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プロローグ

 時折無性に男の子と女の子がわちゃわちゃするお話が読みたくなります。

 そんな一心で書きました。

 面白いと思ってくれると幸いです。

「お気持ちは嬉しいですわ……でも、ごめんなさい」


 陽世明良(ひせ あきら)は、全身を包む脱力感に危うく倒れこみそうになった。

 彼女のその回答を想像していたはずなのに、いざ口に出されると悲しい。

 その結果に、思わず瞳の奥底から熱い涙の衝動が溢れそうになる。


 いけない。泣きそうだ。


「あ……ありがとう。ちゃんと……答えてくれて」


 失恋の悲しみに打ちひしがれる明良は、それだけを彼女に答えるのが精一杯。

 まったく、情けない。

 大の男が告白して、振られて。

 それだけのことなのに、なんで泣きそうになるのだ。

 そう自分に言い聞かせ悲しみを押さえ込む。


 告白した相手――西園寺絢華(さいおんじ あやか)は流石に気まずそうに目を背けて視線を合わせない。

 綺麗な彼女。憧れの高嶺の花。高嶺の花過ぎて誰も彼も告白する事に踏み切れない完璧なお嬢様。

 日本でも有数の財閥のご令嬢で、容姿端麗、頭脳明晰。オマケに家は大金持ちのどこのアニメのキャラだといいたくなる彼女。

 それこそ釣り合いの取れる男など日本にはそうはいない。

 だからといって、胸の中に溢れる慕情は日増しに強くなる一方で。失恋するだろうと覚悟しつつも明良は告白せずにはいられなかったのだ。

 

「ごめん、ありがとう。……手間を取らせた」


 緩みそうになる涙腺を懸命に押しとどめる。

 告白して振られて。それで振られた相手の目の前で泣くなんて恥ずかしすぎる。

 せめて初恋だった人の前ぐらい格好をつけなければ。涙の衝動とそれを堪える自制が顔の上でせめぎあう。



 そんな顔を、絢華お嬢様は見てしまった。


(あ、あれ。明良くん格好いいですわ)


 一度二度しか話した事のない明良くん。

 それだけに、学校の屋上へと呼び出されたことは驚いた。

 高嶺の花すぎて一度も告白された経験のないお嬢様である絢華だけども、流石に放課後一人呼び出されれば、これが少女漫画やラノベでよくある告白シーンであると気づいた。

 なんて甘酸っぱい青春の一ページ! と思いこそしたけど、相手は一世一代の決心を持って告白してくれたのだ。


 ならばこちらも……きちんと誠意を持ってお断りのお返事をしなくては。

 流石に振られてショックを受ける明良くんの顔を見るに忍びず眼を伏せていた彼女であったが……彼の言葉に顔を見上げて、そして見てしまった。

 

 泣きそうになっている顔。それを表に出すまいとして微笑もうとしていた。

 振られてショックを受けているけど、見せまいとする顔がいじらしい。耳まで顔を赤らめながらも、失恋に奮える姿に、思わず……。


(か、かわいいですわっ!)


 凛々しい顔立ちが崩れる様に、強く同情を覚える。

 告白を断って、落胆させているのは絢華自身だけども。

 彼女の胸の内に強い憐憫と同情が芽生える。どうしてそんなに悲しい顔をしているのだ……と考え、そういえば彼は自分に告白したのだと思い出した。


(あ、あれ? そういえばわたくし、明良くんに告白されましたわね……)


 どっくん。


 いやに大きな心音が耳の横で弾けた。

 

 かわいい、かわいい、かわいい。


 泣きそうになる顔を無理やり微笑まそうと無理をしているのがかわいい。

 その悲しそうな瞳の色が強いほど、そんなに自分を好いていたのか、と嬉しくなる。

 抱きしめてキスをしたくなる。

 そう考えて――絢華は今しがた自分が彼の告白を断ったことを思い出した。

 

(ええっ……ちょ、ちょっと冷静になるんですわ、わたくしっ!)


 ひどい、いくらなんでもひどい。こんなタイミングでの訪れは酷すぎる。


 フッたのだ。


 告白を受けて。でもそれほど親しい関係じゃないから、とお断りしたのだ。

 それなのに――どうしてフッた後でこんなにドキドキするのだ。

 動悸が激しくなる。耳元まで熱くなるのを感じてしまう。胸の中に甘くて締め付けられるような気持ちが湧き上がって身もだえそうになる。

 でも、どんどんと湧き上がる慕情を抑えられない。

 泣き顔を見られまいと毅然と振舞う姿と、それでも隠しきれない慕情の名残のような歪んだ顔にときめいた。


『一目で惚れられるためには、男の顔の中に、何かしら、相手の女性に尊敬させるものと同時に、憐憫の情を感じさせる何かがなくてはならないのである。【スタンダール】』


 過去に読んだ一文が頭の中に閃き、お嬢様は最悪のタイミングで起こってしまった自分の変化をとうとう理解した。キャー! と叫びそうになるのを我慢する。

 

「それじゃ、ありがとう。さようなら」


 くるりと振り向き去っていこうとする姿に、絢華お嬢様は何も出来ず、ふるふると震える唇を自覚する。


 追いかけることができない。

 普通に考えれば、失恋して去っていこうとする彼に言葉をかけるなんて残酷な追い討ちにしかならない。

 けど、ほんの数分前と今の彼女の胸の内では、あまりにも大きすぎる変化が起こっていた。


 絢華お嬢様は。

 

 震える彼の唇に。


 涙をこらえる彼の瞳に。



 一目惚れしてしまったのだ。



 ……そう! 

 絢華お嬢様は明良青年を振った三秒後に、一目惚れしてしまったのだ!!



 サイアク!!


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