第95話 継承の儀
極力毎日投稿をしたかったのですが、遅れてしまい申し訳ありません。
時は経ち、いよいよ継承の儀の当日。
天気は快晴。舞台となるラティウム闘技場も、ラティウム市民や騎士団員で満員だ。
大規模な円形闘技場は、普段は記念式典や騎士団の模擬演習等で使用されるらしい。
「―――これより、マルティネス家の次期当主兼、ラティウム聖騎士団長を決める継承の儀を執り行う!」
現当主であり、聖騎士団長でもあるロムルスが開催を宣言した。
それに呼応するように、観客達の大歓声が響き渡った。
「……いよいよ、か」
俺の隣で、マークがぽつりと呟く。
現在、俺とクロエは、マークの控室を訪れていた。
各候補者につき一室が貸し与えられており、セコンドのような役割として、関係者2名までの入室が認められている。
「何よ、まだ緊張してるの?特製ポーションは効いたでしょ?」
「……ああ、効いたよ。色んな意味でな……」
「ははっ……一応、効果は保証しておくよ」
「まぁ、少なくとも目は覚めたよ。集中できそうだ」
「……えぇっ!?それしか実感できてないわけ!?」
何やら不満げに声を上げるクロエをよそに、俺とマークはルールの再確認を行うことにした。
ルール自体は、事前にマルティネス家の執事であるジェバンニ氏から書面で伝えられている。
まず、継承の儀は継承権を持つ者同士の決闘で勝敗を決める。
数日間に渡って開催され、総当たりのルールで最も勝ち数が多かった者が筆頭後継者となる。
継承の決闘へ参加できるのはマルティネス家の血族から選出された候補者だけではあるが、領主を決定すると言う事情もあり、決闘自体は一般市民も観戦することが出来る。
使える武器は剣に類するものであれば、大剣でも片手剣に限らず、刀や短剣であっても使うことが可能。戦闘の補助として、魔法の使用も認められている。
また、相手の命を奪うことは禁止だが、それ以外はどんな戦法を使っても良い。
不慮の事故であると判断された場合を除き、相手の命を奪った場合は、その時点で失格となり、それ以降の決闘に参加することが禁じられる。
戦法は自由と決められているものの、市民から好まれるのは正々堂々とした騎士らしい戦いであり、邪道と呼ばれるような戦法を使った場合は観客達から非難の声が上がる。
勝敗の判定は、相手が意識を失う等して戦闘不能の判断が下されるか、片方が戦闘中に棄権する等した場合に決定する。また、闘技台の場外に出た場合も敗北の扱いとされる。
「―――つまりはまぁ、剣さえ使っていれば殺し以外なんでもアリってことだな」
「……でも、ダイモスは何かしらの手段でマークを殺そうとしている」
「あぁ、どんな手段を使うのかは分からないがな……」
ダイモス・アーレウス。
かつてはマークに憧れていたものの、マルティネス家を出奔したマークに失望し、並々ならぬ憎悪を抱く男。
「少なくとも、マークを事故に見せかけて殺すことができる何かを持っている」
「……そもそも、その噂が間違いだったってことは無いわけ?エリスさんも、何か勘違いしてるとか……」
「ヨシヒロにも言ったが、あいつから聞いたならほぼ確実な情報だろうよ。ある意味で、一番気を付けるべき相手なのは間違いねぇ」
とは言え、と前置きをしてからマークが言葉を続ける。
「ダイモスが第四部隊で腕を磨いてきたと同時に、俺も冒険者として、盗賊として腕を磨いてきた。あいつの主戦場とも言える裏の世界と関わった経験だって、一度や二度じゃない。その分野で、遅れをとるつもりはねぇよ……」
確かに、その通りだ。
他の候補者達が騎士として腕を磨いている間、マークも冒険者として戦いの中に身を置いてきたのだ。俺達との冒険も経て、今やマークはグスタの街でも有数の冒険者。
優秀な盗賊でもある彼が、その点において引けをとることは無いだろう。
「……そろそろ出番みたいだな」
ざわめく会場の中、銅鑼の音が響き渡る。
これが、開始五分前を告げる合図だ。
「じゃあ、俺達は観客席に戻るよ」
「勢いを付けるためにも、初戦を落としちゃダメよ!」
「あぁ、任せとけ」
それだけ言うと、武器の手入れと道具の確認を開始するマーク。
既に深い集中状態にある彼の邪魔になってはいけない。
俺達は、ロムルスの計らいで用意してもらった関係者用の特別席へと向かった。
「―――絶対に、負けられねぇ」
静まり返った控室の中、マークのそんな声が重く沈んでいった。
◆◆◆
「―――両者、見合って!」
審判を務める騎士の声が、静まり返った会場を切り裂いた。
闘技場の中央で向き合うのは、二人の男。
一人は、銀色の髪を逆立て、革製の軽装備に身を包んだ青年。
5年前に出奔して以来、行方不明だったというマルティネス家の三男だ。
腰に携えているのは、王道とも言える片手剣。
静かに呼吸を整えた彼は、剣に手をかけたまま、開始の合図を待つ。
相対するは、赤黒い髪を揺らし、不気味に佇む青年。
夜闇のように黒いローブが、風の中で揺らめく。
同じく漆黒の刀身をたたえる短刀を抜き去り、逆手に構えている。
「―――始めッ!!!」
開始の合図と共に、静まり返っていた会場に大歓声が響き渡る。
「ヒヒ……まずは様子見……ッ!」
先行して動いたのはダイモス。
どこからか取り出した球体を、勢いよく床へと叩きつけた。
瞬時に白煙が立ち込め、闘技場の中央を埋め尽くす。
―――キィン!
