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少しは見直したぜ!

 本日は歯痛で歯医者に行く以外行動できず、更新ができませんでした。

 それに加え、書き溜めも尽きたので以降は少し更新速度が遅くなると思います。

 ご了承ください。

 誰かが傍にいる。

 明良は夢うつつの状態のままそれに気づいてはいた。

 もしこれが刀剣特有の怜悧な光であり、こちらを害そうとする敵意の眼差しであったならば、明良は閃電の如く反応し、これに対処しただろう。

 でも僅かに目を開けてみれば……告白して、そしてお断りの返事を貰った、好きな人の赤らんだ顔だった。


(……あっ、夢だ)


 夢うつつの意識の中で、明良は苦笑らしき気持ちを抱いた。

 失恋して未だに引きずり。あらゆる苦しみに効く、時間という処方箋もまだ効能を発揮しない。

 夢の中で、絢華がいる。

 自分の深層心理とかそういうものが見せる夢なのだろうか。

 明良は、思った。

 

 だってそう、都合が良すぎる。


「明良くん」


 どうしてこんなに近いんだろう。

 どうして自分にそんな風に嬉しそうに微笑みかけてくれるのか。

 囁く声は桃の砂糖煮よりも甘ったるく、蕩けるほどに嬉しそうに身を摺り寄せてくる。

 そんなのありえない。都合が良すぎてうそ臭い。


「明良くん、好きですの」


 ああでも、夢よ、醒めるな。眠気よ、去るな。目蓋は想いで重いままでいてくれ。

 これが自分の望みが見せる夢やまぼろしの類であろうとも、幸せな夢に浸りたいと思ってなにが悪い。

 告白して振られた。

 自分の教室の前を横切る時に睨まれた。

 そして今回も失恋の傷跡に塩を塗りこむように、振られた人の護衛をするように命じられた。

 ああでも、もう恋がかなう目がないとわかっていてもまだ割り切れない。

 そんなにあっさり忘れられるほど、軽い恋などしていなかったんだ。


「明良くん……好きです」

 

 好きと呼ばれるたびに魂が桃源郷へ吹き飛ぶような気持ちになる。

 これが現実であったなら死んでもいいとさえ思える。


 けれど――身を摺り寄せ、唇を近づけてくる彼女の姿に。

 どきり、と夢の中であるのに、明良は心臓が跳ねるのを自覚した。


(あっ……なるほど、こういうことか)



 よくよく……人は一番いいところで夢が醒めると聞くけれども、明良はその理由がわかった気がした。

 自分の願望が夢として現れるのであれば……きっと、その夢は幸せすぎて。

 心の中で、そんなに都合の良い話などないと、頭のどこか冷静な部分が人の眼を覚ますのだ。

 だから自分に寄りかかる彼女の温もりも。

 まつげが分かるぐらいに間近に迫ったその美麗な顔立ちも。

 全て偽りであると自覚するのだ。


 甘い匂いが鼻腔をくすぐるも、それが夢と自覚したなら……明良の無意識は自分に圧し掛かる柔らかな重みは敵であると認識した。

 そして師父である七瀬一徹老人の薫陶を受けた彼の両足は……夜、寝台に忍び込む敵を自動で迎撃する。

 組み敷かれた位置を瞬時に入れ替えるように身を走らせ、今度は相手をベッドに押し倒し、そして肩を抑えてそのまま誰何の声をあげようとしたところで……明良は、窓から差し込む月の光で、ようやく相手が誰であるかはっきりとわかった。


「……んん? 西園寺さん?」

「ふぇッ……ええぇぇ~~~~~~~~!!」


 自分が告白して、そして振られた人が……なんでこんなところにいるのだろう。

 明良は混乱した。


(え? なに? なんでこうなってるんだ?

