天界でのお買い物
昨晩予定した通り。今日は俺の服を買いに行くのと、散髪。
後は、聖クラリス帝国鎮圧に向かう為の、道具を揃える事だ。
ホテル周辺には大型商業施設も幾つかあった。
外観は、明らかに生前に見たことがあるものが多かった。
店名がそのままの物まである。色々大丈夫なんだろうか?
うん。やっぱり異世界成分少な目だな。
少し違うとしたら、都心部のデパートと、郊外型大型ショッピングモールが混在している事くらいか。
あり得ない組み合わせではあるが、俺が欲しかった異世界感とは大分違う。
まあ、俺みたいなのがデートしたりするなら、何も考えずに済むと言う位か。
エリとデートかー。
そんな事を思ってエリを見ると。ちょっとモジモジしている。
また、考えている事を読まれたようだ。
俺まで恥ずかしくなってしまった。
タダならばと、エリは某高級デパートと同じ名前の店に行ってみようと提案するが、リアナは大型ショッピングモールに行きたがっている。
リアナは洋服の事は分からないので、ショッピングモールのゲーセンで遊びたいらしい。
やっぱり十歳児なのではないだろうか?
あまりにもリアナが駄々をこねるので、モールの方に行くことにする。
「純平に着せてたい服があったのに」
エリはちょっと残念そうだった。
「まあ、名前が同じデパートだからって、同じ店があるとも限らないし。
それに、リアナが駄々こねてたら、二人でゆっくり服選べないだろ?」
「うん。そうね」
ちょっとそこで、顔赤くしないで、俺も恥ずかしいから!
「旦那様、エリ。先に言っとくっすけど。モールでも、ウチの耳を誤魔化すのは無理っすからね。感知した瞬間、獣人族のスピードを見せつける事になるっすよ。
昨晩から、二人の言葉の波動が甘ったるくて嫌になってくるっす」
自称俺の奥様は、とても嫉妬深いらしい。
背中にいつも通りリアナをおぶって、ショッピングモールに入る。
確かに中は、現実世界と大分違う。
店の雰囲気は良く似せてあるが、それぞれの店が趣味でやっている為、服のデザインなんかが独創的だ。
まあ、引きこもりしてたんで、ユ○クロとか、し○むらとかしか、ほとんど知らないんだけど。
でも、エリにはそれが良かったらしい。選びがいがあると言っていた。
モールにつくなり、リアナは俺の背中から飛び出して、直ぐに見えなくなった。完全に小学生の行動だ。
「じゃあ行きましょうか?」
自慢じゃないが、俺は自分の服なんて殆ど選んだことが無い。ここはエリにお任せだ。
「おう。エリに任せるよ」
俺は、そう言って歩こうとする。
「純平。こういう時は、その。あるでしょ?」
うん? 何があるんだ? デートの前の儀式とか、俺には分からないぞ?
「ほら」
そう言って手を出すエリ。まさかこれは。
俺はおずおずとエリの手に自分の手を伸ばす。
まさかの、お手て繋いでのデート!
感動だ。もう俺はリア充死ね! なんて言わない。
だが、歩くこと十数秒程。ダダダダっと物凄い音が近づいてくる。
「なんだ?」
目の前から、何か近づいてくる。リアナだ!
リアナは俺とエリをめがけて、減速することなく突っ込んでくる。
そして、ゴールテープを切るかのように俺とエリの間を走り抜け、つないだ手を無理やり切り離した。
そして満足げな表情を浮かべた。
「甘々センサーが反応したっす。さっき二人に言ったっすよ。ウチを誤魔化すことはできないっす」
それだけ言うと、リアナはまた走り去っていった。ウサギ耳恐るべしである。
「残念だけど。無理みたいだな」
「そ、そうみたいね」
俺たちは苦笑いをしながら、先に進んだ。
先ずは、店内の美容室で髪を切ってもらった。
エリ曰く、髪を切ってから、着る服のイメージをしていくのだそうだ。
美容室で髪を切ってもらのは初めての体験だった。
ここの店長、一人しか店員さんはいないのだが、生前はカリスマ美容師と言われていた人らしい。
出来上がった髪を見て、エリは満足気だった。
「うん。素材は悪くないわね」
「エリさんよ。じゃあ今まではどう思っていたのかね?」
「スウェットのダサい冴えない童貞よ? 言わなかった?」
あれ? 神楽坂さん。そこは本心だったんですか?
