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僕は君との思い出を  作者: 海鴨
第一章 異世界
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第5話 人間族とクリーム

 今、僕は座禅ざぜんを組んで瞑想めいそうしている。目を閉じて魔力が体をめぐるように意識する事で、魔法を使うときに魔力を円滑えんかつに素早く集めて魔法を発動できるようになる。また、このことを【魔力循環まりょくじゅんかん】といい、魔法使いの基礎訓練として確立されている。もっとも座禅は自分の気分でやっているだけで、本人が集中出来るならどんな姿勢でもいいらしい。


 あの日(儀式)から六日むいか経ち、異世界に来て十日目。朝ご飯を食べる前に必ず魔力循環をしている。勿論もちろん、円滑に魔力を廻らせるためにだけれど、一番の理由は魔法を使えるようにするためだ。あの日からいまだに魔法ファイアを成功出来ていない。


 マヤからは、とにかく魔力循環の訓練と魔法を使う想像をするように、と言われた。あの後に詳しく説明してもらったが、儀式が成功出来たら、その時に頭に入ったイメージどおりに想像し、魔力を集めるのだとか。儀式が成功したかいなかの判断は、頭にイメージが湧いてくるか、何かが体に入り込む感覚がすれば成功らしい。成功した時点で、魔法を使える適性があるかもしれないとの事。


 だが、儀式で成功させた属性が適正か否かまでは分からないみたいだ。それなら別の属性魔法の儀式をすればいいじゃないかと思ったけど、儀式に使った道具。特に、補充された魔法石は消耗品で、尚且なおかつ高価なので、備蓄している分ではあと二回しか出来ないらしい。一ヶ月経っても魔法が使えなかった場合には別の属性で儀式をしてみようという話にはなっている。


「カイム、ごはんよ」


 瞑想を止めて、台所に行く。今日は魚と野菜のスープに、黒パンと小さなびんが置いてある。マヤが席に着いてから二人で食事をはじめた。


「この瓶は何?」


「それは闘牛クリームよ。甘くて濃厚で、とっても美味おいしいのよ」


 さっそくスプーンで瓶からクリームをすくう。濃い黄色のクリームからは濃厚なミルクの香りがしていて美味しそうだ。それを黒パンに塗ってから一口噛んで咀嚼そしゃくする。


「んー!」


 思わず唸ってしまうほどに美味うまい! 口の中でゆっくりと溶けていき、程好ほどよい甘さに濃厚なミルクの味わいが口の中に広がっていく。またたにクリームを塗った黒パンを食べてしまった。もう一切れ黒パンを取ってからクリームを塗って食べる。美味うますぎる。


「ふふ。気に入った?」


 夢中でモッシャモッシャと食べていたら、マヤの慈愛に満ちた金色の瞳に見詰められて、ちょっと恥ずかしくなってしまった。


「すごく美味しかった。でも名前が物騒だね?」


「それはね、闘牛族ルチャルコリーダから取ったミルクを使っていて、量も多く作れないから生産地とその付近に出回っているくらいで、なかなか食べられないのよ」


「結構貴重なの?」


「闘牛クリームを作っている所は結構あるけれど、闘牛族ルチャルコリーダから新鮮なミルクを取るのが大変なのよ。この村でも作っているけれど、今回の分は多分もう売り切れだと思うわ」


 そんなことなら、もっと薄く塗って長く楽しみたかったかも。まだ残ってるから大事に食べないとね。さて次は魚のスープを飲む、魚の身は煮詰められてフワフワだ。魚自体は出汁だしが出てしまって、少し淡白たんぱくな味になっていたけど、かわりにスープの方は魚と野菜の出汁で甘くサッパリとした味になっていた。食事を堪能たんのうした後は、いつも通りに色茶葉しきちゃばを入れた色茶葉茶しきちゃばちゃを飲んでのんびりとする。


「ふぅ……」


 なんだか年寄りくさいけど、落ち着くんだよね、この薄味の紅茶。


「今日も村長の所にいってくるから鍵閉めお願いね?」


「はーい。こっちは何時いつも通りにお昼頃帰ってくるから」


 二人で食器を片づけてから、マヤは村長の家に行く。マヤは治癒魔法使いとして定期的に村長の家に行っている、村長の家は広く、そこの一室を使って村の人に対して格安で治癒魔法をかけているみたいだ。


