】に関しては、それを使う以前に詠唱のための隙を作る必要がある。どちらも、今の状況を打破する手段にはなり得ない。


「鍵になるのは、マークが使うあの剣技になるな……」


 静かに試合を見つめていたユリウスが、そう呟いた。

 第一試合で見せた望月もちづきと言う技。更には、先程見せた朧月と言う技。

 騎士団内で用いられるものとは違うその剣技は、使うだけで大きなアドバンテージになることに違いない。

 事実、どちらの技も、試合の決め手になり得た剣技だった。


「とは言え、あの猛攻をどうにか止めないと、どうしようもないわけね……」


 ネロの攻撃は、力任せに打ち込まれているだけにも思える。

 だが、そうではない。

 武器の性質上、手数が多いわけでは無いが、一撃一撃に圧があるのだ。

 一見して乱暴にも見えるその剣戟は、相手の退路を潰すように放たれている。

 少なくとも、現状を打開できなければ、マークに勝ちの目は無い。


「―――ちょこまかと、うざってえな……ッ!」


 なおも回避を続けるマークへ向かって放たれたのは、横薙ぎの一閃。

 ここまでの猛攻とは異なり、今度ばかりは力任せの一撃だった。

 マークは、その隙を見逃さない。


「……伍の型、雨月うげつッ!」


 迫り来る大剣を回避したマークによる、高速の連続突き。

 決して重くはないその一撃も、重なることで次第に威力を増す。

 まるで、雨垂れも重なれば石を穿つと言わんばかりに。


「……畜生がッ!」


 彼の大柄な身体が、再び大きくよろめいた。

 今度こそ、試合が決するのか。誰もがそう思った。


「これでも、喰らえ……ッ!」


 あくまでも、念入りに。

 先程の想定外まで考慮したマークによる投擲。

 軸足へと向けて投げつけられたそのトリモチ・・・・は、ネロの足場を奪う。

 動きを大きく制限された彼に向けて、決定打となる一撃が放たれる。


 だが、そうはならなかった・・・・・・・・・

 更なる想定外。

 常人には避けられる筈もないその投擲を、ネロは躱していた。

 まるで、それすら予想していたと言わんばかりに。


「―――嘘、だろ……ッ!?」


 打開の一手は完璧だった。

 通常であれば、そのまま距離を詰めて攻撃するだけで良かった。

 それに対応されることまで考慮して、さらに不意打ちを加えた。

 だが、その不意打ちすら予測されていた。

 その予測は、経験や技術に裏打ちされるものでは無い。マークがダイモスに対して行ったような、人読みの類でもない。まさに、野生の勘としか言えない超回避。


 マークの頭によぎったのは、慢心の二文字。

 5年前の知識だけで、ネロのことを力だけの男と判断してしまっていた。

 その実力を侮っていたわけではないが、油断があったのだ。


 一瞬の困惑。だが、ネロの超直感はその一瞬すら見逃さない。