「まあ、今は違うけど」
少し照れながら、そんな事を言ってくる
だから、可愛すぎるっての!
「純平。ちょっと感情押さえて。私まで恥ずかしくなるから」
「ご、ごめん。でも、思ってしまうから仕方ない」
「そ、そう。ありがとう」
ダダダダダ!また奴が来たようだ。今度は美容室のガラスに張り付いている。
美容師さんにお礼を言って店をでる。ここでは、お礼と感想が何よりのお支払の様だ。
店の前ではリアナが待ち構えていた。
「旦那様。どういうことっすか? ウチの耳がビンビン反応するんっすけど」
リアナは大そうご立腹の様だ。
「リアナが純平を放っておくのが、いけないんじゃないの?」
「うぅぅぅぅ」
返す言葉はないが、遊びたい衝動に勝てない。そんな葛藤が見て取れる。
「ウチも買い物するっす。旦那様をエリに独り占めされるのは嫌っす」
そう言って、定位置お俺の背中に飛びつくリアナ。
「じゃあ、リアナ。私も、純平と手を繋いでいいわよね? 抜駆けなしだもんね?」
おお、そう返すのか。感心した。でも、ちょっと怖いと感じました。
「はっ! 何か騙されたような気がするっす。人間のそういうところ、ウチは苦手っす」
うんうん。リアナの恋愛偏差値は、俺と同じくらいの様だ。
半年以上、プラスあの世一日ぶりに髪を切った俺は、すっきりした気分になれた。
「純平はもう少し外見に気を使いなさい。まあ、これからは私が見てあげるけど」
「ウチも、ウチも旦那様をもっとカッコ良くするっす」
リアナが変な対抗心を出している。年中同じ格好しかしてないリアナのコーディネートとか、地雷以外の何物でもなさそうだが。
背中にリアナを背負い、右手で神楽坂と手を繋いでモールを回る。
案の定、リアナのコーディネートは酷いものだった。
「旦那様には獣人の夫として、もっと強い感じになってもらわないといけないっす」
着せられたのは、謎のヒョウ柄のタンクトップとお揃いの短パンだった。
試着室を開けた時の、エリの涙をながしながら爆笑したリアクションには、ひどく傷ついた。
ごめんごめんといっているが、笑いが止まらない様だ。
リアナはリアナで、本気でこれがカッコいいと思っている様で、旦那様これにするっすと言っている。
店員さんも、ネタ半分で作ったものだったようで、完全に苦笑いだ。
良くお似合いですよと言いながら、一切俺の方を見ていない。
何だこの罰ゲームは。
リアナが頑として聞かないので。取り敢えずもらっておくことにした。
「ウチも中々のセンスを持っていたみたいっす。これで、更にウチの旦那様らしくなってきたっす」
「良かったわね。純平」
神楽坂さん。目を逸らしながら言うの、止めてもらえないですかね。
リアナがこれを着てモールを回るよう主張したが、こればっかりは何とか抑えてもらった。
エリのセンスは安心安定だった。
服の合わせ方は正直よく分からないが、短くしてもらった髪型にもバッチリ合っている気がする。
白地に黒のプリントが入ったTシャツに、黒のパンツとベスト。
エリは、シンプルなのが好みの様だ。
「うん。いい感じだわ。初めて男の子のコーディネートしたけど。これなら大丈夫」
俺はエリの初めてを貰った訳だ。感激だ!
「純平。あんまり恥ずかしい事、考えないでくれない?」
「ごめん。嬉しかったんでつい」
「何すっか? ウチが選んだ時と全然感じが違うっす! 絶対ウチの選んだのがカッコいいっす」
リアナがむくれてしまった。
仕方ない。俺はリアナを抱っこして、頭を撫でる。
「リアナもありがとう。俺の服を選んでくれた女の子は、リアナが初めてなんだぞ」
リアナははとても嬉しそうだ。良かった、何とか治める事が出来た。
ただ、神楽坂さん。あんまりシャツの裾を引っ張らないでください。折角選んでもらったのに、伸びてしまいます。