高家由良氏の滅亡④
上山武信・・・由良軍の部将
「殿。岩松軍が川を渡りはじめました。」
「はっ。幻滅したぞ、俊光。こんなものだったのか。」
部将の上山が訪ねた。」
「射撃命令を出しますか?」
「もちろんだ。銃士隊用意~!」
岩松軍が近づいてくる。
「撃て~!!!」
バババババババ!!!と発砲音が戦場に響き渡った。辺りには硝煙が立ち込め、真っ白であった。貞臣は、硝煙が消えれば、あたりに散らばる岩松軍の死体を見れると考えていた。
「どうだ、エンピール銃の威力は。はははは!」
しかし、やられていたのは、由良軍の方であった。銃を発射した銃士隊が斬りこまれていた。いきなりのことで、銃士隊も混乱していた。
「え?ど、どうなっているんだ。おい、慶永、どうなってる?」
「え、はっはい。いち早くこちらも切り込みましょう。」
「わ、分かっている!突撃だ~!!!」
由良貞臣に限らず、300年以上平和な時代が続いた中で、武士はすっかり訛ってしまっていた。貞臣は、確かに基本的な戦は経験していたが、前代未聞のことで混乱した。
しかし、由良は川へ前進した。こちらが数で圧倒している。岩松の貧相な軍装に対しては事らが有利だと由良軍は皆思っていた。そうした、川を皆渡り始めた。川幅の広い川をどんどん進軍する。しかし、岩松はもう川の対岸に退けていた。混乱していなければ、貞臣も冷静な判断が出来ていたかもしれない。しかし・・・川からいくつもの水柱が上がった。それも何十もボンボンボンボン上がっていた。
「なに?岩松は大砲を撃っているのか?どうなってる!」
しかし、慶永は答えない。既に、貞臣の目の前で水柱が上がり、慶永は吹き飛ばされて、絶命していた。水柱は上がるばかり。由良軍の混乱は最骨頂であった。貞臣は、すぐに退却命令を出そうとした。すると、上流から幾つもの小舟が流れてきた。この船は混乱の真っ只中の由良軍を突くように流れてきた。小舟には、何やら木箱が積まれているらしい。そして、荷物が見えないように、藁で覆われていた。貞臣はこの木箱に対して、悪い予感がよぎった。
(ま、まずい。早く撤退を・・・)
貞臣はこう思った瞬間、幾つもの小舟が一斉に爆発した。幾つもの火柱が上がる。川を渡っていた由良軍が、さらに吹き飛ばされ、火だるまになった。まさに地獄の釜に入れられたような光景であった。渡良瀬川には、いくつもの嗚咽、うめき声がこだましていた。辛うじて貞臣は生きていたものの、由良配下の部将が幾人も溺れたり、爆破に巻き込まれたりして戦死していた。しかし、小舟の爆発は消えなかった。そう、小舟に積まれたのは、大量の火薬と鉄片であった。川上からこれらを流して、由良軍に近づいたら、爆発するように仕向けていたのだ。もう貞臣に士気など残されていなかった。川を渡っていない兵士も散り散りになっている。生き残っていた上山に介抱されて、撤退した。貞臣はもはや言葉も出なかった。上山の馬上で考えていたことは、ただ、屋敷に戻り、安心したいと思うだけであった。