 気がつけば、もう避けられない位置まで、ネロの大剣が迫っていた。


「喰らえやぁぁぁあッッッ―――」


 騎士団随一の怪力である彼の放つ、全力の質量攻撃。

 ユリウスやエリスの攻撃と比べると、決して速いわけでは無い。

 だが、マークの隙を突くには、十分な速度の一撃。

 相手を殺さないために、あえて剣の側面で放たれたその攻撃は、結果として衝撃を倍増させることに繋がった。


「―――がはッ……!?」


 当然のごとく、防御する暇もなど無い。

 場外とまではいかずとも、マークの細身は大きく吹き飛ばされた。

 二回、三回と床へ打ち据えられたその身体は、既にボロボロだ。身体に力が入らない。視界が霞む。

 だが、これまでの冒険によって伸びたステータスのおかげで、辛うじて骨までは折れていない。

 まだ、動くことはできる・・・・・・・・


 自身の悲願のため、ここで負けるわけにはいかない。

 決死の表情で立ち上がったマークが、改めてネロへと向き直る。

 相手の表情も真剣そのものだった。そこに、これまで自身のことを馬鹿にしてきたネロの姿は無い。

 これが最後の攻勢になることは自分でも理解していた。持ちうる全ての力をもって、再び駆け出すマーク。

 文字通り、全身全霊。これこそが、自分の持つ最大の技。


「―――それでも、俺の勝ちだ」


 マークにより放たれる、全身全霊の奥義。

 彼が研鑽により手に入れたその一撃は、ネロの重鎧すらも貫いた。

 そう、それが発動さえしていれば・・・・・・・・・


 しかし、マークの技は剣を振るう前に止められていた。

 手負いの状態でなければ、純粋な速さはマークの方が上だった。

 直前に受けた一撃さえ無ければ、勝ったのはマークの側だっただろう。


 だが、ネロはここまでの戦いの中で、相手への認識を改めている。

 ここで賭けて来るのであれば、自身の知らない技が放たれるであろうことまで直感していた。だからこそ、技が放たれる前に潰した。そこに、一切の油断は無い。


 振り抜く前の片手剣を払いのけ、無防備な身体へと放たれた大剣による一撃。

 今度こそ、全力で放たれたその攻撃は、マークの意識を奪うには十分なものだった。

 既に、彼の体力は限界だった。マークの身体が、ばたりと床へ倒れる。


「……お前は強い。それだけは、認めてやるよ―――」


 大剣を背負い直し、闘技場を後にするネロ。

 その後、決着の審判が下され、会場は歓声に包まれた。


「剣の技量だけで言えば、マークが勝っていたんだけどね……」


 担架で運ばれていくマークの姿を横目に、ユリウスはそう話す。

 だが、試合は技術だけでは決まらない。勿論、力だけでも。

 一見すると、ネロがマークを圧倒したように見えるだろう。

 しかし、内容だけで言えば、マークの策は相手を上回っていた。

 今回の戦いで明暗を分けたのは、彼の中にあった小さな慢心の種。

 

