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エルフの民は人が良い?

 こ、これはいったいどういう状態なんだ。


 マールが帝国の戦士に連れ去られそうになったのは、お散歩途中で近侍から逃げて、一人で遊びに行こうとしたのが原因だったらしい。

 どうもマールは、頻繁に一人で抜け出すことが有ったので、狙われていたようだ。

 

 今は四人でエルフの里に向かっている。

 マールが行方不明なので、エルフの里は騒ぎになっている。

上空から降って現れると危険という事で、歩いているのだが。


「これ、色々おかしくないか?」

「ウチはいつも通りっす」

「私だって、お買い物時からこうしてたでしょ?」

「正妻の私には、この位置が一番ふさわしいですわ」


 リアナはいつも通り、俺の背中にしがみついている。エリとは右手で手を繋いでいる。

さらにマールは、前から俺にしがみついている。

 右には魔法少女、背中にはうさ耳の幼女、前には金髪の幼女。

日本なら、5分と経たずにお巡りさんがやってくるだろう。

 毘沙門天様からもらった小手があるので、重さも、疲れも殆ど感じないが、犯罪の臭いは強烈に感じる。


 男の子的に、これ、結構きついものがある。

抱っこ状態のマールからは、花の様な香りがするし。背中に感じるリアナの胸の感触も堪らない。

エリの手も、とても柔らかくて気持ちがいい。


「旦那様、今、旦那様から交尾したい時の、オスの臭いを感じるっす。ウチと交尾するっすか? そしたらウチが正妻っす」

 相変わらずリアナは爆弾を放ってくる。

今、その爆弾を押さえるのに俺は必死なんだ。

「いけませんわ、リアナ。今日の初夜のお相手は、結婚の儀を行った私の勤めです」

 エルフ幼女とそんな事、絶対無理だって。そんな顔して、俺の顔を見上げても無理だから。

「絶対にダメよ、そんなことさせないからね!……私だって」

 か、神楽坂さんまで、何を言ってるんですか!

「エ、エリ。ちょっとおかしいぞ、大丈夫か? 場に飲まれるんじゃない! お前がストッパーになってくれないと。俺は死ぬ!」

「分かってるわよ。でも、嫌なのよ!」

 神楽坂さん、そんな表情でカワイイ事言わないでください。

本当に勘弁してください、童貞の妄想が爆発してしまいます。   

 

もう少し、もう少しでエルフの里だ。耐えるんだ純平、頑張るんだ純平。

 俺はあの世で社会的な死とか、わけ分からん状態になりたくない!


 因みにマールには、明日から帝国を鎮圧する戦いに行くので、とても危険だと話したのだが、ついていくと言って聞かなかった。

必ず、臣下達も説き伏せると言っていた。

 マールは治癒系、補助系の魔法が使えるので、絶対役に立つのだと言っている。

確かに、顔の傷はすでにきれいに治っている。ただ、攻撃魔法は使えないらしい。

 エリ曰く。魔力だけなら、かなり強いものを持っているとの事だった。流石エルフである。

なお、自分はアーチャーでもあるので、弓矢さえあれば、さっきの五人にも捕まる事はなかったという事だ。


「アーチャーってことはやっぱり、剣で戦うのが得意なのか?」

「純平様。何を仰っているのですか? 弓兵は弓矢を使うものですよ。剣は接近されてしまった時の補助的なものです」

 うん。元の世界とは、ちょっと認識が違うらしい。あれ? 弓兵って剣で戦うだったっけ?


 エルフの里は、幻想的の一言に尽きた。

 湖面から、木々が立ち上り。その上に家を建てて生活している様だ。

太陽の光はあまり入らないのだが、湖面が青く光っていて、少し暗い程度。

大きなアクアリウムの中にいるような感じすらする。

 あちこちからは、鳥の歌い声と、エルフたちの話声、楽器の音色も聞こえる。

 俺の求めていたTHE・異世界だ。


 やはり、エルフは皆美男美女だ、遠目で見ても明らかだ。

「ねえ純平? 私が、エルフ男子超カッコいい! 是非お付き合いしたいわ! って言ったらどんな気持ち。ねえ、どんな気持ち」

 また、読まれてしまった。

「ごめんなさい。顔面偏差値が圧倒的大差で敗北している分、一人咽び泣くしかありません」

「私も同じなの。私の事泣かせたいの?」

 なにそれカワイイ。泣かせません。エリの事泣かせたりしません!

