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流石に撮影は気まずい!

日間現実世界〔恋愛〕ランキング、十位になりました!

ありがとうございます!

 さて。

 しばらく女子二人が柔らかなソファの上でちょっとしたキャットファイトを繰り広げたが、冷ややかな花蓮の視線によって二人ともその不毛さを思い出したかのように中断する。


「お気は済みましたか、二人とも」


 花蓮の言葉にばつが悪そうに二人とも矛を収める。

 薫はしばらく居心地が悪そうにしていたが、気を取り直してスマホをぽちぽちと操作した。


「絢華が臆病者である事はわかった」

「うう……」


 この点に関しては自覚があるのか、絢華の喉奥から無念そうな声が絞り出される。


「私は『絢華ちゃんっ、勇気をあげる!』とはいかないが、手助けをする事はできる。

 絢華、スマホを見て」 


 絢華の疑問をスルーして薫が差し出したスマホの画面には、見たことのないアプリケーションが開いていた。

 写真機能を自分で改造したものだろうか?

 いくつも特許をとった天才科学者の薫なら自作できてもおかしくはないだろう。


「なんですのよ、これ」

「これは私が暇つぶしに開発した、顔面筋読心アプリだ。視線を向けた相手に対して顔の表情から何を考えているのか読み取る。試してみよう」


 そう言って薫は眼鏡をくい、と押さえ、花蓮に言う。


「花蓮さん、絢華を見てもらえますか」

「承知いたしました」


 花蓮は頷くと、相変わらず感情の読めないクールな無表情で、絢華を見た。


(……感情を読む、といいますけども。メイドの花蓮はいつも冷静でロボットみたいな子ですわ。薫が作った装置でも、なんの感情も持っていないと判断するのじゃないかしら)


 そんな風に考える絢華を尻目に、ぱしゃり、とフラッシュの音が響く。

 静かな機械音とともに、ぴろりんっ♪ と効果音が鳴り響いた。


「ほら……花蓮さんは絢華に対して『ウゼェ……』と考えているという分析結果が出た」

「流石は天才科学者である天羽薫様の発明したアプリケーション。実に正確でございます」


 花蓮は思わず手を叩いて、冷静な瞳の中に確かな感動を輝かせた。

 そして隣では絢華が愕然とした様子で叫んだ。


「ちょっと! 今聞き捨てならない真実を知ってしまいましたわ!?」

「気のせいでございます、ウゼェ様」

「気のせいじゃありませんでしたわ!? 明らかに花蓮はわたくしの事をうっとおしく思っていましたわ?! ショックですわ!!」


 花蓮の無表情な唇から放たれる言葉の追い討ちにダメージを受け、思わず叫んでしまった。

 あまりの事態に大きい声を出して、はぁはぁと荒い呼吸をした絢華は、気を落ち着けるようにお茶に手を伸ばす。


「本日のお茶はリラックス効果のあるカモミールティーでございます」

「心を荒ぶらせた元凶の台詞じゃありませんわよね!」


 神経を逆撫でする花蓮の言葉に再びあらぶる絢華お嬢様。

 花蓮は謝意を示すため、深々と頭を下げた。


「……申し訳ございませんでした、お嬢様。あ、すみません、間違えました、ウゼェ様」

「間違ってませんわよぉ、明らかにわたくしを貶す故意ですわぁー!!」


 こうして。

 お嬢様の恋愛に対する度胸の無さに内心不満を溜め込んでいた花蓮の言葉の数々に、絢華お嬢様はぐったりと疲弊するまでダメージを受けるのであった。



 そんなこんなで。

 カモミールティーを三杯ほどお代わりして心を強制的にリラックスさせた絢華は、興味深げにスマホのアプリを見つめた。


「つまり……このアプリケーションを使えば、明良くんがわたくしの事をどう思っているのか分かるわけですわねっ?!」


 ちょっとワクワクした様子の絢華であったが、薫は忠告するように言う。


「うん。その結果は大変正確。……ただし絢華。表示された結果が、『絢華? はっ、もう過去の女さ』等の結果が出ないとは限らない。傷つく事になるかもしれないのは覚悟して」


 むぅ、と絢華は呻き声を漏らす。

 相手の本心をはっきりと突きつけられる。それは必ずしも良いこととは限らない。

 むしろ結果によっては絢華の一目惚れの恋が完全に終わってしまう事だってあるのだ。

 

