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三人の天才

「こっちっす」

 まるで先頭を歩いている様な言い方ではあるが、リアナは定位置の俺の背中の上である。 

 俺たちは、リアナが指示する方向に歩いていく。


「そういえば、純平。さっき貰った小手って、試さなくていいの?」

 そうだった。毘沙門天様からもらった小手は、右手に嵌めてはいるが、まだ何も試していない。

 リアナがさらに軽く感じるというか、まったく重みを感じないと思ってはいたが、もともと軽いリアナでは検証にならない。


 リアナの指示する方向にしばらく進んでいると。ビルが破壊された時のコンクリートの塊が落ちたていた。

高さ、奥行き共に俺と同じ170cmちょっと。丁度いいかもしれない。

「リアナ、さっき貰った小手の力見てみたいから、神楽坂の後ろに隠れてくれないか?」

「分かったっす」

 そういって、ささっと神楽坂の後ろに隠れる。流石は獣人。動きが早い。

「オッス、オラ純平、一丁やってみっか!」

「下らない事言ってないで早くしなさい」

 ちょっとは冗談を理解して欲しいもんだ。


 巨大なコンクリートを前に、少し緊張する。

力の入れようによっては、拳と手首がポッキリ行く可能性がある。

 ここは慎重に、全力の半分くらい。駄目でも、痛いで済む程度に。

そう考えて、拳を叩き込む。


「うお!!?」

 物凄い轟音と共に、コンクリートは木っ端微塵になった。バラバラというより、塵になった。

「す、スゲー。見たか神楽坂。遂に俺TUEEEEEEの異世界生活が始まりそうだぜ!」

 しかし、神楽坂は首を傾げている。どうした、リアクション薄くね?


「私って、腕力はどうなってるのかしら? 力も強くなってるって、記憶にはあるんだけど」

 確かに、今まで神楽坂は武器を使った攻撃が殆どだ。さっき腹パン一発貰ったが、あれはかなり力を抜いてくれてたようだし。

「これ、いってみようかしら」


 おいおいまじかよ。神楽坂はビルの破片ではなく、ビルの前に立っている。

確かに傾いて、とても人が済んでいるような状態ではない。人的被害が出たりはしないだろうけど。

「神楽坂さん。ご冗談でしょう」

「なんか、このままにすると。純平に負けたような気持になるから嫌なの」


 なんて、負けず嫌いなんだ。

折角、能力をもらったんだから、気分良くさせておいて欲しいもんなんだが。

「じゃあ、いくわよ」

 魔法少女神楽坂が、空手の正拳突きの様な構えをする。もはや魔法少女とは何だろうと、哲学的考察をする段階に来ている。

 リアナは用心の為、そのまま神楽坂の真後ろに隠れている。

これなら破片がいくら飛んできても大丈夫なはずだ。


「せいや!」

 掛け声まで空手だった。

 しかし、威力はもはや冗談なのかというレベルだった。目の前にあったビルが消えていた。

吹き飛んだとか、バラバラになったとか、そういう事ではない。消滅した。

 神楽坂さんマジパないっす。しかも、なんだか勝ち誇ったように俺を見ている。

「お前が一番だよ。スゲーよ神楽坂」

 とりあえず、ここは煽てておいた方が良さそうだ。

「ふん。当り前よ。さっきの腹パンの時、もう少し力入れても良かったわね」

 どんだけ負けず嫌いなんだよ。しかも大そう物騒な事を言っている。


「エリさん凄いっす。やっぱり魔法痴女さんは違うっす」

 もはや、わざと言っているとしか思えないリアナ。 

かといって、神楽坂は魔法少女とは訂正したくはないようだ。こめかみ当りがピクついている。


「リアナ、あんまりそれ言ったらだめだ。今のビルみたいに、リアナが消える事になるぞ」

 実験が終了して、俺の背中に戻ってくるリアナに小声で注意する。

「え!? 駄目なんっすか!? あんな格好、普通は痴女さん以外しないっすよ」

 だから声がデカいって!