「魔法か……早く使えるようになりたいな」


 重い腰を上げて、道着に着替える。今日も水瓶みずがめリレーの時間だ。井戸に行き、水瓶に水を半分入れて、家の水瓶に補充する作業を繰り返す。それが終わったら家の鍵を閉めて、井戸の広場にある階段から土塁どるいうえがり、時計回りにぐるっと走る。途中で会う人獣さんに挨拶を交わしてながら進むと西側にまで到達した。


(……今日はリィデットさんいないのかな?)


 顔は怖いけど親切なリィデットさんが居ないみたいだ。土塁から降りて短槍を五本小脇に抱える。初めて会った後に、リィデットさんが追加で木を削って作ってくれたのだ。土塁に張り付けられたマトから十メートルほど離れる。ちなみに十五メートル以上は下がれない、人様の敷地に入ってしまうからだ。


 短槍を軽くにぎるように持って、目より少し高く構える。目線を一点に集中し、的に向かって投擲とうてきする。風を切る音と土に刺さる音が心地いい。五本中三本を的に当てることが出来た。投げ終わったら拾いに行って、また投げる。


「ふぅ……こんなもんかな?」


 今日は昨日よりも的に当たるようになった。もう少しやりたいけど早めに切り上げよう。今日はミリアムに闘術を教えてもらう日だから。


 後片付けをしてから、土塁ランニングを再開する。北門付近から下に降りて武具店に向かうとミリアムが待っていた。


「おはよー、カイム。さっそく行くよ~」


「はい、今日もお願いします先生」


 今日も頭を下げて挨拶する。ミリアムはニコニコしながら尻尾も振っている、実は先生と呼ばれるのが好きみたいだ。チョロイな。


 ミリアムの後ろに付いていき裏庭に行く。ミリアムは自分のおびめ直してから振り向く。


「じゃぁ。拳突きや蹴り、後は足運びも含めた練習を一通りやるよ~」


 互いに向かい合ってから、足を広げて構える。


「よ~し、右拳突みぎけんづきから。1! 2! 3! ...」


 ミリアムの掛け声と共に一緒になって、右拳、左拳と交互に突く。子供相手にも容赦しない百回突きだ。出来そうならどんどん数を増やしていくって豪語ごうごしていたあたり恐ろしい。最初の頃の二十回だった時代が懐かしいよ。

 でも、こうやって無心で体を動かすのは好きだ。ミリアムにそういったら、無心じゃなくて突く場所を意識してやれって言われた。なんだかミリアムが先生みたいだった……。


「次は、左構ひだりがまえになっての蹴り上げから」


 左足を前に体を斜めに構える。掛け声と共に、順足(左足)逆足(右足)と交互に、計五十回蹴り上げる。それが終わったら、左足を下げながら体を入れ替えて右構えになる。こちらも順足(右足)逆足(左足)での蹴り上げを五十回(おこな)う。

 

 次は構えを維持したまま順手(右手)で裏拳上段突き、逆手(左手)で中段突きをセットで五十回。足を入れ替えて、左構えになって同じように、順手(左手)で裏拳上段突き、逆手(右手)で中段突きを行う。これだけで腕が上がらなくなる、何度も言うが子供にこのメニューは厳しい。


「はぁ、はぁ」


「疲れた? 次は手を使わないまわし蹴りと足刀蹴そくとうげりだから安心しな~」


 いや、回し蹴りはともかく、足刀蹴りは骨盤が悲鳴あげるんですが……。


 そんなもの何処吹く風だみたいな顔してミリアムが始める。回し蹴りは、構えた順足じゅんあし逆足ぎゃくあしで交互に行い。足刀蹴りは、順足を逆足に引き寄せてから、足の指の付け根ではなく、小指側の側面で相手を蹴る。手を足に見立てるなら手刀しゅとうで当てる部分のことだ。これが非常に難しい。なぜなら足が上がらないからだ、何度もやってやっと腰ぐらいまで足刀蹴りを打てるようになってきた。


