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僕は君との思い出を  作者: 海鴨
第一章 異世界
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第1話 迷子と教会

「うぅ~ん……」


 暖かい日差しを受けて、眠りから目が覚めた。


 まだ眠い。このぬくぬくと心地良い暖かさは、二度寝しようと提案してくれる。


 目蓋を閉じていても感じる光、心地よい風が運んでくるかすかな木の香り、横たわっている地面からは土の香りもする。


 「土?」


 目をっすらと開ける。


 「……土だ」


 どうやら地面で寝ていたらしい、昨日の事が思い出せないけどっ払って寝てしまったのだろうか?


 落ちそうな目蓋をこすって目を開けると、木の葉に遮られた二つの太陽の光が視界に入ってくる。


「……」


 目を軽くこすって寝転んだままもう一度太陽を見る。


「…………」


 え? 太陽二つあるんですけど……。


 どうやら見間違えでもないらしい、何度か目をパチクリさせても太陽は減らない。


 さらに周りに視界を移すと森だった。木にはこけがびっしりとしげっている。


「イタッ!!」


 体を起き上がらせようとしたら全身に痛みが走った。特にズキズキと痛みがあった腕を上げようとして失敗した。


 (腕が上がらないんだけど……)


 右腕は骨折してるのかな? 動かすと物凄く痛い。動かさなくても痛いけど。


 左腕を上げて見ると傷や痣が幾つもあった。


 何でこんなに酷い状態なのか知らないけど、それ以上に気になる事が出来た。 


 自分の手がやけに小さかった。小さくふっくらとした手、どう見ても子供の手だった。


 (なんで? 自分はもっと年を取っているはず。えっと……何歳だっけ?)


「……ん?」


 あれ、記憶がハッキリとしない。自分の年齢が思い出せない。他の記憶を辿たどろうとしたが、風景や人の顔をうっすらと思いえがくだけで、それが何処なのか誰なのかが分からない。


「う~ん……」


 何度思い出そうと思っても頭がモヤモヤするだけだった。さらには全身の傷から痛みと熱を発していて集中するのをさまたげてくる。


 (いくら考えても思い出せないんじゃ仕方ないな)


 立つという動作だけで痛みが走った。痛みに顔をしかめながらも立って、もう一度体を見る。


 やっぱり小さい。手はもちろん足も小さくなり背も低くなっている。もっともこの森の木が平均以上に大きくなければの話だが、杞憂だろう。


 「変な恰好かっこうしてるな」


 靴は厚い革で出来ており靴底にはびょうが打たれている。膝下までのズボンに、厚めの布で出来たチュニック。そして革の鞘に納まったナイフが革紐でベルトから吊り下がっていた。

 なんだか時代かかって見えるけど、コスプレでもしてたのかな?


 とりあえず帰ろうと思って、あらためて辺りを見渡す。


(さて、どっちに行こうか?)


 何処から来たかも分からなければ道も無い。

 太陽で方角を調べようにも二つもある時点で常識も通じないかもしれないし、向かうべき方向も分からない。


 しかし、ここで途方に暮れる訳にもいかないので、なんとなくの感覚で歩き始める。


 歩きながら森を観察する。森には変わった鳥や小動物に、見たことも無い花や草がある。

 最初は見ていて面白いと思っていたが、すぐに観賞している余裕がなくなってきた。


「はぁはぁ」


 体力なさすぎだろ……。


 歩いてまだ三十分もしていないが、すでに呼吸が荒くなってきた。

 左手を木の根に当てながら息を整えつつも、喉の渇きをどうするか考える。


 食料も水も持っていない状況で、下げた視界に入るのは木から落ちたと思われる見たこともない果実。

 それも丸い形にうろこの様な表面で色は濃い紫色、見た目的にはアウトだ。禍々(まがまが)しすぎる。


 と、考えつつも鞘からナイフを出して果実を少し切ると、中から真っ赤な果汁が出てきたので、指ですくって舐める。


(甘酸っぱい)


 口の中に強めの酸味と、ほのかな甘さが入ってくる。クセは強いけどなかなか旨い。


 右腕が使えないので果実を石の上に置いてナイフで半分に切ると、分厚い皮の中から真っ赤な実が見えた。


 恐る恐る食べてみると先ほどと同じ味が口の中に広がる。すぐに一つを完食して二つ目にとりかかる。口いっぱいに頬張ってからモッキュモッキュと食べる。


 二つ目も完食してから指についた果汁を舐める。それと軽食用に果実を一個ポケットに入れた。


 休憩中に丁度いい木の板があったので、ナイフで少し加工して右腕に添えてつるで縛ってみた。ただ、このやり方であっているのかが分からない。骨折したのが初めてで処置の仕方も知らないから。


 それからまた歩き出す。少しかたむきかけている太陽を見て少し不安になった。沈む前に何処どこかに辿たどり着けるよね? ね?