「純平。リアナの失言は、今後お世話係でもある、アナタの責任と見做すことにするわ」

「はい、神楽坂様。気を付けるであります」

「あります!」

 リアナは何が気に入ったのか、俺のマネをした。

いやいや、この状況お前のせいなんだからな。


 小手の力と神楽坂の力の検証を終えて、リアナの指示に向かって進む事、おそよ20分ほど。

「ここっす」

 リアナが地面を指さす。

 一見マンホールの方だが、円形の蓋の真ん中には『ロス穴モス天界研究所』と書いてあった。

聞き間違いも考慮していたが、そうではなかったらしい。

 リアナがマンホールをノックする。

「ノイさーん、シュタインさーん、オッペンさーん。ウチっす。リアナっす。毘沙門天様の紹介で、友達を連れてきたっす」

 完全に遊びに来たノリである。しかも、愛称が雑すぎる。


 待つ事数十秒。マンホールの真ん中、数センチがぱかっと開いて、潜水艦の潜望鏡の様なものが出てくる。

「おお!リアナちゃんじゃないか。久しぶりじゃのう。元気にしておったか?」

「シュタインさん。ウチは元気っす。この二人に面倒見てもらってるんっす」

 潜望鏡が今度はこちらを覗く。

「これはこれは、素敵な格好のお嬢さんと、ダッサイ兄さんじゃな。お嬢さんは素敵な趣味をしておるのー」

 これは、完全にただのエロ爺だ。

なんだか、後ろの方で、わしにも見せろと騒ぎ声が聞こえる。

 神楽坂は、歴史上の偉人相手という事で、ギリギリ耐えている様だったが、限界突破してしまうと。

マンホールを貫通させて、研究所自体を消滅させかねない殺気を放っている。

「毘沙門天様に紹介していただいた。今野順平と神楽坂エリといいます。お話しさせて頂けないでしょうか」

 これ以上、神楽坂を怒らせるのはまずい。とにかく話を進めないと。

 

「今から開けるから、ちょっと待っとれ」

 マンホール上の蓋がパカッと開く。下に降りる為の梯子が見えている。

そこはアナログなんだなと思いならがら、神楽坂とリアナを先に降ろさせる。

 後でパンツ覗かれた等と、あらぬ誤解をされぬためだ。

まあ、先に降りたら覗いてただろうけどね!


「すっげ!」

中は、地下なのにとても明るかった。研究所という、イメージ通りの雑多な感じはあったが、最低限の掃除も行き届いており、地下研究所という感じではなかった。

「何か知らんが、一緒に研究したいと言ってくれる職員が多くての」

 目の前の人物。特徴的な髪型。間違いなくあの人だ。

「初めまして、アインシュタイン博士。神楽坂エリです。お会いできて光栄です」

 神楽坂が身を乗り出して挨拶をする。さっきとは大違いだ。

「素敵なお嬢さん初めまして、初対面なのによくワシが誰か分かりますな。まあ、うちの職員たちもそんな感じのが多かったが」

「ノイマン博士、オッペンハイマー博士も、お会いできて嬉しいです」

 神楽坂は、物理科とか数学科を志望していたのだろうか、目が輝いている。

ノイマン博士、オッペンハイマー博士も、神楽坂とその恰好がお気に召したのか、大層ご機嫌そうだ。


「久しぶりっす。会えて嬉しいっす」

 リアナは三人以外にも、職員みんなに挨拶して回って、その度に頭を撫でてもらっている。

本当に、この争いが起きる前は仲良くしていたみたいだ。


「今野順平です。よろしくお願いします」

 正直かなり緊張する。歴史上の偉人に、何を話してよいのか分からず。取りあえず挨拶だけは真面目にしようと、最敬礼で腰を曲げる。

「男には興味ない。ただでさえ、ここの研究所は男の割合が高いんだ。これ以上増えんで欲しいな」

 アインシュタイン先生はどうも、色ボケしてらっしゃるようだ。

「本当に、むさ苦しくて仕方がない」

「心から同意します」

 三者とも同意見の様だ。偉大な科学者が人格者とは限らないと、身をもって知った瞬間だった。


「あの、先生方。今日はお願いに参りました」

神楽坂が丁寧に腰を折る

「美人の話を聞かんわけにはいかんな」

「その通り。紳士たるもの、淑女の話は聞かねばなるまい」

「お嬢さん、こちらに掛けたまえ」

 エロ爺どもめ。まあ、神楽坂が話を進めてくれるなら、それはそれで構わないのだが、どうにも納得いかない。


「俺も、ここに座っていいですか?」

 空いてる席を指して聞いてみる。

「若いもんは体力があるんじゃから、そこらへんに立っておれ」

 うん。この人達とは、俺は仲良くなれそうにない。

俺はもう神楽坂に任せることにした。


 リアナは職員達と楽しそうに話している。


 俺は一人、誰からも相手をされず、立たされたままだった。



 




 



 




 





  

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