「せ、先生、休憩を……」


 僕は骨盤を押さえながら休憩を提案する。


「えぇ~。まだ始まったばっかりだよ? まぁ、いっといで」


 許可をもらったのでトボトボ歩きながら裏庭にある小さい井戸へ向かう。水を汲んで顔を洗ってから、水を飲む。


「んぐんぐんぐっぷは~」


 この村の水は美味いな。水が美味いって感じるほどに美味い。


 後ろで音がするので振り返ったら。ミリアムがジャンプしながら前方と横に足刀蹴りをして、後ろに回し蹴りを叩き込んでから最後に、空中で宙返りした勢いで踵落かかとおとしをして着地するという神業をやっていた。いや待て、あれよりも上がいるって恐ろしい世界だな。いまだにピョンピョン跳ねて、蹴りや突きを繰り出しているミリアムを視界の外にやってから、休憩のためにしばらく放心する。


「ほら、もういいでしょ~こっちおいで~」


 よっこらしょと立ち上がってそばに行く。


「はい、次は受けの練習するよ」


 ミリアムが左構えになり、自分も左構えにかまえる。自分の前足(左足)が相手の後ろ足(右足)に、自分の後ろ足(右足)が相手の前足(左足)に向き合うように構えることを対構たいがまえという。


「じゃぁ、上段内受けから」


 ミリアムが顔面目掛がんめんめがけて突きを打ち込んでくる。それを右に一歩避けながら右腕を顔近くにげて内側に払って受け流す。次も同じように、突きを左に一歩避けながら左腕を顔近くに上げて内側に払って受け流す。


「はい、次は中段内受け~」


 ミリアムの鳩尾みぞおちを狙った突きを右に避けるときは、前足を引き付けながら右腕で体の内側に向かって払って受け流す。左に避けるときは後ろ足を左側に引き付けてから左腕で体の内側に払って受け流す。


 ねぇ、ミリアムさん。なんか突くの早くなってきてません?


「は~い。下段内受け」


 下腹を狙った突きを右に避けるときは、前足を寄せつつ少し身を屈めたら、右腕で斜め下に払い受け流す。逆は後ろ足を左に少し寄せながら屈んで、斜め下に払って受け流す。


「もっと早くてもいけるね~。次は外受そとうけシリーズね」


 ヒュン。と風を切る音がして子供を相手にしているとは思えないほどの速さで拳が飛んできた。


「ちょぉおおお!!」


 左腕で払いつつ大きく半転身して事なきを得た。心臓が早鐘を打つほどにビックリした、今もバクバクいってるよ……。


「もっとゆっくりお願いしますよ!」


「避けれたじゃん、上出来上出来。でも、外受けじゃなかったから、もっかいね」


「出来るかー! もっと遅くお願いしますよ!」


 その後は。ミリアムからの暴力的なまでに早い、突きや蹴りを逃げ回っていたら練習にならなかった。いや、逃げる練習にはなったかな。


 ちなみに外受けは、内受けとは逆に、体の外側に向けて払い受ける受け方だ。例えば上段外受けならば、左構えの時に自分から見て右側から顔を狙ってきが来たら、自分の右腕で右に払い受ける、攻撃が来た方向に近い足や手を使って外側に払い受ける方法だ。


「まてー、逃げるなー」


 声は単調だが目は真剣だ間違いない、捕まったら最後だ。


 「……」


 僕は無言で走り続ける。喋る余裕なんて無いのだから。


 死に物狂いの追いかけっこも、すぐに終わった。ミリアムが耳をピクピクさせながら止まっていたからだ。必死に走った所為せいで上がっている息を整えてからミリアムに近づく。ゆっくりとね。


「……何だか門の方が騒がしいかな」


 北門付近に視線を向けながら言って、僕に振り返る。


「一緒に行くよ?」


「はい、先生」


 何だろ? と思いながらも二人で北門付近に行くと、人だかりが出来ていた。門の前には六人の自警団員が道を塞ぐように門の外を見張っている。門の先には、三人の人間族である人族ヒューマンが居て、さらに向こうには数台の馬車と馬に乗った人間族が見えた。


