第六話「圧迫社長面接」
書いてて五歳に何言ってんだって思いました。
お嬢を先頭に、俺は斜め45°右後ろに立っておじいさまの部屋へと入った。
その部屋は戦国武将たちが会議をするような大広間だ。
一段上がった畳の上におじいさまが座っていて、横に親父が立って控えている。
お嬢が中央まで移動し正座をした。
…親父は立ってるし、俺もこのまま立っておこうかな…
「…よく来たな耀子。最近の調子はどうじゃ?」
「はい。いつもと変わらず元気にあふれております。」
いつものお嬢じゃねー、元気だけど。まぁそれだけ重要なことなのだろう。
「して、今日は何用でわしの前に来た?」
「おじいさまに、私の従者を連れてまいりました。名は大樹充一郎。洋一さんのご子息ですわ。」
「ほう…そうなのか洋一よ」
「私の息子にてございます。龍之介様」
親父は優雅にお辞儀をした。
「ふむ…充一郎よ、おぬしは今いくつになった」
「今年で5歳になります。」
「耀子と同い年か…充一郎よ、おぬしは耀子の従者になるつもりなのか?」
…圧迫面接やこれ…家系が従者だから俺も従者になるって言ったらだめだな。
「…そのつもりでございます。お嬢様には魔素や魔術についてご教授していただきました。」
「その御恩を返すためにも、お嬢様の従者となり支えていきたいと思っております。」
「それだけか?」
…帰りたい。ほかに理由が見当たらない…
無言で難しい顔をしていると、龍之介様が問いを投げかけてきた。
「おぬしは耀子と出会ってどれだけ経ったのじゃ?」
「えっと、3週間ほどたちます」
「1か月もおらんのに、一生を捧げる気がおぬしにあるのか?」
…ぐぅ正論です。…なんで俺従者やってるんだろう。
「おぬしの父はわしの従者をしているが、別にお前さんもやることはない。」
え? マジで?
「従者とは、主にその身を捧げて初めて従者となる」
「おぬしはまだ5歳、耀子を守ることなんてできんじゃろう」
「耀子のために死ぬ覚悟はあるのか?」
……俺はなんでお嬢の従者をしたいのだろうか。
別に俺じゃなくても、ちゃんとした従者が…例えば明彦さんがお嬢の従者でいいんだよなぁ。
お嬢に将来の従者とか言われたけど、それはただの早とちりってこともあるだろうし。
普通に考えて、5歳の俺なんかに孫を預けられないよな
多分お嬢は、同年代の俺と楽しく遊びたかったから俺に構っていたんだと思う。
そうだな…せっかく転生したんだし……もっと自由に……けど……
お嬢の輝く笑顔…穢れのない純粋な笑顔…すべてを包み込む笑顔…
もっと近くで…見ていたい。
「確かに私は、まだ5歳で従者になるのは早いと思います」
「先ほどの仕えたい理由に嘘はないですが、一生を捧げる理由には足り得ません」
お嬢が頭を少し下に向けた。
「ですが…」
「私は、お嬢様の…太陽のように輝く笑顔に、心奪われました」
「お嬢様にはずっと笑顔でいてほしい、お嬢様の笑顔をずっと見ていたい」
「お嬢様の笑顔を曇らせるような奴がいたら許さない、お嬢様の笑顔を私は守りたい!」
「龍之介様、私はとても弱いです。お嬢様のほうが強いお方です」
「それでも、おそばにいたいです。そのためにも強くなって見せます!」
俺は正座をし、頭を下げた。
「どうか私を、お嬢様の従者にしてください!」
「ふむ…洋一よ…後は任せたぞ…」
「かしこまりました」
そういうと、龍之介様は部屋を出ていってしまった。
…あれ~やっちゃった奴? …パパ無表情でこっちに来るのやめて!
「お、お父さん…僕は…」
洋一は無言で腕を振り上げた。
(殴られるっ!)
そう思い、ぎゅっと目をつぶった俺の頭を、お父さんは優しく撫でてくれた。
「すごいな…充一郎。ママに教えてもらったのかい?」
「へ? え、あ、うん。そうだよ」
荒っぽい撫で方だが、とても気持ちがいい。
「ねえ、お父さん。俺って従者にはなれなかったの?」
龍之介様は無言で帰っちゃったし、呆れられたのかな…
「いや、そうじゃないよ。でも従者としてはまだ認めてはいらっしゃらないかな?」
なんだと…じゃあダメじゃないか。
あんな恥ずかしいこと叫んだのに……あぁ、お嬢も顔赤くしながら下むいちゃってるじゃん…お布団かぶりたい…
「そんなに落ち込まなくてもいいんだよ。龍之介様は充一郎のことを従者見習いとして認めていらっしゃる。」
「従者として認められる場合はこれからの充一郎の頑張り次第だよ」
これは…候補には入ったってことなのか…
ならあとは俺が頑張って、優雅に、強くなれば…お嬢の従者として…
隣りに立てるんだ。
「うん。いい顔だね。」
「耀子お嬢様、充一郎が粗相したら遠慮なく怒ってやってくださ…お嬢様?」
「うぇへ…笑顔…でぇへへ」
…お嬢様壊れた…
「お、お嬢? 大丈夫ですか?」
「ぐふ…ッハ! 何よ! 私は普通よ普通!」
無事トリップから戻ってきてくれたみたいだ。尻出し小僧のニヤけ顔してたけど大丈夫かな…
「では耀子お嬢様。これより特訓メニューを作るのでご同行お願いいたします。」
「ええ、わかったわ。早速行きましょう」
ん? 特訓メニュー? なんだそれは。
「お父さん、特訓メニューって?」
「もちろん、充一郎の特訓メニューさ」
なして?
「さっき言っただろう? お嬢様の従者になるために強くなりますって」
あっ…そうでしたね。けど、こんなこと言うってことは…
「お父さんが特訓してくれるの?」
「そうだよ。パパと耀子お嬢様でね」
ん? お嬢が教官ポジション?
「私が魔術を教えて、洋一さんが従者教育と武術も教えてくれるわよ!」
なるほど! 適材適所でいい配置だな…
「とてもハードになる予感がしますね...」
「あったりまえじゃない! 私の従者になるんだから、とっても強くならなくちゃ!」
「頑張るんだよ、充一郎」
…かしこまりました。お嬢、パパ…
「早く行きましょう洋一さん。泣く子も黙るスペシャル特訓メニューを作ってあげるわ!楽しみにしているのよ」
そう言ってお嬢は、先ほど俺が守りたいと言った満面の笑みを、赤面と一緒に浮かべて隣の部屋へと消えていった…
確かに守りたい笑顔だけど…そういう風に使わないでください……
ありがとうございます。
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