表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
9/9

上州合戦②

上州は高崎藩の家老大音諌山は勢力が増す『世直し一揆』を排除して治安を回復するために、様々な努力を行った。代表例が厳罰化である。大音は各宿場や村に「悪者改め」という役所を置いて治安警備に当たらせ、怪しいものは悉くとらえた。しかし、被告から碌に弁明を聞かず、すぐに打ち首にしてしまう。酷い場合には、無実で捕まった息子に会おうと尋ねた父親ごと処刑されたことである。また、年貢、生糸の上納金の増加を実施したため、高崎藩一体の庶民の生活は苦しくなるばかりだ。飴を与えずに鞭だけ振るう政治に人々は失望した。しかし、世間は、今まで贅沢した、したであろうから我慢しなければいけないという気持ちである。お上が作り上げた世論にあらがうこともできない領民はもはや安らぎ、安心を得られないのに義務だけ負わされているのだ。


おいらは弥七。岩倉村の百姓だ。最近盗賊がやって来て作った米が全部獲られちまうだ。9月の半ばの夜だっただ。丑の刻に洋銃を携えた幡党という盗賊が村のあちこちに火をつけただ。ほんとに怖かった。暗い中に火で照らされて盗賊の馬が暴れていただ。そして女衆の悲鳴があちこちにこだましただ。そして野党は斬られて虫の息の娘の服を剥がして乱暴を働いただ。娘が死んだのは言うまでもねえ。そして今まで身を粉にして作った米もほとんど獲られただ。取らなかった米は火をかけられてほとんど燃えちまった。でもそんなことは小さいことだ。朝になっておいらのワイフが裏の畑で死んでただ。まだ16で腹には子供もいただ。許せねえ、許せねえ。でも大音様が救ってくださると信じただ。必ず幡党をお縄に掛けると。そう信じただ。賊を捕えたというから見てみると、幡党の奴らは上手く逃げおおせたらしく、居なかっただ。そのかわり、世直し一揆の組合員が殆どだっただ。驚いちゃいけねが、村を救ってくれたのは、藩兵でもなく、世直し一揆の人達だっただ。皆快く米を分けてくれて、荒れた村の改修も手伝ってくれただ。しかも幡党の奴らを一部討取ってくれただ。藩兵は何にもしてくくれなかっただ。世直し一揆の皆さんに何の罪があるだ。お蔭で幡党の奴らがまたおらの村を襲うようになっただ。もう希望もねえ。この世は餓鬼世だ地獄だ。大音ゆるせねえ。

これは、観音山付近で鎌で首筋を切った百姓の悲痛な手紙の一部である。


このような情報はすぐに岩松俊光に伝えられた。それを聞いた俊光、ぽつりと

「大音という輩、邪魔だな。」

そして、すぐに袴安を呼び出して、

「おい、大音という男は邪魔だよな?いらねえよな?」

と問いかけると、袴安はニッコリ微笑み、

「そうですね。飴の味は知っていても、鞭の味は知らないらしい。」

とニタニタしながら言った。

「よし、行け。」

もう既に袴安の影は消えていた。そしてすぐに金井を呼んだ。

「どうだ。隊は整ったか?」

「はっ。銃士隊、騎馬隊、工作部隊、全て配備完了です。」

これを聞いた俊光はことさら上機嫌であった。

「いいなあ。いよいよだ。上州の大掃除が始まるぞ。」

「恐れながら、戦前から敵を侮るのは危険であります。」

「その時はお前が死ぬだけだ。」

「え・・・。」


月は雲に隠れていた。しかし、いつか雲に隠れた月は出る。岩松俊光の野望は、黒雲から現れてのである。


「見ていろ。眠れる獅子が起き上がる時タダでは済まないことを。見ていろ。虚世に胡坐をかいていた奴ら。見ていろ。世を憂う奴ら。今ここに俺の轟を響かせる!」



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