第五話「お嬢は本当のお嬢様」
5歳で内定獲得
「さあ充一郎! 魔術の特訓再開よ!」
「ちょっ、まって、ハァ…ください…よぉ…お嬢…」
くそ…息が上がる…周りの酸素が少なくなっていることもあるかな…
「酸素くらいそこら辺から持って来なさいよ」
「体外の魔素って…イメージしにくいん…ですよ…」
何回かやってみたが、風が吹いてくるだけだし、大体半径3Mくらいしか動かせない。
「なんで風の魔術使っているのよ。まぁ難しいって言われているし、まだ仕方ないでしょう。でも魔素を捉えれば楽勝よ!」
天才かよ。こっちは大幅な経験値があるというのに…
もしかしてお嬢も転生者か?…子供っぽ過ぎるな。
幼女によるシゴきに耐えつつ特訓していたら、母親が帰ってきてしまった。
「ただいま~ってあれ? 充一郎?」
おぉ…聖母様よ…我を助けたまへ……。
「おかえりなさい…そして助けて…」
「うん?…ふぇっ! 耀子お嬢様!? どうしてこちらに!?」
え? ママンなんですかその反応は。
「あら敦子さん、お邪魔しているわ! 今充一郎を鍛えているところよ!」
はい、ボッコボコにされてます…は置いといて。
「お母さん? 知り合いなの?」
「知り合いもなにも、パパが仕えている方のお嬢様よ」
…What’s? コノコ、ホンモノノ、オジョウサマ? Yeah?
「お嬢は…知っていたのですか?…」
あれこれやばくない? 俺失礼なこと言ってなかったっけ? この子俺の親父の主人の子供ってことだろ?
つまりこれは俺がしくじっていれば、親父にも被害がいくパターンの奴や!
「当り前じゃない! 将来の従者がどんな奴なのか見に来たのよ!」
やった~就職先もう決まってんじゃ~ん!...大丈夫だよね? 俺失礼してないよね? ね?
「泣き虫なら根性叩き直してやろうと思ってたけど、中々優秀そうでよかったわ!」
おおお、よかったあああ、お嬢とか生意気なこと言ってすいません! 弱音なんかはかない優秀な従者になります!…でも僕まだ4歳だよぉ…
「…ありがとうございますお嬢様。日々精進してまいります。これからよろしくお願いします。」
親父の勤務先の、しかも社長のお嬢様とか嫌だなんて言えないよ……
「ちょっと! あなたはお嬢と呼ぶのよ! そう許可したでしょう、頼むわよ充一郎!」
不満な顔を浮かべるがすぐに表情を変えて、すべてを照らすような満面の笑みを浮かべたお嬢に、俺は少しだけドキッとした。
「…あ、はい承知いたしました。お嬢」
「んふ~! よろしい!」
…ここ重要なシーンなんですからドヤ顔やめてくださいよ…
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俺が従者となって数週間後。
いつもの特訓場所で、お嬢に魔術を教わっていた。
「あ、そうだ充一郎! あなた私の従者になったんだから、おじいさまに挨拶しに行くわよ!」
ついに来たか、社長面接。ここでしくじったら人生終わる。
「承知いたしました。服装はいかがいたしますか?」
「う~ん…そのままでいいんじゃない?」
いやいやお嬢よ、社長に会うのに一張羅もなしなんて…まだないわぁ。
「失礼な恰好ではないでしょうか?」
「いつもどうりで大丈夫よ! さぁ行くわよ!」
お嬢が俺の手を引く。その幼い手は暖かく、柔らかく、すべてを包み込むような…そんな気がした。
「俺はロリコンじゃない俺はロリコンじゃない俺はロリコンじゃない俺はロリコンじゃない」
「なにぼそぼそと言ってるのよ」
「何でもありません。ところでおじいさまのお屋敷はどちらにあるのでしょうか?」
「ん? もう着いたわよ?」
え、はやすぎでは? 一軒しか過ぎてないんだけど……
「離れていると思ったの? あなたの父親はおじいさまの従者よ? 近くに住んでいるに決まっているじゃない!」
ずっと引きこもり生活のせいでお外まったく気にしてなかった…
「…確かにそうですね。これからは外の散策をしておきます」
「ずっと家にいるのは体に毒よ? 今度案内してあげるわ!」
目がキラキラしてる! わんぱく過ぎやしませんかねお嬢…
「おかえりなさいませお嬢様。今日はお早いですね」
大きな門の端に中性的な顔の人が優雅に立っていた。
「ただいま、明彦さん。おじいさまに私の従者を紹介するから、伝えてきてくれる?」
「この子ですか? 失礼ですが、どちらのご子息でしょうか?」
「充一郎は洋一さんの息子よ! 大丈夫に決まってるじゃない!」
「そうなのですか! それなら安心ですね。すぐ伝えてきますので、お嬢様方はもう向かって行ってください」
では。と綺麗なお辞儀をして去っていった明彦さんを俺はずっと眺めていた。
(…俺もあの人と同じ従者なんだよな…やっぱ従者教育を受けないとだめだな)
じゃないとお嬢や親父に迷惑かけちまうしな。
てか、親父の息子だけ聞いて、安心されるってどれだけすごいんだよ…
ママさんとイチャイチャしてるか、尻に敷かれてるのしか見たことねーよ。
「ぼさっとしてないで、行くわよ!」
「かしこまりましたお嬢」
お嬢と俺はおじいさまの部屋に向かって歩いていく。
流石金持ちの家ってこともあり、結構広い。
平屋だけどお城みたいな、風格のあるお屋敷だな。
中庭のある家って初めて見たよ…
5分ほど歩いていると、お嬢が襖の前で立ち止まった。
「ここがおじいさまのお部屋よ。いい? これから挨拶するけど私語は禁止よ。おじいさまが言われたことはすべて答えなさい。わからない、なんて言うんじゃないわよ?」
あのお嬢の太陽並の笑顔は消え、研ぎ澄まされた刀のような鋭い表情になっている。
だが恐怖や恐れといった感じではなかった。
……おじいさまそんなに怖いのかよおおお。敬語や礼儀なんて前世でまったく勉強してないし。
失敗したらどうしよう。もしかして親父の首が飛ぶんじゃないのか?
「…あの…僕本当に大丈夫でしょうか? 失礼なこといってしまいそうなのですが」
「平気よ。この数週間見てきて大丈夫だと思ったから連れてきたのよ?」
「え? 試していたんですか?」
毎日俺の家に来ていたが、そんな風に思って来ていたのか。
「私の従者だしね。駄目そうなら魔術の練習の代わりに従者教育する予定だったけど、平均点は越えていると判断したから、自信を持ちなさい!」
こっちを振り向きニコッと笑うお嬢の笑顔に、俺は心を奪われそうになった。
もう俺ロリコンでい…よくない!
「ありがとうございます。何とかなりそうです」
「そうよ、何とかするのよ! さぁ待たせてしまうのはよくないわ。入りましょう」
そして、お嬢は襖に手を掛けた。
ありがとうございます。
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