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クラス内ヒエラルキー


 平常通り静かに教室の引き戸式の扉を開くつもりも、予想以上に大きい音を立ててしまった。


 朝特有の喧噪の中、一瞬こっちに向けられる多くの視線。しかし直後には何事も無かったかのように、元に戻された。

 だけなら良かったんだけどな……。

 あの敵を見るような険しい目と期待外れみたいな目は本当にやめて欲しいね、上位の奴ら。ただでさえ急に気温が上昇して、暑さで気分がダウナー気味だというのに、余計イラッとくる。


 もう既に多くの生徒が登校していて、その多くが級友達とわいわい騒いでいる。


 俺は出来るだけ目立たないように真っ直ぐ移動して、窓側後方から二列目の席に座った。


 この空気が嫌で俺は時間を調整してギリギリに着くようにしている。もうじき始まる朝のホームルームを待ち望みながら、ただ窓のグラウンドを眺める。流石にこの時間生徒はいないけど。


 そうしているとガラっと扉が開いた。先生が来たと思って思わずそっちを見てしまうも、そこにあったのは汗だくのサッカー部、朝井の姿だった。


 その朝井におっすと挨拶する声が多数挙がる。その声の主達は全員顔面偏差値62以上のクラスでトップのグループ。つまりその輪に入った朝井も顔面偏差値70の上位者だ。そんな朝井は誰も聞いてもいないのに、今日からサッカー部朝練あってよー、とか自分語りを始め出した。そこには笑いが起きる。


 大きいあのグループが起こすあのどっとした巨大な笑いはそれだけでも、下位を突き放す威圧感がある。

 どんなに下位陣で楽しく笑い合って話をしていても、上位グループの笑いが起こると途端に静まり返ってしまう。どころか咳一つでしーんなんてのもザラである。

 なに、あいつら神様かなんかなの。息に沈黙の魔法でも込めてるの?


 まあ、俺はだからって一人だけ抵抗して騒ぐなんてことないんだけど。いや、出来るけどね。他の奴のことも考えてあえてなんだからね。


 まあでも、元々美を好むのは人間の本能。故に自分も美しくありたいと願い、数値なんて明確化しなくても、自分で勝手に他者と容姿を比較してしまうものだ。そこで自分が劣ってしまうと判断したものは、相手に対して下手になってしまうのも仕方ない。それが数値化されたなら尚更。

 だけど、結局俺はそんなの気にしないんだけどね。


 でも俺もあんな風にクラスで注目されることもあったんだよな。今では遠い昔のように懐かしい。


 中学時代の俺は、とびっきり明るくて友達が多いクラスの人気者。という訳では無かったけど、クラス内ヒエラルキー中間クラスのグループに属し、下位との交流もさることながら上位ともある程度はあったと言える程の交流は築いてきた。


 人付き合いが苦手な訳ではない。特に明るい訳ではないけど、人付き合いには困らないぐらいのコミュニケーション能力は持っていた。


 でもある程度自分のレベルにあった進学校だからと適当に選んで決めたこの高校に入ってから俺の立ち位置は大きく変わった。


 皆が皆はっきり名言された訳ではない。まさか一人ずつ、「お前の顔面偏差値は~だ!」なんて宣言された訳ではない。


 しかしそれでもそれぞれに顔面偏差値という数値がいつの間にか決められ、それが明確化されていない固定数値となり、それによってそれぞれの立場が決められた。


 それまでは顔も人に特に言われたことは無かったし、自分でも普通だと思っていた俺が与えられたのは、基準値以下の40。俺は必然的に弱い立場となってしまった。


 しかもまた40という数値が微妙過ぎるのも辛い。例えば20とか極端な数値。つまりはブサイクと言えるレベルだったりしたならば、これは敬遠されたり下手すればいじめに遭うなんていうリスクもあるが、逆にネタにされやすくいじられることもあるというメリットもある。