「ええいっ、そんなこと今から考えてどうしますのっ」


 絢華は豪奢な縦ロールを左右に振って弱気を打ち消した。

 これで明良くんを写真に取ればいい。そうすればきっとアプリには『絢華……結婚しよう』というかなり良い感じの結果が出るに違いない。

 となれば善は急げ、と立ち上がろうとした絢華の耳に、花蓮のクールな声が飛び込んできた。


「あの……薫様」


 常に無表情な花蓮が珍しくも、眉を寄せて困った顔をしている。

 冷静なメイドの言葉に薫は首をかしげた。


「なんだろう、花蓮さん」

「……このアプリ。『視線を向けている相手に対する感情を読み取る』のですね?」

「うん。その通り」

「だとすると……お嬢様がスマホのカメラを向け、陽世君を撮影しないといけないわけですね? ……フッた人が、フラレた人を写真で撮影する。……気まずすぎません?」


 沈黙が降りた。

 それもかなり気まずい感じの奴であった。

 薫もそれは盲点だったのだろう。頭を抱えた。


「……流石に私も、フッた人が振られた人に対して使用するという状況は想定していなかった」

「致し方ない事かと。全てお嬢様の間の悪い初恋がいけないのです」

「な、なんとかしますわっ!!」


 ふんっ、と拳を握り締めて気合を入れる絢華。

 しかしそんな彼女に、薫は冷ややかな目を向けた。


「そう? なら頑張るといい。……明良は私に『薫の事好きだよ?』と言っていたのだから失恋すると確定している訳だが……」

「うわあああああぁぁぁんもうゆるしてほしいですわぁああぁぁ」


 再び失恋への怯えを掻き立てられて涙ぐむ絢華。

 一度は明良が薫へと囁いた言葉が、ただの友達関係の意味だと考えたけども、やっぱり不安なものは不安だった。

 そんな彼女を見て仏心を出したのか、薫が胸を張って言う。


「仕方ない。わたしがひと肌脱いでこよう」

「えっ?! ……わたくしを助けてくださるの?」


 薫は頷くと、絢華の顔をスマホの写真機能でぱしゃり、と撮影する。

 そしてお屋敷の中にあるコピー機で、ガー、と音を立てて印刷。絢華の顔の写真を一枚手に取った。


「別に本人でなくとも、写真を見た時の顔でも判別可能」

「さ、最初からそうしてくださいませぇー!!」


 思わず叫ぶ絢華。

 しかし、落ち着いて考えれば、直接明良くんと顔を合わさずにすみますわ! とホッと安堵の様子を見せるヘタレお嬢様の絢華。

 そんなヘタレな主に対して、千尋の谷に落としたげな視線を見せる花蓮。


「……あの、薫様。あまりお嬢様を甘やかすのもいかがかと思うのですが」

「気持ちは分かる。けど……わたしにも意味があるのだ。行ってくる」

「よろしくお願いしますわ、わたくしの親友の薫!」


 調子のいい事を言う絢華の言葉に多少イラっとしたが、薫はそのまま屋敷を出て歩き始めた。

 もちろん……絢華の恋の手助けも目的の一つである。

 けどもそれ以上に、この胸の中でもやもやとわだかまる気持ちに決着をつけたいのだ。

 明良は自分の事を『好きだよ?』と言った。

 ああ、認めよう。確かに……疑問系だ。言葉の響きや会話のニュアンスを考えれば、あれは『友達として好きだよ?』と言っていたのだろう。

 冷静になって考えればそのくらい思いつくのに。


 認めるしかない。わたしは冷静ではなかったのだ。


 自分に向けられた『好きだよ』という一言に、頭の中が興奮と喜びで一杯になって冷静な思考力を失っていたのだ。


「……あ、そうだ」


 思いついたことを実行するためスマホを起動し、先ほど撮影した絢華の顔を分析させ、何を考えていたのか調べる。

 しばらくの検索の結果、回答が出る。


『期待と不安を感じています』 

「……なるほど」


 絢華の顔に浮かぶ期待と、瞳によぎる怯えの色。

 近くの窓に映る自分の顔を見比べる。


「……わたしも、似た顔してる」


今回の話にはアニメネタが隠れています。

分かった人は友達になりましょう(真剣)

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