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神童セフィリアの下剋上プログラム  作者: 足高たかみ
第三章 【イースベルク共和国】
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1歳3ヶ月 21 ―――三姉妹



 ルローラちゃんの住んでいるところは、ほとんど家具のない質素なお部屋でした。

 置いてあるものと言えば、ベッドと、小さな箪笥たんす、数冊の古い本くらい。あとはトイレに続いているらしい扉がある他には、クッションや枕、あとパンツなどが散らばっています。生活感があるのか無いのか判断に困る部屋だなぁ……


 そんなお部屋の中央に据えられたベッドで、二人のエルフ少女に挟まれるようにしてルローラちゃんが寝っ転がっていました。私との戦いのせいで、外見年齢は生後一歳前後といったところです。まだちょっと頭が痛そうですが、比較的回復してきたみたいですね。

 相変わらず地面に引きずりそうなほど長い金髪は、今は二つ結びにされていました。


 レジィに抱かれた私が、ネルヴィアさんやケイリスくん、族長さんやララさんを伴って部屋に入ると、ルローラちゃんはその幼い外見に見合わない厭世的ダウナーな視線をこちらへ寄越しました。

 うわぁ、なんか明確な自我や自意識を持ってる赤ん坊って不気味だなぁ。もっと年相応の振る舞いをした方が良いんじゃないでしょうか? 私みたいに!


「……あんたのがいけん……もしかして、“のろい”のせいなの?」


 幼児化でとても舌っ足らずになってしまったルローラちゃんが、開口一番にそんなことを訊ねてきました。

 呪い……? 魔法とかじゃなくって?


 私たちが怪訝な表情を浮かべていると、その問いには族長さんが代わりに答えてくれました。


「いえ、貴女とは違って後天的な赤ん坊ではないらしいわよ。まだ一歳児だと言っているわ」

「……ほんとうに? なんであかんぼうが、まほうを……」


 そんなごくごく当たり前の疑問を口にしたルローラちゃんに、族長さんは私が勇者であるという説明をしていました。ああ、誤解がどんどん拡散していく……

 説明を聞き終えたルローラちゃんは「……ふぅん?」と信じているんだかいないんだかわからない反応を返していましたけど。


 もはやいろいろと諦めた私は、さっきの発言の中で気になったことを訊ねてみることにしました。


『あの……“呪い”っていうのは?』


 私の問いに、ルローラちゃんは忌々しげに目を伏せ、族長さんはしばし黙りこんでから、


「ルローラは見てのとおり、カタラを……ああ、“カタラ”というのは、魔族で言うところの開眼シャンテラのようなものね。その能力カタラを使うたびに、年齢が若返ってしまうという『呪い』を受けてしまっているのよ」

『それは、人間によってですか?』

「……いいえ。昔、この里を出て行ったエルフによ」


 そう言う族長さんの表情は怒りというよりも、なぜかちょっと悲しげで、気まずそうな感じでした。


 そして話を聞いていると、どうやらルローラちゃんが受けた呪いは“二つ”あるそうです。

 若返りの呪いとは別に、もう一つ……『寝ている間だけすごい速度で加齢する』という呪い。そのペースは十八時間の睡眠につき一歳成長するのだとか。

 つまり一週間で七歳ですか……

 若返りの呪いと、加齢の呪い。それらを受けたルローラちゃんは日常生活や戦闘に大きな制限を受けることとなります。そのため彼女は不意の戦闘に備えて日頃から寝ることに専念し、身の回りの世話は他のエルフたちにすべて任せているという話です。


 ……もしも若返る呪いだけだったら、ルローラちゃんは私のせいで数年は能力カタラが使えなくなるところだったのですね……危ない危ない。


 私がホッと胸をなで下ろしていると、族長さんはルローラちゃんの幼い容姿へ目を向けながら、


「セフィリア。貴女の力でルローラにかけられた呪いを解くことはできないかしら?」

『完全な解呪は無理ですけど、年齢の指定子さえわかれば、真逆の効果を持つ魔法をかけて相殺することはできるでしょうね』

「ほ、本当に……!?」


 期待と喜びの表情を浮かべた族長さんとルローラちゃんに、しかし私はもっと根本的で手っ取り早い方法を提案しました。


『でも年齢指定子を探すよりも、呪いをかけた術者エルフをどうにかする方が簡単なんじゃないですか?』

「それはそうだけど……あの子はもうずっと里に帰ってきていないし、それに帰ってきたとしても呪いを解除してくれるかどうか……」

『じゃあ、呪いを解くまで痛めつけるとか』


 私のやや過激な提案に、少し気まずそうな目でルローラちゃんを見た族長さんは、遠慮がちに答えを返してきました。


「ここ数年で里を出たエルフは二人いるわ。そしてその両方とも、ルローラの“妹”なのよ」


 ええっ!?