 実際偏差値26と認識されているガリガリ眼鏡の万田まんだを上位陣がいじって遊んでいるというシーンは度々見かける。

 後は女子の中でも、万田程では無いにしろ、眼鏡で地味めの顔をした認定偏差値30の雨川あめかわ光莉ひかりという子もたまにいじられている。


 そういうのは大体単なる笑い興しのオモチャにしか見られていないのが大抵だけど、そっちの方がまだ相手にされないよりはマシとも考えることが出来る。


 だが中途半端な俺の数値ではいじられることが無い。話し掛けられることもなければ、よっぽど必要な時だけしか話さない。


 だからこそ俺は既に開き直っている。

 あっちがその気ならこっちはもう知るか。関わる気が無いならこっちからも関わらないでやるよ。顔ばっかり見て俺の良さが分からないあいつらなんか気にするかっての。こっちはこっちで勝手にやるわ。


 大体対等な人間に見られず、ただの遊び道具として使われる生活とかどうよ。使いたい時だけ何でも無茶なことだってやらせといて、その上こっちが拒否したらノリ悪いとかつまらねえとか言ってきやがる。


 あいつら人権無視だよ。今時人権無視とか裁判ものだよ。何ですか、許されると思ってるんですか。だとしたら、とんだ古くさいお考えだこと。

 こっちは出るとこ出てやんぞ、あーん?


「おはよう、鹿川かがわ


 そんな思考に没頭していると、突然声を掛けられ我に返った。


「んっ、あっ、おはよう、二木ふたき


 たった今俺の右隣の席に座ったこいつは、二木勇也ゆうや

 柔らかな目付きと、現在進行形かつ大体笑顔の、俺から見れば充分にフツメンと呼べるこいつが与えられている偏差値は俺と同じ40。

 ちなみに万田とは同じメガネだが、片やガリガリメガネなのに対し二木は特に上位陣と会話をすることもない。このことからも、偏差値による立ち位置の差が激しいことは明確に分かる。

 だけど顔なんて関係なく、入学当初から気が合う為今ではこのクラスで一番仲の良い存在だと俺は思っている。


「凄い睨んでたね、あの人達のこと」


「えっ、あっ、俺睨んでたんだ」


 お互いに小声で話す。

 全然気付いてなかった。

 二木も気付いてないってどういうことだよと笑っている。


「まあ顔で判断とか腹立つよね」


「だよな。本当人間小さすぎだろってな」


 というか、人間でもないんだ。悪魔さ、悪魔なんだよ、奴らは。


「分かる、うん、分かるわ、それ。本当にやめて欲しいよね、あいつら」


 頷きは最大級ながらも、声は潜めて奴らに聞こえないように言った、こいつは橘朋香たちばなほのか。俺の前の席で、ぐいっと体を前のめりにして、話に入ってきた。

 ショートで活発スポーツ系女子といった感じで、実際ソフトボールでエースを張っているらしい。


 他の学校なら上位カースト間違いなしだが、ここでは与えられた偏差値41が災いして、下位グループに沈んでいる。


「ああいう奴は常に自分と他人を比較してんだよ。勝手に自分の中で相手と比較して相手を格下と見るや排除する。でもそれってあいつらの主観だけだろ? そんな曖昧な基準で自分が上って判断するって、自惚れ過ぎだろ。ナルシストかよ。だって私かわいいじゃんとか言う子ばりに痛々しいよ」


「あははー、確かに! ナルシストだよ、ナルシスト。鹿川おもしろー!」


 橘が笑い、釣られて二木も笑い出す。

 面白い、と言われると嬉しくなる。顔ばかり評価するこの学校にいる所為でもあるけど、単純に俺の人間性を評価してもらえたみたいで。

 勢いのまままた喋ろうと俺が口を開いた瞬間に、突如それは聞こえて来た。途端、俺達の顔から笑顔が消えた。


「アハハハハ」


 手を叩いて、人の迷惑など考えず思いっきり笑う上位陣。俺達の笑いはかき消され、自然と押し黙ってしまった。


 やべー、思わず俺も口を閉じてしまった。この雰囲気で改めて話し出すことは難しい。


 てかなに、あいつら。下品に笑ってんじゃねえよ。あとマジでうるさい。ゲラゲラゲラゲラ、あんたらそんなネカフェ好きなんですか。誰ですかー、あんな所に大量の騒音発生機置いた人ー。