 花蓮さんの試験に合格してケダモノにならないという事は認められたはずなのに)


 絢華のパンツを洗濯しろという課題を出した花蓮先輩の正気を明良は最初疑った。

 主人の羞恥心とかをぞんざいに扱いすぎではないかと思ったが、しかしそれをしないと認めないと言われれば仕方無しにパンツを洗った。

 完璧に綺麗にした。

 パンツの中に頭を突っ込んでブレイクダンスをしても構わないぐらいに完璧なできばえで、洗濯同好会の部長である花蓮も満足の出来だった。

 だからこそ自分がケダモノになったりしないと信頼されたのに……。


 自分が、絢華お嬢様を襲わないという自信はあった。

 告白して既に振られているんだから、もし色欲に任せて襲ったら犯罪であるし、なによりフラレタからといって、相手の幸せを思う気持ちに偽りはなかったのである。


 だが、流石の明良も、西園寺絢華嬢のほうがケダモノになるパターンは予想していなかった


 おかしい。

 今、絢華嬢は男である自分に組み伏せられている。

 口も押さえていない。彼女が、キャー、と甲高い悲鳴を上げただけで明良の人生はGAME OVERだ。

 しかし絢華嬢は顔を真っ赤にして、目に期待と興奮の色を煌かせながら、『はわ、はわわわああぁぁ』と、妙に色っぽい声をあげていた。


「ち、ちちち、違いますのっ! わたくしが夜這いなんてそんなはしたない真似ッ……」


 陽世明良が混乱していたように。

 西園寺絢華もまた混乱の坩堝にあった。

 

 夜這いなんてそんなはしたない真似、と言ってはいるものの――絢華が今着ている服は、まさに、はしたない。

 気絶する前に花蓮が勝手に着せ替えしたもの。つまり、男性の劣情を誘うかなりスゴイ奴である。

 こんなふしだらな服を着た状態で男性の寝所に忍び込んだなら、勘違いされること請け合い。

 絢華は泣きそうになった。

 恥ずかしい格好をしているのもそうだが、貞淑に育てられた彼女は、自分が好色であると思われて、嫌われることが何より怖かった。

 明良の困ったような目が絢華を見つめる。その艶美な肢体を視線でなぞる。

 ひとつの寝台に男女がひとつ。

 明良の眼に一瞬浮かんだのは、愛しさに狂う獣のこころ。

 そしてわずか一瞬でも欲情した事を恥じるかのように、唇に深く悔恨を刻みつけ、耐えるように目を背ける。

 欲望とそれを自制する様、失恋してもなお自棄にならず、絢華を大事に大事に扱おうとするそのこころに、またどきりと心臓が跳ね踊った。

 改めて、また好きになってしまう。


(た、食べられちゃいますわっ!)


 頭の中では色々と警告が鳴り響いているけど、しかし嫌ではない。

 状況が状況だが、好きな男の子が相手なのだ。

 僅かに気を許せば、我慢しなくていい、と囁きそうになる。もう彼女には明良しか見えていなかった。


 そして明良以外に何も見えなくなった絢華と違い……自分の自制心に自身の無くなった明良は、早々と他人に助けを求めた。

 枕元にあったスマホで電話する。

 数度のコール音と共に、声が響いた。


「あの……花蓮さん」

『ええ、ええ。ではどうぞ。

 ……はい、なんですか、明良くん。今来客の方を応対し終えたところなんですが』

「それはちょうど手が空いたって意味でしょうが……絢華さんが自分のベッドにいるんですが、どうすればいいでしょうか」


 明良は自分でもどうかと思う内容だと思ったが素直に告げる。

 すると、たっぷり十秒ほどの沈黙の後、花蓮が返答した。


『YESッ! YESッ! YESッッッッ!!!!

 ……失礼。まさかうちのヘタレお嬢様にそんな大胆な振る舞いができようとは。

 ……いえ、それならばこうお答えなさい』


 ……明良は花蓮のアドバイスに、えええぇぇ……???? と盛大に疑問符を並べたが、とりあえず指示に従うことにした。


「や……やさしく……するよ?」


 疑問系なのだから、冷静であったなら、絢華も少しはおかしいと思っただろう。

 けれども……恋愛に臆病で、自分から一歩を踏み出す勇気が持てない彼女にとっては、明良の言葉はまさに渡りに船。

 こくん、と恥ずかしげに頷く彼女に……明良は『あれ……告白はお断りされたのに、なぜ?』と首をひねるよりほかなかった。

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