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神童セフィリアの下剋上プログラム  作者: 足高たかみ
第三章 【イースベルク共和国】
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1歳3ヶ月 20



 ネルヴィアさんが森に置いてきた馬や、ケイリスくんが乗ってきた馬は、すでにエルフたちによって保護されているみたいでした。

 一応トーレットで借りてきた馬なので、知らない間に獣に食べられてました、なんてことにならなくてよかったぁ……

 まぁ私はレジィにしがみ付いてここまで来たので、その馬には乗ってないんですけど。

 だって私が近づくと死にそうな悲鳴をあげながら暴れ狂うからね。仕方ないね。

 ……いいもん。私にはレジィがいるもん。くすん。


そんなこんなで私たちは現在、族長さんの住む家に来ていました。私だけは二回目の訪問ですね。

 族長さんは応接スペースみたいなところで木椅子に腰を下ろすと、げっそりと疲れ切ったような顔をしています。な、なんかごめんなさい。

 こちらはテーブルを挟んで反対側の椅子に腰かけると、私はレジィに抱かれたまま族長さんに向き直ります。

 そして改めて、うちの子たちがお騒がせしてしまったことについて謝罪しました。


『このたび引き起こされてしまった騒動につきましては、誠に遺憾に存じております。今後は再びこのようなことのないよう手を尽くし、前向きに善処してゆく所存です』


 そんな私のじつに赤ん坊らしいキュートな謝罪をうけた族長さんは、非常に胡散臭そうな目つきとなりました。しまった、子供らしすぎたか。


「貴女は……一体、何者なのですか?」


 と、村長さんはそんなことを訊いてきました。

 私が何者かって……そんなの、どこからどうみても、どこにでもいる普通の赤ん坊ではありませんか。

 そういった旨の返答をしようとしたところ、しかしそれよりも早く得意げな表情となったネルヴィアさんが声高々に口を開きました。


「このお方は世界最高峰の魔術師であり、いずれ世界をお救いになる勇者様です!」


 ちょっ、なに言ってるのネルヴィアさん!? 変なこと吹き込まないで!? レジィもなに真顔で頷いてるの!?

 私は慌ててケイリスくんに、『全然違うから、訂正して!』と伝えると、


「その通り、私こそが世界の救世主、セフィリアだ……と仰られています」


 ケイリスくーんっ!!?

 あれぇ!? 今までケイリスくんの読唇術は百パーセントの精度を誇っていたのに、ここにきて随分派手に聞き間違えましたね!?

 っていうかわざとでしょ!! なんでそんなことするのー!?


「あ、貴女が伝説の“勇者”……なるほど、道理で……」


 ほら! 三人の嘘に族長さんが騙されちゃってるじゃない!

 族長さん、これ嘘だから! 騙されないで!?

 くそぅ、こうなったら首を横に振ることで族長さんに真実を伝えて……ああっ、こらレジィ! 強く抱き付きすぎ! く、首が……首が振れない……!


 こうして、わざわざエルフの里に立ち寄って、人族とエルフ族が衝突しないように手回しをしていたことも、私が強力な魔族を従えていることも、多彩な魔法を使えることも、赤ん坊でありながら他の人たちに慕われていることも、すべて『勇者だから』ということで族長さんは納得してしまいました。

 勇者ってすごい。


 その後も族長さんとはいろいろと話して、私は人族は悪いものばかりではなく、それどころか人攫いなんてごく少数であることを一生懸命に説得しました。悪い人間も少なからずいるものですが、どうしても分母が多くなると、悪い分子も出てきてしまうものなのです。人間社会なんて不公平の塊ですからね。

 かく言う私も、生まれはほとんど最底辺でしたけど。


 やがて族長さんの表情から少しだけ緊張が薄れてきた頃……ふと、族長さん宅の玄関扉がちょっとだけ空いていることに気が付きました。

 私がそちらへ視線を向けると、その視線を追った族長さんがフッと柔らかく微笑みます。


「入ってらっしゃい」


 ゆっくりと開いた扉の向こうでは、ララさんが遠慮がちに室内を覗いていました。

 ……つい先刻 彼女をがっつり騙していた私としては、ちょっと心臓がはねてしまいます。

 ララさんはゆっくりこちらに近づいてくると、チラチラと私へ視線を向けてきます。うぅ、胃が痛い……

 そんな私の心情など露知らない族長さんは、


「彼女は、かの伝説の勇者殿であるそうよ。たしかに伝承では、勇者殿は生まれながらにして魔術を理解していたと聞くわ」

「ゆ、勇者……? そうなの、リリちゃん?」


 私は気まずくなって、ちょっと目を逸らしました。

 もちろん見当違いな勇者扱いがくすぐったかったというのもありますが、何よりも……


「ララ。彼女の名はセフィリアというらしいわよ」

「あっ……そ、そっか、ごめんね……」


 うぅ、騙してごめんなさい……! ついでにこのセフィリアの身体は男の子なので、“彼女”ではないのですが。

 ララさんはおずおずと私を見つめると、それから遠慮がちに訊ねてきました。


「あの、セフィリアちゃん……? あなたは虐待を受けていたりとか……」

『えっと、ごめんなさい。このお腹の怪我は、自分で……』

「あ……そう、なんだ……」


 これ以上嘘を重ねるのは辛かったので、私は彼女へ正直に話しました。

 さ、さすがに怒るよね……それとも、失望されちゃうかな。

 そんな心配を私がしていると、ララさんは大きく息を吐きだしました。

 た、溜息……!? と私が身構えると、


「よかったぁ~!」


 ララさんは安心しきったようにそう言うと、ホッと胸をなで下ろしていました。


 ……え? あ、あれ……?

 予想外すぎるララさんの反応に私が固まっていると、彼女はごくごく自然に、当たり前のような口調で、


「虐待なんて受けてなかったんだね! 安心したよぉ! あーよかった!」


 ……おいおい天使ですか?


 すっかり肩の荷が下りたとでも言わんばかりに脱力しているララさんに、族長さんは「やれやれ」みたいな感じで薄く微笑んでいました。やっぱり彼女の優しさは、この里では周知の事実みたいです。

 騙したばかりでなく、暴れたりしたことで反感を買っていてもおかしくないはずなのに、こんな私を心配してくれるなんて……


 私はレジィの膝の上から飛び降りると、ララさんに深々と頭を下げました。

 頭上から「え、ちょっとやめてよ!」という慌てたような声が聞こえてきますが、こうせずにはいられませんでした。


 それからララさんも交えてしばし歓談した後、ララさんは何かを思い出したかのように「あっ」と漏らすと、


「そういえばね、ルローラさんがセフィちゃんと話したいって言ってたよ?」


 と、軽やかに爆弾を投下していきました。


 ……な、なに? 何の話があるっていうの……!?



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