 このまま騒音を聞くとストレスゲージが溜まっていくこと必至だったが、それはすぐに先生が来ることで何とか収まった。


 入ってきた若月わかつき先生は、歳も三十代後半に差し掛かかっている筈なのに、未だ若々しさ全開のハンサムな顔はいつも俺らに安心を与えてくれる。ちなみに顔面偏差値の設定は教師も例外ではなく、先生に与えられた偏差値は67。


 そのままいつも通りにホームルームが始まった。

 出席確認、今日の予定確認と進むと、その途中で突然ガラっと大仰な音を立てて扉が開いた。


「さーせん、遅れましたー!」


 入ってきたのは、白い歯をちらっと出しながら見せるハニカミスマイルが中々画になる、程良く日焼けした高レベルフェイスを持つ男。


 入ってくるや、周囲の奴ら、というより上位陣からよっ、とかおはよーとか声を掛けられることから分かる通り、上位グループに属する男の一人で、その顔面偏差値は75を誇りこのクラスのトップとなっている。


 しかし俺の時とは偉い反応の違いだな、このヤロー。分かってることだけど、改めて実感すると腹が立ってくる。


「おいおい、遅いぞ、高倉たかくら。今月で何度目の遅刻だよ。いくらホームルーム終わる前に来てるから記録上はセーフだっていっても、もっと早く来いって言ってるだろ」


「さーせん! 来年から頑張るんで許してください」


「そうか、許して欲しいなら明日から頑張れ」


 あちらこちらで笑いが沸き起こる。それはトップグループの大きな笑いだけではなく、偏差値平均以下のメンバーの抑えたような笑いもだ。


 上位陣に属する以上本来なら俺にとっても敵対する相手ということになるのだけど、あいつは他の上位の奴らとは明らかに一線を画すことがある。


 それは、上位陣にいながら下位に位置づけられた人間も下に見ない、誰とでも平等な態度で接すること。

 顔面偏差値なんて存在がまるで全く無いかのように分け隔てない。誰にでも話し掛けるし、話し掛けられたら明るく答える。だから、下位グループからも高倉を嫌いという声は一度も聞いたことはない。


「まあ、良い。ただ高倉、連絡はもう終わったから誰かに聞いとけよ」


「はーい」


 言いながら席に向かう高倉。おいーすと挨拶をしながら進み、着くと椅子に座った。

 と共に俺の前の席にドカンとエナメルバッグが置かれる音がした。

 

「おいーす、鹿川!」


 振り返ってから、快活な笑顔を携えてそう言ってきた。他の奴らにしたのと同じ挨拶だけど、明らかな相違点。そこには名前が含まれている。個人特定の挨拶。声も広範囲に届くのは当然で、視線が一瞬集まったのを感じた。

 はい、今の一瞬で「何でお前が……!」的な恨めしげな視線を複数頂きました。

 ……知るかよ。


 これが個人的、高倉宗治そうじの、最も特異な点。

 誰にでも分け隔てないのはともかく、何故か特に俺に話し掛けてくる。これは自意識過剰とかそういうことでは断じてない。

 今は席が俺の後ろだからっていうのもあるけど、席替えする前、つまり大分離れていた時から休み時間にわざわざ席に来たりなどして話している。

 話し掛けられて嫌な訳がない。実際話して、悪い奴ではないのは充分に分かっているし。……楽しいと感じる時もあるし。


 ただ毎回、この視線が付き纏う。何で人と普通に話してるだけであんな視線向けられなきゃいけねえんだ。あのまるで、王子と話す小汚い下級層の少年を見るような瞳。だから知らねえよ。


 いや、勿論俺の個人的見解であり誤っているという可能性もあるけど、ほぼほぼ間違い無い。実際そういうこと言ってるの聞こえたこともあったしね。そっちは聞こえてないつもりか知らんけど、こっちは聞こえてるんだからね! ……だからマジでやめろよな、そういうの。


