第93話 分家と本家
すみません
急遽予定が入ってしまい更新が遅くなりました。
しばらく継続して投稿したいと思いますのでよろしくお願いします。
騎士団の訓練所を離れた俺達は、分家へと向かっていた。
「あの姉弟は得意じゃないんだがな……」
「へぇ、どんな人達なの?」
「エリスの方は、今の実力は知らねえが、少なくとも5年前の時点では、俺達兄弟の誰より速い剣を使ってた。あいつからは、妙に気に入られているみたいで、よく稽古に付き合わされてたな……」
「速い剣か、なるほど……強敵だね。ちなみに、弟のダイモスさんの方は?」
「あいつはよく分からないってのが本音だな。昔から何を考えてるのか分からない奴だった。戦闘スタイルは、今の俺と少し似てるかもな……」
そんなマークの話を聞きながらしばらく歩いていると、正面から快活そうな声が飛んでくる。
「……マーク!久しぶりね!家を出奔したって聞いた時はどうなるかと思ったけど、少しは強くなったのかしら?」
コツコツと石畳を鳴らしながらやってきたのは、深紅の髪色をした少女だった。
歳はマークよりも少し下、20歳前後に見える。
バトルドレスとでも表現すればいいのだろうか。赤を基調とした、華美すぎない動きやすそうな軽装に身を包んでいる。
「はぁ……。元気そうで何よりだよ、エリス……」
「騎士団での噂によると、冒険者をやってたって聞いたけど?」
「あぁ、その通りだ。日銭を稼ぎつつ実戦経験を積むには、冒険者稼業はもってこいだからな」
「ふぅん、腕が鈍ってないと良いけどね……ッ!」
―――キィン!
瞬間、鋭い金属音が辺りに鳴り響く。
顔前に突き付けられた細剣を、マークがナイフを使って防いでいた。
「……あら、元より当てるつもりは無かったのだけれど?」
「ふん、お前の剣筋が見えないと思われるのも癪なんでな……」
事も無げに髪をさらりとかき上げるエリスに、マークも平然とそう答える。
二人とも当然のように会話をしているが、俺はそのやり取りに思わず圧倒されていた。
何せ、突然のこととは言え、俺にはエリスの剣筋が全く見えなかったのだ。
今まで多くの強者や強大な魔物と戦ってきた中でも、異質とも言える速さ。
明らかに、今まで見たどんな攻撃よりも速い。いくらエリスが力押しするタイプではないとは言え、速く、精密な攻撃は的確に相手の急所を突くだろう。
一撃のダメージが少なくとも、防御不能の攻撃を受け続けては、無事では済まない筈だ。
「……ま、いいわ。少なくともユリウスやネロと同じく警戒すべき相手っていうのは分かったから」
そう言ったエリスは、手をひらひらとさせながら、騎士団の修練場の方へと向かって行った。
「……ねぇ、アンタ、大丈夫なワケ?」
少し不安気な様子でそう尋ねるクロエ。
俺も同意見だった。冷静に振舞ってはいたが、マークとて、あの速さの剣を確実に止められるわけではないだろう。
「……ま、5年前から認識を改める必要はありそうだな。とは言え、俺も無策なわけじゃねぇよ」
「心配してないと言えば嘘になるけど、マークなら勝てるよ」
俺は、自分に言い聞かせるようにそう言った。
ユリウスとネロと同様に、エリスも間違いなく強い。油断はできない。
これで3人の候補者と出会うことができた。残るはあと一人だ。
「残りの候補者はダイモスだけだが……。こっちから探す必要は無さそうだな」
「……くくっ。お前、姉貴の剣を止めてはいたが、あれ、ギリギリだっただろう」
「うわっ、いつの間に……!?」
俺達の後ろから現れたのは、一人の男だった。
ややウェーブかった赤黒い髪は肩の辺りまで伸びており、漆黒のローブに身を包んでいる。その容姿も相まってか、騎士というよりは暗殺者のような雰囲気だ。
マークのことを凝視する暗い光を宿した瞳からは、今までの候補者達とは違った危うさのようなものを感じる。
「ヒヒッ、相変わらず、剣技も隠密も半端な奴だ……。お前程度なら、ボクでも楽に倒せそうだよ……!」
「はっ、その言葉、そっくりそのまま返してやるよ……!」
不気味としか言いようのないその姿に、俺は思わず息を飲む。
気を張っていない状況だったとはいえ、ダイモスは完全に俺達の意識の外から現れた。
少なくとも、マークと同等の隠密スキルがあると見て間違いないだろう。
「兎も角、本戦では必ずボクが勝つ。冒険者として多少活躍していたようだが、こっちは聖騎士団の隠密部隊として厳しい訓練を積んできた。付け焼刃の剣技や隠密スキルで、ボクを相手に無事でいられると思わない方がいい……」
そんな言葉を言い残して、ダイモスはふらりと何処かへ去って行った。
明らかに正攻法で戦うような相手には見えなかったとは言え、相手は騎士団の隠密部隊に所属しているときた。