 私は思わずルローラちゃんの顔色を窺いますが、彼女は何とも言えない微妙な表情でこちらを見ているだけでした。

 妹が二人とも失踪中って……しかも実の妹から呪いまで食らってるなんて、なんというか、いろいろヒドイですね……

 エルフ族が人族の領地に出向いて人探しなんてするわけにもいかないでしょうし、ルローラちゃんは呪いのせいで里を出るに出られないということで、今まで探しにも行けなかったのでしょう。

 その上 エルフの里は人族との交流が遮断されていることですし、外部の情報なんてまったく入ってこないわけですから、出て行った二人が勝手に帰ってくるのを待つしかない状況というわけですか。


 私がルローラちゃんの数奇な人生に同情していると、彼女は身を乗り出して私に話しかけてきました。


「……ねぇ、エルフがていこくとか、きょうわこくでみつかったってはなし、きいたことない?」

『いや、ないけど……そもそもエルフ族だってバレたら問題だし、普通は隠すんじゃないかな。耳以外は人族と変わらないんだから』

「まぁ、そうだよねぇ……」

『何か特徴とか教えてもらえれば、もしかしたら見たことがあるかもしれないよ?』

「そうだなぁ、もしかしたら、なまえをそのままなのってるかもしれないし……」


 いや、さすがに偽名とか名乗るんじゃ……と思いかけて、でも仲間のエルフ族が里から出てきて探しに来るって可能性はほとんど無さそうですし、べつに本名を名乗っても全然問題なさそうな気もします。もし私だったら、親からもらった大事な名前を捨てるのは嫌ですし。

 とはいえ大した期待もせずに、一応ルローラちゃんを促すと、彼女はその二つの名前を口にしました。




「“リルル・ロル・レーラ”と、“ルルー・ロリ・レーラ”だよ。」




『………………。』



 ……ッ!!?!?!?!!?



 私が“ギギギ”と首を回すと、同じく壮絶な表情になっているネルヴィアさんと無言で顔を見合わせながら、私はパニックに陥りそうな頭を必死で押さえつけました。


 しかし神妙な面持ちで目を伏せていた族長さんは、私たちの反応にも気が付かず、低い声で補足の説明をしてくれます。


「……あの子たちは、エルフ族の中で禁忌とされる、“黒髪”をもって生まれてきた双子だったのよ。だから、里の一部の者たちがあの子たちに辛く当たってしまうことが多々あって、それで……」


 黒い髪、と聞いた私の脳裏には、カルキザール司教に“リルル”と呼ばれていた黒髪の少女の顔が思い浮かびます。たしかゴスロリのヘッドドレスや髪に隠れて、彼女の耳は見えていませんでした。


 そしてもう一人……胸の大きさを変えたり、母乳を出したりと、自身の肉体を自在に操ることのできた、帝国三強の一角、慧眼レヴィータ・ルルー閣下の存在も思い出されます。彼女ならば、髪の色や耳の形を変えることくらい朝飯前でしょう。元より“ピンク色”なんて、ありえない髪色ですし。


 思えばあの二人、性格や雰囲気は正反対でしたが、ルルーさんは白を基調とした甘ロリファッション、リルルは黒を基調としたゴスロリファッション……という非常に個性的な共通点だってあります。


 壮絶な表情をしている私たちを見たルローラちゃんは目をぱちくりとまたたかせて、遠慮がちに訊ねてきました。


「えっと……なに? なにかしってるの……?」


 いや、あの……知ってるも何も……


 その後 私に真相を告げられたルローラちゃんは、さっきの私たちみたいにポカンと口を開けて絶句していました。

 さらに、私がルルーさんに魔法を教わったり、一緒にお風呂に入ったりしたこともあること。また、リルルと敵対した末にぶん殴ったり、今も彼女を探していることなどを聞いたルローラちゃんは、しばし頭を抱えて……それから、


「おねがい! あんたたちのたびに、あたしもいっしょにつれていって!!」


 眼帯に覆われていない左目に決意の炎を燃やし、ルローラちゃんは私たちに頭を下げました。



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