 大体、大方話しかけてくるのはあっちからな上に、そもそも何でお前らに俺の行動を否定されなきゃならんのだ。


 ここは自由の国日本だぞ。

 あれも自由、これも自由。それもどれも何でも自由。縛られることなんて、憲法、法律、モラル、空気、時、場所、時間エトセトラ。あれっ、あまり自由なくね? 寧ろあら不思議、がんじ絡めだ! なるほど、これが言葉マジックか……。


 しかしそれでも我が国は国民全員、平等に自由権があり、精神の自由が明文化されている。憲法だぞ、偉いんだぞ、強いんだぞ! だというのに、何故咎められなきゃいけない。お前ら如きに文句を言われる筋合いなどない。どんだけ王様気分なんだよ。


 また朝から嫌な気分にはなってしまったもの、しかしそんなの高倉は関係ない。無視する訳にもいかず、とりあえず俺もおはようと一言返した。


「あっ、間違えた。馬鹿川だっけ?」


「あー、もうだからそれ忘れてくれって言ってるよな!」


 クックックと笑って誤魔化す高倉。

 何故話し掛けられるのなんか知らない。何でお前は俺に話し掛けてくるんだ、なんて聞くの気恥ずかしいし。

 ただ何となくあれか? と、思い当たる節ならある。


 ああ、思い出す。

 ――入学当初、行われたホームルームでの自己紹介。

 その頃は顔面偏差値なんて妬ましい存在を知らなかった俺は、ここで印象的な自己紹介でもして興味を惹こうとしていた。

 自分の番になり「名前は鹿川たけるです! 中学時代は馬鹿川ばかがわなんて呼ばれてましたけど、馬鹿川はあれなんで呼ばないでください」っと大声でアピールして、まずはここで小さくとも笑いを起こそうと、あるいは笑いは無くても少しでも興味を持ってもらおうとした。

 しかし、おかしい。全く笑いが起きないのもそうだが、真顔で見る者少数、残念そうにこちらを見る者少数、あとはちらっと見た後は全く見向きもしないもの多数。……やばい! これはスベッている!

 なっ、何でだ。「押すなよ、絶対押すなよ!」的な意味だよ! 呼んで良いんだよ! 寧ろ呼んでよ! 「呼ばないでって、じゃあ何で自分で言うの」的な疑問の目線はやめて! 

 ――と焦った俺は、「あっ、馬鹿川っていうのは、国語のテストで答え全部分かってたのに一問だけ漢字書き間違えちゃって、結果九十九点になってしまったってことがあったから、そのことで『お前馬鹿だなー!』って言われて、それからいつの間にか馬鹿川で定着しちゃって」と必至に説明するという始末。しかもそれにすら反応は無。とことん泥沼にハマっていった。


 そこまでですらうろ覚えだというのに、それ以降は頭が真っ白になり、汗を大量に掻きながら、動悸が激しく呼吸が荒くなったことしか覚えていない。うん、それ俺かなりやべえ状況だな。

 しかし、その後の休み時間、自分の席で精魂尽き果てていた俺に「よっ、馬鹿川」と愉しそうに話し掛けてくれたのが高倉だった。

 どうやら高倉は俺のPRをちゃんと聞いてくれていたらしく、その上「これからよろしくな、馬鹿川」と言ってくれたのはせめてもの救いになった。それ以降もクラス内でカースト制度が明確化される中、変わらず高倉は接してくれている。


 記憶を探っても、やっぱりあんな思い出したら悶え死にそうになる程、暗黒色に染まった負の記憶となっている自己紹介で、超奇跡的に高倉の心を掴むことに成功したとしか考えられない。


「で、香川県さー、」


「誰が香川県だ! 人の名前を勝手に都道府県の一つにしてんじゃねえよ!」


「いや、でもお前、香川、けんじゃん」


「なに勝手に人の名前読み方変えてんだよ! それタケルだって言ってんだろ、三十五回ぐらい!」


 いつもの流れで自然とツッコんでしまった。すると、さっきよりも甲高い声で笑い出す高倉。

 こいつサラッとボケるのが上手い。思わずこっちも自然とツッコんでしまう。ちなみに、回数の部分は十回目ぐらい辺りから言い始めて、実際やる度に数字を一ずつ増やしている。


