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「なんだよ~アンタかぁ~!ビビって損したわ!!」


公爵令嬢ソフィア様はまさかの親友だった。なんか一緒に死んだらしいので、そのせいだろう。

互いに何故か名前は思い出せないので、現世の名前で呼び合うことにした。


そういえば一緒に温泉に行った。

「昼間から呑む酒サイコー!有給万歳!はっはっは人がゴミのようだ!!人いねぇけどな!海だから!!」

……などと(のたま)いながら、よく二時間ドラマで使われるという崖で調子に乗っていたのが良くなかったようだ。ふたりともベロっベロに酔っぱらっていたので、楽しい記憶で途切れているのがせめてもの救い。


「それは私の台詞だよ!私……悪役令嬢だよ?!記憶を取り戻して以来、ヒロインがどんな子か、断罪されちゃうのかとかって……戦々恐々として夜も眠れなかったよ!6時間しか!!」


相変わらずベタなボケだ。更にソフィアは「食事も摂れなかったよ!3食しか!!」と続ける。その懐かしさにおもわず涙が出そうになった。




悪役令嬢ソフィアたんは公爵家ご令嬢なので、寮は特別室で侍女も連れてきている。

私は入寮の際、密かに荷物に紛れ込ませた自領のワインを持ち出し、彼女の部屋で実に15年振りの宴会を行った。


「ていうかズルくない?私の方がこのゲーム好きだったのにぃ……ヴァレリーがヒロインで私が悪役令嬢とか…………あ!そういやヴァレリー、ゲームプレイ中私のゲーム機壊そうとしたよね!」


なんと彼女は未だにアレを根に持っていた。……時効だ、忘れろ。


「まぁいいじゃん、私がハーレムエンドを目指す様なヒロインじゃなかっただけ……それに元々推しは王子でしょ?順風満帆人生だな!!悪役令嬢のクセに!」


私がそう言うと彼女は「エヘヘヘへ」とだらしなく笑った後泣き出してしまった。既に酒が大分回っている。


彼女は非常に真面目な性格故に、『王子に相応しい自分』を課していた為ツンキャラになるという、とてもわかりやすい悪役令嬢ルートを歩んできたらしかった。


「拗れてるのぉ~!拗れてるのよぉ~!!今更素直に『好き』とか言えないわぁぁぁぁ!!」


「…………ドンマイ☆」


私が親指を立てていい加減に励ました結果、更に泣かれてしまった。……くっそウゼーなぁ!酒は楽しく呑むモンだぞ!


(そういやこういうヤツだったな……)


真面目でお人好しで誤解されやすい。好きになると一途だけれど、小さな事にくよくよくよくよ悩む……私とはかなり違うのに何故か気が合ったんだっけ。


私はなかなか他人を好きになることがない。そしてそれは異性に限ったことではなかった。 外面は良いのでその時々で友人はいたけれど、長い間、素の……性格が良いとはお世辞にも言えない私に付き合ってくれたのは彼女位なモンだ。


「……よっしゃ!オネーサンに任せんさい!!キューピッドになってやろうではないか!」


私は胸をドンと叩いて自信満々に言った。


「………………は?いや、いい、ヤメテ」


まさかの拒否。なんでだ。遠慮か。


「案ずるなかれ!こちとらヒロイン様だぞ?!」


「だから不安なんじゃないのおぉ~!殿下が貴女を好きになっちゃうかもしれないでしょぉ?!余計な事しないでぇ~!!」


また泣かれてしまった。

しかし私には勝算があるのだ。




ソフィアと違って酒に強い私は、彼女が潰れると隣の部屋で待機している公爵家の侍女の所へ赴いた。

流石に公爵家侍女は口が堅く、何を聞いても喋ってはくれない。教えてくれたのは彼女の名がアマンダという事位。アマンダは胡散臭そうに私を眺めていた。多分「酒くさっ」とか思われているので当然かもしれない。

なので兎に角一方的にひたすら喋る。

ソフィアが本当は可愛い性格なのはアマンダも当然解っているようだ。


「私の持ってきたお酒がなくなったから、明日新しいお酒を用意しておいて」


「仰っている意味が解りませんし、それに従う理由もありませんが」


せっかちなアマンダちゃんの為に私は理由を述べる。憮然としていたアマンダちゃんだが、最終的には半信半疑で了承をしてくれた。



次の日もしこたま呑んだ。

ソフィアは昨日より早く潰れた。



「…………ヴァレリー様の仰る通りですね……確かにコレはいけるかもしれません。不安も相応にありますが」


ドヤ顔で尊大に腰に手を当てながら、微妙な顔のアマンダちゃんを後押しする。


「ど~せ拗れてんでしょ?気にするなかれ!」


まだ躊躇するアマンダちゃんの決意を固めさせたのは、他の誰でもないソフィア自身だった。


「うぅ~ん…………ローレンス殿下ぁ……」


王子の名を切なげに呟きながら、頬に流れる一筋の涙。


「……わかりました。直ぐ様手筈を」


私はアマンダちゃんに親指をぐっと立てて、踵を返して自室に戻る彼女の背中を見送った後、ソフィアの目に光るモノに再び視線を落とした。


「あ~あ、勿体無い。そういうのは然るべき時にとっとけよな~」




ソフィアは酔うと素直になり、感情の起伏が激しくなるタイプだ。

なんだかんだ理由をつけて、二人きりで飲ませる機会を与えれば王子なんてイチコロである。


そもそも悪役なんてものは主役よりもデフォのスペックが高いモノな上、ソフィアはちゃんと愛情を以て努力もしている。これで心が動かないならそんな男、やめた方が彼女の為だ。それでも気が収まらないなら、ちょんぎってしまえばいいのだ。

……不敬で断罪されちゃうけどね!

こっちもちょんぎられちゃうよね!首とか!!




案の定、週が明けて登校すると二人はピンクのオーラを出しまくっていた。

ソフィアは頬を染めながら王子と話していたが、私に気付くと王子にお辞儀をして駆け寄ってくる。


「ヴァレリー!アマンダから聞いたわ!!貴女が……」


「いや、私の力ではない」


キリッとした顔を作って私は明言した。


「酒の力だ!」


「あ、うん……まぁ、そうね」


そこは否定しないあたり。流石私の親友だといえる。


「……でも貴女に好きな人ができたら協力する!絶対!!」


(……好きな人ねぇ……)


そう思うと、私の中に勝彦が出てきた。

勿論勝彦の顔などわからないので、浜ちゃんが扮した『日陰の忍者勝彦』の姿でだけれど。


(え?)


きゅん、と胸が締め付けられた。


脳内のヴィジュアルイメージは『日陰の忍者勝彦』なのにもかかわらず。


……あらやだ私、勝彦が好きなの?!


そう自覚した途端、胸が激しく高鳴った。


脳内のイメージはアレのままなのに!!


浜ちゃんは好きだけど……浜ちゃんも好きだけど、私……松ちゃん派なのに!!


「松ちゃん派なのにぃぃぃぃぃ!!」


私は赤くなっているであろう顔を両手で覆い、走り出していた。

50メートルを12秒で走る私だが、気持ち的にはウサイン・ボルト位の速さで走っている。




「…………松ちゃん派?」


走り去る私を眺めながらソフィアがそう呟いていた事は、私には知る由もない。

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