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神童セフィリアの下剋上プログラム  作者: 足高たかみ
第三章 【イースベルク共和国】
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1歳3ヶ月 18



 ルローラちゃんの異変に、周りのエルフたちはにわかにざわめきだします。

 それと同時に、正体不明の攻撃によって彼女をそんな状態に追い込んだ私へと、恐怖の視線が突き刺さりました。……この視線を懐かしいと感じる辺り、私はもうダメかもしれませんね。

 処刑人は卒業したはずなのに!


 あ、そういえばさっき、悪魔に進級したんでした。

 だめだこりゃ。


 すると、ルローラちゃんが戦闘不能になったことにより、彼女が抑え込んでいたレジィが起き上がりました。

 その目は爛々と輝いていて、「さすが御主人……!」とうっとりしたような表情を浮かべながら尻尾をぶんぶん振っています。元気そうで何よりだね、よしよし。


 レジィを救出したことによって、私の当面の目的は果たすことができました。そのためホッと胸をなで下ろしていると……


 その“異変”は、突然起こりました。




 頭を押さえてもがいていたルローラちゃんの身体がみるみる縮んでいくと、やがて私と同じくらいの赤ん坊になってしまったのです!




『……えっ!?』


 突然の出来事に、私は思わず声にならない声を上げてしまいました。

 周りのエルフたちは私の動きに警戒しつつも、数人がルローラちゃんへと駆け寄ると、まだ苦しんでいる彼女の介抱を始めます。彼女の異状に驚いている様子がないところを見るに、あれは彼らにとって日常的な光景なのでしょうか? エルフ族ってみんなああなの?


 それにしても、いきなりどうして……と考えていると、そういえばさっき彼女の見た目が幼くなっているような気がしたのを思い出します。

 そこから考えられる可能性は……『能力の使用』または『魔力の消費』によって、彼女の年齢が若返るという可能性。体質なのか、代償なのかはわかりませんが……

 そういえばケイリス君の心を読むとき、「あたしの能力カタラは、簡単に使える力じゃない」とか言ってましたっけ。


 先ほどの戦闘に際し、彼女は私たちへ能力を連発していました。それによって外見が幼くなり、そして最後の毒電波注入によって、一気に限界を超えてしまったのでしょう。

 なんせ、もうルローラちゃんの魔力はほとんどすっからかんのはずです。


 ルローラちゃんには心を読む能力がある。それは良いでしょう。

 しかしレジィ曰く、一体の魔族が二つも三つも開眼シャンテラを持っているというのは聞いたことがないとのこと。

 だったらエルフ族の持つ能力も、そう大差ないのではないでしょうか?

 しかしルローラちゃんは、すでに七つ以上は能力を使っています。それはなぜか?


『ネルヴィアおねーちゃん。さっきあの子が使っていた能力って、“他のエルフも使っていた”んじゃない?』


 私がケイリスくん経由で訊ねると、ネルヴィアさんは大きく頷きました。やっぱりね。


 座敷牢小屋からルローラちゃんが飛び出した時、彼女はララさんと一緒に空を飛んでいました。ララさんが他の人を飛ばせることもできるのなら、なぜ族長さんだけは走っていたのでしょうか? まさか個人的に嫌いだから、とかではないでしょう。……いやわかりませんけど。


 そもそも魔法というのはどのように発動させるかといえば、呪文を頭に思い浮かべて発動条件を満たすことで発動するのです。


 では、その頭に思い浮かべている術式を、読み取ることができたとしたら?


 相手の考えていることが分かるのなら、魔法の発動に必要な『術式への理解度』という条件だって満たすことができるのではないでしょうか。

 つまりルローラちゃんは複数の能力を自前で持っているのではなく、彼女自身が持つ能力は『心を読む』という能力だけであって、それを応用した結果として『他人の使った能力をコピーすることができる』のです。なんてチート能力!

 他人の脳内(ソース)を覗くことができるというのは、イメージ的にはWebサイトでキーボードの『F12』を押したような感じなのでしょうかね?


 そんな能力を持っていたからこそ、レジィの開眼シャンテラである『四倍速で動く』という能力を即座に自分も発動して、超高速で動くレジィの動きを捉えて対応することができたのでしょう。あの“あり得ない加速”は、私に対しても使ってきてましたね。

 そしてレジィを拘束していた過重力の能力も、さっきの空気砲や、地面をドロドロにする能力なども、すべてこの場にいる他のエルフが持っている能力のはず。最初に空を飛んでいたのも、ララさんが使った能力をコピーしたものでしょう。


 このとてつもない能力に弱点があるとすれば、それは二つ。

 一つは、何かしらの能力を持った者が近くにいなければ戦闘能力が皆無であること。ただしこれは、彼女がエルフの里にいる限り完全に無視していいものでしょう。


 そしてもう一つの弱点。それは、魔法術式というものは、頭に思い浮かべるだけで魔力を消費してしまうという点です。


 たった数行の術式を頭に思い浮かべるだけでも、魔力を消費して脳がクラクラしてしまいます。

 ルルーさん曰く、私は『魔力量や魔力効率が異常』ということなのでよっぽど連発しない限りは大した支障はありませんが、普通の人はもっとすぐにヘバってしまうようです。


 おそらくは他人の心を読むだけでもそれなりの魔力を消費しているはずなのに、その上で魔法術式まで読み取ろうものなら、その消耗は計り知れないものとなるでしょう。

 ましてや、魔族やエルフなら一人につき一能力で済むかもしれませんが、魔術師なら大量の術式が頭に詰まっています。いきなりそのすべてを頭に注ぎ込まれたら、それはもう大変なことです。


 しかも私は、帝都やアルヒー村で現在も大量の魔法を発動しっぱなしにしていますし、私自身でも七つの魔法を常時展開しています。

 普通の人であれば何時間も魔法を発動しっぱなしにしたり、寝たまま魔法を維持し続けることはできないそうですが、私にはできちゃいます。

 ブラック企業戦士にとって、寝ている間もプログラムに苦しまされるなんて日常の一部ですからね。むしろ忘れたくても忘れられないまであります。これはもはや職業病というか、後遺症みたいなものなのです。


 そして魔法が発動しっぱなしになっているということは、常に術式が頭の中を駆け巡っているということ。

 そんな私の心を読むということは、それらの術式をすべて頭に流し込まれることと同義なのです。


 しかも念には念を入れて、昔発動したことのある魔法の術式をありったけ頭の中で構築してやりましたからね。こんなものを流し込まれたら、一瞬で魔力がすっからかんになること請け合いです。


 つまりルローラちゃんにとっての私とは、この地上で最も相性最悪!

 まさしく、『天敵』と言える存在でしょう。



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