「も、もう歩きたくないよぉ~……ん?」


 道なき道をさらに一時間ほど歩くと前方に朽ちた建物が見えた。


 ボロボロで人が居るような雰囲気はまったくしないけど、今日はあそこで眠ろうかな。


 遠目に見ると教会のような建物だがシンボルは十字架ではなく、丸い枠の内側に木のモチーフがデザインされていた。


 教会を目指そうと歩き始めた時に、そいつと目が合った。


「グァァ」


(え? なにこれ??)


 黄色を薄めたような、砥粉色(とのこいろ)の肌で、自分より少し高いくらいの身長。ほぼ寸胴だがお腹が少し出でている体に、丸みをおびた腕や足。

 丸顔にシャクレたあご、耳は少し尖っていて、少量の愛くるしさと大量の不気味さを合わせた生き物が木影から出てきた。


 その手には、太い枝に紐でくくり付けた石を持っている。しかも、つぶらな瞳でコッチを見ている。

 つぶらな瞳に似合わないその大きな口を開けて石斧を持っている手を振り上げていた。


 人によっては歓迎の挨拶をしようとしている、などど思うことは絶対にない。

 確かに笑っているように見える、だけど別種の笑顔だ。そう、獲物を見つけたときのような。


 そう感じた瞬間に走り出す、目指すは教会。


 砥粉色野郎と、今、命名したそいつは自分が横切ろうと走り出した時に石斧を振り下ろした。

 振り下ろされた石斧を難なく走り避ける。


 走りながら首だけを後ろにやって確認すると。

 「グァ?」とか言いながらこっちに走ってきた、自分と同じくらいの速度で追って来ている。


 少し沈みかけている太陽を背景にした教会に近づいていく。


 教会の扉にはドアノブが無かった。


(お、押し破るしかない!)


 砥粉色野郎が近づいてくるのに焦りながらも勢いをつけて扉に体当たりをかました。扉は特に抵抗も無く押し開いて、勢いがついた自分の体は宙に舞った。


(――なんだ、押して開くのか)


 「グベェ!」


 床にヘッドスライディングをかましながら華麗に止まると、ぐに立ち上がって扉を閉めかんぬきを使う。さらに教会にある椅子や小さな台で固定してから教会内の様子を確認する。


 内装はひどく汚れていた。壁紙ががれていたり天井には幾つか穴が開いていて、そこから蜘蛛の巣も見える。


 二階もあるみたいだが階段が無い。そしてなによりも教会の奥の壁に子供が入れるくらいの穴が開いていた。


(回り込まれたら詰むじゃん……)


