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神童セフィリアの下剋上プログラム  作者: 足高たかみ
第三章 【イースベルク共和国】
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1歳3ヶ月 19



 そして私の電波攻撃によって魔力を激しく損耗してしまったルローラちゃんは、自らの体質によってあんな姿になってしまったと。

 彼女がブカブカのワンピースを着ていたのには、こういった理由があったのですね。


 さて、しかし私はそもそもエルフの里を襲撃したかったわけでもなければ、ルローラちゃんを倒したかったわけでもありません。結果として戦う羽目にはなってしまいましたが、これは不本意極まる展開なのです。


 けれども結果として、先ほどまでは交渉の余地がなかった最悪の状況が、ルローラちゃんを打倒したことで一気に好転したというのもまた事実。

 なんせ、ルローラちゃんが駆けつけるまではネルヴィアさんとレジィの二人だけでエルフ勢力と拮抗していたのです。その上私が加わるとなれば、正面からぶつかり合ってもこちらに分があることでしょう。

 しかもエルフ族の皆さんは、私が正体不明の攻撃でルローラちゃんをやっつけたと思ってそうですし。


 もしも私が一人なら、ルローラちゃんを倒して消耗したところで、エルフたちに総攻撃を受けていたかもしれません。

 ですが今はネルヴィアさんとレジィの存在が、彼らの抑止力となってくれていました。


 そのため私は、こんな風に交渉を進めることができるわけです。


『もう一度言います。私たちに戦う意思はありません。私たちの望みはただ一つ。このまま見逃してほしい……それだけです』


 戦いを続けても、エルフ族は不利。しかも私たちを倒しても、メリットなんて一切なし。

 私たちに財産を奪われるわけでもなく、個人的な強い恨みがあるわけでもない。

 見逃してくれと言われれば……さすがに多大なリスクを背負ってまで戦おうなどとはしないでしょう。


 こちらの方が立場が弱い状況での「見逃してくれ」と、こちらの方が立場が強い状況での「見逃してくれ」では、その意味や相手に与える印象は大きく変わってくるものです。


『約束通り、私たちはトーレットで真実を話して、エルフ族への誤解を解いておきます。それからエルフの森へ向かう人間がいないように見張りでも立てておくようにも言っておきましょう』


 ついでに、きちんとアフターケアもしておくことにします。

 私個人としては人族とエルフ族が争っていようと、べつにどうだっていいんですけどね?

 でも、それによってケイリスくんが心を痛めているのであれば、その解決に時間と労力を割くこともやぶさかではありません。

 そう、これはケイリスくんのためなのです! 私は別に、どうでもいいんですよ? か、勘違いしないでよねっ!


 とはいえ今回の一件は、エルフ族のために良かれと思って起こした行動であっても、ケイリスくんが不用意にエルフ族へと接触したのが事の発端です

 それに暴れてしまったことも事実ですし、エルフの一部には怪我もさせてしまったでしょうし、その上おそらく里の最高戦力であろうルローラちゃんも戦闘不能にさせちゃいました。


 なので私は誠意をもって、彼らに頭を下げなけれないけません。


『いきなり押しかけてきて、こんな騒ぎを起こしてしまいすみませんでした』


 そして私はブンブン尻尾を振ってるレジィの首に腕を回して抱きかかえてもらうと、私の仲間たちに帰る旨を伝えました。


 するとそんな私の背中に、「お待ちなさい……!」という族長さんの声がかかります。

 ギクリ。まさかまだ戦おうって言うんじゃないですよね……? 

 強がって平気な振りをしているものの、じつは私、身体はボロボロだし頭もクラクラなんですけど……

 けれどもそんな私の心配は、杞憂に終わったみたいでした。


「何も……里に手出しをしないのですか? ここまで追いつめておいて……」

『えっと、私たちの目的は、エルフの里とトーレットが衝突するのを防ぐことですから』


 私の答えに、族長さんは信じがたいといった感じの、驚愕と困惑の入り混じった表情で固まってしまいます。

 うーむ、よっぽど人間が信用ならないのですね。過去に人族との間でいろいろあったという話ですし、まぁ仕方ないでしょう。

 事情を知らない私には、エルフ族の事情に口を挟む権利はありません。人族との衝突さえ回避してくれれば、あとは彼らの好きにしたらいいと思います。


 と、そのような旨を伝えると、族長さんは神妙な面持ちで引き結んでいた口を開きました。


「……この辺りの森では、夜になると獣が出ます。出て行くのなら、陽が昇ってからにしてはどうですか」


 ……え? それって……

 周りのエルフたちもポカンとしている中、族長さんは「ついて来い」とでも言いたげな目をこちらに向けてから、さっさと歩いて行ってしまいます。


 私やレジィがいる限り、獣なんてべつに怖くはないのですが……しかし私たちにとって獣が脅威でないことくらい、族長さんだって百も承知でしょう。

 となれば、彼女の申し出は言葉通りの意味ではなく……


 私はちょっとレジィと顔を見合わせてから、小さく頷きます。

 すると私の意図を組んでくれたらしいレジィは、そばに寄ってきたネルヴィアさんとケイリスくんを伴って、族長さんの歩いて行った方向へと足を進めるのでした。



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