白煙の中から勢いよく飛び出したダイモスが、マークへ斬りかかる。
「……煙玉か。想定通りだな」
マーク側も、予想していたとばかりに、背後からの攻撃を難なく受け止めた。
「風に飛ばされにくい、特殊な調合の煙玉さ。どこまで攻撃を捌き切れるかな……?」
再び煙の中へと戻り、姿を隠したダイモス。
そして、二度、三度と同じように攻撃を仕掛ける。
だが、近づく寸前まで視界を奪われているのは、どちらも同じであるはずだ。何故ダイモスはあの煙の中で自由に動けているのだろうか。
「―――おかしいわよ!アイツ、何か使ってるに違いないわ!」
眼前に映る一方的な展開に、思わずクロエがそう叫んだ。
何か使っている。それは間違いない。
それが、魔道具なのか、スキルの類なのかは分からないが。
だが、それでもマークは、死角から放たれる強襲を全ていなし切っていた。
まるで、全てが見えているとでも言わんばかりに。
「……皮肉なもんだな。俺とお前、生まれた家柄以外に違いはないってのに」
「その!しがらみから逃げたお前が!それを言うなあああああッッッ……!」
怒声と共に大きく踏み込んだダイモスによる、大振りの一閃。
力任せに振り抜かれた短剣の一撃を受け止めるも、威力までは殺しきれない。
その隙を見逃すまいと、空いた片手で投げられたのは、一握りの砂だった。
「……最初からぁ!こっちが本命なんだよッ!」
眼前へと勢いよく投げつけられた砂粒が、容赦なく視界を潰す。
不意打ちに次ぐ不意打ち。
これまで相手の行動を読み切っていたマークとて、流石に避けられない。
そう思っていた。
共に幾度となく死線を潜り抜けてきた、俺達さえ。
「―――何故だ!何故ッ!なんで、これを避けられるんだッッッ……!!!」
まさしく、間一髪。
首を大きく仰け反らせたマークは、砂の強襲すら回避していた。
「……言っただろう。俺とお前の違いは、家柄だけだってな」
「それが、なんだって言うんだ……!」
「だからこそ、分かるんだよ。お前の動きが、考えることが……」
文字通り、手に取るようにな。
最後にそう付け足したマークは、再び剣を構え、ダイモスに向き直る。
「―――ク、クク……。そうか、そうだよなァ!何せ、ボクは、お前に憧れた!お前の動きを真似ていた!それを突き詰めた!そりゃあ、お前に読み切られるわけだ……!」
やや大袈裟な程に、ダイモスはそう叫ぶ。
そして、ニヤリと。悪寒のする程に不気味に、口元を歪める。
「……だが所詮、お前の想像上のボクの動きでしかない」
そう言ったダイモスの周囲が、もやがかかったように歪む。
「大いなる水よ、我が魔力を糧に、この身を覆い隠せ……【霧の幻影】……!」
魔力の霧は、ダイモスの姿を、鏡張りの部屋のように周囲に映し出す。
まるで、ダイモスが分身したかのように。
光の屈折により生み出された分身は、その一挙手一投足を完璧に模倣する。
「……どうだ、これがボクの真骨頂。いくらお前でも、これは真似できまい!」
魔力の霧による影響なのか、ダイモスの声があらゆる方向から響く。
単純に視覚的なものだけであれば声で位置を判断できたが、これではそれも許されない。
「確かに、俺は水魔法なんて使えない。だから、【霧の幻影】を使うこともできねぇよ……」
だがな、と静かに呟き、さらに言葉を続ける。
「―――同じことができないとは、言っていない」
マークの魔力が光と化す。
周囲が歪む程に眩いその光は、次第にその身体を形作る。
そして、今度はダイモスの分身を取り囲むように、マークの分身が現れた。
それも、ダイモスのそれを軽く上回る程の数が。
だが、肝心のマーク本人は、闘技場の中央から動かないままだ。