 どうしようか考えている時に石斧で叩き付けられた扉がる。

 「ドンドン」と音と共に「ミシミシ」という音も伝わってくる。


(さて、どうしようか?)



 ~~~



 砥粉色野郎がとうとうドアを突き破ってきた、椅子いすを持ち構えている自分を見て走り出す。


 しかし、二つの家具に紐を結びつけただけの簡単な罠に掛かった。敵は紐に足を引っ掛けてそのまま倒れ込む。紐で結ばれていた両端の家具がゆっくりと砥粉色野郎に倒れていくがヤツはすぐに起き上がり、こっちにけてきた。


 振り下ろされる石斧を椅子で受けつつ、そのまま砥粉色野郎を椅子を使って体全体で押し込むように突き進む。

 後ろにある家具まで押しつけてから、素早く距離をとって床に散らばっている廃材や石を投擲とうてきした。当たった箇所に浅い傷ができ、赤よりも黒に近い血を流しながらヤツが突進してくる。


 すぐ脇にある椅子の足を左手で持ち、構えたところに石斧を打ち付けられる。先ほどよりも強い衝撃で床に仰向けに倒れてしまった。顔に向かって振り下ろされる前に椅子を床に立てて顔を守る。再び振り下ろされた石斧が椅子に穴を開けたがその隙に勢いをつけた両足で蹴り飛ばす。


(今のは危なかった)


 椅子を持って立ち上がり、尻餅をついている砥粉色野郎の顔面にフルスイングする。

 心地よい音を響かせながらあごに命中して仰向あおむけに倒れた。だが、それほど効いていないのか立ち上がろうと四つん這いの状態になったので、椅子を使って上から体で押さえ込みナイフを抜いて首に突き刺す。


 「グガァァアァ!!」


 赤黒い大量の血を流しながら暴れていたが、徐々に動きが緩慢かんまんになり、やがて動かなくなったのを確認してから恐る恐る離れた。


「な、なんとかなった……」


 疲れは出ているが、この死体をこのままにするのは自分の精神衛生上よろしくない。さっさと退かそう。


 起き上がったら怖いな~。と、ビクビクしながら死体の足を掴み教会の外にまで引きずって行く。深いしげみにまで持って行ってその場に放置する。


 そそくさと教会に戻ってからは、また変なのが来ないように扉にバリケードを再び作り、奥にある穴も椅子や台で塞いでおく。


 バリケードを作る際に見つけていた木製の梯子(はしごは、きっと階段が無くて行けなかった二階用だと思い梯子を使って上がってみる。そこは天井の低い屋根裏部屋で物置として使われていたみたいだ。


(今日はもう疲れたよ)


 疲れと眠さの限界に来ていたので梯子を蹴飛ばして床に落とし、埃除ほこりよけに使われていた布にくるまる。


 ナイフに付いた血を拭いていなかったので布を少し切ってから拭いて目を閉じる。


(きっとこれは夢なんだ……)


 寝て目覚めれば夢から覚めるという希望と、骨折と体中の傷から発する熱が、これは現実だと主張するのを無視するように眠りに落ちていった。



 ~~~



 天井に開いた穴から日の光が降り注ぎ自分の体に覚醒を促してきた。


 「うぅ~ん……もう少し。――ってそんな状況じゃなかったな」


 むくりと起き上がって太陽を見る。もうすで真上まうえ近くまでにのぼっていらしゃった。


 思った以上に長い間眠っていたみたいだな。


 目を擦り体を起き上がらせてからポケットにあるちょっと潰れた紫色の果実を取り出してかじる。


(皮しか食えん)


 そういえばこの果実、皮が厚かったなと思い出しながらも、歯を皮に突き立てて何とか実まで到達した。満足げに咀嚼そしゃくしながらこれからどうしようと考え込む。


(まずは場所の確認だな)


 ゴソゴソと、ここの屋根裏をあさってみたがめぼしい物は無かった。本が大量にあるだけで、食べ物も何もなかった。目的の地図があればいいなと本をめくってみると、見たこともない文字で書かれていて読むことが出来ないし地図も無かった。


(とりあえず怪我の具合を確認してから外に出るか)


 体の状態を確認する。骨折した右腕は、寝るためにくるまっていた布を三角巾の形に切って首から吊るしている。体中にある傷の痛みが少し和らいでいることを確認してから視界を一階に移す。昨日の夜に梯子を蹴落としたために、二階から一階に飛び降りるしかないのだが、結構高い。背が縮んでいるせいか、やけに高く感じる。


 意を決して飛び降りると着地に失敗してお尻をぶつけてしまった。結構痛い。


 お尻を撫でて、


(ん、張りがある)


 なんて変なことは思わなかったけど、お尻をさすりながら教会の奥にある穴を塞いでいたバリケードを外していく。


 えっこらえっこら荷物を退かして子供が一人入れるくらいの穴に身を屈めながら進んで外に出た。


 丁度教会の裏手にあたる場所に出たみたいだ。森しか見えなかったので、ぐるっと回って正面入り口にまで来ると、教会の正面入り口から人が踏みならしたような道がある事が分かった。道があるって事は人が居るかもしれないと小躍りして喜びを表現しながら森へと続く道を進むことにした。



「ふぅ……ふぅ……」


 あれからどのくらい歩いたのか分からないが、息が切れてきた。昨日も痛感したがやけに疲れる。踊らなきゃよかった……。


「や、休もう。ちょっとだけ、ちょっとだけだから」


 地べたに座りながら放心する。


(なんか歩くのに楽な杖ないかな~…………え?)