 次に戦う機会さえあれば、どちらが勝つかは分からない筈だ。

 少なくとも、俺にはそのくらいの接戦を演じていたように見えたのである。




 ◆◆◆




 激闘から少し間が空き、次の試合が始まった。

 医務室へと運ばれたマークは既に意識を取り戻しており、この後の試合にも特に問題なく参加できるようだ。まだ治療が残っているらしく、しばらくは戻れないらしいが……。


 心配である気持ちはあれど、頭を切り替えよう。

 二日目の第二戦は、ネロVSエリスのカードだ。

 力のネロと速さのエリス。純粋な実力はネロが上回っているとの評価ではあったが、決してエリスに勝ち目がないという訳ではない。

 可憐な容姿のエリスには市民のみならず騎士団内でも人気があるようで、そう言った意味でも注目の一戦であった。


「―――勝者、ネロ・マルティネス……!」


 だが、実力は覆らない。

 エリスも善戦はしたものの、あっさりと勝敗は決した。


 持ち前の速さを活かし、やはり序盤は優勢のエリス。

 しかし、決して威力が高いわけでは無いその刺突では、ネロの重鎧を貫くことはできない。

 仕方ないとばかりに、エリスが戦法を切り替えたのが運の尽きだった。


 ユリウスにこそ及ばないものの、ネロの剣技は騎士団の中でもトップクラス。

 シンプルな剣技で、エリスが勝ちうる未来は無い。

 勝ちを狙うのであれば、得意分野で勝負を続けるしかなかったのだ。

 だが、ユリウス戦での敗北を経て、その特技に僅かな疑問が生まれてしまった。


 大剣と細剣。大柄な男と、華奢な女騎士。

 明確な筋力差が、打ち合いの中で次第にエリスを追い込んでいく。

 そして放たれる、ネロによる渾身の一撃。

 あまりにも重すぎたその攻撃は、易々と彼女を場外へと吹き飛ばした。


『やはり、単純な筋力だけで言えば、ネロ様に並ぶ者はいない……』


『ああ。いくらユリウス様とて、あの攻撃を喰らってただでは済まないだろう』


 二試合連続で見せつけられた、ネロの圧倒的な力。

 策も速さもねじ伏せるその純粋な力に、観客は魅了されているようだ。


 そして、更に時間が経ち、舞台は夕暮れの闘技場。

 本日最後の試合として行われるのは、ネロVSダイモスによる一戦。

 とは言え、マーク戦、ユリウス戦での連敗を受け、既に観客はネロの圧勝を予想していた。

 これまでの試合とは異なり、観客席にはぽつぽつと空席すら見える。


(とは言え、俺も同意見だけど……)


 ダイモスの実力は、決して低いものでは無い。

 むしろ、偵察や調査を主に行う第四部隊の隊員としてはかなり優秀な人材だろう。

 だが、騎士として、純粋な戦いになってしまえば、どうしても他の候補者に劣ってしまう。

 自慢の策謀さえ、マークやユリウスには通用しなかった。


 その結果を受けてのことなのか。

 ダイモスは、試合が始まるなり、ネロを言葉で大いに煽った。

 怒りにより平静を失わせ、戦いを有利に進めようと考えたのだろう。


 しかし、その結果は散々なものだった。

 確かに、短気な性格のネロは、見事にその煽りで憤った。

 だが、それで平静を失う程に愚かではない。彼も、第三部隊を率いる部隊長なのだ。

 その程度の煽りは、戦場でいくらでも受けてきた。

 

 むしろ、連敗によって平静さを失っていたのは、ダイモスの方だったのかもしれない。

 不用意に近づいた彼を待っていたのは、ネロによる手痛いお仕置き。

 全力で振るわれた大剣は、これまでのどんな一撃よりも重い。

 その一撃をモロに受けたダイモスは、場外の壁へと打ち付けられ、気を失った。


「―――馬鹿が。お前レベルの小細工で、俺に勝てると思うな」


 吐き捨てるようにそう言って、ネロは会場を背にする。

 その言葉には、どこかマークへの敬意のようなものを感じさせた。

 勿論、真意の程は分からないが……。

 

(マークに勝った時点で分かっていたけど、ネロさんも大概に規格外だな……)


 試合の合間に一時間程のインターバルがあるとは言え、ネロは本日だけで三連戦している。それにも関わらず、最後の試合まで疲れた様子すら見せなかった。

 やはり、単純な身体能力や体力だけで言えば、候補者の中でも頭一つ抜けている。


 明日の一戦目は、ユリウスVSネロ。両者共にここまで無敗だ。

 もしかすると、この試合が次の当主を決める、実質的な決勝戦になるのかもしれない。


 こうして、明日への期待を膨らませながら、継承の儀の二日目が終了した。


 あとから聞いた話によると、ダイモスは継承の儀に復帰できる見込みがない程の傷を負ったらしい。

 とは言え、身体的な怪我は回復魔法で復帰可能なレベルまで治療されているので、主に心の方に、ではあるが……。



ブックマーク、評価等を頂けると執筆の励みになりますので、よろしければそちらもお願いします。


次回投稿日ですが、恐らくまた二日後の6/24(月)になると思います。

シンプルに体力的な疲れがあるので、もしそれより遅くなってしまったらごめんなさい。

どれだけ遅くとも6/25(火)の夜までには投稿しますが、詳細はまたこちらに追記します。


※6/24 早朝 追記

ごめんなさい。投稿は本日夜になります。

色々と予定が立て込んでおり、全く書く時間を取れなかったので、時間は未定です。

午前中は時間があるので頑張りますが、お昼には間に合わないと思います。早くとも19時以降だと思っていただければと思います。

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