いくらマークがその手の戦法に詳しいとは言え、相手はその道のプロ。油断は出来ない相手に間違いない。
「恐らく、純粋な剣技では俺を含めたどの候補者よりも格下だろうが……。それにしても、隠密部隊ときたか……」
ダイモスが去って行った方を見つめながら、ぽつりと、マークがそんなことを呟く。
「聖騎士と隠密部隊って真逆のイメージに感じるけど、どういう部隊なの?」
「まぁ、そのイメージも間違っちゃいないな。とは言え、相手の情報収集や偵察も作戦実行の上では重要な要素だ。まぁ、それだけでは無いのが厄介なところだが―――」
ラティウム聖騎士団、第四部隊。
情報収集から偵察、敵方の暗殺までこなす何でも屋。
個々の戦闘能力は他の部隊より低いものの、隠密能力に長けており、長い歴史の中で騎士団を陰から支えてきたのだという。
ただし、相手を倒すために手段を選ばず、罠や毒物から暗器、不意打ち、目潰しまで、勝つためには何でも使うというその姿勢から、第四部隊を忌避する者も多い。
特に、マークの祖父であるマルスのような、古き良き騎士道精神を求める陣営からは、部隊を解体すべきであるとの声も上がっているのだとか。
「―――とまぁ、第四部隊についてはこんなところだ。案外、俺が出奔しなければ、この部隊に所属していたのかもな……」
少し考え込むように、マークはそんな言葉を漏らした。
つまり、ダイモスはマークがマルティネス家を出奔しなかった世界線の姿なのかもしれない。
だが、ダイモスが瞳に宿した仄暗さは、単に隠密部隊だからというわけでは無いように見えたが……。
「相手がアンタと似たタイプなのは分かったわ。でも、それ以上に、あの人はアンタを恨んでいるように見えたわ」
クロエも違和感を感じたのか、マークへそんな言葉を投げかけた。
恨んでいる。真実は定かではないが、確かに、そうとも思えるような視線だった。
「……恨んでいる、か。まぁ、あながち間違いじゃないのかもな」
「うーん、マークがダイモスに何かをしたとは思えないけど、過去に何かあったとか……?」
「俺個人が、と言うよりは、マルティネス家とアーレウス家の因縁みたいなもんだな……」
「因縁……?」
俺が上げた疑問の声に、マークが答える。
「馬鹿げた話なんだが、アーレウス家は、本家から格下のような扱いを受け続けているんだ。元はと言えば、同じ血筋なのにな。今でこそそんな考えを持つ人間は少なくなったが、うちの爺さん世代までは、排斥こそされていないが、相当酷い扱いを受けてたらしい」
苦々しい表情のマークは、更に言葉を続けた。
「俺に好意的なエリスが特殊なだけで、分家筋の人間は大半が本家の人間を憎んでるんだ。それこそ、殺したいくらいにはな……」
殺したいほど憎い。
そんな感情を抱いたことは無いが、あの仄暗い視線の意味は理解できた。
「……まぁ、俺だって今まで遊んできたわけじゃない。ただでやられるつもりはないさ。勿論、他の候補者たちの誰にも、な……」
「そうだね、俺には応援することしかできないけど……」
「ええ、本戦は二日後だし、せめて今日の夜はパーっと打ち上げでもしましょう!勿論、ヨシヒロの奢りでね!」
「……はは、そりゃいいな!人の金で飲む酒ほど美味いものはねえ」
「当然のように俺が奢る流れになるよね……。まぁ、それで少しでもマークの役に立てるなら、そのくらいするけどさ!」
茶化すように言ってはいるが、クロエなりの気遣いもあったのだろう。
マークも、心なしかいつもの表情に戻っているように見える。
(でも、どの出場者よりも、ダイモスには気を付けるべきかもな……)
人の恨みとは怖いもので、怨恨による殺人など、俺のいた世界でも枚挙にいとまがない。
どの候補者も強者揃いとは言え、気を付けるに越したことは無いだろう。
騎士団や、本家と分家というしがらみから逃れたようにも見えるマーク。
分家の出身や、隠密部隊であるということによって、騎士団の中でも疎まれる対象であったダイモス。
マルティネス家の3人の中でも、一番恨まれていてもおかしくは無いだろう。
これで、一応は候補者の全員と顔合わせを出来たことになる。
どの相手もそれぞれに得意分野が異なり、一筋縄ではいかない印象だ。
(せめて、明日のうちに候補者の情報でも集められればいんだけど……)
そんなことを考えながら、俺達は夕暮れの街へと歩を進めるのであった。
次話は間に合えば6/15(土)の夜、遅くとも週明けの月曜日までには投稿予定です。
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※6/15 追記
日中に執筆時間が取れなかったので、本日中に書き終わるとは思いますが、投稿自体は明日6/16の昼頃になると思います。