 キョロキョロと見ていたら木影からコソっと身を出していた砥粉色とのこいろをしたそいつと目が合った……。


「グァァ」


(oh……デジャヴ)


 つぶらな瞳に大きく口を開けて石斧を振りかざすという歓迎の挨拶をしていた。自分を見つけた事をとても嬉しそうにしている。だが、自分は嬉しくない。本当に嬉しくない。


 「どっこらしょ」


 ゆっくりと立ち上がる。刺激しないようにゆっくりと、そして必死に考える。

 

 さて、教会に居たときは罠も張れたし、使い勝手の良い武器イスもあった。

 それじゃ、今はどうだろうか? 周りを見てもあるのは枝と石とキノコと紫色の果実と木。もちろん木は使えない、普通の人間に木を地面から抜いて装備するなんて無理だ。教会に戻ろうにも遠い。キノコはヤバイ色しているし、紫の果実は美味しいだけだ。――使えるのは枝と石だけ。


 この中で救世主になりえるのは枝、お前だけだ。


 ゆっくりした動作で枝を拾う。なるべく形が良くて心惹かれそうなのを選ぶ。

 砥粉色野郎の前で、拾った枝を軽く振って目を追わせたことを確認する。


 (いける! これはいけるぞ!)


 これはいけると確信を持って枝を進行方向とは逆に放り投げた。


「……」


「……」


 駄目だったようだ、つぶらな瞳は真っ直ぐに自分を捕らえて離さない、すぐに全力で駆ける事にした。淡い希望を打ち破られた今となっては道端に転がっている大き目の石を拾っては投げる作戦にでるしかない。


 拳大の大きさの石を見つけて全力投球するが、あらぬ方向にそれていった。走りながら投げるのは難しいな、次はもっとよく狙わないと当てられない。再び手ごろな石を見つけては投げるが、当たっても少し怯んだだけで追いかけてくる。


 なかなか距離が離れない、むしろ舗装ほそうされていない道に慣れていないために、木の根に足を引っ掛かりかけたりして追いつかれはじめている。いっそのこと迎え撃つしかないかもしれない。そう考えたときにそれは目に入った。


(っ!)


 走りながらもそれを手にする。

 そう、それは勇者が手にするという【ひのきのぼう】だ。

 ただ本当にひのきかは分からない。香りで判断出来ても木を見て判断する知識は無いからだ。ちなみに檜の香りはしない。


 そんな事を考えていたせいか、もう追いつかれそうな位置にまで砥粉色野郎が来ていた。獲物が逃げるだけだろうと油断しているみたいだから奇襲をかけることにする。


 左足を軸に、走っている勢いを使って半回転しながら左手に持ったひのきのぼうを振りぬく。風を切る音と共に顔面に命中したひのきのぼうは半分に折れてしまい、相手の顔を仰け反らせただけだった。すぐに足を払い転倒させてから走り出す。


 やっぱり【ひのきのぼう】より最初は【こんぼう】の方がいいのかもしれない、けど【ひのきのぼう】はロマンがあるんだよ……。


 そのままナイフで突き刺したかったが、石斧を振り上げた状態で転倒していたので怖くて追撃が出来なかった。戦うよりも走って逃げることに専念しよう。


「もういらね」


 ポイっと、ただの棒を投げ捨てながら石を探す。


 それから長い間、道端にある石を投げて牽制しつつ獣道けものみちを爆走するのに熱中していたらいつの間にか道を外れてしまったらしい。踏み均された道ではなく草が生い茂る森の中を進む事になっていた。


 そしてそれも終わりを迎える。森の木々が段々とまばらになり、目の前には青い空、そして下は10メートルほどの崖になっていた。飛び降りても死ぬことは無さそうだが勇気が出ない。崖の下にはゴツゴツとした岩が剥き出しになっており、その先は今までと同じように森が続いていたからだ。


「グァァア!」


 石や枝を投げられてあざり傷だらけになった砥粉色野郎が追いついてきた、あれは相当おかんむりだ。


 すぐ脇に落ちていた60センチほどの枝を手に持ち、ナイフを取り出して先端を削り即席の短槍を作る。この前は罠を張って勝てたが今回はそうはいかないだろう、足が震えている、これが武者震いってやつだと思いたい……。


 敵はこっちに向かって突撃してくる。石斧が振り下ろされる寸前に避けたかったが、焦って振り下ろす前に横に回避運動を行う、しかし、つぶらな瞳にはしっかり回避先を捉えられていて振り下ろす先を軌道修正してから振り下ろしてきた。


(アブネェェー!)