 先頭にいる三人は、鎖帷子チェインメイルを着た上に胸とすねひじと手に鎧を装着した鎖板金鎧プレートメイル恰好かっこうだ。さらに真ん中に居る人はサーコートを羽織はおって馬に乗っている。


 ミリアムが武装した人間族に向かってに近づいて行く、自警団は止めようとしたがミリアムの顔を見るとぐに道をあけた。


「精樹の村に何の用だい?」


 腰に手を当てて無防備にしているように見えるが、視線は真剣そのもので観察するように人間族を見ていた。


「私はバストニア王国の中央騎士団所属。ジョエル・フォルジュ騎士爵だ。王国から精樹の村へ騎士団を派遣するとの書状が送られているはずだ。村長と面会させて欲しい」


 騎士爵と名乗った男は馬から下りて答えた。その姿は、短く刈上げた栗色の髪と瞳に、鍛え込まれた筋肉質の体格は180センチほどの身長がある。確か、この村に来た初日に村長とマヤが話していた内容が、騎士団が村に来るような話だったな。


「ミリアム先生。確か村長さんが、そのような話をしていたと思いましたよ」


「そう言われてみれば、そんな話してたかな。――じゃぁ、君達だけ村長に合わせるから付いてきて。……カイムも来なさい」


 ミリアムは僕と手を繋いで、付いてくるようにうながした。後ろでは騎士が指示して一人を馬車へ、もう一人を連れて付いてきた。広場にいた人達はミリアムが対応をしているのを見ると自分の生活に戻っていくが、一部の人は騎士を見ていぶかしむ表情をしている。


 村の中央に建っている三階建ての村長の家に着くとミリアムが扉を開けて、近くに居た役員と話をしてから騎士の方へ振り返った。


「騎士殿、先ほどは失礼しました。今、騎士団の方が、近々村に来る予定が有るとの確認が取れたので会議室の方へ案内します」


 そう言うと、家の二階へと上がりいくつかある部屋の一つを開けて入室する。騎士二名を席に案内してからミリアムの隣へ座る。


(あれ……、自分は部屋の中に居なくてもいいんじゃないのかな?)


 ミリアムへ視線を向けると、向こうも視線を向けて来てから「あっ」って顔をしてた。たぶん村長の家で待ってるようにと連れてきただけなんだろう。部屋から出ようと考えていたところに、村長とマヤが入室して来た。


「お初にお目にかかります。精樹村の村長、クルフィン・イズレンディア子爵です」


「私はマヤ・カーライト妖精士爵。村長様にお願いして、本日は秘書として同席させていただきます」


「バストニア王国の中央騎士団所属。精樹村騎士団の騎士団長ジョエル・フォルジュ騎士爵です」


 騎士団長も立ち上がって挨拶をかわしてから全員が着席する。おぉ、マヤが羊皮紙と羽ペンを持って真剣な姿をしているのも素敵だ。そして、自分は退席する機会を失ったみたいだ。マヤと目が合った時に「なんでいるの?」みたいな顔をしていたけど、しょうがないでしょ。


「さて、早速ですが本日は騎士団が村の警備のために駐在ちゅうざいするとの報告を受けたのですが、正確な任期や人員数が記されておりませんでした。その事についてお聞きしたいのですが?」


 村長の質問を受け、脇に控えていた騎士から羊皮紙を受け取った騎士団長が答える。


「初めに任期についてですが、ヴァーレン要塞を取り戻すまで。又は周囲の安全が確認できるまでとなっております。二つの条件が有りますが、恐らく要塞を奪還だっかんするまで帰還命令は出ないでしょう。――人数についてですが、騎士や従士、従者を含め総勢三十五名となっております」


 それを聞いた村長の耳が少し動いた。動くのか耳、さすが長耳族エルフだな。関係ないかもしれないけど。


「費用の方は騎士団が駐在するとの事で、国の方から一定の金額が月に一度運ばれてくるとの事ですが。……正直、三十五名も住める場所が在りません、騎士様用にと宿を開けておりましたが、三十五名も滞在出来ないでしょうな」


