エルフの里の王女様 2
中学時代、こんな感じの空気になった事があった。
実際に時間が停止しているわけではないが、でも、確かに時間が停止している感覚。
矛盾を内包した世界。
それを打ち破ったのはエリとリアナだ。
「ダメよ! 純平は、ダメよ!」
「いくらマールでも、ウチの旦那様を、あげる訳にはいかないっす!」
二人の殺気が尋常じゃない。さっきの戦士五人に向けられたものよりも、もっと確実なものだ。
能力が無い俺でも、はっきりわかるほどの危険水域だ。
子供に向けていい殺気ではない。
お前らは、波旬にでもなろうとしているのか?
「お、落ち着け二人とも。小さな女の子が助けられて、幻想を見てるだけだって。
そのヤバい殺気を押さえろって。俺でも押しつぶされそうだ。」
「いいえ。そうではありませんわ。純平様と言われるのですね。私の王子様は」
そういうと、マールは突然、俺にキスをした。
俺のファーストキスの相手は、金髪美幼女のエルフだった。
「これで婚姻の儀も済みました。これで純平様は、正式に私の夫となりました」
「今のキス許さない! それに結婚なんて、絶対認めないわよ!」
神楽坂の羽がバサッと開いた。凄まじいエネルギーが放出されているのが分かる。
今まで、パタパタしたりする見たことがあるが、こんなにはっきりと開いたのは初めてだ。
さっき空を飛んでいる時も、羽はあまり関係ないらしく、殆ど閉じられたままだった。
どうも、エリの感情とエネルギーに反応しているらしい。
「獣人族は、不倫は絶対認めないっす!!!」
猫の様な威嚇のポーズを取りながら、大きく口を開く。
だから、お前はうさぎじゃなかったのか?
これはまずい。二人とも本気だ。
リアナこの感じ、見たことはないが、ブレス攻撃を行使するつもりだ。
神楽坂も武器を出現させている。かなりデカい。対戦車砲か?
「まて、本当に待て、なあリアナ。この子はお前の友達なんだろ? エリも、こんな小さい子の言う事を真に受けるなよ」
二人のエネルギーが少しだけ弱まった気がする。もう少し、もう少しだ。
そうだよ。俺は二人が大切なんだ。ちゃんと伝えれば分かってくれるはずだ!
『エリ、俺の気持ち伝わってるだろ。俺が好きなのはお前だ(金髪幼女萌!)』
「リアナ、お前の事大好きだ。伝わってるだろ(幼女エルフたまんねえ!)」
あ……。雑念が入ってしまった。
「魂すらも打ち砕いてあげる!」
「旦那様を殺して、ウチも死ぬっす!」
終わった。俺は生き返るかもしれないが、この子は助からないだろう。
「お二人に聞きたい事がございます」
マールは抱き着いていた俺から降りて、悠然と二人の前に立つ。何という度胸だ。
男の俺でも、恐怖しか感じないのに。
「な、なによ!」
「なんっすか!」
二人は殺気立ってはいるが、マールの雰囲気にのまれそうな感じだ。
後ろから見ても、高貴というか、神々しい物すら感じる。
「リアナ、貴方は私の王子様の事を、旦那様と呼んでいますが、獣人族は性行をもって契とするはずです。契の儀は済んでいるのですか?」
「す、すんでないっす」
「そこの……。独特な衣装の貴方。貴方は地球と呼ばれてる世界の人族ですよね? その方々が結婚するときは、決まった契約儀式があったはずですが、それを行いましたか?」
「し、してない…です」
どうした二人とも、さっきまでの勢いが全くなくなって、しゅんとしている。
まあ、こちらとしては助かるんだけど。
「そうですか、ならば貴方達にとっては、純平様は恋人だったかもしれませんが、それ以上ではないという事です。
私はエルフの王女として、今正式に婚姻の儀を行いました。純平様は私の夫です」
うん。もう、ここ二日間、こういうのが多すぎて、少し慣れてきた気もしてきたが……
この金髪幼女が王女様!!!?