「あっ、そっか、わりー、わりー。で、ケンさー、」


「分かった、分かった。お前に直す気ないのはよーく分かった。そして、最早俺の名前要素ゼロになっちゃったな」


 今度は腹を抱えて笑い出した高倉。それが騒がしい教室の中でも一際目立つ音となった為、再び視線が集まった。


 気になってふと辺りを見るとやはり何人かこちらを見ていたが、目が合うと視線を外していく者がほとんど。しかしそんな中、一人だけ視線を離さずこちらを睨んでいる奴がいた。寧ろこっちがビビって、目を逸らしてしまった。


 あいつは、このクラスでトップの顔面偏差値を持つ女子でその数値は75を誇る女子陣のリーダー格、佐土原さどはら亜衣あい


 とても小さく、個人的感想で言えば雑誌モデル級の顔、そしてその顔に塗られている筈の本人曰くメッチャ手を掛けてる(聞きたくもないのに声がでかいから聞こえてしまった)メイクは、変に目立ち過ぎず、だというのに元々美しく整った容姿を魅力的に見せるまさにナチュラルメイク。

 更に茶色に塗られ、背中まで伸びた髪も手入れされているのが分かるぐらい、滑らかで艶を放っているという、美に関しては認めざるを得ない存在。

 ほんと顔だけは良いんだよなー、顔だけは。


 恋愛の面の感情は知らないけど、少なくとも同じトップの数値を持つ高倉を気に入っているのは間違いなく、そんな高倉が俺と笑いながら話をしているのが気に入らないらしい。

 それでも女王のプライド故か俺に直接何か言ってくることは無いけど、俺をよく睨んでいる。……正直全くもって好ましくない。


「宗治ー、早くこっち来なよー!」


 高倉に呼び掛ける甘えたような可愛らしい声が聞こえたので、思わず反射的に再びさっきと同じところに視線を向けると、既に集まり直していた上位グループの中から佐土原が今度は高倉に笑顔を向けていた。

 うわお、変わるの早っ! そして、俺に向けた悪魔フェイスと今のエンジェルフェイスの差が酷い!


「悪い、俺ケンと話してるからさー、今は良いやー」


「えっ、あっ、そうなん? ふーん」


 言葉とは裏腹にどこか納得していない様子がビンビン伝わってくる。

 何で私達よりあんな奴を取るのよー! みたいな意志を感じる。ついでにまた睨まれた。

 おい、取り巻きどもとまた何話し出してんだよ。俺は何も知らねえぞ。俺の悪口言われても困るぞ。

 ついでに言えば、ケンなんて奴も俺は知らないぞ。


「ちょっと、万田きてー!」


「ひいいぃぃぃー!」


「なんか面白い話してやー」


「ひゃああぁぁぁー!」


 と思ったら、女王が万田を呼び出し、その万田が悲痛の叫びを挙げている。

 これはいつものパターン。どうやら腹いせに万田をいじめる、もといいじり倒す気らしい。そして素人にいきなり面白い話してという歴史上最悪の無茶ブリをかます。

 くそっ……! すまぬ、万田よ。俺の所為で犠牲になってしまうとは。許せ。この恩は一生返すこと無いけど。


「――で、話戻してケン、若、何か言ってた?」


「ああ、結局どこの誰だか知らないケンさんで押し通すんだ。……まあ、良いけど。で、何だっけ。ああ、五時限目と六時限目が入れ替わるって話と明日火災訓練やるって話ぐらいしかしてなかったかな」


 若とは若月先生の愛称。あの先生も割りと好かれていて、多数の生徒から親しまれている。


「そうか、サンキュー! ――んで、聞いてくれよ、馬鹿川、昨日さ――」


「いや、馬鹿川って呼ぶなってついさっき言ったばっかだよな!」


 早すぎる!


 というのにも驚いたけど。

 あっ、あっち行かないんだと心の中でツッコんだ。

 それがなんとなく、あいつらよりお前の方が良いぜと、言われているようで、あのクソみたいな上位グループに勝ったような気がして少し嬉しかったりした。

 とか考えていたら、また佐土原に睨まれた。

 

 


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