「他に空いている場所はないのですか?」


「北門と東門のあいだ。北東方向に空地あきちがあります。他に南側と西側にもありますが……、人間族が村の奥にまで入ることに抵抗を覚える村人も居るでしょうから、おすすめはいたしません。」


 やっぱり一部の人獣族の人が騎士に向けていた視線は、そういう意味だったんだな。


「……分かりました。北東の空地をお借りして簡易宿舎かんいしゅくしゃを建てようと思います。それと、この家の部屋を何部屋かお借りできますか?」


「二階の階段付近にある部屋を何部屋かお貸ししましょう。宿舎の建築材料は村に備蓄してある物を提供いたします」


「助かります。材料の方は請求書を私に渡しください、後で処理しますので」


「宿の方はどう致しますかな?」


「宿には宿舎建設中に使わせていただきます。そのの使用については改めて話し合いたいのですが?」


「分かりました。では、騎士殿。改めて村への訪問を歓迎いたします」


 村長と騎士団長との話し合いが終わってからは世間話などで盛り上がる。話の中心は王国西側の状勢だ、ヴァーレン要塞が落ちてからは、バストニア王国の西側と南側の一部が獣人族の支配地域になっているらしい。王国はヴァーレン要塞から東にあるエリレオ都市に兵力を集めており、これ以上獣人族の支配領域を広がせないようにしているみたいだ。今は侵入した獣人族を抑えつつ、要塞を奪還するための情報収集をおこなっているらしい。


「それにしても、高位妖精族ハイフェアリーの女神とまで言われたマヤ様にお会い出来るとは嬉しい限りですな」


 騎士団長はマヤを畏敬いけい眼差まなざしで見ていた。おい、そんな目で見るんじゃない!


「そんな大それた人じゃありませんよ」


 マヤは笑いながら否定していたが、その輝くような笑顔は女神と言っても過言ではないほどに美しかった。


「ははははは。ご謙遜を、貴女様のようなお方をお守り出来ることを誇りに思います。守ると言えば村の警備の責任者と話をしたいのですが、何処にいらっしゃいますか?」


「自警団の団長ならあたし」


 挙手きょしゅしながらミリアムが自己主張する。え? ミリアムが団長だったの? 全然そんな感じしないんだけど、それよりも自警団の仕事してる姿を一度も見た記憶がないんだけど……。


「失礼ですが、撲殺ぼくさつ魔のミリアム殿ですか!?」


 なんだその不吉極ふきつきわまりない二つ名は!? 撲殺だけならまだしも撲殺魔って……。


「それ久しぶりに言われた気がする~」


「なんで、そんな不吉な名前が付いてるんですか?」


 会議では場違いだから喋らないようにしていたけど、思わず聞いてしまった。そうすると騎士団長が答えてくれた。


「格闘術をおさめた人は大抵、爪や籠手を身に着けるんだが、ミリアム殿は冒険者時代に素手で魔物を殴り殺したことで有名なんだよ。たとえ相手が防具を着ていてもお構いなしに殴っていたらしい」


 うん。やりかねないねミリアムなら。


「殴るのも好きだけど、蹴るのも好きだったんだよ。それに硬い魔物には籠手装備してたし」


 ミリアムがちょっとれ顔で抗議してるけど、何で嬉しそうな声を出して照れているんだ……。


「もしや、そちらのお子さんはミリアム殿の子供……いや、お弟子さんですかな?」


 ミリアムの子供と勘違いしていたが、自分に犬耳や尻尾が無いのに気が付いたみたいで訂正した。


「この子はマヤさんの家に住んでる子で、あたしの弟子」


「おお。マヤ様の魔法にミリアム殿の格闘術ですか。マヤ様が見込まれたということは余程よほど逸材いつざいなのですな! 私も剣術家の端くれ、マヤ様をお守り出来るように協力いたしましょう」


 え? 何? なんでそうなるの? 勘違いだよ! 読み書きの勉強と闘術と魔法で手一杯だよ。


「それは嬉しいです。剣術も習わせようと思っていましたので」


 また!? 朝から昼までミリアムに教えてもらっているから無理だよね?


