第七話「丸秘従者特訓~初心者編~」
これで、きみも、パーフェクトボリーッ。
俺が従者見習いになって1年が経ち、あと数か月で小学校が始まる。
この一年間はとても濃厚で、ハードで…つらかったぁ……
まず、朝5時には起きて親父と共にランニング。
慣れてきたら、近くの山にまで出向き山登り。
走り終えた後は、筋トレをして朝食をとる。
この際朝食の準備は、従者教育の一環として俺がやることになっていた。
7時にはお嬢が来て、魔術の特訓。
ここ一年は四大魔術のマスターと、遠距離魔術の会得が主な内容だ。
自身周辺での四大魔術の発現はすぐにできたが、自身から離れた場所に発現させるのはうまくいかなかった。
あまりにもできなかったのでお嬢にアドバイスをもらったところ、
「なら順にやっていくしかないわね」
「まずは体内の魔素を常に動かしなさい。魔素を意識し続けるのよ!」
俺はお嬢の言う通りに早く動かす、逆流させることを3か月毎日続けていた。
「慣れてきたら手のひらに集めなさい。最初にやった火の魔術のように、物質を操るつもりでやるのよ」
「でも、本当に物質を操ってはダメ。魔素のみを手のひらに集めるの」
とはいっても、やはり魔素のみとなると途端にイメージしにくくなる。
それをお嬢に伝えると、優しく微笑みかけながら励ましてくれた。
「大丈夫よ。充一郎は魔素を逆流させて動かしてきたけど、血液は逆流させなかったでしょ?」
それを聞いて俺は気づかされた。
魔素は体の一部であるが生命活動に支障をきたすことはない。
それは、脳で無意識に理解しているからだ。
お嬢の言葉を聞いてから2か月ほどで、自身の半径5Mの魔素を操ることができた。
そして残りの半年で、遠距離の物質を操っては発現させる特訓を繰り返し、会得することができたのだ。
話を戻し魔法の特訓は昼まで続き、その後お嬢をもてなす昼食となる。
この時の準備も俺がやる。もちろん食後のティータイムも。
緑茶や紅茶、コーヒーと様々な飲み物を習った。
しかし! 前世で入れ方を学んでいた俺は(エセ英国人艦娘やうさぎ達の影響で)少し覚えるだけでうまくなった…と思う。
お嬢が飲むたびにニマニマ笑うし平気だろう。
午後からはお父さんによる武術の特訓だ。
ここで、お父さんが子供を一人連れてきた。
まさか隠し子ッ!? …なんてこともなく。
「充一郎、この子はお嬢様の従兄の藤宮優吾君だよ。」
「従兄ですか。初めまして、僕はお嬢様の従者見習いで、名前は大樹充一郎と言います。よろしくお願いしますね。」
「おう!俺は藤宮優吾だ!よろしくな!」
第一印象は爽やかな男だな。
短髪黒髪で二カッと笑う表情はとても好印象だ。
赤い鉢巻きとか似合うと思う。
「苗字が違いますけど、母方が藤原のものなんですか?」
「なんか固いやつだな。藤原だったのは俺の父ちゃんだぜ。弟だから分家になって苗字も変わったんだよ」
なるほど…分家は名を変えるって…俺の就職先超大手じゃん,,,
「そうだったのですか。あと、このしゃべり方は癖みたいなものなので、気にしないでください。」
「さぁ、自己紹介は終わったね。じゃあ武術を学んでいこうか」
お父さんが教えてくれる武術は、接近格闘が軸になっている。
そこからナイフなどの小回りが利く武器を使った近接格闘、ナイフを投げる投擲などなど。
「常に武器があるとは限らないから、様々な武器を使って行くこと」
「けど、その中で得意なものはちゃんと見つけるんだよ」
基礎が終われば、自分が得意だと思った武器でスパーリングを始める。
「得意な武器だとしても落としたり、奪われることもある。」
降り下ろした俺の木刀を、お父さんは容赦なくたたき折る。
「そんなとき用の近接格闘も忘れてはいけないよ」
…わかっていますよお父さん…何度も武器を壊されるし、もう最初から素手でいいんじゃないかな…
「こら!充一郎。戦いの覇気じゃないよ!」
「鬼に金棒って思われるくらいにはならないと!」
いつもは温厚なのに、スパークリングになると性格変わるな~。
「はい、よそ見」
木の短刀で頭をたたかれる。
「いってぇえええ…」
くそぉ…いつまでたっても一撃を入れられん…
「集中してないから貰うんだぜ? 次お願いします!」
そして親父と優吾は激しく打ち合っている。
…正直に言って、武術で優吾には敵わないな…
お父さんが優吾を連れてきた理由も、武術に才があるってことだし。
しかしあいつなんでお父さんのブレる剣筋を受けられるんだ?
お父さんの正面突きを、優吾はメリケンサックのような武器で受け止めようとする。
すると、短刀が急にブレていきなり頭上から降ってくる。
それをアッパーで受け止めようとするが、また剣がブレて…を何回も繰り返している。
何回も繰り返しているが、さすがに歳の差で優吾が負けてしまう。
「優吾も集中切れだね…」
「ハァ…まったくだ…早く見切らないと…」
皮肉ったつもりなんだけどなぁ。
それと敬語は消えた。
友達って感じになったからな…癖でもないし。
さらには魔術を使った身体操作も習っていく。
お父さんに、魔素で体をいじっても平気なのかを聞いたところ、
「安全に行えば大丈夫だよ。脳の安全装置を外すイメージをして、意識すればできるようになるよ」
「ただし、体の構造について詳しくないと体を壊しかねないから、まずは人体についての勉強だ」
と、半年ほどは生物学を学んでいた。あれ? 武術は?
だが体の構造を理解していくと、身体の操作ができるようになってきた。
「負傷部から血が出た場合、最初に魔素を操って白血球を集める。さらに、血小板を集めて止血する」
「応急処置ではあるけれど、生存率は上がるから瞬時にできるようにしようね」
最後に血流操作が相手にできれば上出来と締めくくった。
一方、筋力増加は難しいようだ。
「筋力増加は少し無理があるかな。意図的に筋を太くしたり、増やすのは負担が大きいし、そのための細胞を他から持ってこなくちゃいけないからね」
…自力で増やしていくしかないようだ…
夕食までお父さんとの特訓は続き、優吾を家に帰す。
夕食の準備はお母さんが作ってくれるが、礼儀作法は学んでいく。
就寝までは両親二人による座学だ。
一般教養から専門分野まで、広く教わっていく。
夜10時に就寝。一年間週6日でこのサイクルだ。
1日丸々休みだが、休息も大事とのことでとっている。
…一度、こんな生活を毎日続けられる5歳児ってどうなのよ…と思い、お父さんに聞いてみたことがあった。
「う~ん。普通の5歳児ならおかしいと思うけど、耀子お嬢様や優吾君、どちらも5歳児には見えないし、お父さんも5歳の頃こんな感じだったからあんまり不思議と思えないんだよね。ハハハ…」
…どうやらここら一帯の人達は少し特殊らしい…主に精神面が…
ありがとうございます。
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