 転がってなんとか避けることは出来たが、起き上がる隙をあたえずに追いかけて来ては石斧を振り下ろしてくる。このまま転がっていれば逃げれるかも、と阿呆なことを考えつつ起き上がるタイミングを計る。

 真面目な話、転がって逃げるのは無理だ。なんでかって? 骨折した腕に響くからだ。


 石斧が再び振り下ろされてから、片膝立ちになり短槍で突く。軽く突き刺すことに成功したが浅くしか突けなかったので致命傷にはなっていない。すぐに敵から反撃が来た。石斧を振り払うのを体を反らして避ける。避けてから短槍で突こうと思ったが、無茶苦茶に石斧を振られて近寄れない。


 距離を取ってから石を投擲する、振り回していた石斧にはじかれてしまったが敵は振り回すのを止めて向かってくる。勢いを乗せて横振りしてきた石斧を後退して避け、勢い余って体勢を崩したところに足を払い尻餅をつかせ、すかさず短槍で突く。小さくなった体と片腕では一突きで致命傷を与えられる程の力は出なかった。


 何度か突き刺せば倒せるだろうと考えていた時に、何かが草を踏み、近づいて来る音が聞こえたので視線を向ける。


「あっ」


 気づいた頃には遅かった、もう一体の砥粉色野郎が太い木の枝で出来た棍棒をこっちに向かって振ってきていた。


「ぐっっ……」


 左肩を強打され短槍を握っていた手を離してしまった、棍棒をすぐに振り返されて胸に衝撃が走る。胸に手を当てて呼吸を整えながら数歩下がる。


 すでに立ち上がっていた石斧を持った敵が目前にまで迫ってきていた。振り下ろされる石斧に反射的に左手を掲げ身を守る。


「ア゛ぁあ!!」


 「ボキ!」という音で左手首も折れたみたいだ。恐ろしく痛くてうずくまりたいがそうもいかない、すぐ横に棍棒を持った敵が下から上に腕を振っていたからだ。


 身を引いて避けようとしたが、顎に微かに命中した。脳が揺さぶられるような感覚と衝撃で後ろに倒れこみそうになるが、此処で倒れたらタコ殴りにされる。


 数歩下がり何とか倒れこむのを防ごうとした最後の一歩……。


 その一歩は地面を踏むことはなかった、姿勢が仰向けになったために青空が見える、そして落ちていく感覚。


(ちょっ!)


 崖から落ちたという状況は直ぐに分かった。


 後ろを見ると大小様々(だいしょうさまざま)な岩がある。丁度落ちる場所には大きな岩は無いが、小さな石が複数ある、たぶん死ぬことは無いだろう。たぶん。


 地面と激突する瞬間は直ぐにやってきた、背中に激しい衝撃と共に鋭い痛みが走り、肺の空気が口から抜ける。おそらく背中に石が刺さったのだろう、微かに血の匂いがする。


 さだまらない視点で崖上を見ると、二匹の砥粉色とのこいろ野郎がこっちを覗いていた。


 さすがに飛び降りることはしないだろが、すぐに此処から離れないといけない。


 両腕が使えないことに悪戦苦闘しながら、上半身を起き上がらせてから膝立ちになり立つ。


 一歩一歩足を引きずりながら森へと向かう。全身が痛すぎて歩いている感覚すらも無いがひたすら歩く。足元が覚束無おぼつかないためにバランスを崩してうつ伏せに倒れこんでしまった。


「ハ、ハハハ……」


 動けない。そんな絶望的な状態に思わず笑ってしまう。


(まったく……いやな、夢だったな……)


 きっと流血しているのだろう、血の匂いが離れない。何よりもう動けない、きっとあいつらに追いつかれて殺されるのだろう……。


 ふと、視線を上げると、遠くに誰かがいる気がする。


 声を上げようとするが、その前に意識を手放してしまった……。



ここでは本編に出てきた言葉や造語の解説をしようと思っています。




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