本人の姿を歪めてその位置を隠す【霧の幻影】との、大きな違い。
「……どこまでも、ボクを馬鹿にしやがってえぇぇぇぇぇぇぇッ!!!」
客席にまで聞こえる程の音量で、ダイモスの怒声が上がる。
肝心のマークは、相変わらず不動。
そしてダイモスは、怨嗟に満ちた表情で、毒々しい色の短剣を取り出した。
「……まずいな、呪具か」
俺達の隣でそう呟いたのはユリウスだった。
敵情視察の意味もあるのか、いつの間にか試合を見に来ていたらしい。
呪具。聞き慣れない単語だ。だが、その字面から大体のことは想像はできる。
文字通り、呪いの込められたアイテムなのだろう。それも、所有者ではなく、それを向けられた相手に危害が及ぶ系統の。
それがどのような呪いなのかは分からないが、ダイモスが更に奥の手として取り出したものだ。
もし、あのナイフが掠りでもしたら、マークが圧倒的不利に立たされるのは間違いない。
「―――死ねえぇぇぇぇッッッ……!!!」
狂気に満ちた表情で迫りくる、無数の黒き幻影。
中央に立ち尽くすマークへと向けて、紫紺の短剣が襲い掛かる。
「……陸の型、望月」
瞬間、円形に銀の剣閃が煌めく。
迫りくる全ての幻影が、一刀の内に斬り伏せられた。
「―――ば、馬鹿、な……ッ!」
目を見開き、驚愕の声を上げるダイモス。
魔力の霧が晴れると同時に、静かに倒れ込んだ。
「俺とお前、違いは生まれた家柄だけなのにな―――」
静かにそう呟いたマークの表情は、憐憫に満ちている。
ややあって、口をぽかんと空けていた審判が、勝者を告げた。
「し、勝者……ッ!第一試合の勝者、マーク・マルティネス……!」
その結果に、驚きに満ちた歓声が響いた。
本家の人間とは言え、五年間も家を出奔していたマーク。
それが、完勝としか言えない程の圧倒的な勝利を挙げたのだ。
決して、両者共に王道と言える戦い方ではなかった。通例通りであれば、非難の声が上がってもおかしくはない。
だが、それを超える驚きが、この一戦にはあったのだろう。
『なぁ、マーク様、想像以上に強くないか……?』
『あ、あぁ……。あれは、ユリウス様やネロ様に届きうるかもしれんぞ……』
『何を馬鹿な……!まさか、正当に騎士として訓練してきたお二人が、負ける筈があるまい……!』
騎士団員達もそれぞれが思い思いの声を上げる。
だが、控室へと戻っていくマークの背中を見つめながら、俺は複雑な思いを抱いていた。
(家柄の違い、か……)
期待、憧憬、禍根、そして、怨嗟。
分家に生まれ、その上で更に第四部隊へと入隊したダイモス。
彼が受けてきた偏見や差別も、恨みを抱く程に憧れる思いも、俺には計り知れないものだ。
この家を取り巻くしがらみは、思っていた以上に深いものなのかもしれない。
だからこそ、現当主であるロムルスも、マークの勝利に期待しているのではないだろうか。
補足として、マークはダイモス以外を相手に、ここまで行動を読み切って勝つことはできません。
ダイモスを自身と重ねているからこその完勝でした。
この話以降、しばらく継承の儀が続きます。拙い文章ですが、お付き合いください。
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次話の投稿予定に関しては、6/19(水)の夜以降になると思います。
詳細な投稿時間が決まりましたら、またこの後書き欄に追記させて頂きます。
※6/19 追記
もし20時〜21時頃までに間に合えば本日夜投稿。
間に合わない可能性が高いので、その時間に投稿がなければ明日6/20の12時頃に投稿します。




