プロローグ 終わりと始まりの通勤電車
6時45分の通勤快速。
当たり前のように遅延した電車に乗り、通勤ラッシュに揉まれる。
今日も、代わり映えのしない、いつもの一日が始まった。
「……チッ」
電車が揺れた拍子に隣の中年サラリーマンと肩がぶつかり、禿げあがった頭で朝日を反射する親父に舌打ちをされる。
なんとも理不尽だと思うが、相手をする気力すら使いたくない。
俺はスルーを決め込んで、目を瞑ってイヤホンから流れる音楽に集中する。
(めんどくせえ、この世の全てが……)
休日出勤上等、サービス残業当たり前の世界に飛び込んで3年目。
社会の厳しさと闇を見た俺は、心が折れかかっていた。
明日も明後日もその次も、寝て起きて、会社に行くだけの日々。
見送りもなければ出迎えもない、一人暮らしの部屋に帰るだけの、代わり映えのない生活。
いくら働いて給料を稼いだところで、それを使う時間も無い。
たまの休みと言えば、死んだように眠って夕方まで無駄に時間を過ごすだけ。
いや、わかってるさ……。
世間的に見れば、俺なんてまだマシな方。
きっと、本当のブラック企業に勤務してれば、こんなもんじゃないのだろう。
それでも、切に思うのだ。
いつか、何かのきっかけで、この代わり映えのしない生活に変化が訪れないものか、と。
◆◆◆
「き、急停車します!!」
いつもの気だるげなアナウンスとは違い、焦った様子の車掌の声が聞こる。
その瞬間、俺達の世界が反転した。
いや、横転した。
電車が傾くのに合わせ、俺達乗客も、倒れるような形で一斉にバランスを崩す。
―――キキィーーッ、ガガガガッ!!!
金属同士が擦れる嫌な音と共に、車内に轟音が響き渡る。
どうやら何かしらの原因で、急停車し切れなかった電車が激しく横転したらしい。
これはまずい。
電車のドアを開けるには、どこかのレバーを引っ張るのだっただろうか。
いや、それとも、バランスを取るために、どこかに掴まるのが先なのだろうか。
(とりあえず、安全の確保を……!)
そんなことを考える暇があったのかすら分からない程、一瞬の出来事だった。
更に大きな衝撃と共に、俺の視界は真っ暗になり、次第に意識が薄れいく。
(ああ、遅刻確定じゃねえか……)
最後に俺の頭に浮かんだのは、出社の心配だった。
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