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祖父の死

作者:

 祖父が亡くなりました。


 母方の祖父で、今年になって施設に入り、つい先日病院に入院することになって、間もなく容体が急変したと連絡を受け、母が実家へ戻った、その日のことでした。母は間に合わなかった、と聞きました。


 先日、祖父の容体が悪い。長くは持たないかもしれないと連絡を受けた時、私は特に悲しみの感情は沸いて来ませんでした。歳も歳でしたし、施設に入ったことで気持ちが弱り、そのまま……という話も珍しくなく、そういうものかと納得していました。しかしそれでも、長くお世話になった大好きな祖父の危篤に、大した感慨も湧かなかった自分に、心底失望したものです。


 普段、漫画やラノベ、ギャルゲーをしつつ号泣していた自分が、自分にとっての現実、自分にとって確かな繫がりを失うことに涙を流せないとは、どれだけ薄情で、どれだけ残酷なことなのかと。そんな自分こそ、酷く薄っぺらく、無価値なものに思えました。


 しかし、実際の訃報を耳にした途端、何も言葉が出てきませんでした。部屋に戻り、座椅子に座り込んで、気付けば嗚咽を漏らしている自分がいました。


 なるほど。これか。


 自分で小説を書く時に、死を取り扱うことは少なくありません。身近な人が亡くなった。失意に沈む主人公やヒロイン。そんなシーンは山ほど書いてきたつもりでした。ですが、それはやはり、ただ文章の上で見たことがあるだけの、実感を伴わない紙のように薄っぺらい心理描写だったことがよくわかりました。


 どうやら、私はそれほど薄情でも、残酷でもなかったようです。それがわかって、しかしそのことを喜ぶような気持ちは一切沸いて来ませんでした。ただ、空虚な気持ちの中に、小さな納得を覚えるばかりでした。


 私は、父方の祖父母とは関りが薄く、昔から祖父母と言えば母方の祖父母を指す言葉でした。毎年のように会いに行き、高齢者特有の無理難題に煩わしさを覚えつつ、それでも一緒にご飯を食べに行き、「じゃあまた来年」。そう言って別れるのが毎年の恒例行事でした。


 また来年。また来年。そう言った去年の自分が頭の中をグルグルと回っています。わかっていたつもりでした。祖父母の歳を考えれば、「また来年」が果たされるかはわからないと言うことは。でもやっぱりわかってはいなかったのでしょう。後悔とも、未練とも違う、ただ薄ぼんやりとした重たい気持ちばかりが心の中を占めています。


 これが、遠く離れて暮らしていた祖父ではなく、本当に一生の大半を共に過ごした家族だったら。友人だったら。私は未だ独身ですが、将来、妻や子が出来、失うことがあったなら。果たしてどんな気持ちを私が抱くのか。ただ、今以上に強烈で、鮮烈で、思い出したくもないのに忘れられない。そんな気持ちであることだけは確かでしょう。


 もしも、こんな小説と呼べるかも怪しい、ただの感情の吐露でしかないものを読んでくれた小説家志望の方がいれば、頭の片隅で構わないので留め置いて欲しいと思う。物語を作る上で、きっと避けては通れないであろう「死」という概念。それが寿命であれ、病死であれ事故死であれ、その他どんな「死」であったとしても、それを扱う時に、ほんの少しだけでも躊躇いを持って欲しい。もちろん、それを書くなということでは決してない。ただ、その時感じたほんの少しの躊躇いが、その概念を正しく理解し、描写することに繋がると私は思う。


 それでは、この私の書き殴りにここまで付き合って下さった皆様。ありがとうございました。


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― 新着の感想 ―
[一言] お久しぶりです!再び読める時が来るとは! 今回の内容は自分もそういうことがあったから悲しいはずなのに泣くことはなかったけど急に死について怖くなって、また心にぽっかりと空いた感覚があったなぁ…
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