「なら宜しい」

 そう言って笑うエリ。大丈夫だよ、ちょっとエルフんさんを鑑賞するだけだから。

「宜しくない!」

「すいません。冗談です」

「旦那様、浮気は許さないっすよ!」

「純平様は私を、好きになさっていいのですよ。私の王子様なのですから」

 マールちゃん、俺をロリコンの道に引きずり込むのは止めてくれ。

 

湖の畔にまでくると、次々とエルフたちが集まってくる。

 多分お偉いさん達なのだろう。他のエルフたちと違って、初老やお爺さんたちの割合が多い。

マール様だ、マール様が帰ってこられたと騒がしくなってきた。

 一番年寄りそうな、エルフの男性がこちらに一人で向かってくる。

「て、帝国の兵士よ、そなたの要求は何だ?」

??? あ、勘違いされている。

「私との婚姻です」

 マールちょっと待て、それ自体もおかしいし、先に誤解を解かないと、もっとおかしなことになる。

やばい、一瞬でエルフたちの空気が変わった。完全に臨戦態勢だ。

「下劣な人間め、よりによって、エルフの王女マール様に何たることを」

「見ろ! あの少女、何て破廉恥な恰好をしているだ。きっとあの男は変態だ。マール様に一体何をするつもりだ!」

 ああ、この目だよこの目。研究所でも毘沙門邸でも、みんなこの目で俺を見るんだよ。

それに、エリに服装の話を振らないでくれ。

折角、守られたエルフの里が、この瞬間に消える事になるよ?

 落ち着け、落ち着くんだ神楽坂。俺は強めにエリの手を握る。

エリは、怒りで顔を赤くさせながらだが、頷いてくれた。

 うん。今の方が、エルフの国難を救った実感があるぞ。


「ちょ、ちょっと待ってください。俺は、その帝国の戦士を倒して、マールを里に返しに来たんですよ。直ぐに返品しますから!」

「純平様、返品とは酷い事を仰いますね。ここで私、大声で泣いてもいいのですよ?」

 何という脅し。エルフの里で、戦争でもさせるつもりかよ!?

「冗談だよマール。とにかく連れ帰ってきたってのを、理解してもらわないと」

「それならよいですわ」


 そう言うと、マールは俺から降りて皆の方を見る。

その場にいたエルフ全員が跪く。

 おお! これが王女か。

「皆さん。この度は私のせいで、ご迷惑をお掛けした事、まずは謝罪致します。

私は散策中に、帝国の兵士五名に襲われました。目的は私を人質として誘拐し、エルフの民をこの戦争に借り出す事です」

 エルフの里にどよめきが走る。一部には開戦を主張する声も聞こえる。


「皆さん静粛にお願いします」

 マールの声一つで、嘘のように静まり返る。王女スゲー。マジスゲー。

「その時です。連れ去られそうになった私を、救って下さいましたのが、こちらの純平様なのです」

 今度は大歓声だ。英雄!救国の戦士だなどと言うものもいる。

俺感動。英雄だなんて、ゲームの中でしか言われたことはない。


「相変わらず、オタクぶりは健在なのね」

 神楽坂さん、少しだけ余韻に浸らせて頂けないですかね?

「その通りです。皆さん、純平様は国難を救ってくれたエルフの里の英雄です。その事に異議があるものはおりますか?」

 「「「「「「異議なし!異議なし!異議なし!」」」」」」

 異議有り!と叫びたかったのは、俺とエリぐらいだったが、言っても聞いてもらえないだろう。


「皆さん、私はエルフの里の王室典範に則り、救国の英雄である、純平様と婚姻し、王位継承権を放棄致します。なお、既に結婚の儀は済ませて参りました」

 うおー!! これはめでたい!! 祭りの準備を―! 英雄の花婿様に、馳走の準備をー!

 一斉にお祭りモードになってしまった。

正直、俺は期待していた。性格の悪そうなエルフの重鎮的なのが「このような、どこの馬の骨ともわからぬ他種族に、王女を嫁がせるなど、絶対に許さん!」とか言って。邪魔してくれるのではないかと。

 なんて、素直な人たちなのだろう。違う意味で心配になってくる。

まあ、天界に来るような人達だからかな?


 エリは何だか悟った表情をしている。

JKは空気を読むのだ。リア充であるエリには、この雰囲気で一人戦う事はしない。

 リアナは、相変わらず状況が読み込めておらず、祭りという言葉に反応し、既にエルフたちの輪の中に入っている。

「エリ、ごめんな」

「ううん……。そうやって、私の心配してくれるのなら許す」

 うん。神楽坂様は悟りの道を歩んでいらっしゃるようだ。

 

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