 ミリアムを見つめて訴えると「まかせて」って顔でうなずいていた。


「狩猟の仕事が無い日以外は、朝から昼まであたしが闘術を教えているから、一日交替で教えるようにしましょうか?」


 ……なんでそうなるの?


「分かりました。私も騎士団長としての仕事がありますので、都合のつかない日もありますが娘と共に剣術を教えましょう。早速ですが明日からで宜しいですかな?」


「騎士様有り難うございます。講師代は幾らほどでしょうか?」


 ……もう、何も言うまい……。


「いえ、結構です。娘にも剣術を教えているので手間は掛かりませんから。それにマヤ様に見込まれた子供を鍛えたいというのもありますので」


 その後は直ぐに解散となった。ミリアムは騎士団長と空地の下見と宿への案内、他に建築材料のが置いてある倉庫に行くことになった。騎士団長は村長の家の一室を借りて生活するらしい、他の人は宿か空地にテントを張って寝ることになった。


「お昼過ぎちゃったわね、何か買いましょう」


 マヤはこれから秘書として書類仕事があるみたいで、お昼ご飯を買ったら村長の家に戻るらしい。手を繋いで村長の家がある村の中央から北門付近に歩いて行くと、黒パンに野菜と肉を挟んだ食べ物が売っていたのでそれと果実水を買い、近くのベンチに座った。


「マヤ。獣人族はどうして人を襲うの?」


 前から疑問に思ていたことだ。普通の動物なら人が縄張りに入るか、餌が無くなり人里に降りてきた時ぐらいにしか襲ってこないだろう。それに対して獣人族は人を積極的に襲っているように感じられる。一体何を求めての事なのだろうか?


「それは私にも解らないわ。神話の時代から争っていたみたいだから……」


 空を見ながら、小さな声で喋ると話を続けた。


「カイムは自分と自分の手に届く範囲の人を守れるようになりなさい。それがきっと、幸せになれる近道だから」


 正直、この時には何で脈絡みゃくらくのない事を話したんだろうと思っていたけど、自分の心の中にはその言葉が深く残った。


「――さて、それじゃそろそろ行くわね。夜ご飯までには帰ってくるから」


「行ってらっしゃいマヤ」


 ベンチに座ったままマヤを見送ってから、首だけを上に向けて空を見る。二つある太陽はやや傾きかけている。片方の太陽は燦燦さんさんと輝き、もう片方はわずかに眩しさを感じる輝きを放っている。空は青く、時折ときおり運ばれてくる冷たくて新鮮な風が心地よく感じる。


「はぁ……」


 騎士団長さんには僕が優秀なだからマヤと一緒に住んでるって話になっていたけど、実際は魔法も使えない不出来な弟子だからな~……。


「早く魔法覚えないと……」


 僕はぼやきながら空を見上げる。


(集中するのには良い環境かな?)


 目を閉じて集中する。魔力が自分の体をめぐるように想像して魔力循環を行う。


 魔力とはどこにあるのだろうか? 体からあふれるように出ているのか? それとも、血液のように体の中を流れているのだろうか?


【魔力循環】の言葉から推測すいそくするなら恐らく後者。血液のように流れているのだろう、たぶん。それなら【手火ファイア】を使うイメージは体の血液を手に集めるようにすれば出来るんじゃないだろうか?


 太腿ふとももに置いていた右手を、手の平を見せるように上に向けて集中する。血を集めるように、魔力を手の平に集めるように集中し、そこから火を出すように想像する。


「君、なにやってるの?」


 そんな、いい感じに集中出来てたのに。顔を上げるとそこには、少しだけ年上っぽい人間族の少女が顔を覗き込むように立っていた。髪は薄い栗色のショートカットに、同じく薄い栗色の瞳で少したれ目。長いまつげに整った綺麗な顔。ノースリーブのチュニックの上から片側に肩当が付いている革の胸当を装着して、膝下ひざしたまでのズボンの腰には小剣ショートソードがぶら下がっている。


「魔法の鍛錬だけど?」


「君は魔法を使えるのかい!? 道理で君からただならない気配がしていたんだな。でも、こんな場所で魔法の鍛錬をするのは危ないと思うよ?」


 ここ何日も出来なかったから、油断してた。確かに人の多い此処ここで練習するのは危ないだろう。


「そうだね、僕の不注意だったよ」


 さてと、何だか感覚が掴めそうだったからミリアムの裏庭を借りて練習してこよう。


「ちょっと待って。君は村の人?」


 そう聞くって事はこの少女は騎士団の関係者なのかな?


