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【詩集】Shangri-La

地下鉄の片隅で

作者: 野鶴善明


 満員電車

 朝の地下鉄

 四方八方から

 押されるのはつらいから

 僕は少しずつ位置を変え

 扉の脇

 ドアと座席の間の

 わずかな隙間へもぐりこむ


 僕は小さくため息をついて読みかけの

 サン=テグジュペリを開く

 誰にも邪魔されないよう背中を丸め

 少年そのままの

 詩人の息づかいに耳を澄ます


 電車がホームへ滑り込むたび

 どこかへたどり着きたい人たちが

 降りては乗ってくる

 どこへもたどり着きたくない人たちも

 どっと降りては乗ってくる

 濁った空気がかき乱れ

 僕はことりと咳をする


 どこかへたどり着きたいと

 心の奥底で切に願いながら

 心静かに熱い祈りを捧げながら

 どこへもたどり着きたくない人たちにも

 愛想笑いの日々

 時は手持ちぶさたに過ぎていく


 奪い合いをしているなどとは

 思いたくもないけれど

 生活の糧を得るためには

 奪い合いをしなくてはならないのが

 人間の性

 冷徹な眼で己を見れば

 譲り合いをして生活の糧を得ることなど

 到底できないとわかるから

 肉体を持つ人間の限界

 逃れられない生存本能

 つまりは闘争本能


 こんな僕は

 ほんとうの自分ではないんだと

 誰かに向かって思い切り叫びたいけれど

 ほんとうの僕はここにいるわたくし

 向かい合わなければ

 どこかへたどり着くことはできない

 誤魔化してしまえば

 どこへもたどり着けなくなってしまう


 人の渦に巻き込まれながらも

 人の渦に飲まれないよう

 いささか神経質に

 人混みをすり抜ける日々

 いつか必ず

 どこかへたどり着けますように

 愛で満たされますように

 朝の満員電車

 地下鉄の片隅で



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