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神童セフィリアの下剋上プログラム  作者: 足高たかみ
第三章 【イースベルク共和国】
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1歳3ヶ月 23



 夜が明けると同時に、族長さんやララさん、その他大勢のエルフたちに見送られて、ルローラちゃんは私たちと一緒に里を後にしました。

 里の最高戦力であるルローラちゃんがいなくなってしまって大丈夫なのかという不安はちょっとありますが、失踪した妹を探す絶好のチャンスをふいにしたくはないとルローラちゃんが頭を下げると、里のみんなは納得してくれたみたいです。


 まぁリルルと遭遇するのがいつになるかはわかりませんが、かつて私を狙ってきた以上、また私に接触してくる可能性が高いことは確かです。

 それに私が首輪を外したら帝都ベオラントに帰還しますから、少なくともルルーさんと会えることはほぼ確実。


 あ、でも勝手に故郷を訪ねた挙句に姉を連れてきたと知ったら、もしかしてルルーさん怒るかな……? あの不愉快そうな視線を浴びるのは、あまり好きではないんですけど……。



 そしてエルフの里を出た私たちはトーレットへ向かうと、約束通りあの事件に関する真実を人々に伝えました。

 最初は疑いのまなざしを向けてくる人も多かったのですが、エルフに襲われたという自称商人は普段から素行が悪く、またキノコの採集をしているという割にはそれらしい道具も持っておらず、不審な点も多かったとのこと。

 そこから切り崩していって、最終的に私たちの訴えはそこそこの人々からの信用を得ることに成功したのです。


 さらに、エルフ族はこちらからちょっかいをかけない限りは襲ってきたりしない理性的な種族であること。また私たちは彼らと話し合って、もう彼らに街を襲うつもりが無いのを確認したということも伝えました。

 ……これでまた同じことを繰り返すようなら、そいつらは『白金色の悪夢』を見ることとなるでしょう。



 そして現在。

 トーレットに置いてきた馬車を回収した私たちは一路、次なる街を目指して旅を再開していました。

 次の街までは結構かかるらしく、ケイリスくんの見立てでは一週間ほどみたいです。

 あーもう、早く魔法が使えるようになって、温かいお風呂に入りたい! 帝都のお屋敷にあるふかふかベッドで安眠したい!


 私はなかなか思い通りにはいかない馬車暮らしによるストレスをなるべく考えないようにして、すぐ傍にある“お土産”へと視線を移します。

 それは―――馬車に飾ってある“木の枝”は―――エルフの里を出る際にララさんから受け取ったものでした。


 エルフ族は“霊樹”と呼ばれる樹齢の高い木々の根元に家を建てる習慣があります。霊樹の樹齢がエルフ族の格を示すものであり、ステータスになり得るのだとか。

 そういったわけで、その霊樹の枝をちょっぴり折って渡すことは、相手に親愛の情を示す意味合いを持つのです。大事な大事な樹を折っちゃうんですからね。生半可な相手には贈りたくないものでしょう。

 人間で言うところの、花束みたいな感じでしょうか? 自分の家の庭で、愛情をめて育てた花を贈る感じ。


 とはいえ当然ながら、エルフ族から人族へこれが贈呈されたことなど、族長さんが知る限り初めてのことなのだそうで……この枝にはいろんな意味で大きな価値があるのです。

 もしかしたらこの一本の枝がいずれ、人族とエルフ族が歩み寄る第一歩となってくれるのかもしれません。


 なんてことを考えながら、上機嫌で枝を眺めてニヤニヤしていると、そこで私はふと強い視線を感じて振り返りました。


 ケイリスくんは馬車の御者席にいるため、現在後ろの向かい合った座席には、残る四人が座っています。

 まず私が座っていて、そんな私の足に掛けたタオルを枕にしてレジィが眠っています。

 そして向かいの席に、交代制で今は起きている時間のネルヴィアさんが、私と同じようにルローラちゃんを膝枕してあげていました。もちろん、ルローラちゃんはふかふかクッションを抱きしめながらぐっすりです。

 となると必然的に、視線の主はネルヴィアさんということになります。


 どうかした? とでも訊きたいところなのですが、私は現在声を出せませんので、こちらから能動的なコミュニケーションを取ることは不可能。せいぜいあちらからの言葉に首を振ってイエスかノーで答えることくらいしかできません。

 そんなわけで、私はちょっぴり小首を傾げることで「どうかした?」と暗に伝えます。

 するとネルヴィアさんは、変わらずじーっと私へ視線を注いだまま、


「……セフィ様には、今やたくさんの仲間や支持者がいらっしゃいますね」


 ちょっと低い声で、ネルヴィアさんはそんなことを漏らしました。

 えっと、うん。今もべつに大衆に受け入れられたりとか、万人受けしたりとかはまったくないですけどね。

 しかし昔は村のみんなと、それこそネルヴィアさんくらいしか私の味方はいませんでした。

 それが今や、皇帝陛下たち、魔導師の皆さん、一部の軍関係者、一部の帝都民、レジィや獣人たち、一部のエルフ族……まぁ決して多くはないながらも、それなりに私の存在を認めてくれる人も増えてきたように思います。

 ……少なくともその数百倍程度の人数には、私は恐怖の象徴として認識されていそうですがね。


 と、そこまで考えて、なんだかネルヴィアさんが不機嫌……というかやや拗ねた感じになっている理由に思い当たり、私はにゅーっと口角をあげました。

 それからちょいちょいと手招きして、ネルヴィアさんに手を差し出すようにジェスチャーで伝えます。

 怪訝そうに首を傾げるネルヴィアさんが私に手を差し出すと、私はその手を両手で大切そうに握り、頬ずりでもするかのように頬っぺたに触れさせました。

 ネルヴィアさんが「あ……」と小さく声を漏らすのを聞きながら、私は彼女に優しく微笑みかけます。


 すると私の意図や想いが伝わったのか、ネルヴィアさんは頬を染めてから、やがて晴れやかな笑顔を見せてくれました。うん、やっぱりネルヴィアさんにはそういう表情がよく似合います。

 でもここ最近、彼女に寂しい思いをさせてしまっていたみたいですので、あとでネルヴィアさんが大好きな、頭を抱きしめてあげるやつをやってあげることにしました。


 まったく、可愛いお姉ちゃんめ。



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