「そうですけど、騎士団の人なんですか?」


「一応そういう扱いになってるけど騎士ではなくて従者だから本格的な戦いには参加しないかな?」


 騎士団なのに戦闘に参加しない? 確かに幼い感じのする少女だからまだ戦うには早そうだけど、どういう意味なんだ?


「騎士団なのに戦闘に参加しないっていうのはどういう意味なんですか?」


「うぅ~ん……そうね。今回の騎士団の構成は上級騎士に騎士と従士じゅうしと従者となっているのね。それで普通従者は戦いに参加するんだけど、今回は長期の駐在で故郷に帰るのはずっと先。だから騎士が身の回りの世話のために自分の家族や親しい人を従者として連れて来てるの。私も父の従者として来てるから、戦いに参加することは今のところ無いかな」


「従士と従者の違いってなんですか?」


「従士は簡単に言うと騎士見習い。従者は色々な意味があるけど、普通は付きびととして主人の世話や、実際に戦ったり、戦いの補佐だけだったり。人によって役割も意味も変わってくるね」


「そうなんですか、勉強になりました有り難うございます」


「ねぇ。それより村の案内してくれない? 少し周りを見てみたいの」


 そんな。魔法の練習したいんだけど……。まぁ、いいか。


「分かりました。北門から案内しますね」


 北門から道沿いに東門まで案内を続けているが、いつも以上に人獣族の人たちからの視線を感じる。自分のことにはれてもらってきているが隣の少女は初めて見たからだろう。改めて人間族と人獣族の壁を感じる。少女の方も少しソワソワしているようだ。


「こんなに沢山の人獣族が居るのを初めて見たよ」


「みんな良い人だから心配しなくても大丈夫ですよ」


「それは君がこの村に住んでいるからじゃないの?」


「僕はこの村に来て十日目ですよ?」


 少女はこっちを見て「え?」って顔をしていた。


「君の他にも村に住んでいる人族ヒューマンは居るんだよね?」


「いえ、いないですよ。たまに来る隊商ぐらいですかね」


「人獣の人とは挨拶ぐらいしかしたことが無いから心配になってきた……」


「なんとかなりますよ。さぁ、次ぎ行きましょう」


 話をしていたらこの少女は十歳だって事が分かった。十歳でこんなにしっかりした子に育つなんて立派な親なんだろうな。


 それから様々な出店を見たり、知り合いの人獣族に挨拶に行っていたら直ぐに案内を終えてしまった。少女は村長の家に用事があるらしく、一緒に村長の家まで戻ることにした。自分の家も近いからね。村長の家まで来ると少女は僕の方を見た。


「今日はありがとうね。少しは人獣族の人と話すことが出来たし楽しかった」


「いえ、僕も楽しかったです」


「それじゃね」


 それから少女は家の中へ入っていった。自分も早速帰るとしよう、早く感覚を忘れないうちに魔力循環をやりたい。


 家の扉を開けてから裏庭に行き洗濯物を取り込む、その後に綺麗に畳んでから外で座禅を組んで瞑想する。血液を廻らせるように意識をし、頭から手へ手から足へ循環するように想像する。めぐり続けるように、とどこおらないように注意しつつ、自然に流れるように意識することを続ける。


 …………。


 ………………長いこと続けていると体に違和感を覚えた、ただ不快な感覚ではない。体の中に別のものがある、血とは別に流れるモノ……。


(――もしかして魔力?)