異常なほど顔の広いリアナだ。そのリアナが否定しないから、多分本当なのだろう。
リアナとエリはすでに、しょげた顔になって、攻撃態勢は解除している。
「なあ、マール。その、俺はそういう儀式とかは分からないが。
そういう上の地位にいる者が、勝手に、しかも面識もない他の種族と結婚とか、周りが認めないんじゃないのか?」
取り敢えず。やんわりとお断りをしよう。
いくら何でもこれは犯罪だ。どう見てもマールは七歳位。事案ではなく、即逮捕物だ。
「そ、そうよ。純平の言う通りだわ。それに純平の気持ちだって、聞いてないじゃない!」
ありがとうエリ。さっきあんなこと思ってたのに、俺の事信じてくれるのか。
「そうっす。ウチは今日にでも、旦那様と交尾するはずだったんす! 横取りっす!」
リアナ、お前は残念だが、ちょっとずれている。
「純平様。仰る通り、私は立場上多くの制約がございます。結婚の儀に関しても純平様の仰る通りです」
「そ、そうだろ。やっぱりエルフの王女様は、それにふさわしい、純正エルフの王子様とってのが、普通なんだろ?」
よかった。このままお家の格を理由に引いてもらおう。
幸な事に、結婚の儀と言っていたキスは、俺たち以外誰も見ていない。
俺たちが言わなければ、誰も知らないで済む事だ。
「でも、純平様。何事にも例外はありますの。条件は二つ。国難の危機を救ってもらう事。そして、王位継承権を放棄する事、この二つをもって、自身の意思で結婚する事ができますの」
「ちょ、ちょっとまて、マール。俺が野盗から、お前を守ったのは事実だが、エルフの里を救ったりはしてないぞ」
「そのことですか。そこに伸びている五人の戦士。彼らは帝国の、皇帝直属の戦士達です。
私を攫って、今回の戦争に、私達エルフを狩りだそうとしていたのです。
私は王位継承第二位です。もう一人は一位の兄のみ。子ができにくいエルフという種族ですから、人質として十分に価値があります。
戦争に巻き込まれる事を防いでくれた純平様は、まさに国難を救ってくれたエルフの里の英雄なのですよ」
なんか、とんでもない事をしてしまったようだ。こんな事ならエリに頼らせてもらえばよかった。
エリがこっちを睨んでいる。多分同じことを思っているんだろう。
金髪幼女でテンションが上がってしまって、取り返しがつかない事が起きようとしている。
考えろ、考えるんだ純平。
「そ、そうだ。今、王位継承権があるのは二人だけって言ったじゃないか? その一人が抜けたら、元も子もないだろう?」
「それも、例外があるのですよ。王位継承権を放棄しても、不幸があって第一継承権者が亡くなった場合。他の継承権者がいない場合に限って、復権する事が出来るのです。
だから、継承権を持つものが二人しかいない今、私が継承権を放棄する事によって、困る者はいないのです」
不味いな、この嬢ちゃん。かなり頭が回るみたいだ。こっちの言い分を一つ一つ潰してくるつもりだ。
エリがこっちを向いて、頷いている。多分応援してくれているんだろう。何とかしないと。
リアナは、もう話について来ていない。頭を抱えてふらふらしている。
「じゃあ、仮にだ、仮にお兄さんに不幸があった場合。他種族が夫の女王様というのは、体面が良くないんじゃないのか? 王族ってのは純血種とかって決まっているんじゃないのか?」
た、頼むこれで諦めてくれ。そろそろネタ切れだ!
「それも大丈夫です。王となるものは、純血種でなければならないというのは、仰る通りです。
ですので、純平様との子供は王位継承権を持つことはできませんが、その時は養子を取ればよいのです。
もちろん、純平様との子供は大切に育てます。
それに、体面という事ですが、国難を救った英雄という事自体がハクになりますので、問題ないでしょう」
くそ、返された。他に何かないのか? どうしたらいい?
「あ、貴方の気持ちはどうなのよ? マールは何で、そこまでして純平と一緒になろうとするの?」
おお!良いぞエリ。そうだ、国難を救った俺と、義務感で一緒になろうとしている可能性だってある。
「そんなの、好きになってしまったからに、決まっているではないですか? 私は、純平様を愛する事を、心に決めたのです」
「な!」
エリが撃沈した。絶句してしまっている。
うーん。理屈で返したら多分言い返されるな。ちょっと最低な男になるしかない。エリ許してくれよ。
俺はエリを見て頷く。エリは少し嫌な顔をしたが頷き返してくれた。
「なあマール、俺はな最低な男だぞ、そこのエリもリアナも俺の女だ。二股もするし、不倫もするかもしれない。マールが最低男に振り回されて、泣いて生きる事に成るかもしれないんだぞ」
まあ、今のところまだ童貞だけどね!
マールは首を傾げる。お子様すぎて、意味が通じなかったのか?
「純平様。英雄や王は色を好むものです。婚姻後に、寵姫や側室を作る事に、何の問題がございましょう。私は正妻として、そこまで心が狭くはありませんわ」
おう、想像の上をいく答えだった。こんな小さい子の口から、寵姫や側室なんて平気で出てくるとは、王族恐るべし。
エリは何やら天を仰いでいる。おい!諦めんなよ。
リアナは相変わらず、話についていっていない。
「まあ、純平様がお逃げになっても、私はどこまでも着いていきますから、覚悟くださいな。
それと、私これでも、人を見る目があるつもりなのです。純平様は、必死についてくる私を、おいて逃げれるような殿方ではないでしょう?
今、純平様が私の事をどう思っていらっしゃっても、必ず振り向かせて見せますわ」
勝負はついた。俺達は七歳そこらの幼女に完敗したのだ。




