偉人達の取引条件
「そう言われてものぅ。わしらも散々、同胞を消されてしまっておるからな。それに、一向にこの争いが終わる気配もない」
神楽坂の交渉も順調とは言えなかった。
アインシュタイン博士たちの計画は、シンプルではあった。
この六欲天で、魂を消滅させてしまうほど、無茶な戦いをしている三つのグループがある。
その中でも、最も好戦的で、他世界から来た人間達を消し去ってしまった。俺達とは別世界の住人。
生前、神聖クラリス帝国に生きた人々が集まったグループ。今でも神聖クラリス帝国を名乗っているらしいが。
そこに、この世界で改良を加えた新型爆弾を投下し、消滅させる。
そして、その威力を背景に、他の二つのグループに戦闘を終結するよう説得するというものだ。
あの世も、この世もあまり変わらんなと思う。
因みに、爺さん達はこの計画が成功したら、他の領土を支配するとかは、考えていないらしい。
リアナが言っていたような、新しい遊びや技術を開発して、楽しく暮らしたいというのが願いらしい。
「私達が何とかしますから、その計画、待ってもらえないでしょうか?」
「何とかと言われてものう。そんなハレンチな……素敵なお嬢ちゃんに、何とかできるとは思えんのだが」
おいおい爺さん。今、完全に破廉恥って、言い切ってたぞ。
神楽坂。怒りをこらえるのに必死だな。
頼むから、爆弾が起動するくらいなら、この研究所自体を消しましょう。なんて事にならないでくれよ。
「じゃあ博士、その新型爆弾出来るのって、後どれくらいかかるんですか?」
多分、どんなに説明しても、話は平行線だ。
閻魔様の事は、話してはいけない事になっている。
毘沙門天様は、神楽坂の服装を見ただけで分かってた位だから、そのくらいはセーフと言ったところか。
だから、神楽坂の凄さを説明するのも難しい。こんな規格外の装備は、こっちの世界でもあり得ない物なんだろうから。
神楽坂には申し訳ないが、ここではただの、コスプレJKって事で我慢してもらうしかない。
「そうじゃな。最短で後2週間じゃ、実験開発に遅れはつきものじゃから、実際は3週間くらいかの」
「分かりました。じゃあ、もし三週間でクラリス帝国を鎮圧出来たら、その爆弾を起動するのを、中止して頂けますか?」
どうだ?元々、開発に約三週間かかると言っているんだ。発射するのにだって、準備がいるはず。
博士達にとっては、何のデメリットもないお願いだ。
「構わんよ。どうせ3週間は、ここで実験を続ける以外、できる事はないからお。
まあ、何とかできるとは思えんが?」
「ありがとうございます博士。大丈夫です。必ず解決して戻ってきます!」
「ご理解いただき、ありがとうございます」
神楽坂も席を立ち、頭を下げている。
良かった。取り敢えず制限時間付きだが、任務失敗は免れた。
「ただ。一つだけ条件がある」
博士三人達の目つきが変わる。他の職員達の空気も変わった。
な、何が起きるんだ? 神楽坂もこの空気に飲まれている。
「リアナちゃんに何かあった場合、新型爆弾をお前の頭の上で起動するからの」
ここでもリアナは大人気の様だ。
でも、確かに、ここから連れて行くのは危険が大きい。
「リアナ、ここから先は危険だ。残った方がいい」
俺にそう言われたリアナが、驚くような速さで俺に飛掛ってくる。
「嫌っす。純平はウチのお世話をするっす。離れるの嫌っす」
泣きながら、背中にしがみつくリアナ。
でもなあ。次の目的地では、今回みたいな話し合いの場ですむとは、到底思えない。
「リアナちゃんを、泣かせたな?」
え!?さっき、リアナを危ない目に遭わせるな。みたいな事言ってたじゃないか。
突然、アインシュタイン博士を先頭に、俺に向かって殺到する職員たち。何故か袋叩きにされる俺
リアナ……。愛され過ぎだろう。リアナへの愛が痛い。物理的に。
それと神楽坂さん。楽しそうに見てないで、助けてくれませんかね?
「ノイさん、シュタインさん、オッペンさん。純平を虐めたらダメっす。純平はウチを心配してくれただけっす」
その瞬間、俺への暴力がピタリと止まる。まじ、愛されてんなリアナ。
「うむ。リアナがそういうなら、仕方ない。本当は、どさくさでヤッテやろうと思っていたんだが」
おいこら糞ジイイ。本当にどさくさで何言ってるんだ。
取り敢えず、リアナを連れて行く事に了承しないと、収集がつきそうにない。
「わ、分かりました。リアナは連れて行きます。それと、危険が無いよう俺が守ります」
「ありがとうっす。聖クラリス帝国への道案内は、ウチの仕事っす」
背中の上から聞こえる、リアナの声は嬉しそうだった。
何故かボコボコニされたが、話はまとまり、俺たちは研究所を後にすることに。
帰り際、またみんなから、頭を撫でてもらっていたリアナ。
最初は、研究対象か何かとして見られているだけかと思ったが、皆はリアナが大好きの様だ。
ただ、愛が行き過ぎている感があるが。
「純平、やるわね」
研究所をでると、神楽坂がそんな事を言ってきた。
「え? 俺なんかしたっけ?」
突然褒められ、首を傾げる俺。
「さっきの交渉よ。危うく、指をくわえて爆弾が起動するのを、待だけになるところだったわ。ちょっと見直したわ」
「ああ、あれか? あんなの交渉でも何でもないぞ。どうせ爆弾出来るのに、3週間かかるって言ってたんだ。それまでに解決出来れば、爆発させない。それだけだぞ。あのおっさん達、別に戦争したがってる訳じゃなかったしな」
「まあ、そうだけど。少し見直したって、言いたかったのよ。そのくらい、素直に受け取りなさい」
あれ? 神楽坂さん、熱でもあるんですかね。急に、デレたんですかね?
「また、変な事考えてるでしょ?」
熱はない様だ。勘は冴え割っている。
「そ、そんな事はない。ただ、驚いたんだ。あの神楽坂に褒められるなんて、思ってなかったからな」
「なによ、もう知らない!」
神楽坂さんは、ツンからツンデレに、無事クラスチェンジを果たされたようだ。
「そうっす。純平は凄いっす」
リアナは相変わらずだ。
「どうも~。こんにちわ」
突然、目の前に男が現れた。長身にオールバック、目つきの悪い真っ白なスーツの男。
真っ白なスーツって、タキシード○面かよ。
多分?地球人だよな?
「こ、こんにちわ。どうされたんですか?」
目の前の男は、目つきは悪いが、ニコニコしている。機嫌がよさそうだ。
「ああ。お礼を言いに来たんだ。爆弾の件。君たちが、何とかしてくれるんでしょ?」
何で知ってる? こんなやつ、研究所に居なかったぞ……
「お、御礼ってそんな」
「いやいや。これ、僕にとって、とても大事な事だったんだよ。このゲームの終わり方にふさわしくないと思ってね。折角楽しんでいるんだから。
本当は介入しないつもりだったけど。仕方ないかなって思ってね」
ま、まさか。嘘だろ。
「あははは。そうですか。喜んでもらえて良かったです。と、ところで、僕は今野純平というのですが、貴方様は?」
聞きたくない。知りたくない。でも、知っておかないとそれも不味い。
「僕? 僕はね波旬。色んな渾名があるんだけど。波旬でいいよ」
おいおい。最序盤で裏ボスとエンカウントかよ。
何だよこのクソゲー。絶対メーカーにクレームの電話入れてやる!