 始めは血の中に魔力が有ると思っていたが、続けていくうちに、血と一緒に何かが混ざっている感覚がしていた。しかし、今は血とは別に、流れるモノを感じる。意識して流れを遅くしたり早くするとソレも遅く流れたり早く流れたりする。きっとこれが魔力なのだろう。今はソレの感覚を忘れないように自分の意識から血を退かして魔力だけを廻らせる想像を何度も何度もする。


(これならいける)


 ゆっくりと立ち上がって目を開く。周りが暗くなっていたことに軽く驚いたが、すぐに意識から外して集中する。


 魔力を体にめぐらせるように、流れるように廻らせてから手を伸ばす。次はその手に魔力を集める意識をして集中する。手に魔力を集めるのが難しい、すぐに体の中に戻ったり外に散っていく感覚がしている。頑張って魔力をなんとかとどまらせても今度は一定までめた魔力が同じように戻ったり散っていく。きっとこれが今の自分の限界なんだろう、もっと修行しないと。


(よし)


 これ以上は溜められないし頃合ころあいだろう。手に集中しつつも呪文を口にする。


手火ファイア!」


 手の平から魔力が放出する感覚と目の前に30センチほどの火が燃え盛っていた。


「おおおぉぉー!!」


 手の平から勢い良く火がいている。手の平から火を放射するだけで、飛んで行くわけでは無いみたいだ。再度詠唱(えいしょう)をする必要が無い代わりに、手の平から火として出している魔力を補充するために集中し続けるしかないのが大変だ。


(あれ……?)


 手火ファイアを維持しようと魔力を送り続けていたら、疲労感と軽く目眩めまいがした。それでも魔力を集めていると一瞬目の前が見えなくなった。


「カイム! もう止めなさい!!」


 振り返ろうとしたがバランスを崩して膝から崩れ落ちた。直ぐに駆け寄ってきたマヤに抱きとめられて家に運ばれる。もう目眩はしないが、疲労感と軽い脱力感がある。台所の椅子に座らせられると色茶葉茶を出される。


「カイム、教えてなかった私が悪かったわ……。魔法を使うために魔力を使っていくとそのうちに枯渇状態こかつじょうたいになるの。枯渇状態になったら初期症状で軽い目眩や脱力感が出るわ、それでも使い続けたら目眩の後に重度の疲労感に脱力感、さらにそれ以上使ったら失神……最悪の場合には死ぬこともあるの……」


 マヤは僕の頭を撫でながら話を続ける。


「体には無限の魔力は無いの。自分の体に合った量の魔力が収められていて、魔力を使えばその失った分を時間を掛けて回復するの」


 もし、あれが【手火ファイア】ではなく、単発で自分の保有魔力よりも消費魔力の高い魔法だった場合、使用したら死んでいた事もあったのか……。他の魔法を使うときは気を付けないと。


「ごめんなさい。助けてくれて有難うマヤ」


「謝る必要は無いわ。こっちこそごめんなさい……。今日はご飯を食べたら早めに寝ましょうね」


 その後はマヤと一緒にご飯を食べてから少しだけ読み書きの勉強をした。マヤは早めに寝ましょうと言っていたんだけど、脱力感は直っていた。ただぐに眠くなってしまったので早めに寝ることにした。マヤは眠りにつく前に僕の頭を撫でながら、


「魔法が出来てよかったわカイム」


 と、言っていた。




用語と造語コーナー

※難しい用語から作者が作った造語まで分かりにくいものを説明するコーナー

本来ある用語と作者が勝手に作った造語が混ざってます。言葉によっては世間で使うと白い目で見られますのでゾクゾク出来ます。


※こんがらがると思いますが 人間族に分類されるのは人族ヒューマンです。人族でも北方人や南方人などというように細分化されますが、それは、【人獣族】に分類する猫耳族ケットシーの黒猫族みたいな感じです。自分でも何言ってるのか分かりません、感じてください。


鎖板金鎧プレートメイル = 鎖上衣と鎖下衣、又は鎖帷子を装着した上から半板金鎧を着た姿の総称。追加で、肩当、前腕当、膝当、を装着した姿も含む。


目眩 = 頭がクラクラして目がかすむこと。

眩暈 = グルグル物が回って見えたり揺れて見える。目の前がかすんで目の前が暗くなること。 ※ド○クエの勇者は眩暈の方?

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